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○はじめに
今年のメモリアルデーの映画シーズンは、ジェッキー・チェーンの「シャンハイ・ムーン」や、トム・クルーズの「ミッション・インポッシブル2」等の超大作が目白押し.。そんな中、ディズニーが製作した「ダイナソー」が6月19日、他に先駆ける形で公開され、公開最初の週末に、たった3日間で38.6million※を売り上げる等の、大ヒットとなった。今回は、その「ダイナソー」の製作舞台裏の全容を、いちはやくご紹介する事にしよう。
※日本円で約41億円に相当。
○膨大な作業量
構想から10年近い歳月と総製作費200millionを投入し製作された「ダイナソー」。1時間24分の本編の内、殆ど全編に渡ってCGの恐竜と実写との合成で構成されるという試みが成なされ、最終的にはすべてデジタルで処理された。全編デジタル処理なので、全米公開時は限定館においてDLPによるデジタル上映も行われた。
しかしその分作業量は、文字どおり膨大なものとなった。扱ったデータは約45テラバイト、CD-ROMにして7万枚分に相当。レンダリング用のレンダーファームには250台のコンピュータ・プロセッサ、及び300台ものワークステーションが導入された。プロダクションの進行中、膨大なレンダリングと合成作業の為、通常は毎週3万プロセッシング・アワーのデータ処理が行われ、ピーク時にはこれが6万プロセッシング・アワーに達した。
また、「ダイナソー」の為に開発されたプログラムのコードは7万行に達し、百科事典に換算すると25巻分に相当した。特殊効果が必要なショットは1300ショット以上に及んだ。このような超巨大プロジェクトが、カリフォルニア州バーバンクにある、ディズニーの新デジタル・スタジオで秘密裏に進められたのである。
※日本円に換算すると約210億円に相当。
○ディズニーの新デジタル・スタジオ “FAN”
「ダイナソー」のプロダクションチームは、プロジェクトが正式に始まった8ケ月後である97年1月、ウォルト・ディズニー・フィーチャーアニメーションの全く新しいデジタル専門ファシリティーである、バーバンク空港近くのビルへと移動した。
このビルは、Feature Animation North Side (FAN)と呼ばれるディズニーのデジタル部門の心臓部。ここ“FAN”で、「ダイナソー」の製作は、開始された。
最近、ここにはディズニー傘下のエフェクトハウスだったドリーム・クエスト社も統合されており、現在は350人に及ぶスタッフが働いている。
このドリーム・クエストとの統合チームは、The Secret Lab (TSL)と呼ばれており、その名前は本編の最後にもクレジットされている。
○実写部隊
映像にリアリティを持たせる為、背景には実写が用いられた。撮影隊は2班に分かれ、18ケ月という長期間に渡って文字どおり世界中をロケした。オーストラリア、カリフォルニア州(8ケ所)、フロリダ州、ハワイ、ベネゼーラ、西サモア等で、ドラマティック且つ雄大で美しい実写背景が撮影された。
この撮影では、Leicaのレンズを装着したビスタビジョンのカメラが使用された。このビスタビジョン・カメラはフィルムが横走行式で、通常2駒分として使用するフィルム面積を1駒分として撮影する為、高画質が得られ、後で合成等の処理を行う際にも柔軟性が高かった。
また、新しく開発された「Dino-cam」も使用された。これは、コンピュータ制御によるケーブル・オペレーションのカメラで、高さ約82mの鉄塔の間に張られた約300mのケーブルの間を、最速で時速約48kmのスピードで移動しながら撮影する事が可能で
ある。
高度も自由にコントロール出来、カメラのパンとティルトも360度可能になっている。このコンピュータ制御の「Dino-cam」によって、複雑な恐竜の視線を「再現」した。実写プレートの撮影はディズニーの伝統的なストーリーボードに沿って行われ、撮影後の映像はバーバンクに持ち帰り、デジタル・チームのエキスパート達によって、各フレーム毎にCG製の恐竜と合成された。
○デジタル部門のプロダクション・パイプライン
膨大な数の特撮ショット、デジタル素材と実写素材の複雑な合成等を円滑に進める為に、洗練された管理体制と、映画製作におけるプロダクション・パイプラインを確立する必要があった。
最初のパイプラインは、ストーリー・スケッチを起こす事から始まり、それから各部門別に作業が開始された。
◆3D Workbook部門
撮影クルーの参考用に、「3D Workbook」が用意された。まず、ラフなストーリーボードを起こす。それを見たロケ隊がストーリーにマッチした最適な場所を探す。ロケ場所が決まれば、技術部隊が現地に出向いて、距離、岩のサイズや尖峰の高さ等を測定する。これらを基に、Workbook隊がローレゾの3Dセットを起こし、CGの恐竜を必要な場所に置く。それにアニメーションを加える。この3D Workbookによって、撮影クルーはカメラ位置や、恐竜が撮影ショットの最初から最後の間に、どのように動くのか、等を事前に確認する事
