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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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ここロサンゼルスでは、ACM SIGGRAPHの地方分科会である"LA SIGGRAPH"の月例会が毎月開催されている。

内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。

この月例会には誰でも参加出来、会員になって年会費$35.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。

会員でなくても、会場入り口で参加費15ドルを支払えば入場出来る。しかも学生の非会員は、学生証を提示すればたったの5ドルで月例会に入場出来るという特典もある。

4月の月例会は、映画「ラストサムライ」のメーキング講演であった。


L.A. ACM SIGGRAPH Presents:
The Visual Effects of
“The Last Samurai”
Wednesday April 14, 2004


Program
6:30-7:30 Social Hour
7:30-9:30 Program

Location
The Japanese American Cultural & Community Center
244 South San Pedro Street
Los Angeles, CA 90012


この日の会場は、サムライ映画という事にちなんでか、なぜかリトル・トーキョード真ん中にあるホール、日米文化会館であった。

余談だが、ここはよく日本の芸能人がLA公演を行う場所でもある。これまでにも吉本興業のLA公演や、由紀さおり姉妹のコンサート等が開催されており、実は筆者も何度か足を運んだ事がある。

この日米文化会館がLA SIGGRAPHの会場に使用される事は極めて珍しい。

しかし、主催者側によると過去にも月例会で使用された事があるそうで、なぜか87年にピクサーがホストを務め、このホールでレンダーマンのプレゼンが行われたらしい…


さて、この日米文化会館での月例会における、パネラーの顔ぶれは下記のとおり。


 司会:JEFFREY A. OKUN, WARNER BROS.
 Visual Effects Supervisor

 GEORGE MACRI
 Visual Effects Producer, PIXEL MAGIC

 WILLIAM MESA
 Owner, FLASH FILM WORKS

 DAN NOVY
 Technical Supervisor, FLASH FILM WORKS

 JUSTIN MITCHELL,
 DIGITAL DIMENSION

 TONY CLARK
 Co-Founder, RISING SUN PICTURES

VFXスーパーバイザのJEFF OKUNが司会を務め、メインのCGベンダーである4社から、それぞれ担当者がパネラーとして壇上に立ち、映像を見せながらプレゼンテーションを行った。

それでは、そのディスカッションの模様をさっくりと要約し、簡単にご紹介する事にしよう。


○JEFFREY A. OKUN -  Visual Effects Supervisor

 今日の講演で、何を言わない方が良いのか、何を言ったほうが良いのか、何を言っちゃマズイのか、ちょっと迷ったね(笑)

 この映画は、プロデューサーが旧知の仲だった事から引き受けたが、大変な仕事だった。ロケだけでも6ケ月あり、日本、NZ (ニュージーランド)、LAで撮影をした。

 プリプロも大変だった、なんと5ケ月もかけて「NZで自然なライティングを行う方法」を議論したりもした。

 チャレンジは、 425ショットのエフェクト・ショットの中で、

 ・たった500人のエキストラを、どう大軍勢に見せるか

 ・馬に乗れる人は39人しかいなかった。しかも殆どが日本人ではない。これにデジタル馬を追加したり、時としてスタントの顔の差し替えも必要とされた。

 ・アクションシーンは危険が伴うので、武器を全く使わず撮影し、後でCGで合成

 等をうまく実現する事だった。

 軍隊のシーンは多重合成。よくよく見れば、あなたも画面のどこかに同じ男の顔を見つける事が出来るだろう(笑)

 ところで、ハリウッド映画が動物虐待に神経質なのはご存知のとおり。そこで、撮影現場では、馬にケガをさせない為に神経が配られた。

 とにかく、馬は絶対にキズつけちゃいけない。でも、人間はケガさせても問題なし(笑)は~ははは。


○WILLIAM MESA - Owner, FLASH FILM WORKS

 私は、前出のJEFFとは長年仕事をして来た仲だ。

 今回、我々の担当ショットでのチャレンジは、R&Dを沢山行った事だろう。ウチのシステム構成はSGIとNTの組み合わせ。CGはLightWaveとXSIだ。

 CG馬、CG矢、2D&3Dデジタル・マットペイントによる横浜港と東京の街の表現など。クレーンUPすると見える、高台にある天皇の城のシーンは、3Dのマットペイントだ。

