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[画像: CAフェスティバルn会場となったノキア・シアター]
☆はじめに
夏と言えばシーグラフ。シーグラフと言えばエレクトリック・シアター。大半のCG屋の諸兄はこれに異論はあるまい。
第35回シーグラフは8月11日から8月15日まで5日間に渡り、ロサンゼルスはダウンタウンのコンベンションセンターで盛大に開催された。
今年はLAでの開催という事もあり、参加者は昨年よりも4357人多く、28,432人が参加、出展企業は昨年より5社少ない230社が出展した。
さて、シーグラフは今年から大規模なな統廃合が実施された。
同時に、参加者達は大混乱。統廃合により各カテゴリの見慣れた名称が変わってしまい、直感的に理解しずらくなる等の弊害も出た。
さて、ではこの新生「コンピューター・アニメーション・フェスティバル」の模様をご紹介しよう。
★8つのイベントから構成された「コンピューター・アニメーション・フェスティバル」
シーグラフの数あるイベントの中でもハイライトとなるのが、「コンピューター・アニメーションフェスティバル」だ。
これまでは、主に「エレクトロニック・シアター」と「アニメーション・シアター」の2つで構成されていたが、今年から形態が大きく変化した。
「コンピューター・アニメーション・フェスティバル」は下記の8つのイベントから構成されている。
○Competition Screenings
従来のエレクトロニック・シアターとアニメーション・シアターが統合された。
そして、観客の投票による「観客賞」が新設された。投票は携帯メールによって行われた。
上映は後述する『Nokia Theatre』にて行われた。
○Festival Awards Ceremony
1999年より、コンピューター・アニメーションフェスティバルはアカデミー賞短編アニメーション部門の審査対象となる重要なフェスティバルとして認知されているが、今年は、初の試みとして各賞の受賞式が開催された。
14日木曜午後、ノキアシアターにおいて最優秀賞(Best of Show)、審査員特別賞(Jury Award )、学生作品賞(Student Prize )今年から新設された観客賞(Audience Prize)の、各受賞者が発表され、受賞式が行われた。
受賞者には、CG学会として発展してきたシーグラフにふさわしく、お馴染みのユター・ティポットを模した、ヤカン型のトロフィーが贈られた。
○Festival Talks
ここでは、4日間通算で22種類のプレゼンテーションが開催された。
「ハムナプトラ3」「カンフーパンダ」等の映画のメーキングや、今年25周年を迎える日本のポリゴン・ピクチャーズの歴史の紹介、ディズニーとピクサーの最新短編映画の制作秘話など、盛り沢山の内容だった。
○Hall of History
1979年から1992年までの間に歴史に残ったCG映像の数々、17本一挙に公開。古くはマジャイのデモリール(1979)から、CGのパイオニアである巨匠ロバート・エイブル(1985)、吸収合併により世界最大のCGプロダクションとなるが、すぐに倒産、しかし日本にはその名を残す米オムニバス(1986)、 メトロライト・スタジオが手掛けた有名なAMCシアターのタイトル(1992)、などなど、古き良き時代を知るシーグラフ常連達にはたまらない内容であった。
○Invited Screenings
コンピューター・アニメーションフェスティバルの主催者がジャンル別に選りすぐった作品を招待上映の形で紹介。
・Studios:Eye Candy
著名スタジオで制作されたVFXやフルCGアニメーションの数々を紹介。6月15日に亡くなったばかりの、巨匠スタン・ウィンストンの追悼リールも含まれていた。
・Schools in Retrospect
アニメーション教育分野で世界を代表する学校の作品を一同に集め、1時間にわたって公開。
シーグラフ常連校を含む11校余りの作品が上映された。
・Nothing but Flash!