が出来た。
◆Digital Image Planning部門
実写の背景が撮影されると、この部門が実写映像に合わせて「バーチャル・カメラ」を仕込んでマッチ・ムーブを行う。カメラ位置、画角、パン、ティルト、レンズのズーム、クレーンの移動等、すべてを3Dのバーチャル・カメラに置き換えた。
◆ Model Development部門
この部門は、モデラー、モーションTD、モデルTDの3つから成り立っている。モデリングチームは、David Krentzの描き起こしたドローイングを元にCGソフトでモデリングを行う。TDチームは、そのCGキャラクターモデルを、アニメータが動きを着けやすい状態にセットアップする。また、アゴの揺れ、体をひねった際に生じる皮膚のたわみ等、2次的な部分で必要とされる一連のアニメーションをコントロールする為のツール開発も行った。また彼らは、恐竜のスキンのアサインや調整、スケルトン部分の設定等、恐竜の「動きのリアリズム追求」に関連する開発・設定作業を担当した。
◆Look Development部門
この部門では、完成されたキャラクターモデルに必要なテクスチャーやエクステリア・サーフェス(鱗片模様、シワ、目の部分等)を製作した他、膨大な数のシェーダーの開発等を行った。更にこの部門では、今回注目されたLemurs(キツネザル)のファーの開発も行われた。ヘアーやファーの開発は難題の1つであったが、彼らは生々しく、密生した、動きも非常にリアルなファーの開発に成功した。
◆Character Finaling部門
ラフなキャラクター・アニメーションが完成した後、この部門ではスキンの2次的なアニメーション付けを担当した。顎の揺れ、皮膚のたわみ等、キャラクターにリアリズムを与える重要な部門である。また、この部門では、すべてのアニメーションが正しいかどうか~正しい位置を歩いているか~正しい場所を触れているか~等も最終チェックされた。
この2次的アニメーションが顕著に見られるのは、巨大な年配のブラキオサウルス“Baylene婦人”の動きである。彼女が地面を踏みつけた瞬間、彼女の巨体に振動が伝わったり、足の動きに付随した微妙なひねり等の2次的アニメーションが効果的に使われているのがわかる。また、彼女の動きから、「年配のご婦人恐竜」という雰囲気や、巨大感等が生々しく伝わってくる。
◆Scene Finaling部門
この部門では、ライティング、コンポジッティング、エフェクツ、デジタル・マット・ペインティング、そして、アーティキュレイテッド・マット&ペイント(articulated mattes and paint) の5つの独立したカテゴリから成なっている。ここでは、デジタル化された実写素材の背景が、CGアニメーションやエフェクト・アニメーション等の素材と1つに合成される部門である。
「ダイナソー」のプロジェクトは、スタート時は30人のアーチストだけだったが、これを350人規模まで膨らませる必要があった。しかし、建物もない、人もいない、マシンもない、ソフトもない、そんな段階からのスタートだった。そこで、各チームのエキスパートを交えて8ケ月におよぶブレーン・ストーミングを行い、検討を重ねた。その結果、2年間を費やし独自のデジタル・スタジオを確立、次の2年間で映画を製作する為のプロダクションをスタートした。それが、現在の「The Secret Lab」に結び付いたという。
○「ダイナソー」で使用されたCGソフト
「ダイナソー」では、恐竜のボディのアニメーション付けにはSoftimage3Dが使用され、リアルな顔の表情を演出したフェイシャル・アニメーションにはMayaの自社開発プラグイン「Mug Shot」が使用されている。レンダリングには、ハリウッドでは定番のレンダーマンが使用されている。
○日本人スタッフ、佐藤篤司氏の活躍
「ダイナソー」では、日本人のCGスタッフである佐藤篤司氏が、キャラクター・アニメーションのスーパーバイズを行う、権威あるスーパーバイジング・アニメータの1人として参加している。佐藤氏は、恐竜の群れのシーン及び、強敵役である巨大な肉食恐竜「カーノター(Carnotaur)」のキャラクター・アニメーションのスーパーバイズを担当。佐藤氏の下に6人のキャラクター・アニメータがつき、氏の指導によって複雑なアニメーションを完成させた。予告編や本編を観て頂ければわかるが、「カーノター」のパワ
フルで迫力に満ちたアニメーションの完成度は素晴らしい。ディズニー社内の完成披露試写会の後、監督自らが佐藤氏に最大の賛辞の言葉を贈った、というのも頷ける話である。
○おわりに
このように、最新のテクノロジーを駆使して完成した「ダイナソー」は、わかりやすいストーリーと、完成度の高い映像で大ヒット中である。実写とリアルなCGの恐竜の組み合わせという試みは映像業界でも注目されており、来月のLA SIGGRAPH(SIGRAPHのLA分化会)の月例ミーティングでは、この「ダイナソー」のメーキング講演が行われる予定である。日本での公開は年末と、まだ少し先ではあるが、今年夏にニューオリンズで開催されるSIGGRAPH2000に参加する読者の方は、ひと足先にその映像を拝める事と思う。何はともあれ、この「ダイナソー」の公開をどうか楽しみにして頂きたい。
