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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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‘画像:ロビーでは、Xwingのミニチュア等も展示されていた。

ハリウッドのVES(Visual Effects Society/全米視覚効果協会)は、毎年6月にビジュアル・エフェクツ・フェスティバルを開催している。
 
今年はビバリーヒルズにある全米脚本家協会の試写室、Writers Guild Theaterで、6月8日(金)から10日(日)までの3日間、週末を利用して開催された。
 
このフェスティバルは、ハリウッドのVFX現場では「シーグラフよりも面白い」と謳われる程で、メーキング講演などが目白押しの、非常に密度の濃いイベントである。
 
このレポートの第2弾を、先週に引き続きお届けしよう。
 
 
○第2日目 『スパイダーマン3』メーキング
 
 Spider-Man 3
 Saturday, June8th 2007 10:00AM-11:30AM
 
 
・エフェクト全般
 
この作品では、前2作同様、デジタル・ダブルが多用された。
 
2D作業も複雑で、スタント俳優の顔の差し替えや、ワイヤーを使ったアクション・シーンのワイヤーを消す作業、ロトスコープでのマスク・ワークなど作業工程は多岐に及んだ。
 
顔の差し替え作業では、目の部分に最も気を配った。なぜならば、観客が映像を見た時に、最も印象に影響するからだ。
 
武装したハリーがピーターを突然襲うシーンは、スタントマンによるブルーバック撮影だ。フルCGのデジタル・ダブルのハリーがグライダーに乗ってピーターを攻撃する。
 
このグライダーは、スノボー風の動きをするようにアニメートされている。このシーンでは、ピーター役をスタントマンが演じている。
 
コンピューター制御による5本のワイヤーでスタントマンの動きをコントロールした。何度でも同じアクションが繰り返せる。
 
史上初のモーション・コントロール・スタントマンだね(笑)。
 
ただ、これは危険が伴うので操作には最新の注意が払われた。
 
3Dのライティング・テクニック面では、2作目のドック・オックと同様、ライト・ステージが使用され、リアルなライティングが実現している。
 
一方、CGだけではなく、ミニチュア・セットも多用している。
 
ミニチュア専門のスタジオNew Deal Studioと組んで、暴走クレーンのシーン等をを撮影した。
 
ハリーがグライダーに乗り、狭いビルの合間をぬってピーターを追いかけるシーンの背景の建物も、実はミニチュアで作られている。
 
メカニカルなエフェクトでは、メリー・ジェーンが空中で閉じ込められているタクシーが油圧でコントロールされているほか、サンド・マンから落ちてきた砂のシーンでは本物の砂を油圧のデバイスでコントロールして、砂を落としている。
 
この時、撮影スタッフは防砂のマスクをつけて撮影に臨んだ。
 
細かい部分だが、スパイダーマンの武器の1つである、Webnetのデザインが前2作とは微妙に違ったフレイバーにしているのも、隠れた特徴と言えるだろう。
 
 
・Goo(黒いアメーバ状の生命体)
 
黒いアメーバ状の生命体は、現場ではGooと呼ばれた。このGooの表現は、チャレンジの連続だった。
 
まず、このアニメーションは、2Dのペンシル・テストからスタートした。
 
トラディッショナルのアニメーションの経験を持つアニメータが、最初に紙と鉛筆で起こしたアニメーションがこれだ。これを叩き台にした。
 
初期のCGテストは、可能な限りプロシージャルな手法を試した。その方がコントロールが楽だからだ。
 
しかし、どんな見た目に決めるかで苦労した。これには、アート・デパートメントが用意したコンセプト・アートやドローイングが役に立った。
 
Gooの開発には全部で3ケ月近くを費やした。動きの開発では、まずミミズ形のオブジェクトをアニメートして、束にして、それにダイナミクスでセカンダリー・アニメーションを付加し、より生物的な動きに見えるように気を配った。
 
その動きも、生き物が獲物に"attack"するような動きになるように意識して、振りかぶって覆いかぶさるようなパターンをベースとしている。
 
ライティングでは、アンビエント・オクルージョンを使用して、リアルで有機的な質感をねらった。
 
教会で、カメラマンのエディがGooに寄生され、敵キャラであるベノンになるシーンは、全部で4~5ケ月を要する大変なものだった。
 
ワイヤーで吊られて演技する俳優トファー・グレイスを撮影し、そこにマッチメーション(3Dジオメトリを演技にフィットするようにアニメートさせる)を施し、腕はCGで置き換える事になった。
 
