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画像提供:VES (C)1984 Universal Pictures
この映画タイトルと画像を見て、「おっ♪」と思うアナタは、かなり通の方であろう。そう、この映画「ラスト・スターファイター」(THE LAST STARFIGHTER)こそ、米CG史に名を刻む秀作であり、世界で初めて3DCGが実写映画のVFXに使用された(※)、パイオニア的な作品なのである。
※世界で初めてCGが実写映画のVFXに使用された作品
同じくCGを本格採用したパイオニア的作品にはディズニーの「トロン」(1982)があるが、こちらは実写作品ではなくアニメーション作品というカテゴリづけである。ちなみに、アニメでの邦画初の使用例としては、トーヨーリンクス(現:リンクスデジワークス)による3DCGが採用され、話題を呼んだ映画「ゴルゴ13」(1983)がある。
映画「ラスト・スターファイター」が公開されたのは1984年。マラソンの瀬古選手が活躍した、ロサンゼルス五輪が開催された年でもある。
この当時、日本には大手CGプロダクションが「JCGL」と「トーヨーリンクス」(現リンクスデジワークス)の2つ位しか存在しなかった時代だった。
しかしアメリカでは、他の追従を許さない最先端CGを制作する「Digital Productions」が最先端を走っており、この映画のCGも同社が制作したものだ。
あれから早くも25年が経過、ここハリウッドでは、その25周年を記念すべく、スタッフ&クルーをゲストに招いた特別上映会が米VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ)の主催により開催された。
今回はその特別レポートをお届けする事にしよう。
☆イベント 「THE LAST STARFIGHTER - On the BIG screen again!」
特別上映会が開催された、サンタモニカにあるアート系シアター、Aero Theater
会場はサンタモニカにあるアート系シアター、The Aero Theater。ここでは、SF映画の名作がリバイバル上映されたり、
2005年にはVES主催VFXフェスティバルが開催された場所でもあり、VESメンバーにとっては比較的お馴染の映画館である。
本編上映の後にはパネル・ディスカッションが開催され、往年のファンを喜ばせた。
顔ぶれも豪華で、ニック・キャッスル監督、 映画音楽のグレイグ・サファン、主人公アレックスのガールフレンド、マギーを演じた女優のキャサリン・メアリー・スチュアート(撮影当時25才)、そしてVESのチェアであり、若かりし頃にこの作品VFXコーディネーターを務めたジェフ・オークン(※)らが、パネリストとして出席。
ジェフ・オークン氏(※)
VESの現チェアマンを務める。また、VFXスーパーバイザとして活躍し、最近の作品には、映画「ラスト・サムライ」、「地球が静止する日」などがある。
また、会場にはDigital Productionsにて製作に参加した元CGクルーが10数人、観客として訪れており、会場のあちこちでは、さながら同好会ムードが漂っていた。
試写会終了後、記念写真に収まる主要スタッフ(前列)、そして元Digital ProductionsのOB達(後列)。左はマギーを演じた女優のキャサリン・メアリー・スチュアート
撮影:Gene Kozicki / VES
ここでは、そのパネル・ディスカッションの模様を要約して、ご紹介する事にしよう。
パネル・ディスカッション 抜粋:
この映画は「画期的なSFX(※)映画」でありながら、実はそれとは程遠い低予算映画だった。
※SFX
80年代~90年代は、特撮全般をスペシャル・エフェクツ(SFX)と総称していた。90年代前半よりデジタル革命が起こり、それ以降はコンピューターを使用した視覚効果をビジュアル・エフェクツ(VFX),特殊撮影(ミニチュア、火薬、水など、実際にカメラで撮影するもの)をSFXと使い分けるようになった。
総製作予算は約2000万ドル(現在の為替レートで20億円、当時のレート[$1=202円)だと40億円)、うち、VFXに割り当てられたのは、たったの1300万ドル相当(今のレートで13億円、当時のレートで26億円)。
これは当時、ハリウッドでの平均的なVFX予算の半分以下という有様だった。
CG製作は、当時世界の最先端を走っていたDigital Productions(以降DP)が担当した。
※Digital Productions
1982年にジョン・ウィットニーJrらを中心に設立されたCGプロダクション。スーパーコンピューター Cray X-MPを駆使して当時最先端の映像を生み出していた。代表作にミック・ジャガーの「ハード・ウーマン」のミュージック・ビデオ、映画「ラスト・スターファイター」(THE LAST STARFIGHTER)などがある。