 アクション・シーンでは、殆どのショットで3Dトラッキングが必要になったし、顔の差し替え作業も数多く発生した。

 合戦のシーンでは、XSIのプラグインであるビヘイビア(Behavior)を利用し、デジタル・サムライをシュミレーションによって大量に動かした。これにはAI(人工知能)が備わっており、重宝した。

 劇中で、まるで"Star Wars - Episode II"の1場面のような、膨大な数の兵隊が戦っていたシーンがあるが、これが正にそうだ。

 「指輪物語」で有名なマッシブ(Massive)の使用も検討したが、ライセンス料が我々には高価だった事や、手軽に購入出来る段階ではなかった事などから、採用を見あわせた。

 信忠(小山田シン)の最期のシーンで画面を飛び交う膨大な矢、そして銃や弾着の煙はすべてデジタルだ。

 本物の火薬の煙も試したが、見栄えがよろしくなく、最終的には使われなかった。火薬はダメだ!

 デジタル合成にはDigital FusionとShakeを多用した。
 

○GEORGE MACRI - Visual Effects Producer, PIXEL MAGIC

  PIXEL MAGICでは、合成ショットを沢山担当した。
 
 主だったショットは、合戦のシーンにおいて、矢で草塊に火を放つシーン。

 そのままでは迫力に掛けるので、何レイヤーにも分けて合成し、炎の数を増やしたり、奥行き感を出すようにした。

 また、NZで撮影された500人のエキストラを、大軍勢に増やす作業も行った。1ブロックで単位並んでもらい、それを位置を変えながら順番に撮影。そして、それを順次合成した。

 これがそのBefore/Afterの映像。

 (オリジナル映像を観て、兵隊の少なさに場内から笑いが起こった)

 また、オールグレン(トム・クルーズ)がサムライ(タカの夫)のノドをヤリで突き刺すシーンは、そのままではなんとなく迫力に欠けたので、After Effectsで腕とヤリだけを切り出し、位置と動きを調整しなおして、再合成してある。

 このように、我々の仕事は「見えない努力」の賜物だが、これを悪ノリして作った合成ショットもある。映画を観ても誰も気がつかないが、実はこんなショットがあるので、ご披露しよう。

 (合戦のシーンの、軍勢の一部が拡大される。なんと、帽子を被ったペンギン達が横1列に並んでいる。場内大爆笑)

 

○TONY CLARK - Co-Founder, RISING SUN PICTURES

  我々RISING SUN PICTURESは、オーストラリアのシドニーにある会社だ。

 今でこそ、オーストラリアには著名なエフェクト・ハウスがいくつかあるが、ちょっと昔は、本当に何もなかった。それを思うと、今は良い時代かもしれない。

 スタジオがシドニーなので、LAとのコミニュケーションはすべてネットを介して行った。FTPを駆使し、データをオーガナイズして頻繁にUPDATEを行う事で、LAとの密なやりとりが実現した。

 (司会のJEFF OKUN氏が、「リクエストにはすぐに応えてくれるし、すべてのデータはきちんと整理・管理されているし、いつも最新のQuickTimeがダウンロード出来たし、最高に仕事がやり易かった」と賛辞のコメントを述べた)

 我々の担当は、忍者との格闘シーンの「デジタル武器」。

 役者によるアクション・シーンでは危険が伴うので、刀を持たずに演技する。

 そして、後からCGでそれらの武器を付け足す訳だ。これには膨大な量の3Dトラッキングが必要とされた。

 CGはサムライの刀、短刀、手裏剣、そして飛び散る血など。

 刀はXSIとメンタルレイの組み合わせ。飛び知る血はMayaによるもので、Blobby surfaceとシェーダーの組み合わせで実現している。煙はFluid Effectsによるものだ。

