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さて、「キル・ビル」の全米公開から数週間が経過した10月27日月曜日、ハリウッドにあるディレクターズ・ギルド(映画監督協会)の試写室において、「キル・ビル」の試写会&タランティーノ監督とスタッフによる質疑応答が行われた。
予約受け付けがアッという間に満席となったこの日の試写会。会場には映画関係者やタランティーノファンが大勢押し寄せ、試写はものすごい盛り上がりであった。
試写が終わると、タランティーノ監督が登場。編集スタッフ、音響スタッフと共にステージに上がり、パネル・ディスカッションと質疑応答が行われた。
Tシャツの上に「キル・ビル」オリジナル革ジャン、そして下はジャージとジョギング・シューズという、めちゃくちゃラフな格好でステージに上がったタランティーノ監督は、ユーモアを交え「キル・ビル」について、マシンガンのような早口トークで、エネルギッシュに語った。
この日は映画制作者の為の講演なので、会話の内容は極めて現場寄り。
なかなか興味深いものがった。おそらくは、よくある俳優メインの記者会見では網羅されないような、掘り下げた内容であったのではないかと思う。
では、その模様をさっくりと、ここでご紹介しておこう。
○「キル・ビル」は、私がこれまでに撮ってきた3本の映画とは全く異なるカラーとなった作品である。
○元々のアイデアは、「パルプ・フィクション」(1994)に遡る。ユマ・サーマンの1言がキッカケだった。私が「リベンジ・ムービー」をやってみたいとユマに言ったところ、彼女は「花嫁の設定がいいんじゃないかしら」と1言。それが「キル・ビル」なった。
だから、原案は私とユマが2人で考えた事になる。
※エンドクレジットにも、原案 Q&U (クエンティン&ユマ)と記載されていた。
○私は監督になる前は、ビデオばっかり観て「監督になる準備(?)&トレーニング」をしていた。この頃、映画を観た時に印象的な映画音楽に出会うと、その後どこかでその曲のフレーズを聴いただけで、映画の1シーンを思い出す、という事に気がついた。
自分が映画を撮るなら、絶対にそれを実践したいと思っていた。
「キル・ビル」では音楽に力を入れ、選曲にあたっては自分が趣味で集めた膨大なレコード・コレクションの中から、リズムとビートが効いた、印象的な曲ばかりを集めてみた。
音楽とビジュアルとのパーフェクト・マッチを狙ってみたつもりだ。
○使う音楽はかなり初期から決めていた。そのお陰で、サウンド部門では音楽と効果音のコントロールや、テンポやノリの調整等が、普通の映画に比べてスムースに進んだようだ。
○撮影監督は、数人の候補の中から、最終的にRobert Richardson(代表作:「ナチュラル・ボーン・キラーズ」、「JFK」、「ヒマラヤ杉に降る雪」等)に絞った。彼の自宅に、参考用となる映画の宿題ビデオを40本(本当)を箱につめて送りつけ、「これを全部見ろ」と。
すると、2週間ですぐ返事が来て「全部観た。この作品とこの作品は素晴らしいね。もっと他にはないのか。もっと見せろ」と言ってきた。
「なんてこった、I love this guy!!」
所謂、有名な大物撮影監督は何人も知っているが、自分の持つ世界観に近く、自分に共感してくれる撮影監督は極めて少ない。
これは、非常に嬉しかった。
○チャンバラ・シーン等の白黒のシーン※について聞かれる事が多いが、これは言ってみれば、異なる「ビジュアル・パレット」を使って、観客に斬新な印象を与える目的で使ってみた。
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※アメリカ版は冒頭のシーン、そしてチャンバラ・シーンが白黒になっている。
巷で言われているような、「血を見るシーンは白黒になった」という表現ではなく、あくまでも表現者としてのコメントだったのが興味深かった。
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○パルプ・フィクションの時の撮影期間は10週間だけだったが、「キル・ビル」では全部で150日※も費やした。
※巷で発表されている数字とは異なるが、監督はそう言っていた。
○ストーリー・ボード・アーティストは使わない。私は自分で描けるので、自分で描く方が速い。
○脚本の随筆にはものすごい時間と、労力をかけた。だから、もしスタッフの中に脚本をきちんと読み込んでなくて、それでヘマをしやがるようなヤツがいたら、ブチ殺しちゃう(笑)
○青葉屋での80人滅多切りシーンでは、フィルムを100万フィート位使ったんじゃないかと思える位、膨大な量を回した。編集さんご苦労さん(笑)
このショットは、編集作業だけで2ケ月もかかった。
Sally Menkeなくしてこの編集作業の成功はなかっただろう。彼女は私にとって無くてはならないエディターだ!!