Flashを駆使した各種アニメーションが大集合。学校のクラスから、デスクトップレベルの制作、そしてギャラリー展示からテレビ放映に至るまで、幅広いジャンルの12作品を上映。
・DemoScene (←空白なしの、1単語表記です)
奇抜なアイデアや最新のGPUテクノロジーを駆使した作品など、斬新かつ画期的な作品を選りすぐり、10本を上映。
・Polygon Pictures: A Studio Retrospective
25周年を迎える日本のポリゴン・ピクチュアズの作品を一挙公開。同社は日本のCG界のパイオニアである、前社長の河原敏文氏が83年に設立。80-90年代には世界中が注目する作品を次々に発表。
あの「ターミネーター2」等のハリウッド大作にも大きな影響を与えた話題作の数々が上映された。
シーグラフが日本のCGプロダクションの功績を称えてイベントを実施するのは極めて異例であり、同社が世界レベルで如何に評価されているかが伺える1コマであった。
[画像: 講演する ポリゴン・ピクチャーズ 塩田周三社長]
・Japan Media Arts Festival
CG-ARTS協会と文化庁が共に主催している「文化庁メディア芸術祭」の受賞・優秀作品の中から、日本の作品を中心に、創造性に溢れ時代を切り開いていく7作品を一挙上映。
・Games: The War Zone
日進月歩の勢いで進化する、ゲームのリアルタイム・コンテンツ。その中から、2008年を代表する作品21本を一挙上映。Electronic Arts, Activision, Nomani等の作品が含まれていた。
○Production Sessions
ハリウッドのVFX大手各社、そして著名人が集結し。4つの お題目を上げてパネル・ディスカッションを繰り広げた。
・大手VFXスタジオのトップが語る「失敗は成功の素」
・『クローバー・フィールド』と『アイロンマン』メーキング
・『カンプーパンダ』 メーキング
・『スピード・レーサー』 メーキング
○Production Studio Nights
夜8時から11時にかけて連日開催された特別イベントで、ピクサー・アニメーションスタジオ、ソニーピクチャーズ・イメージワークス、ルーカスフィルムによる特別プレゼンテーション が行われた。
○Stereoscopic 3D: Research, Applications, and Entertainment
3度目の世界的な流行になりつつある3Dの立体映画に焦点を充てたプレゼンテーションで、7つの異なるパネル・ディスカッションが行われた。月曜日の夜には、「U2」のコンサートツアー"Vertigo"の模様を3Dで収めた「U2 3D」の特別試写も行われ、話題を呼んでいた。
★会場だけはアップグレード
過去数年、LAで開催されたシーグラフでのエレクトリック・シアター会場は、貧相化の一途を辿っていた。
以前はアカデミー賞の会場だった大劇場シュライン・オーディトリュームで華々しく開催されていたが、2004年頃から規模縮小のあおりで会場内のホールを使用するに留まり、シアターとしての威厳や華やかさが叙所に失われつつあった。
しかし、今回は最新型ライブ劇場『Nokia Theatre』での開催となった。ここは昨年10月にオープン、こけら落としにはイーグルズのコンサートが行われ、7100人収容というダウンタウンLAの新名所である。
『コンペティション・スクリーニング』は、ここで開催された。これは、演出面の盛り上がり不足を差し引けば、唯一喜ばしい事であった。
★賛否両論:エレクトロニック・シアターの廃止と統合
これまで、シーグラフの目玉と言えばエレクトリック・シアターであった。
世界中から応募された膨大な作品郡の中から選び抜かれた作品だけが、大きなシアターのスクリーンで一挙に上映されたのが、このエレクトリック・シアターだ。
これを観ればその年のCG&デジタル映像におけるトレンドをすべて体感出来、「エレクトリック・シアターを観ずして、シーグラフを語るべからず」と言われる程のプレミア・イベントでもあった。
そのルーツは、参加者が16mmフィルムと3/4インチのビデオによるCG作品を持ち寄って始まった上映会だった。その後、名称も「フィルム&ビデオショウ」から「エレクトリック・シアター」へと変革を遂げていった。
ところが今年から、エレクトリック・シアターは廃止され、アニメーション・シアターと統合され、『コンペティション・スクリーニング』という新しいスタイルに変わってしまった。
これについて、今年のコンピューター・アニメーション・フェスティバルのディレクターであるジル・スモリン女史は「世界中で一般的な、映画祭と同じスタイルにしてみました」と述べているが、果たして参加者の目にはどう映ったのだろうか?