間連記事:
新春特別企画 初公開!佐藤篤司氏ディズニー時代の独占インタビュー全文(01/14)
このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。
著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
お願い申し上げます。
転載や引用をご希望の方は、お問い合わせページ
よりご連絡下さいませ。
(C)1997-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎
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著者追記: このヒルトンホテルのライドは、残念ながら2008年9月に終了となったが、ラスベガス・ダウンタウンにあるショッピングモールNeonpolisに移設が決定、2010年に再オープン予定だという。
ラスベガスの有名ホテル、ラスベガス・ヒルトンに1998年1月にオープンした人気アトラクション「Star Trek: The Experience」。
本誌を始めとす る日本のメディアでも紹介された、おなじみのアトラクションではあるが、実際に訪れた方は少ないと思う。
また、過去に紹介されたのは「さわり」だけの場合が多く、もっと詳細を知りたいと思う読者の方も多い事だろう。
今回は映像部分のみならず、その全容を関係各社の協力により、総力取材
で現地からお届けする事にしよう。
○「Star Trek: The Experience」とは
ラスベガスのメインストリート、Las Vegas Stripから2ブロック東側に位置する、ラスベガス・ヒルトン。このヒルトンとパラマウント・パーク※のコラボレーションにより、$70millionを費やして製作されたアトラクションである。
人気テレビシリーズ「Star Trek: Deep Space Nine」の世界を 完全に再現し、ゲストは文字どおり24世紀の宇宙旅行をエンタープライズ号のクルー(業務員)気分で味わえるという、正にトレッキー※垂涎のアトラクションだ。しかも、入場料金はたったの$15.95-(税込み) である。
※パラマウント・パーク(Paramount Parks Inc.)
パラマウント映画の1部門。同社の映画&テレビ作品ベースにしたテーマパークの企画運営を手がける最大級のエンタテインメント・カンパニー。
北米に5ケ所のテーマパークがあり、テーマパークビジネ
スでは20年以上 の歴史を誇る。
※トレッキー
Star Trekマニアの総称
○エントランス
ヒルトンホテルに入ると、ベガス名物のカジノが目に入る。それを横目で見つつ、左手に進むと、このアトラクションのエントランスがある。
美しいライティングと凝りに凝った内装、そして我らがエンタープライズ号が展示されているエントランスは、ゲストを24世紀の世界へと誘う。
ここで記念撮影をするトレッキーも多い。
入り口には、エンタープライズ号が。
○未来の歴史博物館(The History of the Future)
まず、最初に案内されるのが、この博物館。通路に様々な展示品がこれでも かと並び、ゲストは順路に従い自分の好きな品を好きなだけ鑑賞する事が出来る。
テレビシリーズ1作目から最新作に至るまでの詳細な宇宙歴の年表や、200点以上にも及ぶ展示品の数々。撮影で使用されたコスチューム、武器、特殊メーク関連の品や小道具等が惜しげもなく陳列されている。
時折、ここの順路を、大柄なクリンゴン星人が何気に歩いていたりして、一緒に撮影を撮ってもらう人もいる。ニクイ演出である。ここで目が点になってしまうマニアも多い。
○宇宙への航海(The Voyage Through Space)
続いて、ゲストはビーム転送室(Transporter Room)に通され、エンタープライズ号へ「転送」される。転送室に入って待っていると、あれ?アレ? アレ~~?信じられない事が起る。
筆者も「テーマパーク慣れ」している方だが、この転送室にはチョット驚いた。う~む、やるのう。
何が起るのかは、実際に体験してからのお楽しみ♪
○エンタープライズ号ブリッジ(USS Enterprise / Bridge)
自分がどこにいるかも不明なまま、通されたのは、なんと!エンタープライズ号のブリッジ(艦橋)。テレビで見慣れたブリッジが目の前にあり、プロの俳優が演じるクルー達が慌ただしく働いている。
クルーがゲストをかき分け「ちょっと失礼」とか言いながら計器をチェックしたりする。するとブリッジ前方のスクリーンには、テレビでおなじみライカー副長が......ここまでやるか、フツ~?もう完全に脱帽である。
このブリッジで、ゲストはライカー副長から司令を受け、シャトルに乗り込む事になる。
