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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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ここLAでは、VES主催の会員向け試写会やパネル・ディスカッションが頻繁に開催されている。

VESは「Visual Effects Society」の略。全米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つである。

日本語で言うと「全米視覚効果協会」という事になろうか。

VESは、ハリウッドを中心とする映画&テレビ等の映像業界におけるビジュアル・エフェクツ(VFX)、つまり視覚効果産業に従事するプロフェッショナル達で構成される、「VFXのプロの、プロによる、プロの為の協会」である。

先日「DI Demystified」というパネル・ディスカッションが、ハリウッド某所にて開催された。

これは、最近ハリウッド映画の製作プロセスにおいて主流となりつつあるDI(デジタルインターミディエイト)を、VFX現場のプロにも理解して頂こう、という趣向で開催され、「エフェクトのプロの視点から」DIがどう製作現場に影響してくるのか、等がパネルディスカッションの形で解説された。

その模様を簡単にご紹介しよう。


パネラーの顔ぶれ:
 Joel Hynek / VFX Supervisor (主な参加作品:Stealth, XXX)
 Jeff Okun / VFX Supervisor  (主な参加作品:Elizabethtown, The Last Samurai),
 John Sullivan VFX Supervisor / (主な参加作品:Just Like Heaven, Collateral )
 Josh Pines / Technicolor


○DIは映画の現場で完全に理解されているか?

DIが映画製作プロセスの主流となりつつあるが、実際のところ、監督や撮影監督、そして我々のようなハリウッドのエフェクト現場でも、まだまだ理解されていない事が多い。

DIでは、素材の90%がデジタル上で何らかの「後処理」が施される。これはカラーコレクションだったり、シャープネスだったり、ニーズによって様々である。

DIのシステム上では、普通の合成アプリケーション並みに、かなり複雑な事が出来るようになってきている。マスクを切って、目の部分だけにシャープネスを施したり、顔面に対して縦や横方向のグラデーション状にコントラストを変化させたり、等である。

特にここ数年、ディスク・ストレージの低価格化が進み、スキャン&レコーディング等のプロセッシングも高速化され、これまであまりコンピューター処理を行う機会がなかった映画制作スタッフにも、DIは身近な存在となりつつある。

一方で、我々VFX関係者は、それより随分前からエフェクト製作の1過程として、スキャン&レコーディングに親しんできた。その意味では、DIは我々にとって比較的お馴染みの手法を発展させたテクノロジーだと言えるかもしれない。


○DIのIN/OUTフォーマット

これについては、数多くの質問が飛び交うのが常である。

・持ち混むのはビデオ・テープなのかデジタル画像データか?

・フィルムからの変換はハイレゾ・テレシネが良いのかフィルム・スキャナか?

・解像度はHDか、2Kか、それとも4Kか?

・カラースペースはSMPTE709か、リニアか、それともログか?

・カラー深度は8bitか、それとも10/12/16bitか?

・編集と最終確認のパイプラインは?

・カラーコレクション・システムはAutoDesk,Nucoda,DVS,Pandora,Silicon Color,Quantelのいづれが良いのか?

などなど。

完成したデジタル・マスターの用途も多岐に分かれる。フィルム上映用、デジタル上映(E-Cinema)用、放送用、HD用、など。

これらは、DIをもつポスプロと納得がいくまで話合うべきであろう。


色を事前に調整してDIに持ち込んだ方が良いのか?という問いに関しては、NOである。

エフェクト・ハウス等できっちり調整してから持ち込むCG素材は別にしても、撮影現場においてデジタル・カメラ側で色を調整して撮影という事は避けた方が良い。よっぽど低予算で制約がある場合等以外は避けた方が懸命である。

下手にカメラ側で調整すると、情報量が減ってしまい、ポスプロで調整する時に制約や問題に繋がる事もある。

よくある問題とhして、ポスプロ段階まで進んで、フィルム・スキャンの精度や画質が問題になる事も多い。その場合は、スキャン作業を信頼出来る会社を選び、発注するように気をつけるしかない。


○「DIはVFXを救う」か?