『コンペティション・スクリーニング』は、旧エレクトリック・シアターではおなじみだったプレショーも廃止された。
例年であれば、開演前に華麗なオルガンの演奏が行われたり、観客参加型の楽しいゲームが行われたり、という開演前の会場を大いに盛り上げるプレショーが行われたものだが、それは廃止され、ただ時間になると機械的に映像が流れ始めるという、言わば旧アニメーション・シアターのスタイル。ただ、ハコがNokia Theatreという豪華シアターに格上げされただけである。
その意味では、格式や華やかさはある意味、失われる形となった。
会期中、コンペティション・スクリーニングの上映は全7回行われ、最初の5回が観客賞の審査対象となる事から、強いて言えば旧エレクトロニック・シアターに相当し、残る2回の上映が、これまでのアニメーション・シアターに相当すると言えるかもしれない。
ただ、旧エレクトリック・シアターでは、例えどの回を選んでも、同じ内容の作品を鑑賞する事が出来た。
しかし新しいスタイルでは、上映内容が7回とも微妙に異る為、すべての作品を観るには3回程、別の回にも足を運ばなければならない。また、何度も同じ作品を観なければならないという弊害も起こった。この点では不満が噴出していた。
だた、旧エレクトロニック・シアターは1枚のチケットで特定の回が1回だけしか鑑賞出来なかったが、新制度では一度チケットを買えば何回でも上映を観れる利点があり、「論文やコースよりも、映像を観る事を主眼においている参加者にとっては、映像が沢山観れるのでありがたい」というポジティブな意見が出ていた事は是非付け加えておきたい。
このように、この新しいスタイルのコンペティション・スクリーニングは混乱と、賛否両論の論議を巻き起こした。
しかし、現在シーグラフは変革中にあり、来年のニューオリンズでは今年のフィードバックを受けて改善される可能性もあるそうだ。来年に期待したい。
★観客賞の新設、各特別賞の授賞式
さて、統合後の新しい試みとして観客の投票によって最高の作品を選ぶ「観客賞(The Computer Animation Festival Audience Prize)」が設置された事がある。
プログラムには、各作品に5ケタの投票番号が指定してある。観客は、14日木曜日の午後3時半までに、自分がベストだと思う作品を1作品選び、携帯電話からメール送信する事により投票が行われた。
結果発表は、同日午後3時45分にNokia Theatreで発表され、授賞式が開催された。
受賞作品は次の通り:
最優秀賞/Best of Show : Oktapodi,フランス
審査員賞/Jurry Award : Oktapodi,フランス
最優秀学生賞/Student Prize : 893(「やくざ」と発音),フランス
観客賞/Audience Prize : Oktapodi,フランス
個人的には、受賞作品がすべてフランス勢だったのが興味深いところであった。また、プロを押さえて学生作品が賞を独占したというのも、大きなトピックスであろう。
★印象に残った上映作品
今年は過去20年の歴史の中で、応募作品締め切り日が最も早かったという。それが影響してかせずか、応募総数は昨年より約200本少なかったそうだ。しかし、それでも世界38ケ国から約700本が応募され、その中から、審査員による厳正なる審査の結果、79本が選出された。
入選した作品は国際色の強いラインナップで、その内訳はアメリカ22本、フランス18本、イギリス14本、ドイツ12本、日本7本(昨年は11作品)、オーストラリア2本。そしてカナダ、ブラジル、スイス、台湾が各1本づつであった。
今年の入選作品を選考した審査員は7名。そのバックグラウンドは、美術館関係者1人、プロダクション系4人、大学関係2名、というプロダクションカラーが強い顔ぶれとなっている。
これは選定作品にも反映されており、今年は優れた見応えのある作品が多く選定されていたが、筆者の個人的な印象では画質は美しいが展開や内容に駄長感がある退屈な作品も目だっていた。
特別賞を受賞した作品の数々は、その部分ではストーリーテリングに長け、テクニカル面とアート面のバランスが程良くとれた優れたアニメーション作品であったと言える。
さて、それでは早速、今年上映された作品の中から、筆者が個人的に印象に残った作品を独断と偏見に基き現地からの速報レポートでお届けしよう。
ちなみにNokia Theatreでの上映は、Autodeskの提供による5.1チャンネルのサラウンド・サウンド音響と、Christieのデジタル・プロジェクターで行われ、上映用マスターの編集はSony Pictures Imageworks Editorialが担当した。
◇『893』 フランス Supinfocom Arles
★★最優秀学生賞を受賞★★