○いざ、シャトルに乗船!(Shuttlecraft)
シャトルは27人乗り。ゲストが窓から「実際に」宇宙空間を見渡たす事が可能なように、デザインされている。
McFadden社の6軸制御式のモーションベース※が採用されており、
Roll/Pitch/Yowの各動きが可能になっている。
このモーションベースは米国陸軍のパイロットやNASAの宇宙飛行士の訓練でも使用されているだけあって、臨場感満点の乗り心地。
そして、頭上にはRhythm&Hues Studios が製作した大迫力の映像が、直径18メートル24センチ、視野が160度のドームスクリーン一杯に映写※される。 ドームスクリーンは2組用意されており、各ドームにシャトルが2機づつ (合計4機)設置されている。
ゲスト達の乗ったシャトルは、エンタープライズ号後方のドックより発進。大宇宙で展開されるクリンゴン帝国とのバトルに、上空からエンタープライズ号を援護すべく、出撃して行くのである。
※モーションベースは、韓国のTaejon Expo 93で好評を博した
「Starquest Adventure」と同タイプが採用されている。
※世界中の著名テーマパークのライド映像等に導入されている実績を持つ
CHRISTIE社のEPIC Special Vanueプロジェクタが採用されている。
フィルムは70mm8P。ドームの形状も、IMAXドーム等とは異なる、
独特の形状をしている。
○Deep Space Nine Promenade
シャトルの航海を終えたゲスト達は、24世紀の宇宙ステーションに案内される。テレビシリーズ「Deep Space Nine」の劇中で登場したプロムナードを完全に再現した場所である。ここには、ショップとレストランがあり、 トレッキーが泣いて喜ぶ場所でもある。
◆Deep Space Nine Promenade Shops
このショップでは、Star Trek関連のマーチャンダイズを幅広く扱っている。 ビデオ、CD-ROM、本、時計、シャツ、ジャケット等、なんでも揃っていて、お土産には事欠かない。ここでしか買えないレアな品もあり、クリンゴン 帝国のユニフォーム(お値段は約120万円)まで売っている(笑)
◆Quark's Bar & Restaurant
このバー&レストランは、これまたトレッキー泣かせのお店である。
エグゼクティブ・シェフのWilliam J.Rohm氏が、「お客様が20世紀にいる事を忘れ、本当に未来のレストランでお食事をされているような体験をして頂ける事を目指しております」とのコメントを発表しているだけあり(笑)ものスゲェ気合の入ったレストランに仕上がっている。
バーではクリンゴンのアイスコーヒーやロミュラン酒等を堪能出来るし、レストランでは本場の(?) 宇宙ディナーが楽しめる。予算は20ドル以内で収まる。
Star Trekに詳しい方なら、ここのメニューを見たらニンマリする事だろう。
バーメニュー: Warp Core Breach / Pattern Buffer / Rom's Rootbeer
Data's Day / Raktajino (Klingon iced coffee)
レストランメニュー: Isolinear Chips and Dip / The Warp of Khan
Glop on a Stick / The Final Frontier(desserts)
また、挙式サービスもある。エンタープライズ号のブリッジで、クリンゴン星人とフィレンギ星人の立ち会いのもと、夢の結婚式を挙げる事が出来る。 挙式の後は、このバー&レストランにおいて披露宴が行われる。(爆笑)
○終わりに
さて、駆け足で紹介した「Star Trek: The Experience」だが、いかがであっただろうか。ホテル内のアトラクションなので規模はそれ程大きくないものの、見所たっぷりで、StarTrekファンでなくとも充分に楽しめる事だろう最近のラスベガスはこれ以外にも大型映像によるアトラクションがあり、映像関係者にとっては興味深い街だと思う。今度の休暇には、是非ラスベガスへ行ってみる事をオススメしたい。
但し、ギャンプルだけは程々にされたし(笑)
○映像を製作したリズム&ヒューズ社の担当者に直撃インタビュー
マリナデルレイにある老舗リズム&ヒューズ社(以下、R&H)。アット
ホームな雰囲気でも知られている。今回のインタビューに使わせて
頂いたプレゼン室では、なぜかBGMにスター・ウォーズのテーマが流れ
ており、なごやかムードの中で話は弾んだ。
今回の取材に応じて頂いたのは、R&Hのテクニカル・ディレクタの
Georgia Cano女史。ロバート・エイブル&アソシエイツ、
オムニバスを経て同社に参加したという、正にアメリカCG界の生え抜き
的存在である。これまでに、コカコーラの白クマシリーズ等のCMや、
映画、テーマパークのCG製作を手掛けた。
~「Star Trek: The Experience」では、どのようなCGソフトが使用された
のですか?