(ステージに同席した編集のSally Menke女史、テレまくり)
○青葉屋のシーンは北京で撮影したが、マンダリン(北京語)・カントニーズ(広東語)・日本語・英語(アメリカ英語、オーストラリア英語)の4ケ国語が飛び交う、ものすごくインターナショナルな現場だった。
カントニーズを日本語に訳して、それをマンダリンに訳して、それから英語に訳して、というものすごい空間だった。その意味で、この映画はインターナショナル・スタッフによるインターナショナル・ムービーだと言える。
○ぶつかり合う刀のサウンド・エフェクトは、よりアコースティックに、よりオーガニックな響きを出す為、次のようなレコーディング方法が採られた。
大編成オーケストラで映画音楽のレコーディングをする為の、大きなオーケストラ・ピットで刀の生音を録音。これにより、シンフォニー・ホール特有の、5~7秒の自然な残響が生まれ、それが刀がぶつかりあう音をリアルに、美しく、そしてアコースティックに捕らえる事が出来た。
電子的に作り出した効果音とは、また一味違う印象を与えたはずだ。
○登場する刀は、各キャラクターによって微妙に違う。例えば、オーレン・イシイの刀は、すごくクリアーで鏡面反射率が高い、とかキャラクターの性格を反映して作ってある。
これには日本人スタッフが大活躍した。彼らの働きぶりはすごくプロ意識を感じさせられる、素晴らしいものだった。
○アニメのシーンは、日本のホテルで、自分で演技をしてゼスチャーを交えながら、アニメ・スタッフに展開を説明した。
子供のオーレンが「Whimper」という言葉を飲み込むところとかね。こんな風に描いて欲しい、というのを実際に演じて見せた訳だ。
それを通訳が日本のアニメーションのスタッフに説明した。音響効果はアメリカで作業をしたが、声優さんは日本のアニメ界でも有名な方にお願いした。
○竹筒がカコーンと音をたてるWater Dipper(鹿おどし)を、日本らしさを醸し出すのに非常に効果的だと思い、雪景色のシーンに使ってみた。
ただ、鹿おどしは水がいっぱいになるとカコンと倒れるという「一定周期」で動くので、これが複数ショットにまたがって登場するには技がいった。
ただ単にフィルムを繋いだだけでは、鹿おどしのタイミングがバラバラになってしまう。一定間隔をおいてカコンと倒れるように、観客に違和感がないように見せる為、編集の際はコマ割りに気を配った。
例えば、鹿おどしが、ザ・ブライドにタイミング良く被って見えるシーン。
このシーンはここでカコンとなるので、そこから何コマさかのぼってカットすれば、その前のシーンのカコンに丁度つながる、など。
これは、編集さんの見えない努力だね。
○「プッシー・ワゴン」はプロダクション・デザインのDavid Wascoのアイデア。「君のドリーム・カーを作ってみてくれ」と頼んだら、あ~ゆ~車になった(笑)
キーチェーンは、アート部門にあったCADシステムで作った。
○CGはあまり使わない。登場するのは殆どミニチュア。飛行機と東京の街、ザ・ブライドの頭を打ち抜く拳銃のクローズアップ・シーンは、すべて巨大なミニチュアだ。
CGを使わない理由はいろいろあるが、「リアリズム」を追求したいという事が大きい。
最近の「ターミネーター3」等は、CGをすごく多用している。映像は確かにものすごいのだが、ある意味、リアリズムに欠けるように思える。リアリズム以前の「何か」が違う、そういう印象がある。こうした理由から、CGはあまり使わない。
○最近、他の人からよく「流行のHDカメラで撮れば良いのに」というアドバイスをよくもらう。扱いも簡単だし、現像しなくて良いし、地獄のようなディリー試写も必要ないし(笑)。確かに便利は便利なのかもしれない。
でも、単純にHDカメラに触れる機会がなかったという事もあるが、私は基本的にフィルム撮影が好きだ。
「フィルムが好き」、それが一番大きな理由かもしれない。
○「キルビル」Vol.1はリベンジ・ムービー。Vol.2はスパゲティ・ウエスタン※だ。
Vol.1の劇中で千葉真一演じる服部半蔵は「復讐は、森だ」と説いているが、まさにVol.2は「森」だ。
現在はまだVol.2の作業中だが。是非楽しみにして頂きたい。
今日は、みなさん、来てくれてどうもありがとう。
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※スパゲティ・ウエスタン
60-70年代にイタリアで製作された西部劇の総称。「荒野の用心棒」等が有名。
その多くにはクリント・イーストウッドが出演している。総じて低予算・低画質
・フィルム粒子が粗くザラザラの絵が特徴と言えば特徴(笑)。
血生臭く、野蛮な雰囲気がウリでもある。
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★タランティーノ監督に直撃。「怨み節」の謎に迫る?
