映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。
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筆者は、月刊誌CGWORLD 2012年12月号で「VESサミット2012」のレポートを寄稿させて頂いた。該当記事は、72~73ページに掲載されている。
朝早くから夕方まで取材した中で、筆者が今でも大変印象に残っているのが、デジタルドメインの初代CEOであるスコット・ロス氏と、倒産&復活後の新CEOエド・ウルブリッチ氏の講演であった。
記事はVESサミット全体をレポートする内容であり、しかも2ページという限られた誌面に収める必要があった為、エド・ウルブリッチ氏の講演に含まれていた興味深いエピソードの多くは泣く泣くカットせざるを得なかったという事情があった。また、スコット・ロス氏の講演は掲載スペースが足りず、残念ながら掲載されなかった。
そこで、該当号が発売されて半年以上が経過した今、ここでその講演の内容を、筆者のオリジナル原稿から、全文をご紹介してみる事にしよう。
文面には、筆者の意訳も含まれているが、両氏の語り口やニュアンスなどを、筆者の限られた英語力の中で、出来る限り正確に再現したつもりである。
VES主催 プロダクション・サミット2012にて
取材・文・撮影: 鍋 潤太郎
日時:2012年10月13日(土)
会場:ザ・リッツ・カールトン マリナ・デル・レイ
協力: Colleen Kelly / Visual Effects Society
聞き手はVES代表のエリック・ロス氏で、対談形式で行われた。
○対談:エド・ウルブリッチに聞く
エド・ウルブリッチ氏 / CEO デジタルドメイン、マザーシップ (右)
聞き手は、VES代表のエリック・ロス氏(左)
渦中にあったデジタルドメインの新CEOに就任したばかりのエド・ウルブリッチ氏(右)が登壇、VES代表のエリック・ロス氏(左)との対談という形で、その心境を語った。
~単刀直入に伺いますが、一体、何が起こったのですか?
まず最初に、今現在、この場で「デジタルドメインのCEO」として座っていられる事を大変嬉しく思います。今日は、みなさんと経緯をシェアしたいと思います。
一連の事態をご説明すると、大変長い話になります。まず、2006年にデジタルドメインはフロリダの投資会社に売却されました。結果、経営陣が変わり、親会社によるマネージメントになりました。VFX業務の他に軍事シュミレーション映像、大規模なアニメーション・スタジオの新設、など新しい業務内容が盛り込まれました。
ご承知のようにVFXというビジネスは、純益が非常に少ない。VFXを制作する事業だけでもマネージメントは相当大変です。その上に長編アニメーション・スタジオの新設。手を広げ過ぎではないか?という声も内外でありました。新体制になった過去7年間、それは大変でした。
~倒産前後の様子をお聞かせください。
この8月に財政状況が良くないという報告を受け、9月にフロリダの長編アニメーション・スタジオを閉鎖し、そしてチャプター11の倒産手続きに至りました。倒産処理は複雑で、大変クレイジーな9日間でした。
私は、会社を存続させるのか、閉鎖するのかの瀬戸際に立たされていました。
全クライアントから電話がジャンジャン掛かってきました。「発注しているプロジェクトはどうなるのか!」と。毎日が戦いでしたね。
私はフェデラル・コート(連邦裁判所)に出向き、通常1~2ケ月を要するチャプター11による倒産及び会社更生プロセスを、9日間で進めてもらえるよう、裁判官に懇願しました。なぜなら、急がないと、クライアントが映画プロジェクトを我々から引き上げてしまいます。
今、倒産を乗り越え、事態を振り返って最も誇りに思うのは、北米にいるクルー達とプロダクション・チームを維持する事が出来た事、そして彼らが不安、心配、大変なストレスの中でもクォリティを落さず、仕事を敢行してくれた事でしょう。これを思うと、本当に、涙が出そうになります。
~今後の展望は
私は、デジタルドメインが設立された1993年をデジタルドメインV1.0、2006年に売却されたのがV2.0、長編アニメーション・スタジオの新設や中東アブダビのスタジオ新設が浮上した頃がV2.5、そして今回の再スタートをV3.0と呼んでいます。
破産オークションの結果、VFXプロダクション部門は中国のギャロッピング・ホース(小馬奔騰)と、インドのリライアンス・メディアワークスに売却され、スタジオを維持する事が出来ました。ギャロッピング・ホースが70%、リライアンス・メディアワークスが30%の権利を持っています。
彼らは、過去にもスタジオ開設等で業務提携してきた間柄であり、その意味では、「全くの部外者」が親会社になった訳ではありません。その点は良かったと言えるでしょう。
また、今すぐにではありませんが、親会社の意向によっては、将来デジタルドメイン中国を新設する可能性も無くはありません。
新しいデジタルドメインは、古き良き時代のV1.0に限りなく近いです。現在も巨大プロジェクトが幾つも走っています。
今回の一連の騒動は、さまざまな事情が複雑に絡み合って起こった事で、「こうだから、こうなりました」とひと言で説明出来る事ではありません。
私も眠れない日が続いて大変でしたが、ひとまず事態が収集した事を、みなさんにご報告したいと思います。
