映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。
ハリウッドのVES(Visual Effects Society/全米視覚効果協会)は、毎年1回月にビジュアル・エフェクツ・フェスティバルを開催しているが、今年もそのシーズンが到来した。
今年は、ビバリーヒルズにある全米脚本家協会のWriters Guild Theaterにおいて、6月8日(金)から10日(日)までの3日間、週末を利用して開催された。
このフェスティバルは、ハリウッドのVFX現場では「シーグラフよりも面白い」と謳われる程で、メーキング講演などが目白押しの、非常に密度の濃いイベントである。
その意味では、フェスティバルというよりコンファレンスに近い内容なのだが、参加者規模が数百人程度と小さい為、小規模で開催されている。
今年は、『スパイダーマン3』『シュレック1~3』 『パイレーツ・オブ・カリビアン1~3』のVFXメーキング講演に加え、豪華ゲストを招いての『VFX界に最も影響を与えたVFX映画50本』というパネル・ディスカッションが行われる等、
盛り沢山の充実した内容となった。
その模様を数回に分けてお届けしよう。
○第1日目 『Surf's Up』試写会
フェスティバルのこけら落としは、この程全米公開の運びとなったSony Pictures Animationが贈るフルCG長編アニメーション映画の第2弾、『Surf's Up』の特別試写会、そして
製作スタッフによる質疑応答であった。
この作品は、ペンギンの世界における、南国のサーフィン選手権での舞台裏を描いた作品。
「なんだ。2本目のペンギン・アニメか」
筆者は、特に期待をするという訳でもなく、割とまっさらな気持ちで試写に望んだのだが、映画を観て、良い意味で裏切られたというか、驚かされた。
「おもしろい!!!」
登場する各キャラクターの個性が魅力的で、出てくるジョークもいちいち面白く、場内は爆笑の連続であった。
サーフィンのシーンの臨場感は想像以上のもので、ビーチや波の描写が非常にリアリティあふれる仕上がり。
また、ハンディハメラのようなテイストのカメラワークの、ドキュメンタリー・タッチに仕上げた演出が効果的で、最初の5分間ですぐさまストーリーに引き込まれた。
折りしも「Happy Feet」に続く2本目の"ペンギン・アニメ映画"になり、おそらくその好き嫌いには個人差が出ると思われるが、筆者は個人的にはこの「Surf's Up」に軍配を上げても良いと思った。
それ程、楽しめる1本であった。
さて、下記は試写の後に行われた、製作スタッフによる質疑応答をまとめたものである。
"Surf's Up"
A Special opening night screening and discussion of Sony Pictures Imageworks.
Friday, June 8th 2007 7:30PM-10:00PM
Lydia Bottegoni - Co-Producer
Rob Bredow - Visual Effects Supervisor
James Williams - Layout Supervisor
Q:
手持ちカメラ風の動きは、どうやって表現したのか。
A:
Ebayで100ドル位で安く買ったビデオカメラを、モーション
キャプチャーした。カメラ代はそのものは安かったが、モー
ション・キャプチャー出来る状態まで装備するのに4000ド
ル程掛かってしまった(笑)
それに重量もあったので、カメラマンは大変だったようだ。
この作品は、「インタラクティブなカメラ」を使って製作された
初めてのCG映画であり、そのキャプチャーも24frm/Sで
行われた。
Q:
古い、昔の映画風の画質が斬新だが、意識した点は?
A:
1920年代の映画を参考にして、わざとスクラッチやゴミを
沢山入れた。色調も、敢えて退色したような淡い色合いに
してある。
でもこれは、ブルーレイDVDのエンジニア連中には大不評
で、「我々はせっかく画質を良くする為に時間を掛けて開発
してきたのに、なんでこんな事するんだい?」とまで言われ
た(笑)
Q:
ライティングのテクニックについて
A:
レイトレーシング・ベースのレンダラーを開発し、ライト・ベイ
クを多用した。
CG映画だが、"Film Look"を狙いたかったので、フィルム
独特のオーバー・エクスポージャーやロー・エクスポージャ
ーを再現してみた。これは炎の見え方などで顕著だと思う。
それには、パラマウント映画の古いドキュメンタリー等
参考にした。
ライティングのアーティストは、一番多い時で60人いたと思
う。
Q:
複雑なジャングルのシーンが登場するが、モデリングはや
はりプロシージャル・ベースか?
