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ハリウッドに、VESという協会があるのをご存知だろか。
これは「Visual Effects Society」の略であり、ハリウッドを中心とする、ビジュアル・エフェクツ、つまり視覚効果産業に従事するプロフェッショナル達で構成される、「映像のプロの、プロによる、プロの為の協会」である。
会員になるには、最低5年間の現場経験を有する事が条件とされている。しかも入会の際には現役会員2名の推薦&署名が必要とされ、最終的には年2回だけ行われる理事会の承認が得られないと正式には入会出来ない。それ故に、会員はハリウッド&アメリカのショウビズ界において活躍しているプロばかりで構成されている。現在の会員数は約900人との事である。
会員になると様々な特典があるが、嬉しいのが月に1回は開催される、無料試写会であろう。VFXを駆使した新作や、デジタル・テクノロジーをふんだんに使った長編アニメ作品が完成すると、その公開に先かげて試写会が行われる。場合によっては簡単なメーキング紹介が行われる事もある。
本欄でよくご紹介するシーグラフの地方分科会、"LA SIGGRAPH"の月例会もこれに近い要素を持つが、LA SIGGGRAPHはCGに特化した内容であるのに対して、VESの試写会は「映像現場寄り」の視点で開催されている。
さて、このプロの協会であるVESでは毎年1回、会員を対象としたフェスティバルを開催している。
開催期間は週末の金土日を利用した3日間だけと短いのだが、その内容は非常に充実している事でも有名。また、会員でなくとも、チケットを購入しさえすれば誰でも参加する事が出来、一般や学生にもその門戸を開放しているのも特徴と言える。
今年のフェスティバル「VES2003: The Festival of Visual Effects」は6月27日(金)から29日(日)の3日間、ハリウッドのシネラマ・ドームの前に位置する映像教育機関、LA FILM SCHOOLで開催された。
殆どの講演のチケットがSOLD OUT(売り切れ)になる程の盛況ぶりで、今年も大成功に終わったフェスティバルだった。
今回は、その全容を簡単にご紹介する事にしよう。
VES2003: A Festival of Visual Effects
June27-29,2003 Los Angeles CA
★6/27(金)
○The Animatrix Screening
既にお馴染み、9本の短編アニメーションで構成されるオムニバス作品「アニマトリックス」の試写会。
アメリカでも既にDVDが発売されているが、これを大きなスクリーンと優れた音響システムにより、フィルム上映で鑑賞してもらおうという趣向であった。
初日ではあるものの、平日の朝9時という事もあり、会場の観客入りは40%位と少なかったが、この試写会で初めてこの作品を拝むという人も少なくなく、客席には学生の姿も目だっていた。
9本のエピソードのうち、スクウェアUSA/ホノルルスタジオの最後の作品となった「Final Fight of the Osiris」はひときわ完成度が高かった事もあり、一番最後に上映され注目を浴びていた。
○Shorts(短編)
CGを駆使した短編アニメーション作品を一堂に集めた試写会。
今年のアカデミー賞でオスカーを獲得したSony Pictures Imageworksの「Chubb Chubbs!」や、Pixarが数年前に製作した「for the Bird」、そして映画「Monter's Inc」のキャラクターMikeとSulleyが登場するPixarの短編「Mike's New Car」等、数々の作品が上映され非常に興味深いものがあった。
「Mike's New Car」トレーラー:
http://www.apple.com/trailers/disney/mikes_new_car.html
