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[写真]アカデミー賞の会場近くでのデモ活動の様子 / 画像提供:木村 匠氏
FACEBOOKユーザーの方は、海外のVFX関係者のプロフィール写真が、一斉に緑色に統一された事に既にお気づきであろう。これは、アメリカのVFX業界が直面している大きな問題に対する抗議活動なのだそうだ。今、アメリカで何が起こっているのか。
改めて言うまでもなく、ハリウッド映画はアメリカ合衆国の基幹産業の1つであろう。しかし、そのハリウッド映画の撮影&ポスプロが、アメリカ国外へ流出してしまう現象が起こっている事をご存知だろうか。
この背景には、諸外国が実施している税優遇策の影響がある。その中でも特に、カナダのブリティッシュ・コロンビア州がテレビ&映画産業向けに2005年頃から推し進めている大規模な税制優遇制度は、バンクーバーの映像産業を急成長させた。
「ポスプロをバンクーバーで行うと、人件費に費やした制作費のうち、3割が税金として還付される」「撮影からポスプロまでの全てを行うと、更に大きなアドバンデージが得られる」等と言った大胆な税優遇制度に、ハリウッドのメジャー・スタジオは飛びついた。
その結果として、ハリウッドのお膝元であるはずの、LAは境地に追い込まれる事になった。
最近、筆者が通勤中に耳にしたラジオでは、こんなニュースが流れていた。LAで親子3代に渡って撮影のロケーション・コーディネート業を営んできたファミリーが、諸外国の税優遇制度のあおりで地元LAでの撮影が激減、廃業せざるを得ない状況に追い込まれているという。
この波は、上記のような実写クルーのみならず、ポスト・プロダクション業界にも押し寄せた。
ここ数年、多くのポストプロダクションやVFXスタジオが閉鎖に追い込まれたのは記憶に新しい。また最近では、大手VFXスタジオやアニメーション・スタジオにおいて大規模なレイオフが実施される等、アメリカ西海岸の映像業界では深刻な事態が続いている。日本人クルーも容赦なくレイオフに巻き込まれており、余談を許さない状況になってきた。
LAではそんな状況を受け、アカデミー賞の当日(2月24日)に、授賞式会場の周辺でVFX業界で職を失った数百人の人々によるデモ活動が行われた。この模様は、ハリウッドで活躍するライティング・アーティスト木村
匠氏の人気ブログ「アメリカでCG屋をやってみる」でも詳しく紹介されている。
[写真]デモを行う400人以上のVFX関係者、見守るLAPD
画像提供:木村 匠氏
[写真]
またVES(米視覚効果協会)は現在の状況を異常事態と判断。しかるべき対策を請願すべく、2月26日付で、公開状の形で書簡をジェリー・ブラウン カリフォルニア州知事に向け送付した事を明らかにした。
この「異常事態」は皮肉な事に、税優遇制度の中心地であるバンクーバーにも波及している。バンクーバーでは、米国系VFXスタジオの支社でレイオフが実施され、結果として多くのカナダ人、そして日本人が失業する現象が起こっている。
[写真]バンクーバーでレイオフされたVFX関係者によるデモ活動の様子 / 画像提供:八尋 裕司
クオリティ向上の切磋琢磨による自由競争ではなく、「人件費を高利率で還付する」という大胆な税制優遇は、このように、大きな弊害を引き起こしている。
これは、自然界に例えると「生態系が壊れた状態」と言えるかもしれない。
そんな中、米ホワイトハウスのサイトでは、この異常現象に歯止めを掛けるべく、VFXプロジェクトの海外流出対策を請願する為のオンライン署名を集めるページが、2月27日から3月末にかけてオープンしていた。
この請願を実現させる為には、3月末までに約9万6千件のオンライン署名を集める必要があり、全世界のVFX関係者に協力を呼びかけが行われた。
残念ながら、VFX業界の規模は小さく、オンライン署名は目標である9万6千件には届かなかったが、この運動が業界の多くの人の心を動かしたのは確かだろう。
現在ハリウッドでは、VFX業界に従事する人々が集まり、ユニオンの新設や、具体的な大作を講じるミーティング等が展開されつつある。
LAの映像業界に、平穏な日々が戻る事を願いつつ。
参考:バンクーバーの税優遇政策の詳細は、コチラのDVDをご参考あれ。
このサイトに含まれる記事は、鍋 潤太郎が日本のメディア向けに
随筆したものを再編し、ご紹介しています。
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