シーグラフ常連校、フランスのSupinfocom Arlesの学生作品。2人の若きヤクザが屋敷の中で武芸を競い合う様子を、もの静かに、しかし情緒あふれる映像で描く。
余談であるが、欧米人から見ると、武道はすべて同じに見えるらしく、 舞台は日本なのに戦っているのはカンフーという、文化誤認が見受けられた。
◇『Animation of Jellyfish with Tentacles』日本 平戸 淳正 / 東京大学
東京大学大学院 河口洋一郎研究室の修士過程2年生、平戸 淳正氏の作品。
独自開発の物理シュミレーションによる、流体中で不規則・非対称的に揺らぐクラゲの様子を動画化。また、河口洋一郎氏の作品画像を背景の一部に使用する事で、現実とは一味違うクラゲの世界を表現した。制作ツールは、POV-Ray(背景以外)、シュミレーションはC言語によるオリジナルだという。
◇『Renkan』 日本 名古屋市立大学 高橋信雄CG研究室
名古屋市立大学高橋研究室の学生を中心に制作された作品。
手続き型のアニメーション手法により、名古屋が持つ「モノづくり」の活況や、工場の生産ラインが持つ特有の所作を抽象したという。制作ツールはオリジナルで、プロシージャル・モデリングを採用した独特のアニメーションが印象的だった。
◇『Appleseed:Ex Machina』 日本 デジタル・フロンティア
映画『エキスマキナ』から見せ場を抜粋した作品。その高い完成度に、上映後の場内からは拍手と「ブラボー!」という歓声が上がり、感動的なひとコマであった。
◇『Barenbraut』 ドイツ Filmakademie Baden-Wuerttremberg
シーグラフ常連校、ドイツのFilmakademie Baden-Wuerttrembergの作品。白黒の2Dアニメ作品。若く美しい女性を巡って展開する、女性と同居する白熊と、近くに住むきこりの3角関係。そんな3人をほのぼのムードしつつもどこかシリアスムードで描く印象的な作品。
◇『BBC Ident "Penguins"』 イギリス Framestore
映画とテレビCMで有名なイギリスのVFXハウスFramestoreの作品。スケートリンクでフィギア・スケートを楽しむ人間達に混じって、大量のペンギン達がリンクを滑り回る。ベンギンはCGで、完成度の高いアニメーションと高度な合成により違和感のない映像に仕上がっていた。
◇『Blind Spot』 フランス Gobelins Iecole de Iimage
シーグラフ常連校、フランスのGobelins Iecole de Iimageの学生作品。
スーパーに押し入った強盗の姿を捕らえた防犯カメラが、たまたま居合わせたお婆さんが犯人であるような映像を、偶然にもアングル的に捉えてしまい、無実のお婆さんが投獄されてしまうというコメディ。強盗が入る様子と、その後の偶然防犯カメラに映った映像が対比がおかしく、ストーリーテリングに長けた作品。
◇『Bolides』 フランス Supinfocom Arles
シーグラフ常連校フランスのSupinfocom Arlesの学生作品。老人ホームで繰り広げられる2人の老人の車椅子による廊下レースをコミカルに描いた作品。最後は勢い余って霊柩車に飛び込むが、その霊柩車も急発進してレースに雪崩れ込むというオチがついており、場内は爆笑の渦だった。
◇『Bridgestone: Scream』 アメリカ Method Studios
サンタモニカにオフィスを構えるMethod StudiosのブリジストンのCMから。道路でドングリを頬張るリス君。しかし、そこに人間の運転する車が!!「あ~~!」と叫ぶリス君、周りにいる動物達も絶叫、車の助手席の女性も絶叫、しかしドライバー本人は落ち着いてハンドルを切り、リス君は無事。ブリジストン・タイヤの安全性をアピールした、コミカルなCM。
◇『Carbon Footprint』 イギリス Jellyfish Pictures
イギリスのJellyfish Picturesが、ディスカバリー・チャンネルの番組向けに作った作品で、ポイ捨てされた空きカンが錆びて朽ちていく様子を早送りで描く。「リサイクル箱に捨てるのに必要な時間は一瞬なのに、ポイ捨てすると還元するまで50年掛かる」というメッセージを添えたインパクトある内容。
◇『Chronos 1.0』 フランス La Maison
タイムマシンで未来にタイムスリップした主人公が、間違って1927年の過去に付いてしまう。タイムマシンを出てみると、20年代の白黒アニメの中に入ってしまい、歌い踊る白黒キャラに囲まれるという爆笑作品。かなり笑えた。
◇『Champ and Champ』 ドイツ Potsdam-babelsberg
シーグラフ常連、ドイツのPotsdam-babelsbergの学生作品。
