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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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映画「2012」より、村上氏が担当したショットの1つ:
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取材協力: Stephan Trojansky /  Scanline VFX
 
2009年11月に公開され、その驚異的なVFXによって世界中で大ヒットした映画「2012」。総制作費は2億ドル(約170億円相当)と言われているが、全米公開の収益はクリスマスの段階で$159million(約143億円相当)で、これに世界配給を加えれば元が取れる事になる。
 
さて、この映画の後半、大規模な津波が各地を襲うという大迫力のシーンが登場するが、この津波や一連の流体シミュレーションを駆使したVFXは、ドイツとロサンゼルスにスタジオを構えるScanlineVFXによって制作された。
 
このScanlineVFXは、自社開発の流体シミュレーション・ツール「フローライン(Flowline)」の開発実績が認められ、2008年の第80回アカデミー賞技術功労賞を受賞した事でも知られている。
 
(ちなみに同年、姉妹カテゴリーであるアカデミー賞科学技術賞を、坂口亮氏を含むデジタル・ドメインの3名が受賞した事は記憶に新しいニュースである)
 
ScanelinVFXは現在、ハリウッドのVFXスタジオの中で「流体シミュレーションを手掛けて右に出るものは居ない」とまで言われる程の実力を備えた新進VFXスタジオである。
 
今回は、ScanlineVFXにてエフェクト・テクニカル・ディレクターとして活躍中の村上勝和氏に、留学してから同スタジオへ参加するまでの経緯、ベールに包まれた(?)ScanlineVFXの歴史や舞台裏、そして映画「2012」での制作秘話を、独占取材の形でお届けしよう。

murakami_001.JPG村上勝和 (むらかみ まさかず)
エフェクト・テクニカル・ディレクター / ScanlineVFX
 
77年生まれ、大阪府出身。大阪府清水谷高校卒。カリフォルニア州のサンタモニカカレッジ、プラットカレッジに留学し、コンピューター・アニメーションを学ぶ。卒業後、流体シミュレーションを駆使したVFXで有名なScanlineVFXに入社、映画「ナルニア物語2」、「U-900(ドイツ映画)」等に参加。2009年、ドイツ本社にて映画「2012」の津波シーンを制作。現在はロサンゼルス支社にて、2010年公開予定映画「ガリバー旅行記」のVFX制作に携わっている。

○大学を9ケ月で卒業
 
大阪の高校を卒業後数年間の社会人経験を経て、ロサンゼルスに留学したという村上氏。当初はサンタモニカの短大を卒業しVFX業界を目指したが、実務経験無しでVFX関連の職種に就く為にはアメリカの4年制大学卒の学位が必要と悟り、大学への進学を決意する。そして50以上の大学を隈なくリサーチした結果、自分の希望条件に近い大学を発見。それがサンディエゴにあるプラット・カレッジだった。
 
特筆すべきは、村上氏はこの大学をたったの9ケ月という驚異的な短期間で、しかもGPA4.0という好成績で終了し、卒業した事だろう。

これは決して容易な事ではなく、入学前の丹念なリサーチ力、そして在学中の勤勉と努力の賜物と言っても過言ではないだろう。

1年未満で卒業出来た理由として、短大からの単位移動や、教授に過去の作品を評価してもらい単位として認めてもらうなど、大学側への積極的なアピールの姿勢が効を奏したという。「このような大胆な事が出来たのもアメリカの教育システムならでは」と村上氏は語る。
 
プラット・カレッジでの授業は、基本的なPhotoshopやドローイングクラスから始まり、3DアニメーションのコースではMaya、AfterEffects、MotionBuilder、Zbrushなどを学んだ。講師陣も強力で、元DreamWorkのアーティストや、現役フリーランサーなどが顔を揃えていたという。
 
就職活動では、自分のホームページにレジメとデモリールを掲載し、そのリンクを電子メールに明記して応募した。ハリウッドでの仕事探しは、最初のコネクションが出来るまでが一番大変だ。「少しでもチャンスがありそうな募集内容の会社にはすべて送りました」応募した数は50社に及んだ。そのうち、3社程から返事が来たが、そのうちの1社がScanlineVFXだったそうだ。
 
この頃、ドイツに本社を置くScanlineVFXは、ハリウッドではまだ無名に近い存在であった。インタビュー(面接)はSkypeを用いて行われ、ドイツにいる社長、LAのプロデューサー、そしてサンディエゴの村上氏という3人が、遠隔で3者面談を行うというユニークなスタイルだったとか。
 
同社は、当時ちょうどLAスタジオのオープンを計画している最中にあり、その立ち上げメンバーの1人として村上氏に白羽の矢が立った。
 
「色々なEffectを中心に編集したデモリールから、将来の可能性的なものを感じた」との理由で、映画のCG経験が全くなかったにも関わらず、即採用されたのだという。 

○ScanelinVFXは、こんなVFXスタジオ
 
ScanlineVFXのドイツ本社はバイエルン映画スタジオ内にオフィスがあり、20年の歴史を誇る。
 
主にヨーロッパの映画、TV番組やコマーシャルのVFXを手掛けており、最近では「ヴィッキー(Wickie)」というドイツで最も有名なアニメの実写映画版を制作し、興行的にも成功を収めた。
  