最後に巨大化するGooのシーンも、データが非常に複雑でコントロールは至難を極めた。
 
 
・サンドマン
 
砂の怪物、サンドマン。この悪役CGキャラクターは本当に大変だった。
 
しかも、サンドマンが絡むショットは長尺が多く、一番長いショットはなんと2700フレームもあった。
 
サンドマンの見た目は、アリゾナの砂を参考にする事になった。
 
この「サンド・システム」を作る事は最大のチャレンジだった。しかも、エモーショナルな「芝居」がきちんと伝わるアニメーションに仕上げる必要があった。その為、2年も前
 からテストが始まった。
 
砂は、まず沢山のSphere(球)をキーフレームでアニメーションさせ、それをベースにパーティクル・シュミレーションにより大量の砂を発生させる手法が採られた。
 
この時、friction(摩擦)の設定の度合いが、動きに説得力を持たせリアリティの助けになる事がわかった。その為、テストで5万個、300万個と段階的にパーティクルを増やし
ながら、最も適したパラメーターを追い込んで行った。
 
部分的にFluidシュミレーションを使っている箇所もある。
 
それと平行して、見た目のリファレンスとする為に、スタジオで本物の砂を黒バックのセットに注いだりしたものを何パターンも撮影した。
 
作業はHoudiniで行い、レンダリングはオリジナル・レンダラーで行われたが、レンダリング時間よりも、シュミレーションの時間の方が長く掛かった。
 
この、岩(クローズアップされた砂)が集まってサンドマンになる一連のシークエンスは一番最後に完成した。
 
アニメーターの1人が、砂地から立ち上がって歩き始める演技をしてビデオに収め、それを参考にした。このテストが行われたのは1年前、2006年の4月18日。
 
これを参考に、非常にラフなジオメトリでサンドマンの「演技」の基本的な動きを詰めた。
 
ここで重要だったのは、体の動きの「ゆっくり感」だった。
 
最終的に、俳優トーマス・ヘイデン・チャーチの演技が撮影され、この動きに合わせてアニメーションが作られた。
 
作業が終盤に入り、このテスト映像の日付けは2007年の3月15日。公開の間際である事がわかる。
 
 
・Giant Monster(巨大化したサンドマン)
 
最後に登場する"Giant Monster"。50年代のレイ・ハリーハウゼン作品、日本のゴジラ等に代表される「巨大モンスターもの」を意識し、最初に粘土スカラプチャーを起こし、
担当アーティスト達のイメージを明確にする事から始めた。
 
人間サイズから巨大化するシーンでは、巨大感を出す為に何度もテストを繰り返した。
 
スパイダーマンとニュー・ゴブリンが"Giant Moster"と戦うシーンは、ラフなデータで何種類かテストのアニメーションを作り、監督に見せて意見を仰ぎながら、OKが出たものを使用した。
 
サム(監督)は、"Giant Monster"が攻撃を受ける瞬間に、あまり苦しみや痛みを表情に出さないように我々に求めた。それによって、より怪物らしさが出た。
 
完成したシーンは、クラシカルなモンスター映画風になったと思う。
 
人々が逃げまどい、カメラが"Giant Monster"を見上げ、背景にはヘリからのライトやスポットライトが舞う。これぞ、典型的なモンスター映画だ!
 
 
Q&A
 
Q:
砂が集まってサンドマンになるシーンは、すべてシュミレーションか?
 
A:
冒頭で岩(クローズアップの砂)が集まってくるシーンは、すべてアニメーターによる手づけのアニメーション。途中から、プロシージャルなアニメーションや、サンド・シュミレーションのシステムにすり替えている。
 
 
Q:
グリーン・ゴブリンの色は緑だが、グリーン・スクリーンだと問題があるのでは?
 
A:
スパイダーマンが赤、ゴブリンが緑、小道具には青系も登場するし、合成用の背景には苦労させられた。最終的に、この3部作では、90%がブルーバックによって撮影した。それが一番無難な選択だった。
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