厳寒の地で「スポンジ・ボブ」風のキャラクター2人が、寒さの中で停留所でバスを待っている間に織り成すドタバタを描いたコメディ作品。場内は終始爆笑で、受賞は逃したが審査員賞にノミネートされた。
◇『Distraxion』 アメリカ Mike Sterm / AnimationMentor.com
オンラインのアニメーション・スクールAnimationMentorの学生作品から。オフィスでいつも同じBGMを掛ける上司の「音の公害」に耐えかねた主人公の反撃とは?最後のオチが笑いを誘っていた。
◇『Lux "Neon Girl"』 イギリス Framestore
ネオンサインだけで表現した、印象的なLux石鹸のコマーシャル。疲れたウェイトレスが、Lux石鹸でシャワーを浴びてリフレッシュ。すると素敵な男性に見初められ、ハッピーエンドという展開。
※YouTubeでも見る事が出来るので、興味のある方はチェックすべし。
◇『Madagascar:Escape 2 Africa』 アメリカ DreamWorks Animation
まだアメリカでも未公開の映画「マダガスカル2」から見せ場シーンを抜粋。公開前の映画は露出度の制限が厳しいものだが、自社でコンテンツを持つDreamsWorksだから出来る技だろう。惜しげもなく見せてしまう心意気には脱帽。
◇『Octapodi』 フランス Gobelins, Iecode de Iimage
★★最優秀賞、審査員賞、そして観客賞の3つを受賞★★
シーグラフ常連校、フランスのGobelins Iecole de Iimageの学生作品。舞台はギリシャ。水槽の中でラブラブの、タコのカップル。が、彼女が魚屋に売れてしまう。起こった彼氏は魚屋のトラックを追いかけ、彼女を奪回。そこで起こった大ドンデン返しとは?というコメディ。学生作品とは思えない完成度と面白さで、4つある特別賞のうち3個をかっさらった超大穴作品。アカデミー短編賞に届く可能性もあり、今年の注目株である。
◇『Our Wonderful Nature』 ドイツ Potsdam-babelsberg
シーグラフ常連校、ドイツのPotsdam-babelsbergの学生作品。モグラの『営み』を爆笑映像で描いた作品。2匹の雄モグラが、1匹の美人モグラをめぐって争うという、自然界ではマァありがちな出来事を、時間軸を拡大しバレット・タイム風に仕上げた作品。
※YouTubeでも見る事が出来るので、興味のある方はチェックすべし。
◇『Shatter』 日本 中間 耕平 / ナブラ
リアルで美しいガラスを表現、ハイスピード映像を一連で見せた作品。被写界深度、塵、埃の表現等の空気感をいかに出すかで苦労したという。使用ソフトはmental ray/softimage XSI・RealFlow・AfterEffects。
◇『StarCraft II Cinematic Teaser』 アメリカ Blizzard Entertainment
映画並みクオリティのゲーム・シネマティクで不動の地位を築いたBlizzard Entertainmentの最新作。囚人がマリーン(ゲーム中のUnit名)に武装して戦うという内容だが、細部にわたるディテールの描写やアニメーションの完成度の高さは相変わらずだ。同社はJob Fairでも求人ブースを構 えていたが、ここだけが長蛇の列だったのが印象的だった。
◇『The Golden Compass』 イギリス Framestore
「ライラの冒険」における一連の白熊バトルのVFXを抜粋したリールで、唯一ハリウッド映画のVFX作品で特別賞の先行対象にされた作品でもある。完成度の高い白熊は、ハリウッドでも「どうせRhythm&Huesが作ったのだろう」と誤認する人が出る程で、アカデミー賞視覚効果賞を受賞したのもうなずける出来栄え。
◇『The Moment』 ドイツ Filmakademie Baden-Wuerttremberg
シーグラフ常連校、ドイツのFilmakademie Baden-Wuerttrembergの作品。車が出会い頭に衝突した瞬間を、スローモーションで描く。宙を舞う野菜や飛び散るフロントガラス、開くエアバック、それでいて何が起こったかわからない主人公の表情などを幻想的に描いた作品である。映画祭の告知CM用に制作されたものらしい。
★最後に
駆け足でご紹介したコンピューター・アニメーション・フェスティバル速報だが、その概要はお伝え出来たのではないかと思う。
今年のシーグラフに残念ながら参加出来なかった方で、コンペティション・スクリーニングの作品郡をDVDで鑑賞してみたいという方は、公式サイトから申し込む事が出来るので、是非チェックしてみて欲しい。
http://www.siggraph.org/publications/video-review/SVR.html
来年のシーグラフはニューオリンズで開催される予定である。みなさんも是非足を運んでみては如何だろうか?
このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。
著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
お願い申し上げます。
転載や引用をご希望の方は、お問い合わせページ
よりご連絡下さいませ。
(C)1997-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎
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○映画「SinCity」メーキング The Orphanage & CAFEFX
概要:日本では秋公開となる「SinCity」のVFXを担当した、
エフェクト・ハウス2社によるメーキング講演
◇The Orphanage
Dav Rauch - VFX Supervisor
Ryan Tudhope - VFX Supervisor
Kristi Valk - Matte Painter
サンフランシスコにあるThe Orphanageでは約360ショットを担当しました。
ご存知のように、この「SinCity」はFrank Millerのグラフィック・ノーベルに極めて忠実に製作されました。
モノクロで、ハイコントラストな独特の世界観を持つ映像を表現する為、 "SinCity LUT"というルックアップ・テーブルも開発され、全ショットにこれを使用しました。
特に、ハイライト部分や、明るい部分を際立たせるのが特徴のLUTです。
この映画では、登場する人物以外は殆どCGです。CGによる倉庫街等の町並みを製作するにあたり、地元サンフランシスコでリファレンスとして使えそうな建造物、倉庫やクレーン等を撮影しました。
これを参考に背景の建物を製作したり、テクスチャーに応用したりしました。実際、数多くのショットで、これらのリファレンスが使用されています。
また、劇中で車が何台が登場します。監督の意向により、「車のコマーシャル風」な、ボディへのリフレクションが強調された質感にライティングされています。
さて、この作品の撮影は、殆どグリーン・スクリーンでのスタジオ撮影でしたが、ここからどうやってマット・ペイントの作業をしたのか、ご紹介します。
グリーン・スクリーンのセットの映像をベースに、シンプルなCGジオメトリで部屋を作り、それにメッシュをマッピングします。
すると、セットのパースペクティブが判りやすく、これがマット・アーティストがマット画を描く際の「あたり」となります。ここからマット画を描いていくのです。
雪景色のシーンでは、ベーキング・ソーダ(重曹)をまいて、それを撮影してマット画に使用したりもしました。
また、雪が降るシーンでは、ショットによって違うパーティクルを使い分
けています。これにはMAYAとHOUDINIを使用しました。
レンダリングされたパーティクル素材の各RGBチャンネルには、
[R:全体]
[G:ヘッドライトで照らされた部分のみ]
[B:ハイライト部分のみ]
という風に、1枚の画像に3つの要素が含まれ、コンポジターが合成時に質感を調整し易いようになっています。
◇CAFEFX
Akira Orikasa, Lead Artist / CG supervisor
Everett Burrell - VFX Supervisor
Domenic DiGiorgio - Animation Supervisor
サンタマリアにあるCAFEFXでも、非常に多くのエフェクトを手掛けました。
この作品は、すべてSONYの新しい4:4:4のHDカメラで撮影されています。従来の4:2:2と、4:4:4のカメラの映像を比較してみましょう。
このように、特にブルー・チャンネルの画質が格段に違うのが、おわかり頂けると思います。4:2:2のブルー・チャンネルはノイズが出ていますが、4:4:4ではそれがありません。
厳密には、4:4:4でもチップの特性上、グリーン・チャンネルに多少ノイズが出て、コンポジット時に多少それが気になりますが、実用度的には問題ありませんでした。
また4:4:4の映像はクッキリとシャープなので、コンポジットの時にわざと遠景を少しボカして、フィルムのようなデプス感を作ったりもしました。
☆CAFEFXのCGスーパーバイザー、折笠彰氏による
「フルCGによる車の衝突シーン」のメーキング講演
ロバート・ロドリゲス監督が主宰するエフェクト・ハウス、Troublemaker Studioから届いたプリビスをベースに、シーンを構築しました。
リアルな衝突シーンを作る為に、車の交通事故や衝突シーンばかりを集めたビデオを沢山見て参考にしましたが、事故のシーンを見続けるのは、正直あまり気持ちが良いとは言えませんでした。
しかし、その観察の結果わかった事は、車の衝突時の車体は、まるで液体のように波打って変形する、という事でした。
そこで、車のローレゾ・モデルにラティスを仕込み、衝突する際の変形をアニメートしました。最終的には、これをハイレゾ・モデルに置き換える訳です。
