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ここハリウッド地方では、映画ギルド主宰によるセミナーや講演会、試写会が頻繁に実施されている。
映画ギルドには、WGA,DGA,SAG,SMTPE、そして我らがVESなどがあり、このようにそれぞれ業種別のギルドがある。
2月3日夜、20世紀FOXの映画スタジオ敷地内の試写室において、音響関係のギルドが主催する映画「アバター」試写会、そして音響担当クルーとジャームズ・キャメロン監督によるQ&Aが行われた。
この日の試写は基本、映画の音響関係者向けだったが、何らかの映画ギルドメンバーであれば、誰でも無料で参加する事が出来た。
丁度プロジェクトの合間で時間があり、VESメンバーの立場を利用して、筆者も参加してみる事にした。
試写会なので、定員が限られている。希望者は、ネット予約、ではなく、指定の電話番号に電話して、そこの留守電に名前と所属ギルド、そして希望人数を残す。
なんともオールド・スクールな方法だが、とりあえず電話口で『締め切りになりました』というメッセージが流れない限りは、申し込みが可能だ。
さて、この日の試写は7時から。とりあえず30分前に会場へ行く事にした。
かの有名な「20世紀FOX」の映画スタジオはセンチュリーシティの南にあり、Pico Blvdに正面ゲートがある。
「メジャー映画スタジオに車で乗り付けるなんて、俺もエラくなったな」(あ・ほ・か)等と妄想に浸りながら、セキュリティー・ゲートでギルドの会員カードを見せると、駐車場と試写室の案内図をくれる。
ルーク・スカイウォーカー君とダースベーダー様が剣を交える図が壁に大きく描かれた建物を横目に、駐車場へ車を停めて、試写室までテクテク。
映画を撮影しているサウンド・ステージの間を通り抜け、そこには大型のトレーラー等が停めてあり、ハリウッドのスタジオらしい光景を垣間見る事が出来る。
めざす試写室はThe Zanuck Theater。ここには何度か来た事があるが、古~い、飾りっ気のない、言ってみれば「典型的なアメリカの高校にある講堂」のような雰囲気。
中に入ると、名前がリストに載っているかチェックされ、チェックが終わるとRealD方式のメガネをもらう。そして、先着順で席についていく。
夜7時となり、試写が始まった。試写室は古いが、天下のFOXとあって、スクリーンや映写設備は最新。すばらしい環境での鑑賞はまたひとしお。感動も大きかった。
2時間40分の映画が終わると、司会者が登場。いよいよ関係者によるQ&Aのコーナーである。
この日のパネラーは、クリスチャン・ボイス(スーパーバイジング・サウンド・エディター)、ゲリー・サマー(サウンド・ミキサー)、アンディ・ネルソン(サウンド・ミキサー)ジョン・ランドー(プロデューサー)、そしてジェームズ・キャメロン監督という顔ぶれだった。
まず最初に、7分間のプレゼンテーション・リールの上映。これは、日本のアバター公式サイトで見れるものと同じものである。
http://blog.foxjapan.com/movies/avatar/news/2010/01/cg.php
(著者注:字幕には入っているが、英語音声の中では「CG」という言葉が一度も出てこない事に注目して頂きたい。)
関連記事: 日本の「CGデザイナー」という呼び名は時代遅れ?(08/29)
このリールを観てから、Q&Aとパネル・ディスカッションが行われた。
まず、音響担当のボイス、サマー、ネルソンの各氏が紹介され、壇上へ。そしてプロデューサーのジョン・ランドー氏、最後にキャメロン監督が大歓声の中、登場した。
キャメロン監督は一時期よりも、わずかにフクヨカになられており、以前は痩せた印象があったが、この日は頬がふっくらと、お腹も少~しふっくらとされていた。
監督は黒いブルゾンにジーンズという、カジュアルな服装。終始優しそうに微笑みを浮かべ、映画の完成にも満足そうであった。
この日のQ&Aは、司会者が質問し、パネラーがそれに答える形で、パネル・ディスカッションが行われた。
当日の趣旨から内容は音響寄り。上映時間が長く、時刻が遅かった事もあり短めのパネルではあったが、VFXネタも含まれており、興味深い内容であった。
では、このQ&Aの模様を、音響の専門的な部分を除き、「さっくり♪」とご紹介しよう。
余談だが、冒頭で司会者が話そうと思ったらマイクが入らず「音響関係者の試写会なのに、マイクが使えず。これいかに」と漏らすと、場内は爆笑に包まれていた。
~まず最初に、作業はいつ頃から始まったのか。
キャメロン監督が「アバター」の作業に取り掛かったのは2006年の中旬で、我々音響チームは同年12月頃からのスタートだった。
翌2007年2月には、仮映像ショットが全て繋がった、ファイナル・カットの「テンプレート」が出来上がった。
これをベースに、そこから14カ月をかけて、WETAでVFX制作が行われた。
~テンプレートは、音づくりにも役立ったか。
このテンプレート版は、すべてのショットの尺、動きのタイミング等が完全に決まった状態になっており、これは完成したファイナル映像と比較しても1フレームたりとも違わない。
最も、アニメーションでの表情とかそういう部分では調整が追加されているが、違いと言えばその程度だろう。
これをベースに、音づくりは進められていった。
タイミングが固まっている事は極めて重要だ。なぜなら、タイミングが変われば音響はすべてやり直しになってしまう。
そういう部分で、このテンプレートは非情に有益だった。
~作業上、印象に残っているショットは。
リール7に出てくる「大木が倒れる」シーン、この音づくりが最も難しい仕事だった。
沢山の爆発に加え、大木が持つ重量感を音の中で表現するのは簡単ではない。文字通り、100にも及ぶトラック(VFXで言うところのレイヤーだろう)を重ねて音づくりをした。
~3Dの立体映像が、音づくりにどう影響したか?