終演後、タランティーノ監督に直接質問をする機会があった。
監督は、終わった後もステージ上に残って、参加者の質問に答えたり、一緒に写真に収まったり、サインをしたり、と大人気であった。
筆者も、1つ気になっていた事があたったので、質問してみた。
筆者:「日本の曲が沢山登場しましたね。特に梶芽衣子の『怨み節』がエンディングテーマだったのには、とっても驚きました」
監督:「ああ、私はメイコ・カジの大ファンでね。彼女は『Sasori』(女囚さそり)という作品で有名なので、是非、メイコの歌を使いたいと思っていた。
それに、『怨み節』の歌詞の内容と、メイコの演じた『さそり』の役柄が、ユマの演じたザ・ブライドの生き方とすごく似ていたので、丁度良いと考えたんだ」
著者:「そうだったんですか。…でも、なんで、アメリカ人の監督が、70年代の東映の『女囚さそり』なんかをご存知なんでしょうか?」
監督:「そりゃ、知ってるさ。は~はははははははは♪」
タランティーノ監督は、全くエラぶる所のない、非常に気さくな性格の方で、そのラフな格好も手伝って、非常に親しみの沸く人柄だと思った。
筆者が質問する直前、編集のSally Menke女史が、会場におられたお母様を「これ、ウチの母です」と監督に紹介していた。
監督が背をかがめて「あ~、お母様ですか~。お綺麗ですね~♪」とニコニコ話しかけているのを見て、この人は本当に良い人なんだな、と思うと同時に、ホンマにこの人があのバイオレンスな映画を作ったんかい?というギャップが妙に可笑しかった。
★日本とアメリカでのウケる場所の違い
最後に、蛇足ではあるが、日本とアメリカの映画館では、観客の文化的背景のの違いから、ウケる箇所も違う。それをチョコッとだけ、ご紹介しておこう。
ちなみにアメリカ人にウケていたシーンは、
○ザ・ブライドが、バックス医師のサングラスを掛けるシーン。
○寿司屋でのギャグ。千葉真一の演技&セリフが、かなりウケていた。
○ゴーゴー夕張(栗山千秋)がザ・ブライドと対決する直前、「フフフフ、お願いしてるつもり?」と声高に笑うが、ここでなぜか場内ではグフグフ♪と喜んでいる観客が多かった。
○田中の親分が不満をあらわにした際、興奮した別の親分がサッ扇子をと取り出し、パタパタと扇ぎ始めると、場内から「あははは」と笑いが漏れていた。
○オーレン・イシイが「That's fucking time!!」と叫ぶと、
場内から拍手が起こった。
○ザ・ブライドが最初にヤクザを滅多切りにした時、場内からヤンヤヤンヤと拍手が起こった。
○サンフランシコを訪問時、ユニオン・スクエア近くのアイマックス・シアターで、35mm上映された「キルビル」(ほぼ満席)を観た。その際、観客の半数位が映画が終わっても帰らず、エンディング・テーマの梶芽衣子が唄う「怨み節」を最後まで聞き入っていたのが、非常に印象的であった。
…等だが、日本では如何であろうか?
ちなみに、この「キル・ビル」は、日本版とアメリカ版は編集がやや異なるそうだ。また、前述の白黒シーンも、日本版ではカラーだと聞いている。
筆者はアメリカ版しか鑑賞していないので、日本版も是非鑑賞し、両社を比較してみたいとは思っているが、果たしてチャンスはあるかな?日本版のビデオの発売が待ち遠しい今日この頃である。
ミラマックスの英語ページ
http://www.kill-bill.com/
日本語ページ
http://www.killbill.jp/
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