物理的なシュミレーションは行わず、キーフレームによるアニメーションだけで構成しています。
しかし、その結果はご覧のようにリアリティ溢れるものに仕上がったと思います。
○Star Wars Episide III Revenge of the Sith - Industrial Light & Magic
John Helms - CG Supervisor
Jamy Wheless, Animation Supervisor
概要:泣く子も黙る、「エピソード3」のメーキング講演。
◇冒頭のスペース・バトル
さて、映画冒頭のスペース・バトルがどのように製作されていったのが、順を追ってご紹介しましょう。
今回の「エピソード3」のアニマティックは、約4000ショットを20人のチームが製作しましたが、このスペース・バトルはその最たるものです。
まずは、キーとなる主要戦艦を配置し、構図やバランスを決めていきます。それから、その背後にある膨大な数の戦艦を置いていきます。
オビワンの宇宙船に映り込んでいる素材に関してですが、これはレイ・トレーシングによるものではありません。
専用のシェーダーで、「魚眼レンズで撮影した映像を平面画像に引き伸ばしたようなイメージ」にレンダリングし、それをオビワンの宇宙船に環境マッピングしてあるのです。
これが、そのシェーダーでレンダリングした画像ですが……戦艦とかビーム等が歪曲して沢山映り込んで、不思議なイメージになっていますね。
このスペース・バトルのシーンは、膨大な戦艦、途方もない数のビーム砲、爆発、破片、もろもろで、ものすごい数のエレメント数になってしまいました。
◇CG兵士や建築物について
ところで、映画の至る所に登場するクローン兵士ですが、今回からは殆どCGになっています。モーション・キャプチャによる「CG兵士」なのです。
ジェダイ寺院に様子を見に来たベイル・オーガナ元老院議員を追い返す兵士も、すべてCG兵士です。
一方、相変わらず特殊メークが活躍しているキャラクターもいます。シーンの中で登場するエイリアンには、昔ながらの、役者がラバーやラテックスで出来たマスクを被って演技している「伝統的なエイリアン」もいました。
映画の中では、随所に窓の外を複雑に飛び交う交通機関が見えますが、これらはすべてコースが決まっていて、きちんと規則的に動いています。数が膨大になり、背景用と言えども複雑な構成になっています。
街並みのビル郡も、キチンとモデリングされており、かなり複雑なシーンの1つと言えます。アンビエント・オクルージョンの手法によってレンダリングしていますが、レンダラーはアーティストによって異なります。
メンタルレイを使う人もいればレンダーマンの人もいますし、使用ソフトもXSI,MAXなど様々。それぞれのショットのニーズによっても使い分けました。
◇ヨーダについて
オリジナル・シリーズでは、フランク・オズがセットの床下に潜り込む形でヨーダのパペットを操作する形で、ヨーダがまるで生きているかのような臨場感を与え、素晴らしい仕事をしたのは皆さんもご存知のとおりです。
「エピソード1」では、ラバー(ゴム)で作られたヨーダをリファレンスとしてテスト撮影し、CGのライティングの参考にしました。これがその時のラバー製ヨーダの映像です。<顔がいびつで、場内から笑いが漏れる>
「エピソード2」では、激しいアクション・シーンが必要とされるなど、技術的にも様々なチャレンジを克服しました。
さて「エピソード3」でのヨーダは、初めてサブサーフェス・キャタリングでレンダリングされる方法が採用され、皮膚の透明感等、見え方が一段と向上しています。
また、表情についても、新しいフェイシャル・イクスプレッション・システムを構築する事によって、もう1レベル上の表情の表現に挑みました。
Gary Faigin著の「The Artist's Complete Guide to Facial Expression」という書籍の中で述べられている事なのですが、人間は6つの基本となる表情を持っているそうです。
ヨーダも、それをベースに6つの基本表情システムを構築し、アニメーターがインターフェイス上のアイコンをクリックすると、それぞれ表情を取り出す事が出来ました。
製作中、ジョージ(ルーカス)が現場のアニメータ達に強調していた事は、「君達はアクター(役者)なんだ」という言葉でした。アニメーターの「演技」が、完成映像として出てくる訳ですから。
ヨーダは実在しないので、リファレンスがありません。なので、アニメーター達は実際に自分自身で演技をして、それをビデオに撮影して、アニメートする際のリファレンスにしました。
また、ILMのクルーの中には、趣味でマーシャル・アーツをやっているアジア系のアーティストがおり、その人は竹刀を手に持ったまま、クルリと回す事が出来ました。
この人の演技を撮影し、ヨーダがパルパティーンと対決する際に、サイト・セーバーをクルリと回すシーンのアニメーションに採用したのです。
これらの一連のヨーダのシーンは、ILMのCGスタッフの中でも人気度が高いシーンとなりました。
◇デジタル・ダブル(CGによるデジタル・スタント)