……(音響陣、しばし考え)あんまり、作業自体は変わらなかったような気がする。
実際、ミキシング作業をする時に見たのは2Dの映像だったし。
しかし、完成した立体映像と合わせて観たら、我々の作った音がより引き立って、相乗効果になっていたのは印象的だった。
映画におけるサウンド・デザインでは、時として、映画音楽が邪魔になる事がある。音同士がぶつかってしまう。
しかし、「アバター」ではそれが全くなく、作業がスムースに進んだラッキーなケースだったと思う。音楽は薄すぎず、濃すぎず、仕事が非常にやり易かった。
これは「タイタニック」のサントラでもお馴染み、ジェームス・ホーナーの作曲によるところが大きい。
~パフォーマンス・キャプチャーはこの作品の最大の特徴だが。音づくりとの関係などについて。
現場で、クルーやアクター達が何度も口にしていた事がある。それは、「この作品は、アニメーション作品ではなく、パフォーマンス(演技)をキャプチャーした実写映画だ」という認識だった。
アクター達は普通の撮影と同じように、大きなステージを実際に動き周り、走り、転げ、演技し、それがコンピューターを「介して」映像化したに過ぎない。
ただ、そのテクノジーの部分が「革命的」な出来事だったと言えるだろう。
アクター達のヘルメットについているマイクのようなパーツは、カメラだ。ここから、どんな演技をしても、顔を真正面から捕らえる映像が撮れる。これは、よりリアルなフェイシャル・アニメーションを作る際に有益だった。
パフォーマンス・キャプチャーの現場では、キャメロン監督が「バーチャル・カメラ」で「撮影」し、その結果はロー・ポリゴンのデジタル・シーン~我々は「80年代のゲーム画面」等と冗談で呼んでいたが~これをモニター上で確認出来るなど、多くの最新テクノロジーがこの作品に集結されている。
パフォーマンス・キャプチャーのステージには、PA、キーボード等の音響システムも装備されていた。これは、ヘリコプターの爆発、倒れる大木など、演技に対して、音が「キュー」として重要な役割を果たしていたからだ。
時として、クワイヤー(聖歌隊)をステージに入れて、その歌声を聞きながら演技をした事もある。この時は、歌声が流れるとステージの雰囲気が一転、それによって演技も良い方向に変わったんじゃないかな。
アクター達は、ただ何もない中で演技をするだけではなく、そういう音を聞きながら演技する事で、表現の幅を増やす事が出来た。
~昨日、「アバター」は「タイタニック」の興行成績を越え、世界で最も興行的に成功した映画のNO.1になった。キャメロン監督、ご感想を。
純粋に嬉しいが、私が最も嬉しいと思う事は「観客がこの映画の為に、シアターへ足を運ぶ事を選択してくれた」という点だろう。
「DVDが出るまで待つ」「ダウンロードで観る」、いろんな人がいる(笑)。
しかし、映画館で鑑賞するという方法を、非常に多くの人が選んでくれた事によって、この結果に繋がった訳だ。これは大変喜ばしい事だと私は思う。
最後に、余談だが、この映画を観た人達の声を聞くと、以前はあまり耳にしなかった会話が聞かれるようになった。
「我輩はRealDで観た」
「私はIMAXよん」
「俺は、Dolby3Dだね」
「ワシゃあ、2Dじゃけん」
…なんだか、僕らが飲みに行った時によくする、今日はビール?ウィスキー?テキーラ?みたいな会話だ(笑)。それがなんだか、楽しいね。
時代の流れを表していると思う。
~それでは、もう夜11時を回ったので、終わる事にしよう。みなさん、帰りの運転気をつけて。おやすみ!
…という内容であった。
ハリウッドの映画業界にいて、よく思うのは、各ギルドはこのようなイベントを主催する事で、映画業界の発展の為に情報をシェアしようという姿勢が強く感じられるという事だ。
そこには、企業秘密やエゴは存在せず、「みんな仲間である」という雰囲気がある。そういうオープンな環境が、ハリウッドにはある。
日本にも近い将来、VFXのギルドが出来る事が望まれるが、とりあえず筆者はジャーナリストもやっているVFX業界の人間として、このようなハリウッドの「生の情報」を、今後も皆さんにお届けして行ければと思うのである。
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