ここでは世界各国の作品が上映されたが、これらの作品郡の中で最もウケたのは、意外にも日本からの超大穴招待作品「スキージャンプ・ラージヒル・ペア」である。
非常にシンプルなゲーム調ローポリ風CG作品で、謎の冬季五輪において各国代表の2人組ペアが、スキージャンプ最中に空中で創作演技を行うという、全くもって意味不明の作品である。
この作品が始まると、まず場内には「????」という雰囲気が充満。続いては爆笑の渦。特に「アメリカ代表のペア演技"ジーザス"」では、場内は大爆笑と拍手で埋め尽くされた。
ハリウッドのプロ達を腹を抱えて笑わせた、おそるべき作品である(笑)。
「スキージャンプ」のオフィシャルサイト http://www.jump-pair.com/
○Making of X-Mens2
ご存知「X-Men2」のメーキング講演。内容的には、先日本欄でご紹介したLA SIGGRAPHの月例会での講演内容と殆ど同じであった。
関連記事:
○Tron Retrospective
1982年に公開された、ディズニーの「Tron」。当時、興業的にはあまり成功しなかったものの、「当時の最新鋭」のCG技術と、アニメーション技術、そしてオプチカル技術を駆使した革命的な映像造りは多くの映像作家に影響を与え、今でも伝説的カリスマ作品として話題に上る事は多い。
そんな「Tron」の製作者を一堂に集め、当時の思い出を語ってもらおうという、非常に贅沢な座談会が行われた。
この座談会のメンバーがすごい。
監督のSteven Lisberger、プロューサーのDonald Kushner、VFXスーパーバイザーのHarrison Ellenshaw、当時の新進CGプロダクション「トリプルアイ」にいたArt Durinskiを筆頭に、かの有名な巨匠シド・ミード(Sydney Jay Mead)までパネラーとして登場。
CG黎明期における爆笑ネタや、65MMカメラでの撮影等の苦労話などが暴露され、非常に興味深い歴史的な座談会であった。
その内容を大幅に要約し、さっくりとご紹介すると:
・「Tron」という作品にはいろいろ見方があるが、我々は「アニメーション作品」だと考えている。アニメーションに実写やCG素材を合成した作品なのだ。
・600,000枚もの白黒セルを4台のアニメーション・スタンドで65MMカメラに撮影した。
・65MMだと大判のセルが必要になるが、これによってセルを重ねた際の誤差やズレを目立たなく出来るし、65MM特有の高画質によって合成時の精度を向上出来た。
・セルの作業は、85%近くを台湾に発注した。
・65MMのオプチカルプリンターはロサンゼルスでは希少だった為、多くの合成は撮影時に行った。つまり、カメラを何度も何度も巻き戻し、多重露光して撮影するという荒業の連続だった。フィルターをかけて色をつけた。バイクのショット等は合計17回も多重撮影しなければならなかった。
・シド・ミード談:1980年の10月8日に初めて契約を交わしたのを今でも覚えている。私はタンクや飛行機などをデザインしたが、最初はイメージを掴むのにかなり苦労した。
・当時、あのエフェクト・アニメーションの製作は「超高空で、飛行機のドアを開けて、パラシュート無しで飛び降りる」のと同じ位、無謀な事だった。
・スタッフは8時間3シフトの24時間交代が基本だったが、みんな机の下で寝ていた。
・朝6時に交代の為にスタジオに行くと、 みんな泣いてる。撮影に失敗して48時間分の作業が全部無駄になった事が発覚した瞬間だった。
・当時のCGの描画は、大型コンピューターを使って、1ポリゴン1秒かかった。
・プログラムはフォートランだった。
・トリプルアイ社のレンダリングマシンは「フングリ」とかいう名前で、値段は300万ドルした。(今の円相場で3.6億円。当時だと6億円[$1=202円])
・映画が完成した最初の記者会見では、質問がたったの2つしか出てこなかった。
(1)どんなカメラで撮影したのですか?
(2)模型は作ったのですか?
