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「スパイキッズ」シリーズの第3作目である「SPY KIDS 3-D: GAME OVER」が全米で公開となり、
20日足らずで$97million(約114億円)を稼ぎ出す、文句ナシの大ヒットとなった。
また、この作品はハリウッドの映像関係者、特にフィルムI/Oや上映システムの技術者達が注目
する作品となり、その為のテクニカル・セッション&試写会が行われる等、話題を呼んでいる。
なぜこの「子供向けの作品」が注目を浴びているのだろうか?その秘密をこっそりご紹介する
事にしよう。
○ストーリーは、テーマパークのライド映像のようなノリ
簡単にストーリーをご説明しよう。
表向きはゲーム会社のボス、しかし実際はビデオ・ゲームを利用して子供達を操る
"トイ・メーカー"(なんとシルベスター・スタローンが演じている)によって、
ゲーム内のバーチャル空間に閉じ込められたカルメン(アレク・ヴェガ)。
姉が行方不明の報を受けたジュニ(ダリル・サバラ)は、スパイのおじいちゃん
(リカルド・モンタルバン,「スターとレック/カーンの逆襲」のカーン役でSFファン
にはお馴染み)とゲームの中のバーチャル空間に侵入し、ゲームを勝ち進みながら
カルメンを探しに行くというストーリーである。
このように、ストーリーは単純でわかりやすい、あくまでも子供向けの内容だ。
その意味では、テーマパークのライド映像を観ているノリに限りなく近い作品である。
シリーズでおなじみ、スパイの両親の出番は極端に少なく、主役はジュニとカルメンと
おじいちゃん、後はゲームの中に登場する子供達だけに的を絞った配役となっているが、
何故かそれがかえってゲーム的なストーリーをスッキリとさせて、スピード感を加速
させている。
無駄を排した脚本が、不思議と効を奏している例かもしれない。もともと、人間ドラマ
を期待するような作品でもないだろうし(笑)
しかし、ファミリー映画という事もあり、祖父母へのいたわりの気持ちや、家族の絆等が
ストーリーにきちんと盛り込まれている。大人向けのジョークも仕込まれていて、子供達
に連れてこられた大人が鑑賞しても、楽しめるような配慮もきちんとなされている。
また、意表をついたスタローンの登場もそうだが、大統領がジョージ・クルーニーだったり、
ヘンな所に大物スターが登場しているのも、この作品の隠れた面白さと言えるだろう。
○最近では珍しい、立体映画での全米配給
まず、大ヒットの理由の1つとなったのは、この作品が「立体映画」であるという事だ。
60年代に流行した、赤と青のメガネを掛けて鑑賞するアナグリフ方式の立体映画と同じ
フォーマットを採用している。しかし、完全なモノクロではなく、右目が普通のカラー、
左目に赤のフィルターが掛けてあり、赤青メガネによって左右が脳で分離されるように
なっている。
画面から物がバンバン飛び出してくる演出に子供達は大喜びだった。特に、ゲーム中の
バーチャル空間が立体映像で楽しめるのは斬新な演出に感じた。心なしか「トロン」や
「スターウォーズ」等へのオマージュも感じられた。
しかし、このアナグリフ方式は、目が疲れるのが欠点である。長編映画を最初から最後
まで赤青メガネで観ると、気分が悪くなる観客も出かねない。そこで、この作品には
それを配慮した演出が行われている。
まず映画が始まると、シリーズに共通して登場しているFegan Floop(俳優のAlan Cumming)
が登場、「まだメガネは掛けないでね!あとでサインが出てくるから、そうしたらメガネを
掛けてね!」と観客に呼びかける。ある程度映画が進行したところで、サインが出て立体
映像となるのである。
中盤に「メガネをはずせ!」というサインが登場し、しばらく非立体のシーンが続いて
観客の目を休ませた上で、またしばらくすると、また「メガネをかけろ!」というサインと
共に立体映像に戻るという演出が盛り込まれていた。これらのサインのフォントはゲーム調
で、ほとんどゲームをしているような感覚で映画を観ている、そんな感じであった。
映画の全編85分のうち、ほぼ半分近くが立体のシーンだったように思う。
○全編HD撮影とキャメロン監督とのコラボレーション
この作品は、「スターウォーズ エピソード2」と同じく、全編がソニーのデジタル・ハイ
ビジョンカメラで撮影されている。このカメラによる立体映像作品としては、本欄でもご紹介
したジェームズ・キャメロン監督の「Ghosts of the Abyss」があるが、この「スパイキッズ3D」
ではキャメロン監督の協力によって、立体撮影が実現したのだという。
映画の最後のスタッフロールにも、「協力」の欄にキャメロン監督の名前がクレジットされていた。
○膨大な数のVFXショットと、見応えのあるCG
この作品でのVFXショットは850ショットに及んだという。その殆どがグリーン・スクリーンによる