基本的には、すべて自社内で開発されたソフトで製作されました。
~このプロジェクトでは様々な試みがなされたと思いますが。
今回、大きく別けて3つのチャレンジがありました。
1つ目は、エンタープライズ号や、バード・オブ・プレイ※等を全てCG
で表現する際、“目の肥えた観客”にも違和感を抱かせないようにする事
でした。
※クリンゴン帝国の宇宙船「猛鳥号」。
透明武装から出現する時に像が揺らぐのが特徴。
パラマウント・サイドからは、「観客がこれ迄にTVや映画で見て来た
印象と、全く同じに見えるように作って欲しい」との注文が来ましたね。
その為に、パラマウントから、実際に映画の撮影で使われたエンタープラ
イズ号のミニチュアモデルがR&H内に持ち込まれ、それを参考にしまし
た。非常に精巧なモデルで、そのディテールを再現しなければなりません
でした。
ちなみに、CG製のエンタープライズ号は105,739ポリゴンでモデリングさ
れました。
2つ目は、ドームスクリーンのフォーマット用に、非常に優れたクオリティ
でレンダリングしなければならなかった事です。
更に、ドーム映写用にディストーション(歪み補正)処理を掛ける必要が
ありました。ドームスクリーンに映像をそのまま映写したのでは、ドームに
よって映像が歪んでしまいます。映写時に正しい映像に見えるように、ディ
ストーションをかけてからフィルムに収録するのです。
~具体的にはどのようにしたのですか?
この為に、特殊なレンダラとソフトが開発されました。
まず、正面用(2K)、右面用(1K)、左面用(1K)の3面分の画像をレ
ンダリングしておき、ドーム用のディストーションを加えて、最終的に1枚の
画像(2K)に合成するという手法です。
この為のレンダラは、加藤俊明氏が開発しました。
~レンダリング時間も相当かかったのではないですか?
1つの画像を構成するのに3面の画像が必要とされるし、平気で1時間以上
掛かるフレームもありました。更に、どのシーンも膨大な数の合成レイヤー
を必要としたので、大変でした。最も複雑なシーンで25レイヤー位使って
いると思います。
R-10000クラスのSGIのワークステーション60台以上と、Challenge(8CPU)
をフル稼動でレンダリングしました。
~3つ目のチャレンジは?
3つ目は、ラストに登場するラスべガスの夜景の実写のシーンです。ヘリコ
プターで撮影した素材は平面でしたので、これにもディストーションを掛け
る必要がありました。
R&Hでは、フィルムをスキャンする時は常に4Kでスキャンし、それを
補完して2Kに落していますが、今回のような画像処理を加える場合には非
常に有益でした。
ただ、元々が平面の素材なので、ドームスクリーンで必要とされる広い視野
の映像ではありません。これを「それらしく見せる」事もチャレンジの1つ
でしたね。
この撮影自体も大変でした。ヘリコプターに65mmのカメラを取り付け、
Las Vegas Stripを交通封鎖して撮影されました。Las Vegas Strip
の交通封鎖が市から初めて許可された、前代未聞の撮影だったそうです(笑)
~爆発の炎は実写素材のようですね。
サンタクラリタのバレーで、夜間にパイロ・テクニックを使って爆発の素材
の撮影していました。私が住んでるところです。
その頃の6ケ月位は、私は自宅と会社をT1ラインで結んで、在宅勤務をし
ていたのです。ある晩、自宅の近くで撮影隊を見掛けて、よく見たら知り合
いばっかり。なんと偶然にも、私の家の目の前で爆発素材の撮影をしていて、
大笑いになりました(笑)
~このプロジェクトには、どの位の人数のスタッフが関わったのですか?