1986年、世界最大のCGプロダクションだった Omnibus Computer Graphics(カナダ)に買収され傘下に入るが、その約1年後にOmnibusの破綻と共にその門を閉じた。ちなみに、Omnibusの日本支部だったOmnibus Japanは、今でも社名とロゴをそのまま継承しており、当時を知る北米のパイオニア達からは「お~!、オムニバスが、なんとまだ残っている!」「昔と同じデザインのロゴだ~!」と大変懐かしがられる存在となっている。
ジェフ・オークン氏によるとDPは当時、ラ・シエネガ通りに現在も工場を持つ老舗の製菓メーカー「シーズキャンディーズ」の近隣にスタジオを構えていたのだという。(当時のDPの住所は3416 South La Cienega)
1983年当時、CG業界で知らぬ人はいない、かの有名なジョン・ウィットニーJrを交えて、DPにてプリ・プロダクションが開始された。DPにはMIT出身の精鋭が集まり「すごくスマート(頭の回転が速い)な連中が集まっていた」(オークン氏)という。
彼らはディズニーの映画「トロン」(1982)を観て、ベクトル・プロセッサマシンと、フレームバッファの組み合わせによる当時の最先端CGシステムや技術を持ってすれば、もっと高いディテールが出せる、と考えたそうだ。
しかし、そうは言っても全てがチャレンジ。しかも誰もやった事がない、世界で初めての「3DCGによる宇宙船バトル」を映画に登場させるという試み。
モデリング・ツールなどない時代で、あるのは巨大なタブレットだけだった。
建築のバックグランドを持つアーティストが、ドローイングからドラフターで製図を行い、それをタブレットで1点1点、ポイントをクリックし、XYZ座標を入力する事で「モデリング」していった。
当時DPが駆使していたのは、かの有名なスーパーコンピューターCray X-MP。価格は1500万ドル、当時の為替レートで30億円に相当する代物だった。
「当時世界最速」だったスパコンCrayだが、処理速度は100MHz弱で、メモリーは16MB(!)。
今、このスペックを観ると流石に隔世の感があるが、当時限られた家庭にしかなかったパソコンのメモリーがたったの8KBだった事を考えると、そのスゴさがおわかりいただけるだろう。なにしろ10Mのハードディスクが10万円以上した時代である。
担当プロデューサー氏はSFX映画の製作経験すらなかったそうで「自分のキャリアの中で、最も恐ろしい作品だった。どうやって予算内に納めるか、いつもヒヤヒヤしていた」そうだ。
ある日、オークン氏がレンダリング時間を元にスケジュールを試算してみたところ、とんでもない数字が出て、ソニー映画のオフィスにいるプロデューサーを訪れ「これ、終わりませんね。」と報告しに行ったら、プロデューサーが文字通り氷ついていた、という笑い話も披露された。
このように、どこを取ってもすさまじかった映画「ラスト・スターファイター」の制作だが、「映画が完成するまで、映像の仕上がり具合は誰にも予想がつかなかった」という。しかし、その分プリ・プロや準備は綿密に行われた。ストーリーボードには可能な限り詳細に渡る設定や情報が記述され、作業が進めやすいようにする工夫が凝らされたいたのだという。
こうしてスパコンCrayを駆使し、全編を通して27分のCGショットがレンダリングされた。1フレームあたりのポリゴン数は25万ポリゴン。これも、当時としては天文学的な数字だった。
技術的にはテクスチャーマップが可能になった頃で、特に主力戦闘機ガンスター[写真]には、意外な事にプロシージャル・テクスチャー(関数で生成したテクスチャー)が多用されていたのだそうだ。
「あれからCGの技術は発達し、とうとう『ベンジャミン・バトン』のような映画も作る事が出来る時代になった。実は、あの当時から、ジョン・ウィットニーJrは「いつか、俳優がいらなくなる時代がくる。すべてコンピューターで作れる時代が来る」と語っていた。それが現実となる時代がとうとうやって来たのは感慨深いものがある」とキャッスル監督は語っていた。
さて映画「ラスト・スターファイター」は公開25周年を記念して、なんとキャッスル監督主導でパート2の企画が動いているという。
監督によると「脚本は完成している状態」という事で、公開は来年以降になるとの事。今からとても楽しみである。
1作目を観た事がない方は、是非DVDでチェックしてみる事をオススメしたい。モーション・ブラーこそかかっていないが、当時の技術を考えるとCGによるシーンは感動的に、そして新鮮に映るのではないだろうか。
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