 オールグレンが、明治天皇に勝元の刀を差し出すシーンがある。実はオリジナル・ショットでは、トム・クルーズの右手には血が流れ、白い袖の部分にも血がついていた。
 
 テスト試写の結果、映画会社の意向で、この血をデジタルで消す事になった。

 幸い、血の色の情報はREDチャンネルに含まれていたので、他のGREENとBLUEのチャンネル情報を血の上にコピーし、後は手の色を微調整する事で解決した。


○JUSTIN MITCHELL, DIGITAL DIMENSION

  DIGITAL DIMENSIONでは、約50shotの合成ショットを担当した。

 本編では残念ながらカットになっているが、氏尾(真田広之)が街で人の首を跳ねるシーンがある。

 このショットは、

  1.演技を普通に撮影したもの
  2.グリーンの竿の上に首を設置し、それを真田広之が斬る
  3.頭にグリーンの布を巻いて、倒れる斬られ役
   4.スタッフが、人形の頭部を路面に投げ、首がコロコロ転がる

 という素材を合成して作られた。

 また、オールグレンが氏尾に木刀でコテンパンにされるシーンでは、後から頬に流れる鼻血を追加してある。

 白い板に水滴を降らせ、そこに赤ペイントを流したのを撮影。そしてトムの頬の形状に合わせてモデリングされた曲面にその映像をマッピングしてレンダリング、合成して仕上げた。

 また我々は、合戦等の野外のシーンで、デジタルの刀が必要とされるシーンも担当した。

 ここでは、野外でのライティングを自然に見せる為、イメージ・ベースド・ライティングのテクニックを用い、GIでレンダリングを行った。

 また、サムライの刀に刺される政府軍の兵士のシーン等は、兵士の背中部分だけをモデリングし、そこにCGの刀を貫通させ、それをGIでライティングして違和感のないように仕上げ、合成してある。


○質疑応答

 Q:撮影にデジタル・カメラは使われたのか?

 A:メインの撮影はすべてフィルム。ワイドなので、アナモフィック・レンズによって撮影されている。

   しかし、合成用の素材や、背景用の素材はキャノンのデジタル・スチルカメラの他、映画用HDデジタルカメラでも撮影されている。

   HDカメラはあくまでも素材用だけに使用された。フィルムカメラの台数が限られていたという事情もあったが。

 

  Q:GIって、何?
 A:グローバル・イルミネーションの事だ。

 Q:ポスプロはデジタル?

 A:シネサイトで、デジタル・インターミディエート(フィルムから画像をスキャンし、デジタルの中間素材を起す事)を行った。そして、カラーコレクションや合成等のポスプロはすべてデジタル処理で行われた。

   撮影監督のジョン・トールは経験豊富なカメラマンだが、当初デジタルによるポスプロに関しては、私(JEFF)とは多少、意見の相違があった。

   しかし、実際にシステム上でカラコレや、ピンボケ気味の目の部分だけにシャープネスを施したり、という微調整がインタラクティブに行われるのを目の当たりにした事で、ジョンはデジタル・プロセスの便利さや知識をこの作品を通じてかなり学んだようだ。

   では、時間なのでさようなら。今日はどうもありがとう。

 
…と、このようなプレゼンテーションであった。   
  
常に冗談を交え、両手を動かしながら話すJEFFREY A. OKUNのレクチャーは、どこまでが本当でどこまでが冗談なのかわからないようなノリで、場内からは笑が絶えなかった。時には過激なトークも飛び出していたが、観客はかなり楽しんでいたようだった。

ところで、この作品のエフェクトの特徴は、大手エフェクト・ハウスが全く絡んでおらず、中堅どころが丁寧な仕事をしているのが特徴と言えば特徴である。

JEFF OKUN氏の正直なコメントによれば「潤沢なエフェクト予算という訳でもなかった」という事で、それも多少影響しているのかもしれないが、中堅エフェクト・ハウスが健闘していた事は、筆者には好感が持てた。

彼らの「ラスト・サムライ」での仕事は、全米視覚効果協会(VES)が主催したVES2004賞でも、映画部門の最優秀 助演 エフェクツ賞に輝いている。


ちなみに蛇足であるが、JEFF OKUN氏はその昔はサウンド・エディターで、その後、あの「ラスト・スターファイター(The Last Starfighter -1984)」のエフェクト・コーディネーターとして、この世界に入ったそうである。正に、デジタルの進歩と共に歩んできたデジタルエフェクツ・スーパーバイザと言えそうだ。

おわり。

 


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