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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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■ハリウッドの大手VFXスタジオ 独立系企業として活躍



 ハリウッドの大手VFXスタジオ、リズム&ヒューズ・スタジオ(本社:ロサンゼルス)が、2012年4月23日で創立25周年を迎えた。

 この間、映画のVFXは量的にも質的にも用途が拡大し、プロジェクトの規模が巨大化してきたが、それにともない受注産業であるVFXスタジオは、投資・ 経営リスクも拡大し、優れた技術力を持ちながら、倒産の憂き目に遭うスタジオも少なくなかった。特に90年代には、複数のVFXスタジオが、リスクを補う 方法として、映画スタジオの傘下に入る傾向も見られた。

 それに対して、R&Hが一貫して独立系の立場を守りながら、ハリウッドの厳しい競争の中で25年を生き抜き、拡大を続けてきたことは、さまざまな意味合いで賞賛に値すると言えるだろう。

 R&Hはまた、競争が激しく、フリーランス・アーティストの人材流動性が活発なハリウッドにおいて、勤続年数の長い正社員が比較的多い事でも知 られている。さらに、広くアジア、欧州などからも人材を積極的に獲得している点も大きな特徴といえるだろう。また、創立記念日に撮影された集合写真「ファ ミリー・フォト」からも感じてもらえると思うが、社内は、独特の家族的な雰囲気に包まれている。これらの特徴は、いずれもあまりハリウッドの他のプロダク ションでは見られないもので、社長のジョン・ヒューズ氏の考え方が反映されていると言われている。

 ロサンゼルス本社で撮影された「ファミリー・フォト」は、創立記念日の4月23日午後、ロサンゼルスのエルセグンド市にある本社中庭において、この日出勤していた全クルーと犬(詳細は後述)が一堂に会して撮影されたものだ。





■大手VFXスタジオで最も歴史あるプロダクション ルーツはロバート・エイブル・アソシエイツ

 

R&Hは、ロサンゼルスに現存する大手VFXスタジオの中では最も歴史が古い。設立は1987年で、VFXプロダクションとしては、最古の 部類に入る(Sony Pictures Imageworksが1992年、Digital Domainが1993年設立

)。
 R&Hのルーツは、さらに1970年代に遡る。1970~80年代に一世を風靡したVFXスタジオ、ロバート・エイブル・アソシエイツ(ロサン ゼルス)は、オムニバス・コンピュータ・グラフィックス(トロント/カナダ)に買収されるが、まもなくオムニバスが倒産してしまい、消滅した。



 その後、ロバート・エイブル時代からの社員だったキース・ゴールドファーブ、ポリーン・ツォ、ジョン・ヒューズ、チャールズ・ギブソン、クリフ・ブールら6人がR&Hを設立、ハリウッドのシカモア通りにスタジオを構えた。





 設立当時から、可能な限り自社開発ツールによるVFX制作を行う事をモットーにしていた。当初はテレビCMやテーマパーク映像の仕事が主だったが、非常 にハイエンドな映像をウリにしていた。

80年代のSIGGRAPHでは、FILM&VIDEO SHOW(現在のELECTRONIC THEATER)で、必ずR&Hのカンパニー・リールが上映されていた。特に、1993年のコカ・コーラの白熊シリーズは、当時まだ珍しかったリ アルな白熊のCGで注目を集めた。



 1995年にマリナ・デルレイに程近い、現在プラヤ・ビスタと呼ばれるエリアにスタジオを移転、ここで映画「ベイブ」等(1995)のVFXが制作された。



 「ベイブ」はアカデミー賞/視覚効果部門を受賞し、動物やアニメーションに強いVFXスタジオとして認知される事になる。

1999年には20世紀 FOX傘下のVFX&アニメーション・スタジオBLUE SKY|VIFXのうち、LAにあったVIFXを買収。これによりVIFXの強力なHOUDINI部隊を獲得し、それが現在のR&H エフェクト部門へと繋がる事になる。

 