「スターウォーズ」と言えば、画面を乱舞するライト・セーバーです。ライト・セーバーが絡む、数々のアクション・シーンが数多く登場しますが、パルパティーンのすごいアクション・シーン、あれはスタント俳優の頭を、デジタルで差し替えているのです。
特にパルパティーンを演じる俳優イアン・マクダミッドや、ドゥークを演じる名優クリストファー・リーはご高齢であり、空中を飛び回ったりする立ち回りのアクションはムリですから(笑)
特にクリストファー・リーは今年83歳になります。ドゥークが通路から飛び降りるシーンがありますが、83歳のご老体にそんなムリをさせられる訳がありません。
そこで、デジタル・ダブルを使用する事になるのですが、このビデオのように様々なパターンが製作されました。ただ手すりを乗り越えてジャンプするだけのもの、ハードルを越えるように軽々と飛び降りるタイプ等、いろいろです。
最終的にジョージがOKを出したのは、本編で使用されている、宙返りをして飛び降り、着地するバージョンでした。
ただ、飛び降りた後は、実物のクリストファー・リーに差し替える訳ですから、そのつなぎの部分の為に、彼の歩き方を研究したりもしました。
◇こぼれ話:火山の惑星ムスタファー
このシーンでは溶岩が沢山登場するのですが、マットペインティングやCGシュミレーションだけではなく、本物の液体も合成素材として使用しています。
よくシャンプー等の化粧品や、シロップ等の食品に粘り気を増す為に使用されるメチルセルロース(Methylcellulose)を買ってきまして、それをステージに持ち込みエアガンで吹き上げ、撮影しました。
それを合成素材としてコンポジットし、溶岩が吹き上がるシーンで使用しています。結果として、リアルな溶岩が出来上がりました。
◇CGのウーキー
今回初めて、CGウーキーが沢山登場します。これは、毛の無い状態のウーキーのCGモデルですが、なんだか間抜けでおかしいですね(笑)
ウーキーは、ヨーダ程表情を豊かにする必要がなかったので、表情のパターンは数種類だけで済みました。
意外にも難しかったのは、ウーキー達が常にベルトをしている事です。常にベルトと毛のお互いの干渉を考慮しなければなりませんでした。
◇グリーバス将軍
敵キャラの中でひときわ目立つのが、グリーバス将軍です。様々なコンセプト・デザインが考案され、その中から現在のデザインがジョージに選ばれました。
ジョージからは「蜘蛛のような動きが出来るように」というリクエストがあり、その為にかなり複雑なリグが組まれました。
マスクから見える目の部分は「アリゲーター(ワニ)のようにして欲しい」とのリクエストでした。印象的に見せる為に、目の周りの表情テストにもかなり時間を費やしました。
◇新しいデジタル・カメラについて
今回、日本のソニーが新しく開発した10bitのデジタル非圧縮による4:4:4 RGB出力のHDカメラHDC-F950と、SRW-1そしてSRW-5000のVTRの組み合わせで撮影を行いました。
現場にとって、フィルム撮影と比較して便利な点は、日々の撮影でプリントが現像所から戻ってくるのを待たなくても良い事です。
ポスプロ過程においては、フィルム・グレインがないので画像を加工したり合成したりする部分では威力を発揮します。
(備考:映画のエンドロールの最後に、「ソニー厚木の技術チーム、
どうもありがとう」というクレジットが入っているので、お見逃しなく)
◇世界初!ジョージ・ルーカスと娘さんも出演
意外と知られていない事ですが、ジョージと、彼の娘さんが映画の中でエキストラとして出演しているのです。ジョージが自分の姿を映画の中で披露するのは、これが世界で最初の試みです(笑)
映画中盤で登場するオペラハウスの劇場通路のシーンで、劇場にアナキンが入っていく際の左側に、ジョージと彼の娘さんが衣装を着て立っています。
ちょっと映像を見てみましょう。非常にわかりずらいと思いますが、これです。この2人組がそうです。でも、言われないとわからないかもしれませんね(笑)
◇最後に
この作品では、最終的にデリバリーされたフレーム数は370,000、約400名のアーティストが働き、全データ量は140テラバイトにもなります。
レンダリングも大変遅く、1フレームあたり平均で1時間掛かっています。スケジュール部門からは「頼むから、1フレーム3時間以内に押さえてくれよ」なんて言われてしまいました(笑)
しかし、プロダクション全体はオーガナイズされており、スタッフの多くは夕方6時半には帰宅し、家族と一緒に食事をしました。管理の悪いプロダクション体制で、自分達の生活や人生の貴重な時間を失うのは、大変無駄な事だと考えています。
現在のILMは、丁度「宇宙戦争」が終わり、これから「パイレーツ・オブ・カリビアン2」等数本のVFX作業が控えています。夏には新スタジオの引越しもありますし、シンガポールに出来るLucasfilm Animationでは、新しいテレビ・シリーズの製作も始まる予定です。
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