○対談:スコット・ロスに聞く
画像:「観客は俳優を観に来てるんじゃない、
あんた方が作ったVFXを観に来るんだ!」
参加者に激を飛ばすスコット・ロス氏(右)
デジタルドメインの設立者の1人である初代CEOスコット・ロス氏(右)が登壇、VES代表のエリック・ロス氏(左)との対談が行なわれた。終始、スコット・ロス氏が歯に衣着せぬ自論をぶちまけ、聞き手のエリック・ロス氏が戸惑う場面も見られた。
~久しぶりですね。どうしていましたか。
デジタルドメインは、(拳で左胸を叩き)今でも私の心のふるさとです。2006年にデジタルドメインを売却しお金が入ったので、家族との時間を大切にしようと思って、最近は家族と過ごしていました。子供の教育、そして離婚、そういう”家庭ビジネス”も大変ですよ。あ、今日は、私のフィアンセも会場に来ていますよ。
私は、サウンド・エンジニアとしてキャリアをスタートしました。大学の頃は音楽にドップリと漬かっていました。我々の世代は、今で言うところのソーシャル・ネットワークの役割を、音楽が果たしていたんですよ。
そして、80年代中盤、サンフランシスコに居た頃、ルーカス・フィルムに雇われました。面接を87回も受けてね。ただ、「デイレクター・オブ・オペレーション」という仕事が、何をやらされるのか誰に聞いても知らなくてね。でも、実際の肩書きはジェネラル・マネージャーだった。
デジタル・ドメインが出来たルーツは、当初は何かコンテンツ・カンパニーを起こそうか?と考えていた頃に、ジェームス・キャメロンから電話をもらい、そしてスタン・ウィンストンも参加する形で、最終的にVFXのスタジオを共同設立したんです。
~西海岸のVFX業界の現状を、どう思われますか。
この業界にとって「ビジネス」は最も重要なポイントです。しかし、クリエイティブとテクノロジーに優れた逸材がこれだけ揃っているのにも関わらず、今はビジネスとして全く成立していませんね。
映画制作費の半分近くはVFX予算なのに、です。これは、私がILMにいた頃から、あんまり変わないかなぁ。
これはあくまでも私見ですが、映画館の観客はね、トム・ハンクスを観る為に映画館に来てるんじゃない。
(場内を指さして)
あんた方が作っている、VFXを観に来てるんだよ!
じゃ、金はどこへ行ったのか。問題はクライアントの側にあります。映画スタジオが求めているのは、「いかに、より多くの金を稼ぐか」が重要なのです。税金が沢山返ってくる国に発注する。それによって、LAローカルのVFXスタジオがどんどん閉鎖に追い込まれていくのを見るのは、耐え難い苦痛です。
今日カリフォルニアのVFX業界は、カナダを始めとするTAXインセンティブ(税制優遇策)によって仕事が無くなるという危機に遭遇しています。心して欲しいのですが、これは近々にロンドンにも派生するでしょう。放置しておけば、世界中のVFXスタジオが同じ状況に陥る事でしょう。
~LAのVFX業界は、今後どうなると思いますか。
我々は、現実を受け入れた上で、対策を考えながら、前に進んでいくしかありません。
LAは次の10年間、これまでと同じ状況が続く恐れがあるでしょう。規模が50%近く縮小してしまうかもしれません。
このままでは、VFX業界の人々は、「デジタル・アーティスト」ではなく「マニュファクチャー・ピープル」(工場労働者)という言葉が相応しい存在になりかねない。
LAの各VFXスタジオは、閉鎖を恐れていると思いますね。これまでに沢山のVFXスタジオが閉鎖に追い込まれてきました。ちょっと、ここに来る前に調べてきましたが、かなりの数です。その裏で、ガッツリ金を儲けている連中がいるんですよ。これらを、どこかで止めさせなければなりません。
今、もし誰か出資者が現れて、私のところに来て、『これで新しいVFXスタジオを立ち上げてください』と申し出たらどうするか?
答えはノーだ。
それはなぜか?映画館に行ってみなさい。
監督は最悪、ストーリーは最低、その代わり編集とVFXだけが超スバラシイ作品が沢山上映されています。それは「何か違うだろう!」と言いたい。本当に、むしずが走る思いですよ。
今日は、これだけネガティブな要素を並べて、じゃ、あんた、なんでこれまでVFXビジネスに関わって来たんだ?と言われるかもしれない。
……それはね。
昔、ジム・モリス(現ピクサー/ジェネラルマネージャー)と一緒に『ターミネーター2』を観に映画館へ行った時、上映中に映画館の空気の酸素含有率が、急激に下がったんですよ。
なんでかって?それはね、満員の観客が一斉に『ハッ!』と息を呑んだんですよ。
...あの瞬間が好きで、きっと、今日までやって来たんだろうなーー。
~時間です(汗)。今日はありがとうございました。
(2012年10月13日(土)、ザ・リッツ・カールトン マリナ・デル・レイにおける「VESサミット2012」より、筆者の意訳にて)
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この記事は、鍋 潤太郎が日本のメディア向けに
随筆したものを再編し、ご紹介しています。
著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
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