"動物に強い"社風を生かし、「マウスハント」(1997)、「ガーフィールド」(2004)、「スクービー・ドゥー」(2002)、「アルビン/ 歌うシマリス3兄弟」(2007)「ヨギ & ブーブー わんぱく大作戦」(2010)、「イースターラビットのキャンディ工場」(2011) 等の、動物が主人公のVFX作品を数多く世に贈り出した。

その一方で、「ナッティ・プロフェッサー」(1996)、「X-MEN2」(2003)、 「特攻野郎Aチーム」(2010)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(2011)、R&Hのホームページでも進行中のプロジェクト として紹介されている「R.I.P.D.」(2013年公開予定)等、"エフェクト・ヘビー"なハリウッド映画も手掛けている。




■インド、マレーシアなど海外展開も積極的 自社ツールをベースに高度な表現力

 R&Hは、ハリウッドのVFXスタジオの中でも、いち早くグローバル化に着目した事でも知られる。2001年にインド最大の都のムンバイに、2007年にインド中南部ハイデラバードに初の海外拠点を構えた。

 続いて2009年にマレーシアのクアラルンプールに、2011年にカナダのバンクーバーに、2011年には台湾の高雄市(たかおし/カオシュン)に、そ れぞれ制作拠点を構えている。時差を利用する事で、24時間継続したプロダクション・サイクルが可能になっているという。

2007年には、「ライラの 冒険」(2007)では2度目のアカデミー賞を受賞した。

2010年5月14日、過去10年余りを過ごしたプラヤ・ビスタのエリアにあった社屋に別れ を告げ、ロサンゼルス国際空港のすぐ南側にあるエルセグンド市に自社ビルを購入、新社屋への全社的な移転を完了させた。



 

現在、複数の映画プロジェクトを受注し、忙しい日々を送っているR&Hだが、自社開発ツールをベースに制作を行う姿勢は、何ら変わっていな い。アニメーション・ツール、ライティング・ツール、パイプライン、そして画像フォーマットに至るまでがオリジナルという徹底ぶりだ。それを補充する形 で、サード・パーティの市販ツールが使用されている。

 前述のように、R&Hのクルーは世界各国から集まっており、国際色豊かな環境である。日本人クルーも多く、ロサンゼルス17名とバンクバー3名 と現在20人名の日本人クルーが、アート、テクノロジー、プロダクション、アドミニストレーションの各部署で活躍している。

ジョン・ヒューズ社長は 「社員に心地よい労働環境を」という方針を掲げ、アットホームな社風を守っている。PR部門のスコット・バード氏は「ハリウッドのVFX業界で、他社に先 駆けて残業手当を支給したのもR&Hなのです」と語る。

 故に「ヒューズ社長についていく」と同社を辞めずに長年勤務している社員や、一度退職しても再び戻ってくる社員も多いそうだ。





■SIGGRAPH 2012で、25周年記念特別セッションが開催

 

来るSIGGRAPH2012では、R&Hの25周年を記念した特別セッション「Rhythm & Hues Studios: 25 Years of Art, Technology and People」が8月7日(火)の午後3時45分から、ホールBにて予定されている。SIGGRAPH2012に参加される方は要チェックであろう。



 Rhythm & Hues Studios: 25 Years of Art, Technology and People
Tuesday, 7 August 3:45 PM - 5:15 PM | Los Angeles Convention Center, West Hall B
http://s2012.siggraph.org/attendees/sessions/100-180


■社員の「犬」も家族のつきあい

 


最後に余談ではあるが、「ファミリー・フォト」に犬が参列している由来を、ここでご紹介しておこう。
 

R&Hは、社員が飼い犬を連れて来ても良い事になっている。これは数あるハリウッドの企業の中でもかなり珍しく、テレビが取材に来る事もあ るという。その為、社内のあちこちで尻尾をフリフリする愛らしい光景が見られる。

ただし、ワンちゃんにも「入社試験」があり、吼えない、咬まないな ど、一定のしつけが成されている事が条件。これをパスして、初めて「出勤」出来るのだそう。

ロビーには、お犬様専用エレベーター(写真)も用意されて いるというから、ワンダフルである。



 
取材協力: SCOT BYRD, RHYTHM & HUES STUDIOS - Director of Public Relations
 



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