この2つだけだ。あとは長い沈黙だった(笑)。その位、突飛な作品だったのだろう。
このような座談会だったが、プレゼンターからは歯に衣着せぬ爆弾発言も多数飛び出し、業界の内輪話も炸裂。まさにVESならではの講演となった。
★6/28(土)
○Making of Terminator3
全米で7月2日より公開となった「Terminator3」のメーキング講演をILMが中心となって行った。
全米公開に先立って行われた為、撮影・録音の禁止と、「今日の映像が明日のインターネットに流出するような事があると、来年からこのようなイベントが難しくなる。くれぐれも自重して欲しい。また、今日見聞きした情報を、公開前に絶対に他人に口外しない事」という戒厳令も出された。
この詳細は後日、ご紹介したい。
該当記事は、コチラ:
○Making of Finding Nemo
全米で大ヒット中のPixarの新作フルCG長編アニメ「Finding Nemo」のメーキング講演。
PixarからSupervising Technical DirectorのOren Jacobと、Production DesignerのRalph Egglestonの2人がプレゼンテーションを行った。
ここで詳細をご紹介出来ないのが残念だが、
・製作に4年間を費やした事
・他の作品の10倍大変だった。いや、冗談ではなく本当の話だ。
・パステルによるプロダクション・デザインとアートボードによって、カラーのディレクションに力を入れた事
・1場面に100個近く登場するクラゲは32レイヤー位で合成されている
・マルチレイヤーで合成する事により、レンダリング時間を節約した
・海中のサンゴ等の表現には独自にシェーダーを開発
・水のシュミレーションの話
・すべてのジオメトリが、実は水流に合わせて微妙に動いていたりする
等の製作秘話が、惜しげもなく披露された。
詳細は、おそらくSiggraph2003でもお楽しみ頂ける事と思う。
○Making of Hulk
ILMによる、全米で公開中の大作「Hulk」のメーキング講演。
総勢200人のチームが1.5年掛かって製作した、その舞台裏が紹介された。
ここでは、
・コミックをベースに慎重にデザインを決めた経緯
・色があのグリーンに決まったエピソード
・髪の表現の秘話
・鬼VFXスーパーバイザ(笑)のデニス・ミューレンの話
・監督のAng Leeは9ケ月間、現場に「つきっきり」だった話
・なぜHulkを全裸にしなかったか?それはね…
・Hulkを泣かせてみたが失敗した話
・手付けとモーションキャプチャーとの比率、そしてそのメリット
などの秘話がバンバン飛び出した。
○Hulk Screening
メーキング講演の後は、Hulkの試写会が行われた。
★6/29(日)
○Making of The Core
全米公開中の「The Core」のメーキング講演。ここでは、
・地球内部の話なのでその描写に苦労した話
・鳥が狂乱するシーンはヒッチコックの「The Birds」をオマージュした
・4箇所のCGベンターに作業を依頼した話
・インターネットによる「デジタル・デイリー」(デジタルによる1日1回の試写)を行い距離が離れたCGベンダーとの作業を円滑に行った話
・サンフランシスコの金門橋が破壊されるショットの紹介
・3種類の色の(パンに塗る)ゼリーを買って混ぜてみて、溶岩の参考にした話
・金門橋のショットでは、ある車の中にスタン・ウィンストンの息子がいた話
…などが披露された。
○Making of The Matrix Reloaded
先日本欄でご紹介したLA SIGGRAPHの月例会とほぼ同一内容だった。
関連記事:
LA SIGGRAPH主催 "The Matrix Reloaded" & ゲーム メーキング (06/21/2003)
○Music Videos
高い予算で時間を充分に掛けて製作されるハリウッド映画とは裏腹に、
①極端に短い納期で
②非常に安い予算で
③非常に高いクオリティが要求される
事が多いという、ミュージック・ビデオ・シーンで使われているVFXの実例を紹介。
ここでは
・Linkin' Park "Points of Authority"
・Lucy Woodward "Dumb Girl"
・George Michael "Freeek!"