DIは「エフェクト屋」にとって、強力なツールとなりうるだろう。そして、監督と撮影監督の強い味方となるだろう。ハイレベルなカラーコレクションがその一例である。

VFXショットの不具合をDIでどのレベルまでFIX可能だろうか。答えは金と時間次第である(場内爆笑)。更に、ケースbyケースである。

空の色味を即座に変更出来ても、「じゃ、ここに恐竜を1匹お願い」なんて事はDIでは不可能である。何が出来て、何が出来ないかを事前にキチンと理解しておくべきである。

それを理解せずにDIセッションに臨むのは、時として時間とお金の無駄になる。もっともそれは、DI以外のすべてのプロセスでも言える事だろう。


○DIを正しく使う12箇条 (2005年7月当時)

1.後で生じる問題を未然に減らす為には、DIを行った施設と、フィルム・レコーディングを行う施設は、同一会社内で行う事が望ましい。


2.DIプロセスにおいては、「誰があなたの作品に最終アプルーブを出すのか」を予め知っておくべきである。


3.DIプロセスにおいて、「何をどのようにしたいのか」を予め決めておく事。


4.DIスイートでカラリストと仕事をする際、現在自分が話している言葉を相手と自分自身が正確に理解出来ているかを確認する事。例えば、一口に「赤」と言っても、それが色自体を指しているのか、影の部分の事なのか、個々の事例においてすべて異なるので明確にする事。


5.一緒に仕事をする撮影監督の作業スタイルや要求事項を理解しておく事。DIスイートにおいては、あなたが撮影監督の代弁者となり、彼とあなたの作品をコントロールする事もある。


6.撮影監督には、あなたは彼の手助けをする「親友」だと思ってもらうよう、常に心掛けるべきである。自分のエゴやビジョンを、撮影監督を飛び越してゴリ押しするような「敵」に回る事が決してないように。


7.監督、撮影監督、編集の3者の間にある、契約上等の政治的な人間関係を理解しておき、各人の希望どおりの要求をうまく提供し、ベストの結果をDIスイートで引き出せるようにしなければならない。

  契約上、誰に最終決定権があるかのかを、事前に尋ねておくのは賢明である。


8.どのポスプロ会社でDIを行うか迷った時は、各社にテストとして本編から数ショットを選び、各社にテストのフィルム・レコーティングを出してみると良い。各ショットには勿論、グレー・スケールのチャートを冒頭に入れておくのをお忘れなく。これにより、どの会社がベストなのかを知ると同時に、発注時の安心感が増す事が出来る。


9.DIスイートでのカラーコレクション・セッションの間は、あなたのVFXスタジオで作成したデジタル画像が正確に表示出来ているか常に注意を配る事。自分が普段見慣れたグレー・スケールのチャート等を入れておく事が懸命である。それを観れば、もし何かフォーマットやカラースケール等の技術的問題があれば、その段階で気づくはずである。


10. EXRフォーマットの画像ファイルがDIスイートでうまく開けない事があるので、必要であれば事前に先方とテストをしておく事が肝心である。


11. 最終的にどんなプリント・ストックで劇場映画に焼かれる事になるのか事前に考慮しておく事。プリント・ストックにはコダックのプレミアや、コダック・ビジョン、そしてフジ等がある。使用するDIスィートの会社が、希望どおりのプリント・ストックのフィルム・レコーディングLUTを持っているか、事前に確認しておく事。また、それに関わらず、日頃ディリー(日本で言うラッシュ)で使っているプリント・ストックとの色の再現性との違い等も考慮しておく必要がある。


12. DI作業で、自分達の不手際による尻拭い作業を、全ショットにおいて行う事を期待してはいけない。


と、このようなパネル・ディスカッションが行われ、この日のプレゼンテーションは幕を閉じた。

ここではスペースの関係等で全てご紹介する事が出来なかったが、パネラーであるVFXスーパーバイザが監督や撮影監督との人間関係で苦労した話、持ち込まれた素材が使えず全てスキャンし直した話など、さまざまな裏話が披露され興味深いものがあった。

その反面、ハリウッドにおいてもDIはまだ発展途中と試行錯誤の段階である事が伺えた。

今後、DIが技術として、ビジネスとして、ハリウッドでどのような方向に進んでいくのか楽しみである。
 


 


このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。

著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
お願い申し上げます。

転載や引用をご希望の方は、お問い合わせページ
よりご連絡下さいませ。

(C)1998-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎

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[B-DIGITALの洗練されたデザインのロビー]
B-DIGITAL.jpg































 タイのバンコクに、MAYAやレンダーマンをハリウッド水準で本格的に学べるCGスクールがある事をご存知だろうか。

 しかも、経営しているのは日本人女性とそのご主人だ。

 タイの文部省からも認可を受け、タイのCG教育機関として最先端を行く専門学校B-DIGITALをご紹介しよう。


○ハリウッドでの経験を生かし

 筆者は5月、自著「ハリウッドCG就職の手引き」のプロモーション講演ツアーの一環として、タイのバンコクにあるCGスクール、B-DIGITALを訪問した。筆者の英語による講演では、約90人の学生が聴講に訪れるなど、同スクールの盛況ぶりを物語っていた。

IMG_2812.jpg バンコク国際空港から車で30分、鉄道BTSの戦勝記念塔駅からも程近い便利な場所に、B-DIGITALはスタジオを構えている。

 設立は2006年。ハリウッドのデジタル・ドメインで3Dアーティストとして映画「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」「ステルス」等に参加した経歴を持つアンドリュー・ブナグ氏と、夫人の笠井睦子氏が経営している。

 笠井氏自身もロサンゼルスの大手ゲーム・デベロッパーPandemic Studioで「スターウォーズ バトルフロント2」「マーセナリー」等の数々のゲーム作品の制作に参加した経歴を持つ。

そんなハリウッドでの現場経験をフルに生かし、B-DIGITALはバンコクでのCG教育分野では稀有な存在となっている。

 日本を含め、アジアにはCGスクールは幾多もある。しかし、ハリウッドの現場や北米のゲーム市場で、「本場の、そして本物の経験を積んだアーティストが直接教える学校」は、筆者の知る限りではB-DIGITAL以外には存在しないのではないだろうか。


○"タイで唯一"レンダーマンを教える専門学校

  インストラクターはブナグ氏と笠井氏を始めとする5名が担当。学校としては小規模ではあるが、カリキュラムは充実している。

IMG_2818.jpg MAYAの入門クラスから始まり、コンセプト・デザイン、モデリング、テクスチャリング、ライティングとレンダリング、キャラクター・モデリング、Zブラシによるモデリングなど、クラスは多彩だ。

 「LAの美大アートセンターと同じように、伝統的な手描きのスキルや、コンセプト・デザインにも力を注いでいます」と笠井氏。

 
 中でも特筆すべきは、ハリウッドでは定番のレンダーマンによるライティングのクラスだ。

 ブナグ氏のデジタル・ドメインでの経験を生かし、学生達はレンダーマンを駆使したHDRによるフォトリアリスティックなライティング・テクニック等を学ぶ事が出来る。

 また、モデリングとライティングに重点を置いたカリキュラムが、ブナグ氏のバックグランドを象徴している。

 筆者の印象では、ハリウッドにある有名CGスクール、Gnomonに極めて近いスタイルとカリキュラムを採用しており、ハリウッド水準のCGをタイのバンコクで学べるという、大変ユニークなCGスクールと言える。 

 

○タイで学校を設立したねらい

 タイでは、これまで映画VFX、またはゲーム業界のニーズに合わせた、最新のカリキュラムを提供するようなCGスクールは存在しなかった。

 B-DIGITALは、タイ国内だけでなく、世界で活躍できるような有望な人材を育成する事を目指しており、卒業生も既に、Gnomon, Savanah college of Art and Design, School of Visual Arts等に留学し、アメリカでキャリアを積むために励んでいるという。

 
○充実したカリキュラム タイ文部省の認可も 

 世界水準のニーズに合わせた最新のカリキュラムを提供するため、MAYAアドバンスのクラスは「ワークショップ」と呼ばれ分野別になっている。

 カリキュラムの構成としては、まずMAYAの入門クラス、そして分野に分かれてモデリング、テクスチャリング、ライティングとレンダリングのワークショップを個人の要望によってピンポイントで習得できるようになっている。