撮影で、サンアントニオ近くのスタジオにおいて数ヶ月に渡り行われた。しかし、それでも普通
の映画作品よりは撮影期間もポスプロ期間も短く、苦労したとの事。
2台のHDカメラで撮影された膨大な素材は、Hybride Technologies、 Computer Cafe 、CIS Hollywood
等の各CGベンダーに送られ、ポスト・プロダクションが行われた。
ゲーム内のシーンでは、驚異的な量のCGが登場する。立体映画だから、右目&左目の両方の素材を
レンダリングしなければならず、しかも3次元的に正しくオブジェクトが配置されていないと
立体視をした時に嘘がバレてしまう。合成による「逃げ」が使えない分、各CGベンターの苦労は
並大抵ではなかっただろう。
○ハリウッドで開催されたテクニカル・セッション
HD撮影による劇場用立体映画としては世界で最初の試みであるこの作品は、業界関係者が注目する
ところとなり、映画関係者を数多く輩出してきた南カリフォルニア大学(USC)のエンターテインメント
・テクノロジー・センター主催のテクニカル・セッションが、8月18日夜にハリウッドで開催された。
その内容もさっくりとご紹介しておこう。
The Entertainment Technology Center at USC
DIGITAL SCREENING SERIES Presents
Dimension Films / SKY KIDS 3-D: GAME OVER
権威ある名門大学が「スパイキッズ3D」を真面目に取り上げるところに、ハリウッドの懐の深さと、
テクノロジーの進歩をエンタテインメントに応用しようとする真摯な姿勢が見て取れる。
この日は、まずDLPによるデジタル・プロジェクションによる「スパイキッズ3D」の試写会が行われた。
上映設備のスペックは次のとおり。
プロジェクター:Christie m15 と Texas Instruments DLP Cinema(TM)の組み合わせ
再生システム :Panasonic 3700 HD D-5 High Definition Tape Deck
音響システム :Dolby CP650, THX 1138 Crossover, Crown Amps, JBL Speakers
この試写会には、ハリウッドの映像関係者が数多く訪れ盛況だった。また、子供を連れてきている
人も多く、子供達の歓声が場内に響きわたっていた(笑)
試写の後は、VFXスーパーバイザーのBrian McNulty氏が質疑応答に立ち、観客の質問に答えていた。
その一例をご紹介しよう。
参加者A : 撮影とポスプロの流れについて聞かせてください。
McNulty氏: 撮影はすべてソニーのHDデジタルカメラです。このHDカメラでの立体視の撮影は、
キャメロン監督が「Ghosts of the Abyss」で確立したノウハウを、キャメロン監督との
コラボレーションにより取り入れました。
撮影はスタジオではD-5のHDビデオテープに記録され、我々はHDモニターで確認しながらの
撮影でした。D-5のHDテープはポスプロに送られ、デジタル・ベータに変換されました。
これは編集用のアビッドに落とす為のものです。プロセス的には、テレビ番組
の製作に限りなく近かったと思います。アビッドでの仮編集の後、最終編集と
カラーコレクション、合成はインフェルノ上で行いました。
完成したデジタル・マスターは、1コマずつフィルム・レコーディングされ、ここから
配給用の上映プリントを起しました。
参加者B :なぜ、ポラロイド方式の上映にしなかったのですか?
McNulty氏: アナグリフ方式だと、特別な上映システムが不要だからです。左目の画像に赤のフィルター
をかけて、右目の画像に合成して1本のフィルムに焼けば、普通の映画館で上映する
だけで済みます。
ポラロイド方式だと、右目用&左目用の映写機が2台必要になりますから、限られた
映画館でしか公開出来ません。配給の問題から、アナグリフになりました。大スクリーン
での上映テストも成功し、視覚上も問題がないと判断されました。
でも、今回配給会社が苦労したのは、「スパイキッズ」のロゴが入った特製の赤青メガネ
を3000万個も用意しなければならなかった事だと思いますよ。
参加者C :ポラロイド方式での公開の予定は?
McNulty氏 :今のところ未定ですが、素材はあるのでリマスタリングさえすれば技術的には可能です。
何か機会があれば、是非ともポラロイド方式での上映もやってみたいとは思っています。
参加者D :今日の上映システムはHDのデジタル・ビデオによる再生ですが、音響は映画館と同じ
ですか?それともトラック・ダウンしているのですか?
McNulty氏 :同じです。6チャンネルのドルビー&THXです。
参加者E : 2つ質問です。何箇所か、立体視がやや不自然なショットがありました。また、赤青
メガネを使用する事によって、カラーコレクションで苦労した点は?