の3作品が紹介された。
"Freeek!"だけは予算も規模も大きい作品だが、それ以外は低予算作品。
しかし、中でも最もインパクトがあったのは、超低予算&納期3日で作ったというLucy Woodward "Dumb Girl"のVFX部分のメーキング講演だった。
その直前まで、ハリウッド映画の潤沢なメーキング講演を延々と観た後だった事もあり、非常にメリハリの効いたプレゼンテーションに感じた(笑)
最後の質疑応答では、観客の1人からこんなコメントも登場した。
「この週末、私がこれまでに見てきたのは、ハリウッドの巨大プロジェクトにおける、製作も長期に渡る豪華で贅沢で偉大な作品ばかりだった。今あなたが見せてくれたのは、『その反対側の世界』にある、別の意味での偉大な仕事だ」(場内爆笑)
★おわりに
今年のVES2003は、このような形で無事終了した。たった3日間の会期にもかかわらず、非常に有意義な時間を過ごす事が出来、凝縮された中にも異様な充実感と達成感が残った。
1日に3つのメーキング講演を聴くのはかなり大変でもあったが(笑)、シーグラフ等のCGコンベンションとはまたひと味違った面白さがあったと思う。
興味のある方は是非、来年は参加されてみては如何だろうか?
Visual Effects Societyのオフィシャルサイト: http://www.visualeffectssociety.com/
このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。
著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
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よりご連絡下さいませ。
(C)1998-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎
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前回、VESフェスティバル2003の概要をレポートしたが、今回はその中でも目玉である「ターミネーター3」のメーキング講演の模様をお届けしよう。
なるべく「ネタばれ」を含まないように書くが、「公開までは一切余分な情報は読みたくない」というファンの方は、本レポートを保存しておいて、公開後に一読してみるのもまた一考かと思う。
さて、この講演はVES2003の中日である6月28日(土)の朝10時から行われた。全米公開は7月2日で、公開前という事もあり写真・ビデオ撮影、録音は厳禁。メモを取る事だけが許可された。
また、主催者からは「今日お見せするのは公開前の極秘の映像です。これらは、業界のみなさんの今後の参考や、業界の今後の為に役立ててもらおうと、ILMが提供してくれたものです。もし、明日のインターネットでこの画像が流出とい事態に発展すると、来年からVESではこのようなイベントが開催出来ない恐れもあります。くれぐれも7月2日の公開までは情報を伏せてください。また、今日見聞きした情報を他人に口外しないようにお願いします」という"戒厳令”も敷かれた。
今では既に全米公開も始まり、マスコミ各社でも「ターミネーター3」の話題をとりあげるようになり「解禁」となったので、本欄でもこのレポートをお届けしたいと思う。
Terminator3 / VES2003
Saturday June 28,2003 10:00am-12:00pm
パネラーの顔ぶれ:
Pablo Helman / ILM Visual Effects Supervisor
Samir Hoon / ILM Accociate Visual Effects Supervisor
Dan Taylor / ILM Animation Director
○スタン・ウィンストンも続投
このプロジェクトでは、ILMの150人のスタッフが8ケ月かけてVFXの製作に取り組んだ。
これは、ピーター・ブルーベンによる初期のT-X(女性ターミネーター)のアートワーク。最終版とは多少デザインが異なるが、ほぼ原型は同じである事がおわかり頂けるだろう。このデザインは、スタン・ウィンストンとのコラボレーションで行った。
スタンは前作のT2でも、アニマトロニクスを担当しており、今回のT3でも続投という形になったのは自然な流れだ。
○10倍のショット数