A:
すべて、モデラー達による手作業のモデリングで、プロシー
ジャルな手法や、L-System等は使用していない。
これに、FXチームが風による揺らぎ等のアニメーションを
各ショット毎に施して仕上げた。
Q:
アニメーションが大変素晴らしいが、モーション・キャプチャ
ーの比率を。
A:
キャラクター・アニメーションは全部、手づけによるもの。モ
ーション・キャプチャーは前述のカメラだけで、キャラクター
には一切使用していない。
ダイアログは先に収録し、それに合わせて「演技」をつけて
いった。
サーフィンのシーンは、実写を撮影してリファレンスにして、
どういう風にアニメートするのが効果的なのか観察した。
そうして、ブロック・アニメーション(ラフな状態ではあるが
主要なポイントを押さえたアニメーション。これをベースにフ
ェイシャルや、セカンダリー・アニメーションを詰めていく)を
仕上げた。
Q:
最大のチャレンジだった事は?
A:
ドキュメンタリー風のフィーリングを常にキープしなくてはな
らなかった部分だろう。やりすぎず、自然に見せるのが難し
かった。
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‘画像:ロビーでは、Xwingのミニチュア等も展示されていた。
ハリウッドのVES(Visual Effects Society/全米視覚効果協会)は、毎年6月にビジュアル・エフェクツ・フェスティバルを開催している。
今年はビバリーヒルズにある全米脚本家協会の試写室、Writers Guild Theaterで、6月8日(金)から10日(日)までの3日間、週末を利用して開催された。
このフェスティバルは、ハリウッドのVFX現場では「シーグラフよりも面白い」と謳われる程で、メーキング講演などが目白押しの、非常に密度の濃いイベントである。
このレポートの第2弾を、先週に引き続きお届けしよう。
○第2日目 『スパイダーマン3』メーキング
Spider-Man 3
Saturday, June8th 2007 10:00AM-11:30AM
・エフェクト全般
この作品では、前2作同様、デジタル・ダブルが多用された。
2D作業も複雑で、スタント俳優の顔の差し替えや、ワイヤーを使ったアクション・シーンのワイヤーを消す作業、ロトスコープでのマスク・ワークなど作業工程は多岐に及んだ。
顔の差し替え作業では、目の部分に最も気を配った。なぜならば、観客が映像を見た時に、最も印象に影響するからだ。
武装したハリーがピーターを突然襲うシーンは、スタントマンによるブルーバック撮影だ。フルCGのデジタル・ダブルのハリーがグライダーに乗ってピーターを攻撃する。
このグライダーは、スノボー風の動きをするようにアニメートされている。このシーンでは、ピーター役をスタントマンが演じている。
コンピューター制御による5本のワイヤーでスタントマンの動きをコントロールした。何度でも同じアクションが繰り返せる。
史上初のモーション・コントロール・スタントマンだね(笑)。
ただ、これは危険が伴うので操作には最新の注意が払われた。
3Dのライティング・テクニック面では、2作目のドック・オックと同様、ライト・ステージが使用され、リアルなライティングが実現している。
一方、CGだけではなく、ミニチュア・セットも多用している。
ミニチュア専門のスタジオNew Deal Studioと組んで、暴走クレーンのシーン等をを撮影した。
ハリーがグライダーに乗り、狭いビルの合間をぬってピーターを追いかけるシーンの背景の建物も、実はミニチュアで作られている。
メカニカルなエフェクトでは、メリー・ジェーンが空中で閉じ込められているタクシーが油圧でコントロールされているほか、サンド・マンから落ちてきた砂のシーンでは本物の砂を油圧のデバイスでコントロールして、砂を落としている。
この時、撮影スタッフは防砂のマスクをつけて撮影に臨んだ。
細かい部分だが、スパイダーマンの武器の1つである、Webnetのデザインが前2作とは微妙に違ったフレイバーにしているのも、隠れた特徴と言えるだろう。
・Goo(黒いアメーバ状の生命体)
黒いアメーバ状の生命体は、現場ではGooと呼ばれた。このGooの表現は、チャレンジの連続だった。
まず、このアニメーションは、2Dのペンシル・テストからスタートした。
トラディッショナルのアニメーションの経験を持つアニメータが、最初に紙と鉛筆で起こしたアニメーションがこれだ。これを叩き台にした。
初期のCGテストは、可能な限りプロシージャルな手法を試した。その方がコントロールが楽だからだ。
しかし、どんな見た目に決めるかで苦労した。これには、アート・デパートメントが用意したコンセプト・アートやドローイングが役に立った。
