映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。
<絶賛発売中>ハリウッドCG業界就職の手引き 海外をめざす方の必読本!
著者注:2009年当時の記事です。
46才の"新人"モデリング・アーティスト 成田昌隆氏
☆はじめに
アメリカは「自由とチャンスの国」。才能さえあれば、年齢・性別・国籍・宗教を問わず、誰にでもチャンスを与える土壌がある。今年、ハリウッドのVFX業界で46歳の日本人が”新人”モデラーとしてプロデビュー、著名VFXスタジオと契約し、早くもその実力を発揮している。この男性は、過去20年間、証券会社のエリート・サラリーマンだった人物。しかし、趣味のプラモデルは、全米コンテストで優勝する程の腕前の持ち主でもあった。ハリウッド、そしてロンドンからもお声が掛かるこの46歳の”新人”男性の素顔に迫ってみたい。
☆プロフィール
成田昌隆 (なりた まさたか)
1963年生、名古屋市出身。1985年に名古屋大学工学部電気電子学科を卒業後、NECへ入社。衛星通信アンテナ事業部にて電子回路とファームウェア開発に3年間従事後、日興證券(現日興コーディアル証券)へ転職。同社ではIT部門における技術リサーチを担当。1993年シリコンバレー先端技術研究所開設に伴い米国赴任。2000年グリーンカードを取得。2004年所長としてニューヨーク駐在員事務所へ転勤、投資案件発掘等証券業務を担当。2008年7月に日興を退職し、米VFX業界への転身を決意。約1年間の修業期間を経て、今年5月に46歳にしてハリウッドのVFX業界にプロデビューを飾る。現在はデジタル・ドメイン、メソッド・スタジオ等の著名スタジオと契約するフリーランス・モデリング・アーティスト。
http://www.masacgi.com/
この夏、全米で映画「トランスフォーマー/リベンジ」の公開に併せたキャンペーンとして放映された、「バーガーキング/キングボット」のテレビコマーシャル。バーガーキングのCMは全米のお茶の間ではお馴染みで、王様のキャラクターが毎回シュールなネタをかます事で人気なのだが、今回は王様が「トランスフォーマー」のロボットになって登場!というコミカルな展開。この、ロボットのモデリングをデジタル・ドメインにて担当したのが成田昌隆氏だ。
ちなみに成田氏は、映像業界の経験は皆無だ。昨年までの過去20年間、日興コーディアル証券(以降、日興と略して表記)に在籍、しかも米国駐在員としてシリコンバレー、ニューヨーク等での勤務を経験して来たエリート・サラリーマンだった。
しかし、成田氏には”もう1つの顔”があった。趣味のプラモデルとジオラマ制作では、タミヤ主催の全米模型コンテストTamiyaCon2004で見事優勝したという経歴を持つ。この作品は現在もタミヤ本社の歴史博物館に展示されており、ここから田宮俊作社長や日本の模型界の著名人、そして模型雑誌社との親交が始まったという。
成田氏のCGとの出会いは1997年に遡る。サンタクララで開催されたGDCで、Lightwave3Dのデモを見かけたのが転機だったそう。その場でLightwave3D5.0(以降LWと表記)を1079ドルで購入、自宅に8台のPCによるレンダーファームを構築。3年間、毎晩毎週末CGに明け暮れ、独学で3本のショートアニメーションを作る。それがSIGGRAPH’99でPDI(現在のPDI/DreamWorks)とStationX Studio(2000年に閉鎖)の目に止まり、面接を受けるに至る。しかし、グリーンカードの交付を待っている間に父親の他界、長女の誕生、所長への昇進などの大きな出来事が重なり、一度は夢を断念した経緯があった。
転機となったのは、日興が米Citiに買収され、海外事業を大幅縮小する事になった昨年だ。今こそ夢を追う最後のチャンスと考えた成田氏。自ら仕事を辞めることで退路を立ち、目標に向け100%努力できる環境を作り自分を追い込んだ。