 授業の水準は高く、課題の量の多さもアメリカ大学レベルで、中には授業についてこれない学生もいるそうである。

IMG_2820.jpg スクールはオープン以来、どのクラスも好調だという。受講生は現地の大学生の他、社会人も多く、企業やNPOからの特別クラスの依頼も受けており、昨年は現地でのACM SIGGRAPHからレンダーマンによるライティングの特別クラスの要望にも対応した。

  タイの美大や有名大学のマルチメデイアの学部と比較しても、MAYAのアドバンス・スキルをしっかり教えている学校は無く、B-DIGITALは最先端を行く存在だ。

 また、タイの文部省の認可も受けている事も特徴と言えるだろう。


○学校の今後の展望、日本からも留学可能 学費はリーズナブル

 近い将来、次世代ゲームの開発に不可欠な、デベロッパーからのアウトソーシングのニーズに対応できるようにB-Digital Productionsを近々に起動させる予定だという。

 タイ国内の学生はもとより、日本を含む国外の学生を増やしていく予定。近々に英語または日本語のMAYA入門またはアドバンスの「ワークショップ」短期集中講座を考慮中との事なので、ご興味のある方は是非、問い合わせてみると良いだろう。

 要望にあわせてマンツーマンの個人レッスンにも対応できるという。

 ちなみに日本からB-DIGITALへ入学する場合は、今の時点では観光ビザでを取得してからの渡航となるが、将来留学ビザでの受け入れ体制も考慮中だという。

 気になる学費だが、現在、MAYA入門クラスは計42時間で、2万5千バーツ。タイ現地では決して安くない授業料だが、日本とタイとの為替の関係で、日本円に換算すると8万円相当(!)と、学費としてはかなりリーズナブルだ。

 これに滞在費を入れたとしても、アメリカのCGスクールに短期留学する半分以下の予算でMAYAとレンダーマンが本格的に学べてしまう事になる。

 しかも、教えてくれるのは元ハリウッドの現場とゲーム制作会社で活躍していたアーティストだ。

 平日はMAYAとレンダーマンを学び、夜は本場のタイ料理やジャズのライブ・ハウスでナイトライフを楽しむ。そして、週末は寺院めぐりやチャオプラヤー河で観光。

 そんなCG留学も捨てがたく、魅力的なのではないだろうか。


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IMG_2822.jpg
  
 














(写真右)ヴィラッジ アンドリュー ブナグ [Viraj Andrew Bunnag]  
 
 タイで生まれ、香港、シンガポールで育つ。パリの美大ESAG Penninghenで美術の基礎を学び、卒業後バンコクでアーキテクトとして働いていた経歴を持つ。その後、米パサデナの美大Art Center College of Designにて3DCGの基礎を学び、デジタル・ドメインに入社。映画「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」「ステルス」等のハリウッド映画に参加した後、タイのバンコクに戻り、CGスクールB-DIGITALを設立。


(写真左)笠井睦子 [Mutsuko Kasai Bunnag]
 
  父親の転勤で小学生で日本を離れ、ロスで育つ。Rhode Island School of Designで美術の基礎を学び、卒業後パサデナの美大Art Center College of DesignのArt Center at Nightにて3DCGの基礎を学ぶ。2003年にPandemic Studioへ参加し、数多くのゲーム作品に参加。中でも 「スターウォーズ バトルフロント2」が有名。現在ご主人と共に活動拠点をタイのバンコクに移し、B-DIGITALを経営。タイでのCG教育分野で活躍中。

笠井氏のPandemic Studio時代のインタビューは「海外で働く映像クリエイター」で読むことが出来る。

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  B-DIGITAL SCHOOL  (2008年現在)

 -CGクラスのパソコン台数は16台(1クラス生徒の人数は16人まで受け入れ可能)

 -MAYA入門クラス:計42時間。
   MAYAアドバンス・ワークショップ:計12-18時間。

 -Autodesk MAYA, Pixar's Renderman for MAYA, Adobe Photoshop のライセンスを所有。

 ※未だ不法ライセンスが蔓延するタイの社会において、正規のライセンスをパソコン台数分きちんと所有しているのは「極めて稀有」なのだそう。

 

この記事は2008年現在のものです。学校の連絡先、住所等は予告なく変更になる事もございますので、ご了承ください。
 


 


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