Gooの開発には全部で3ケ月近くを費やした。動きの開発では、まずミミズ形のオブジェクトをアニメートして、束にして、それにダイナミクスでセカンダリー・アニメーションを付加し、より生物的な動きに見えるように気を配った。
その動きも、生き物が獲物に"attack"するような動きになるように意識して、振りかぶって覆いかぶさるようなパターンをベースとしている。
ライティングでは、アンビエント・オクルージョンを使用して、リアルで有機的な質感をねらった。
教会で、カメラマンのエディがGooに寄生され、敵キャラであるベノンになるシーンは、全部で4~5ケ月を要する大変なものだった。
ワイヤーで吊られて演技する俳優トファー・グレイスを撮影し、そこにマッチメーション(3Dジオメトリを演技にフィットするようにアニメートさせる)を施し、腕はCGで置き換える事になった。
最後に巨大化するGooのシーンも、データが非常に複雑でコントロールは至難を極めた。
・サンドマン
砂の怪物、サンドマン。この悪役CGキャラクターは本当に大変だった。
しかも、サンドマンが絡むショットは長尺が多く、一番長いショットはなんと2700フレームもあった。
サンドマンの見た目は、アリゾナの砂を参考にする事になった。
この「サンド・システム」を作る事は最大のチャレンジだった。しかも、エモーショナルな「芝居」がきちんと伝わるアニメーションに仕上げる必要があった。その為、2年も前
からテストが始まった。
砂は、まず沢山のSphere(球)をキーフレームでアニメーションさせ、それをベースにパーティクル・シュミレーションにより大量の砂を発生させる手法が採られた。
この時、friction(摩擦)の設定の度合いが、動きに説得力を持たせリアリティの助けになる事がわかった。その為、テストで5万個、300万個と段階的にパーティクルを増やし
ながら、最も適したパラメーターを追い込んで行った。
部分的にFluidシュミレーションを使っている箇所もある。
それと平行して、見た目のリファレンスとする為に、スタジオで本物の砂を黒バックのセットに注いだりしたものを何パターンも撮影した。
作業はHoudiniで行い、レンダリングはオリジナル・レンダラーで行われたが、レンダリング時間よりも、シュミレーションの時間の方が長く掛かった。
この、岩(クローズアップされた砂)が集まってサンドマンになる一連のシークエンスは一番最後に完成した。
アニメーターの1人が、砂地から立ち上がって歩き始める演技をしてビデオに収め、それを参考にした。このテストが行われたのは1年前、2006年の4月18日。
これを参考に、非常にラフなジオメトリでサンドマンの「演技」の基本的な動きを詰めた。
ここで重要だったのは、体の動きの「ゆっくり感」だった。
最終的に、俳優トーマス・ヘイデン・チャーチの演技が撮影され、この動きに合わせてアニメーションが作られた。
作業が終盤に入り、このテスト映像の日付けは2007年の3月15日。公開の間際である事がわかる。
・Giant Monster(巨大化したサンドマン)
最後に登場する"Giant Monster"。50年代のレイ・ハリーハウゼン作品、日本のゴジラ等に代表される「巨大モンスターもの」を意識し、最初に粘土スカラプチャーを起こし、
担当アーティスト達のイメージを明確にする事から始めた。
人間サイズから巨大化するシーンでは、巨大感を出す為に何度もテストを繰り返した。
スパイダーマンとニュー・ゴブリンが"Giant Moster"と戦うシーンは、ラフなデータで何種類かテストのアニメーションを作り、監督に見せて意見を仰ぎながら、OKが出たものを使用した。
サム(監督)は、"Giant Monster"が攻撃を受ける瞬間に、あまり苦しみや痛みを表情に出さないように我々に求めた。それによって、より怪物らしさが出た。
完成したシーンは、クラシカルなモンスター映画風になったと思う。
人々が逃げまどい、カメラが"Giant Monster"を見上げ、背景にはヘリからのライトやスポットライトが舞う。これぞ、典型的なモンスター映画だ!
Q&A
Q:
砂が集まってサンドマンになるシーンは、すべてシュミレーションか?
A:
冒頭で岩(クローズアップの砂)が集まってくるシーンは、すべてアニメーターによる手づけのアニメーション。途中から、プロシージャルなアニメーションや、サンド・シュミレーションのシステムにすり替えている。
Q:
グリーン・ゴブリンの色は緑だが、グリーン・スクリーンだと問題があるのでは?
A:
スパイダーマンが赤、ゴブリンが緑、小道具には青系も登場するし、合成用の背景には苦労させられた。最終的に、この3部作では、90%がブルーバックによって撮影した。それが一番無難な選択だった。
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