いろんな意味で話題を呼んだT2のエフェクトだったが、12年前の映画という事もあり、VFX面では常に新しい事が要求される。ちなみに、T2の時VFXショットは47ショットだった。それがT3ではなんと500ショットもある。
○膨大な数のアートボード&デザイン画
さて、これは「キラー727型」のメタリックのデザイン画、こちらは「ハンターキラー」と呼ばれるミサイルを装備した小型攻撃艇のデザイン画だ。このように、さまざまなアートワークが準備された。
クリエティブには限界がなく、膨大な数のデザインが用意された。映画の中で実際に使用されたのは、その中の「ほんの1部」と言ってよいだろう。
○セットにおけるミニチュア撮影の「トリック」
これは、川底に沈んでいる無数のガイコツのオリジナル・ショット。水中ではなく、セット撮影である事がご理解頂けると思う。水の質感や、空から差し込むサーチライトの光等は、後からコンポジットで足しこんだものだ。
ガイコツのミニチュアは遠近感を出す為、近くのガイコツは実物大、遠くは小さめ、遠景用はピンポン玉程の大きさ、とサイズを変えて並べる事により、限られたスペースのセットより川底が広く遠近感があるように見えるよう、工夫している。
これは、高粒子加速器の実物大セット。この上でT-Xが溶けるショットで使用された。
○女優Kristanna Lokenについて
さて、今回話題の女性ターミネーターだが、T-Xを演じる女優Kristanna Lokenは大規模な映画は初めて。
映画の中では冷淡な表情で人を殺しまくるが、撮影現場はまだ珍しいらしく「これ、どうやって撮るんですか~?」とか「このエフェクト、どうやって作るんですか~?」と作業に興味深々。
とってもフレッシュな女優さんだった。演技も上手だし、魅力的で華もある。彼女はきっとビッグ・スターになるだろう。
○アニマティック
作業の初期では、アニマティックを作ってアニメーションの参考にする。モーション・キャプチャーを多様したが、これは作業時間の節約という部分でもすごく重宝した。
ちなみにフルCGのT-Xは、女優Kristanna Lokenの演技をモーション・キャプチャーした。
これは戦闘シーンのアニマティックの一例。なぜかターミネーターの顔がヨーダやETになっているが、これは単なる冗談だ。(場内爆笑)
○草原での爆発シーンの衝撃波&爆煙は砂
また、これは新型のT-850ターミネーター(シュワちゃん)が捨てた、体内爆弾が草原で爆発するシーンの合成素材。爆発で迫ってくる爆煙は、CGのパーティクルではなく、セットに同心円状に砂を敷いて、それを中央で爆圧を加えたのを撮影している。ファイナルはこんな感じ。結構迫力ある仕上がりになった。
○シュワちゃんの「デジタル・メーク」
これはT-Xに左顔面を破損されたT-850のショットだが、これはメークではなくデジタルで処理している。
このように、シュワちゃんはマーカーのついたグリーンの半面マスクを顔に貼りつけて、後からデジタル・トラッキング&マッチムーブを行い、ここにCGでメタリックの顔面を合成して、破損した皮膚からメタリックの顔面が見えるようにした。
メークアップのシーンと見分けがつかない仕上がりにする事がチャレンジだった。
○ザ・便所バトル
さて、これはT-850とT-Xがトイレで戦うシーン。まずこれがファイナルショット。
トイレでT-850がT-Xを掴んで壁や便器に叩きつけるショットだ。これを役者が本当にやるとすごく痛いので(笑)、撮影はこうやって行った。
(シュワちゃんが、グリーンのクッションを振り回して演技しているだけの映像が流れる)
これをモーション・コントロールで撮影。そして、トイレのセットを配置。壁や仕切りや便器がシュワちゃんの演技と同じタイミングで破壊されるように仕込みをして、モーション・コントロールでおなじカメラパスを撮影。そして、最終的にはシュワちゃんが振り回しているグリーンのクッションをCGでT-Xに差し替え、トイレのセットの素材と合成した。このシーンのT-XはすべてCGだ。
○後ろに垂れた頭部を掴むシーン
これは、T-Xに踏みつけられ、首が破損し、頭が後ろに垂れ下がったT-850が、両手で頭を掴んで首に差し込んで直すシーンだ。最初、シュワちゃんには皮ジャンを着てもらい、作り物のダミーの頭が後ろに垂れ下がった情態で、肩ごしに両手を上から背部に回し、垂れた頭を持ち上げる、という演技をしてもらった。