また、製作期間については、どうでしょうか。
総勢35人のスタッフが、準備も含めると全体で1年間かけて製作しました。
内訳はアニメータは1人、ライターが8人、アート・ディレクタが2人、
後はテクニカル・サポートとプロデューサ、実写部隊など。
CG現場が集中して作業を行ったのは、人によっても違いますが、
だいたい6ケ月間位ですね。
~R&Hは、このようなライドフィルム映像や大型映像の仕事
が多いですね。
これまでに、韓国の博覧会、日本の博覧会、世界中のテーマパーク、ラス
ベガスのアトラクション等、多くの作品を手掛けました。私個人も、殆ど
のフルCGのライドフィルムのプロジェクトに参加してきました。
ライドフィルムの仕事は、いろんな要素が含まれていて、とっても楽しん
で作業が出来ると思います。ここしばらくは、関連業界が一段落した為か、
あまりライドフィルムの仕事が来ないので、ちょっと寂しいですね(笑)。
でも、今後ヨーロッパ方面で、徐々に需要が増えそうだと聞いているので、
楽しみにしているところです。
私自身、ラスベガス関連の仕事では、「RACE FOR ATOLANTIS IMAX3D」にも
関わったので、この間のバケーションでは、母親を連れて行って、自分の娘
の仕事を見せました(笑)
~ところで、広くてキレイなスタジオですね。社員は今、何人位いるのですか?
VIFXと合併して会社が大きくなって、今は実写部門も入れると320人が働い
ています。合併直後の去年の夏は400人もいて、朝は駐車場が込み合って大
変でした(笑)
~今、このプレゼン室のモニターに流れているテストアニメーションは?
これは、今製作中の映画の1シーンです。今は、CMも含めて13本の作品
を製作中です。映画は「The Sixth Day」「Red Planet」等の特撮部分を製
作中です。
~R&Hはハリウッドでも老舗の域に達していますが、新しいスタジオも増
えて、競争も大変なのではありませんか?
そうですね。13年の歴史を誇っていますが、素晴らしい映像を作るスタジオ
が増えて、生き残っていくのは大変だと思います。他社の作った映像を見て、
時には驚いたりもしながら、どのように差別化を図っていくかを常に考えて
います。
私がCGを始めた頃は、大手CG会社はロバート・エイブルやデジタル・プ
ロダクション位しかなく、世界中のシェアの8割以上を独占していたもので
すが(笑)、今は状況が全然違いますし。
ソフトを自社開発しているという強みを利用し、ソフトを書き直したりしな
がら、他社には出来ない事を目指しています。
~日本の読者の方にメッセージはありますか?
Star Trekシリーズや、モーション・ライドが好きな方には、きっと楽しんで
頂けるアトラクションだと思っています。
「Star Trek: The Experience」は、自分が映画の中に入り込んで、本当に
エンタープライズ号に搭乗したかのような気分が味わえるアトラクション
です。
チャンスがあったら、皆さんも是非一度、体験してみてくださいね。
(2000年4月27日金曜日 R&H社にてインタビュー)
取材協力:Chris Angelo / Paramount Parks
Georgia Cano / Technical Director - Rhythm&Hues Studios
Scot Byrd / Public Relations - Rhythm&Hues Studios
データ:
Star Trek: The Experience
Las Vegas Hilton
3000 Paradise Rd. / North Tower
Las Vegas, NV89109
TEL: 702-732-5301(Reservation)
Dome screens fabricated by: Spitz
Film projection system by: CHRISTIE Incorporated
Motion base and Shuttlecraft by: McFadden Systems
Motion base programming by: Catalyst Entertainment
Film Format: 70mm8P
所要時間:22分
シュミレーション・ライド部分:4分
収客能力:1時間あたり800人
朝11時よりオープン
著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、 転載や引用をご希望の方は、お問い合わせページ (C)1998-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎 |
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