ドイツ本社のシステムはXPとLinuxの併用で、使用ソフトはFlowLine、3ds Max、Shake、3D Equalizer、Massive等。

映画「2012」では全部で20人程度のチームで働いていた。 (他30-40はVickieだったので)
 
LAスタジオは2008年に新設されたばかり。少数精鋭で運営しており、現在のスタッフ数は20人ほど。忙しくなるとフリーランス・アーティストを充当して作業を行い、「2012」の最繁忙期は約50人体制(プロダクション10名、アーティスト40人)で90ショット近くを手掛けたという。
 
LAスタジオの使用ソフトはドイツ本社と基本的には同じだが、モデリングにはMaya、合成にはNUKEを使用している。
 
現在ScanlineVFXは、来年公開の「ガリバー旅行記(原題:Gulliver's Travels)」(2010年12月公開予定)の制作に余念がないそうだ。
 

○自社開発の流体シミュレーション・ツール「フローライン」
 
ScanlineVFXの強みは、何と言っても前述の「フローライン」だ。
 
社長のステファン・トロジャンスキー氏が自ら開発を行っている関係で、サポート体制も強力だ。「バグがすぐに直っていたり、欲しいなと思った機能が翌日にはインストールされていたりしますね」と村上氏。
 
映画「2012」の中でScanlineVFXが主に担当したのは、後半に登場する津波やチベットの洪水シーン、米戦艦JFKがホワイトハウスを押し潰すシーン、豪華客船の転覆シーン等。
 
この作品では、村上氏はドイツ本社に赴き、複数ショットのプリビズや、方舟の半開き状態の搭乗ゲートにぶつかる巨大な波の形、アメリカ用の方舟が動き出して隣の方舟に衝突する寸前の波の形状、等などを担当。
 
中でも村上氏がメインで担当したショット(写真)は、津波が襲ってきた直後の俯瞰シーン。作業は、モデラーから方舟と山脈の形状データを受け取り、フローラインを使用して海全般(海面、波のうねり、波頭、津波等)を担当するという流れで行われた。
 
フローラインは独立したツールで、ノード・ベースのGUIでコントロールするという。まず3ds Maxを用いて基本的なオブジェクトのコントロールやアニメーションを行ない、その後フローラインのインターフェイス上で流体シミュレーションの設定を行う。
 
流体計算は非常に高価で、多くのメモリやCPUを必要とし、大量のデータを出力する。作業の流れとして、まずローカル・マシーンでテストを行ない、メインのシミュレーション計算はサーバールームにある数百台のレンダー・ファーム(Core数は約4800)で並列処理する。
 
フローラインで海面や水面を生成する方法には、①流体シミュレーションを行うもの ②流体シミュレーション無しで作れるもの(平らな海面など)③その両方のコンビネーションによるもの という基本的な3タイプに大別されるという。
 
殆どのショットは③の方法で制作されだが、簡単なシーンでは②が採用された。その利点としては計算が速い事、手直しや調整が容易という事があるそうだ。
 
流体シミュレーションが絡むVFXで難しいのは、クライアントからのクリエィティブ・ディレクションに如何に応えるか、がある。映画のVFX使う以上、クライアントが波の形状やタイミングを細かく指定してくる事が多い。 流体シミュレーションは計算結果をレンダリングして見るまで結果がわからない事が多く、時間を要するのがチャレンジだという。シミュレーション計算に丸1日かかったり、朝オフィスに来てみるとシミュレーションがクラッシュしていた等、苦労も耐えなかったそうだ。
 

○将来の目標はVFXスーパーバイザー
 
村上氏に、将来の目標を伺ってみたところ、次のような言葉が返ってきた。「目標はVFXスーパーバイザーとしてオスカーを獲得することです。また、Director(映画監督)にもチャンスがあれば挑戦したいです。その理由として、日本には映画の題材にできる数多くの歴史や文化があり、特にコミックスを原作した独創的な映画が作れるという確信があるからです。そのような大きな夢を達成するためにも、今、目の前にある仕事に全力で向かい、周りの人に認められてこそチャンスが巡ってくるものだと考えています。」
 
わずか20人程度の少数精鋭を貫くScanlineVFXのLAスタジオで、唯一の日本人スタッフである村上氏。プロジェクト契約のフリーランサーが出入りする中、村上氏は主要クルーとしてその基盤を着実に固めつつある。村上氏の今後の活躍に期待したい。
 

関連記事: 

ScanlineFX 村上勝和氏に聞く (8/25/2008)

映画「2012」公開迫る(10/21/2009)


 

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