でもこれは難しかった。皆さんも実際にやってみるとわかると思うが、普通の人だと、両手を上から肩越しに背後に回しても、肩より下へは手が回らない事がわかった。シュワちゃんも頑張って演技したが、軽く後ろに傾いた頭には手が届いても、後ろにダランと垂れ下がった頭には届かなかった。
そこで、両手はすべてデジタルで置き換える事にした。体がとっても柔らかいスタントマンにこの演技をしてもらってモーション・キャプチャし、これをベースに腕はCGで、皮ジャケットはクロスシュミレーション、ボディはシュワちゃん、頭部は合成、こうしてこのショットが完成した。
○T-Xの変身&変形シーン
次は、墓地で[ケイトの婚約者]→[T-Xの骨格]→[T-Xの女性ターミネーター]へと変身するシーン。このテの変身シーンは、役者の背丈が同じでなければ難しい。幸い、2人ともおなじ位の身長だったので助かった。モーション・コントロールカメラで複数パス撮影し、この撮影は1日がかりだった。
さて、これはT-Xの腕が、銃から手に変形するショット。T2ではこれを2Dのモーフィングで処理したが、T3ではすべて3Dで処理した。この為に特殊なプラグインを開発。パーティクルを応用し、パーティクル&ブロッブ(メタボール)の組み合わせにより、肘の所から手の先にかけて、序所に[銃→手]の変形が行われるようにした。レンダリングにはメンタルレイを使った。
金属の腕が溶けるシーンでは、流体シュミレーション(Fluid Simulation)を使った。これはすごく難しく7~8週間を要した。実写をマッチムーブし、ボリュームによるFluidを構築、これにMAYAのパーティクルを組みあせた。シュミレーションにはペンティアム4を搭載したマシンを使用した。
○核爆発
予告編にも登場するこの核爆発。最初、3次元空間での正確な流体シュミレーションを行ったが、流体計算だけで2日間もかかってしまった。う~む、重すぎる…。これでは調整する時間が…。そこで、計算をはしょって、2Dでのシュミレーションに切り替えた。
結果は、ご覧のように上々だった。
…とこのような内容であった。最後は質疑応答が行われた。
質疑応答:
Q:キノコ雲は、ものすごくリアルに出来ていました。今まで映画の見た中で、一番リアルだったのではないかと思います(ここで場内からも拍手が起こる)。2Dのシュミレーションを、どうやって3Dに置き換えたのですか?
A:やり方はこうだ。前述の3D空間での流体シュミレーションを、平面でスライスする形で2Dの流体シュミレーションとして計算させる。切り取る位置を変えて沢山のスライスをした後、これを板を回転させたようなモデルに変換(swap to space)し、メンタルレイのボリューム・シェーダーでレンダリングした。
Q:レンダーマンではなく、メンタルレイを多用していますが?
A:特にキノコ雲などはそうだが、なぜレンダーマンでないかと言えば、影などのレイトレースの要素が必要とされた為だ。その為の専用のシェーダも開発した。
Q: マッチムーブがすごく大量に使われていますが、どうやってさばいたのですか?
A: マッチムーブ専門の部署がある。トラッキングも専門の人がいる。
Q: 先ほど、墓地でのT-Xの変身シーンの説明で「撮影に1日かかった」との事ですが、ロケなので太陽が動いてライトが変わってしまうと思うのですが、それについては?
A:言われてみればその通り。でも、正直なところ、あまり気にはしなかった。
Q:予算と作業量のバランスが合わないという事もあると思いますが、どうしていますか?
A:95%は交渉してなんとかする。例えば「これだけ作業するでしょ?でも予算はこれだけでしょ?そしたらこのショットはビスタビジョンじゃできないけど、それでもいい?」そして予算が上がる(笑)、そんな感じかな。
Q:ロトスコープによるアニメーションを多用していますが?
A:ロトスコープは重要だ。マルチパスで撮影しなくて済むという利点がある。モーションキャプチャだと、マーカー付き演技だし、おなじカメラパスをもう一度撮影する必要があるので。
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この「ターミネーター3メーキング」の講演はチケットも売り切れになる程の盛況ぶりで、公開を前に惜しげもなく披露されるその舞台裏に、感覚は深い感銘をうけていた。
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