McNulty氏 :お気づきのとおりです。合成時に、演出サイドの要求に応える為に、2次元的に素材を
ずらして視差を調整したシーンがあります。こうすると、なんとなく立体には見えても
不自然な印象になってしまいます。これらは、もっと納期が長ければ、完璧に調整出来た
と思います。今回は、ポスプロの期間が数ヶ月と短かったですから。
カラーコレクションですが、赤青メガネの特性に合わせた調整が必要でした。
例えばゲームの中で子役が投げる「ボーナス点」のタブレットは赤ですが、これはテスト
試写の結果、赤青メガネで観ると立体視に問題が生じたので、タブレットを少し紫にする
事によって回避したりもしました。
子供達からの質問
坊やA : あの~、4作目はあるの?
McNulty氏: ど~かな~(笑)子役達はみんな学校に戻ったしね~。監督さんもしばらくは他のお仕事で
忙しいし。でも、監督さんは何らかの形で、また作りたいな、とは言ってましたよ。
坊やB : さつえいには、なんにちかかりましたか?
McNulty氏: 数ヶ月かかったけど、スケジュール上で一番大変だったのは、子供達(子役)が学校に
通わなきゃならないんで、その為に何度か撮影が中断した事かな。1週間撮って、しばらく
空いて、また1週間、そんな感じだった。シルベスター・スタローンのスケジュール調整
よりも、子供達のスケジュール調整の方が大変だったかもしれないね(笑)
※子供達の質問にもきちんに答えてくれる、こんな環境がうらやましく思えた。こうゆう子供達が大きく
なったら、きっと素晴らしい映画を作るようになるのだろう。
○おわりに
HD撮影による映画製作については、ハリウッドの撮影監督の間では未だ賛否両論が飛び交っているが、
新しいメディアには試行錯誤と時間とアイデアが必要だ。こうした中で、この「スパイキッズ3」は
新しい流れの中で、なかなか上手い使い方をしているように筆者は感じた。
たしかにストーリーは子供向けではあるが、後半のゲーム内でのCGバトルは、しっかり作りこんで
ある為、立体映像で観るとかなり見応えがあり、これだけでも一見の価値はある。
前述のように、この作品は「映画作品」として捕らえるのではなく「長編ライド映像を映画館に観
に行く」感覚で楽しんだ方が良いだろう。
蛇足であるが、筆者が一番興味深かったのは「立体で観るシルベスター・スタローン」(笑)。
普段、映画で観るスタローンは平面だが、この作品は立体映像なので、奥行き感がある分、顔の造り
が良く分る。顔の彫りの深さとか、スタローンはアゴの形がこうなってたのか!、等と普通の映画
ではわからない部分が体感出来て面白かった。
でも、どうせ立体で観るなら、是非今度はブリトニー・スピアーズがいいな…(あほか)
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ハリウッドのメディアが一斉に報じたところによれば、アニマトロニクスのスペシャリストで"SFX(スペシャル・エフェクツ)"のパイオニア、スタン・ウィンストン氏が6月15日(日)カリフォルニア州の自宅で多発性骨髄腫により死去。享年62才。家族に見守られながらの、安らかな死だった。
スタン・ウィンストン氏は特殊メークやアニマトロニクスのスペシャリストとして活躍。
ハリウッドのデジタル革命以前の、視覚効果の総称が"SFX"だった時代から精力的にSF映画等で活躍。
特に1986年の映画「エイリアン」や1992年の「ターミネーター2」、そして1993年の「ジュラシック・パーク」等でアカデミー賞視覚効果賞を受賞している。
1993年にはジェームス・キャメロン氏やスコット・ロス氏らと共に、大手VFX専門会社デジタル・ドメイン(カリフォルニア州ベニス)の設立にも参加。その創設メンバーとしても知られるが、後に方向性の相違等からデジタル・ドメインを去っている。
自ら率いるスタン・ウィンストン・スタジオ(カリフォルニア州バンナイス)は、これまでにも数多くの作品を手掛けた他、アニマトロニクスのみならず、時代の波に合わせてデジタル・スタジオも開設。日本の「南極物語」のハリウッド版リメークであるディズニー映画「Eight Below(邦題:南極物語)」のVFX等も手掛けた。
同スタジオは、現在全米でヒット中の最新作「アイロン・マン」で、アイロン・マンの戦闘スーツを手掛けているが、ウィンストン氏本人は闘病生活の為、直接の制作には関わる事が叶わなったと伝えられている。
ハリウッドに拠点を置く全米視覚効果協会VESでは、訃報を受けて「業界の大きな損失」と追悼のコメントを発表。
また、ウィンストン氏が設立に携わったデジタル・ドメインでは、16日(月)の午前中、全社員に対して訃報を知らせる電子メールが配信され、同社のクルー達はパイオニアの死を惜しんだ。
デジタル革命以前からハリウッドの視覚効果を支え、まさに時代を駆け抜けたパイオニア、スタン・ウィンストン。
氏は亡くなったが、そのスピリッツやテクノロジーは、ハリウッドの制作現場の次世代クルー達に受け継がれていくに違いない。
このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。
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