昨年9月にGnomon School of Visual Effectで3ヶ月のMaya特訓コースなどを受講。「Gnomonを選んだのは正解でした。講師陣は業界の第一線で活躍しているアーティストで、実践的な訓練を受けると同時に、業界へのコネクション作りに大いに役立ちました。私のモデリングテクニックの多くはSony Imageworksでリードモデラーをしていたケビン・ハドソン氏から教わりました。」と成田氏。
デモリールやポートフォリオの造形力が評価され、“新人”にも関わらずデジタル・ドメインからコマーシャル作品のモデラー・ポジションのオファーを獲得。これには、NewTek Expo ’97で知り会い、親交が始まったリチャード・モートン氏が、デジタル・ドメインCM部門のスーパーバイザーになっていた事も大きな後押しとなった。また、地理的な関係から実現しなかったが、ロンドンのVFXスタジオから「ハリーポッターの最終章に参加しないか」というオファーも舞い込んできた。ハリウッドのリクルーター達は、成田氏の高度な造形力は、経験の少なさを充分にカバーすると評価したのだ。
こうして見事転身を果たした成田氏だが、デモリールを各社に送り、ひたすら返事を待った1ヶ月半は長く辛く、一日千週の思いだったという。「自分は本当に正しかったのか、家族に迷惑を掛けたのではないかという思い。家のローンの支払いで目減りしていく蓄え、23年間のサラリーマン生活では毎月自動的に出た給料も無く、とても不安で辛かったです」
現在はサンタモニカにある著名VFXスタジオであるメソッド・スタジオと契約、映画「エルム街の悪夢」最新作に参加中という成田氏は「ディズニーランドで流されている”Remember, Dreams Come True”という言葉を真っ向から信じて生きてきました。決してあきらめず努力すれば夢が実現する、米国はそんな国です。日本で46歳の異業種への転職は難しいと思います。」と語る。
確かに、日本の求人広告には「CGデザイナー 30才まで」「CGクリエイター 30歳位まで」のように、時代遅れ感がある和製英語と共に年齢制限が目につく。ちなみに米国では求人広告に年齢制限を記す事は違法だ。日本の業界は、無意識のうちに、人々が持つ才能や可能性、そして夢を、年齢で「切り捨てて」しまっているのかもしれない。
関連記事:
第8回VESアワードより フォトレポート(03/14/2010)
※成田氏がモデリングを担当したコマーシャルは YouTubeでも公開されているので、チェックしてみるべし
『Burger King: Money Mayhem』米国向けコマーシャル
http://www.youtube.com/watch?v=Ya2z3cOn5-U
『AUDI Intelligently Combined』欧州向けコマーシャル
http://www.youtube.com/watch?v=aVQKrxSOx7Q
※TamiyaCon
1995年から毎年4月にタミヤアメリカの本社にて開催されてきた全米プラモデル・コンテスト。2007年以降は不況で一時中止されている。
※Gnomon School of Visual Effect
ハリウッドにある、CG教育機関。学費は高いが充実したカリキュラムと充実した講師陣には定評がある。ここを経てプロになった学生も多い。また週末等を利用して自分の興味があるクラスを単発で取るプロもいる。学校法人ではないので学位は取得出来ないが、実績のある教育機関である。
http://www.gnomonschool.com/
※リチャード・モートン氏
デジタル・ドメインCM部門CGスーパーバイザー。本誌にも幾度となく登場しているお馴染みの存在だ。かって九州の高校で英語を教えていた経歴を持つ親日派である。
※和製英語
CGデザイナー、CGクリエイターという言葉は和製英語であり、英語圏の映像業界では使用されていない。海外に作品を出す時など、英語クレジットが必要な場合は混乱を招くので注意が必要である。
DVD(2枚組)には、映画「アイアンマン3」でアイアンマン・スーツのモデリングを手掛けた
成田昌隆氏の、2010年当時の講演の模様が含まれています。
詳細は画像をクリック!
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