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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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サンフランシスコの中堅エフェクト・ハウス、オーファネッジ(The Orphanage)が2月4日(水)を持って閉鎖された。

まず最初に、同社設立者の1人であるスチュワート・マシュウィッツ氏(Stuart Maschwitz)が自身のブログで明らかにした。

また、同じ日の夕方6時、オーファネッジの全クルーを集めたミーティングが行われ、マシュウィッツ氏から「本日をもって、会社の運営を凍結する」という発表が行われたという。

発表された「運営の凍結(suspending operations)」とは、事実上の閉鎖を意味する。

筆者の友人の同社クルーによれば、ここ1年ほど、同社は2D仕事が多く、3Dエフェクトを有する大規模なプロジェクトが思うように受注出来なかったという。

大規模プロジェクトという意味では、同社は昨年、映画「アイアンマン」の一部を受注する事には成功していたものの、最終的に多くの3DショットがILMへと流れてしまった。

その上に、不況が拍車を掛けた。金融機関から受けられる融資額も不況前と同じと言う訳には当然いかない。キャッシュフローが底をつき、1月には社員に対する数週間分の給与が停滞し始めた。

このように、オーファネッジの閉鎖の原因は100%不景気の為という訳ではないが、サブ・プライム問題に端を発した一連の不況の影響により、苦境を乗りきれなかった事は確かだろう。

その意味では、米西海岸の有名VFXハウスでは不況の影響による閉鎖の第一号と言えるかもしれない。

さてここで、少しオーファネッジの歴史を振り返ってみたい。

"オーファネッジ(Orphanage)"とは、「孤児」の意。ILMから独立した3名(スチュワート・マシュウィッツ、ジョナサン・ロスバード、スコット・ステュワート)が1999年に起業したVFXスタジオだった。

全盛期、2005年頃の集合写真:
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プロダクション・マネージャーらは自分の部下のクルー達を「Orphan(みなしご)」と呼び、この独特の社名を自ら楽しむ明るい社風もあった。

オーファネッジは、サンフランシスコの金門橋のたもとにある、非常に美しいプレシディオ国立公園の敷地内の旧陸軍の建物を賃貸し、スタジオを構えていた。

オーファネッジが使用していた、プレシディオ国立公園内の建物:
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お洒落なレセプション。2006年秋:
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同じプレシティオにあるILMは、歩いて7分程度の「お隣り」。その便利さからフリーランサーの中にはILMとオーファネッジを行き来しているアーティストも多かった。

従業員数は100-160人で、ハリウッドのVFX業界の中では中規模のスタジオだった。

中規模ながらも過去10年の間、オーファネッジがVFX業界である程度の地位を築き上げてきたのは、やはりILM出身者で固めた経営陣&クリエイティブ・チームによる、完成度の高いVFXだった。

これまでにVFXを手がけた作品は「シンシティ」「スパイキッズ」「ザ・ディ・アフター・トゥモロー」「スーパーマン・リターンズ」「パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド」「グエムル~漢江の怪物」(韓国)「アイロンマン」などのメジャー作品郡が並び、2005年にはVESアワードの受賞歴もある。

地元サンフランシスコには、VFX業界に多くの人材を輩出している事で有名な美大アカデミー・オブ・アートがあり、ここに留学&卒業した韓国人アーティストや中国語を話すコーディネーターがオーファネッジには在籍していた。

アジア諸国の映画会社や監督からは「自分達の母国語が通じるハリウッドのVFXスタジオ」と重宝がられ、その関係や人脈等から「グエムル」「レッドクリフ」などのVFXがオーファネッジに発注された。

同社は3D Studio Maxのパワーユーザーとしても知られ、ハリウッド映画のVFXを『Maxを駆使して制作、After Effectsで合成する』という、ある意味日本的な、そしてハリウッドでは非常に珍しい制作スタイルを取っていた。

MAXを使用しているという事もあり、レンダラーにはブラジルを使用、その開発者もオーファネッジに所属していた。ただ、ここ1~2年は、Max&After Effectsから、Maya&Nukeによる制作スタイルへのシフトを模索していた。

同時にHoudiniのパワーユーザーとしても有名で、Houdini独特の手法を生かした高度なエフェクトを手がけ、
その映像はシーグラフ等でのHoudiniデモリールでも紹介され、オーファネッジの知名度を上げるのに貢献した。

同社の最後のVFXプロジェクトは、オーファネッジが初めてプロデュースしたハリウッド映画で、映画「Legion」(2010年公開予定)だった。監督は同社設立メンバーの1人、スコット・ステュワート(前述)。

また、オーファネッジの姉妹会社で、ハリウッドのサンセット通りにオフィスを持つ、オーファネッジ・アニメーション・スタジオは、現在ジム・ヘンソン・スタジオと「ダーク・クリスタル」(1982)の新作である「ザ・パワー・オブ・ダーク・クリスタル」(2011年公開予定)の制作を進めており、こちらはこのまま継続される見通し。

マシュウィッツ氏のブログに、閉鎖を決意した書き込みが成されて間もなく、これを目にした人々によって、このニュースは連鎖的にハリウッドに広った。氏のブログには閉鎖を惜しむ書き込みが100件以上に上り、反響の大きさを物語っていた。

マシュウィッツ氏は同ブログ上で、VFX業界に対して次のようなメッセージを発した。

 「業界の諸兄へ: オーファネッジ出身者に勝りうる優秀な逸材に出会う事は無いだろう」

この言葉は、多くの関係者を深く感動させた。

オーファネッジの閉鎖を惜しむ声は多い。


関連記事:

Wipipediaのオーファネッジのページ:
  
   http://en.wikipedia.org/wiki/The_Orphanage_(company)
 
  



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