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さて、「キル・ビル」の全米公開から数週間が経過した10月27日月曜日、ハリウッドにあるディレクターズ・ギルド(映画監督協会)の試写室において、「キル・ビル」の試写会&タランティーノ監督とスタッフによる質疑応答が行われた。
予約受け付けがアッという間に満席となったこの日の試写会。会場には映画関係者やタランティーノファンが大勢押し寄せ、試写はものすごい盛り上がりであった。
試写が終わると、タランティーノ監督が登場。編集スタッフ、音響スタッフと共にステージに上がり、パネル・ディスカッションと質疑応答が行われた。
Tシャツの上に「キル・ビル」オリジナル革ジャン、そして下はジャージとジョギング・シューズという、めちゃくちゃラフな格好でステージに上がったタランティーノ監督は、ユーモアを交え「キル・ビル」について、マシンガンのような早口トークで、エネルギッシュに語った。
この日は映画制作者の為の講演なので、会話の内容は極めて現場寄り。
なかなか興味深いものがった。おそらくは、よくある俳優メインの記者会見では網羅されないような、掘り下げた内容であったのではないかと思う。
では、その模様をさっくりと、ここでご紹介しておこう。
○「キル・ビル」は、私がこれまでに撮ってきた3本の映画とは全く異なるカラーとなった作品である。
○元々のアイデアは、「パルプ・フィクション」(1994)に遡る。ユマ・サーマンの1言がキッカケだった。私が「リベンジ・ムービー」をやってみたいとユマに言ったところ、彼女は「花嫁の設定がいいんじゃないかしら」と1言。それが「キル・ビル」なった。
だから、原案は私とユマが2人で考えた事になる。
※エンドクレジットにも、原案 Q&U (クエンティン&ユマ)と記載されていた。
○私は監督になる前は、ビデオばっかり観て「監督になる準備(?)&トレーニング」をしていた。この頃、映画を観た時に印象的な映画音楽に出会うと、その後どこかでその曲のフレーズを聴いただけで、映画の1シーンを思い出す、という事に気がついた。
自分が映画を撮るなら、絶対にそれを実践したいと思っていた。
「キル・ビル」では音楽に力を入れ、選曲にあたっては自分が趣味で集めた膨大なレコード・コレクションの中から、リズムとビートが効いた、印象的な曲ばかりを集めてみた。
音楽とビジュアルとのパーフェクト・マッチを狙ってみたつもりだ。
○使う音楽はかなり初期から決めていた。そのお陰で、サウンド部門では音楽と効果音のコントロールや、テンポやノリの調整等が、普通の映画に比べてスムースに進んだようだ。
○撮影監督は、数人の候補の中から、最終的にRobert Richardson(代表作:「ナチュラル・ボーン・キラーズ」、「JFK」、「ヒマラヤ杉に降る雪」等)に絞った。彼の自宅に、参考用となる映画の宿題ビデオを40本(本当)を箱につめて送りつけ、「これを全部見ろ」と。
すると、2週間ですぐ返事が来て「全部観た。この作品とこの作品は素晴らしいね。もっと他にはないのか。もっと見せろ」と言ってきた。
「なんてこった、I love this guy!!」
所謂、有名な大物撮影監督は何人も知っているが、自分の持つ世界観に近く、自分に共感してくれる撮影監督は極めて少ない。
これは、非常に嬉しかった。
○チャンバラ・シーン等の白黒のシーン※について聞かれる事が多いが、これは言ってみれば、異なる「ビジュアル・パレット」を使って、観客に斬新な印象を与える目的で使ってみた。
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※アメリカ版は冒頭のシーン、そしてチャンバラ・シーンが白黒になっている。
巷で言われているような、「血を見るシーンは白黒になった」という表現ではなく、あくまでも表現者としてのコメントだったのが興味深かった。
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○パルプ・フィクションの時の撮影期間は10週間だけだったが、「キル・ビル」では全部で150日※も費やした。
※巷で発表されている数字とは異なるが、監督はそう言っていた。
○ストーリー・ボード・アーティストは使わない。私は自分で描けるので、自分で描く方が速い。
○脚本の随筆にはものすごい時間と、労力をかけた。だから、もしスタッフの中に脚本をきちんと読み込んでなくて、それでヘマをしやがるようなヤツがいたら、ブチ殺しちゃう(笑)
○青葉屋での80人滅多切りシーンでは、フィルムを100万フィート位使ったんじゃないかと思える位、膨大な量を回した。編集さんご苦労さん(笑)
このショットは、編集作業だけで2ケ月もかかった。
Sally Menkeなくしてこの編集作業の成功はなかっただろう。彼女は私にとって無くてはならないエディターだ!!
(ステージに同席した編集のSally Menke女史、テレまくり)
○青葉屋のシーンは北京で撮影したが、マンダリン(北京語)・カントニーズ(広東語)・日本語・英語(アメリカ英語、オーストラリア英語)の4ケ国語が飛び交う、ものすごくインターナショナルな現場だった。
カントニーズを日本語に訳して、それをマンダリンに訳して、それから英語に訳して、というものすごい空間だった。その意味で、この映画はインターナショナル・スタッフによるインターナショナル・ムービーだと言える。
○ぶつかり合う刀のサウンド・エフェクトは、よりアコースティックに、よりオーガニックな響きを出す為、次のようなレコーディング方法が採られた。
大編成オーケストラで映画音楽のレコーディングをする為の、大きなオーケストラ・ピットで刀の生音を録音。これにより、シンフォニー・ホール特有の、5~7秒の自然な残響が生まれ、それが刀がぶつかりあう音をリアルに、美しく、そしてアコースティックに捕らえる事が出来た。
電子的に作り出した効果音とは、また一味違う印象を与えたはずだ。
○登場する刀は、各キャラクターによって微妙に違う。例えば、オーレン・イシイの刀は、すごくクリアーで鏡面反射率が高い、とかキャラクターの性格を反映して作ってある。
これには日本人スタッフが大活躍した。彼らの働きぶりはすごくプロ意識を感じさせられる、素晴らしいものだった。
○アニメのシーンは、日本のホテルで、自分で演技をしてゼスチャーを交えながら、アニメ・スタッフに展開を説明した。
子供のオーレンが「Whimper」という言葉を飲み込むところとかね。こんな風に描いて欲しい、というのを実際に演じて見せた訳だ。
それを通訳が日本のアニメーションのスタッフに説明した。音響効果はアメリカで作業をしたが、声優さんは日本のアニメ界でも有名な方にお願いした。
○竹筒がカコーンと音をたてるWater Dipper(鹿おどし)を、日本らしさを醸し出すのに非常に効果的だと思い、雪景色のシーンに使ってみた。
ただ、鹿おどしは水がいっぱいになるとカコンと倒れるという「一定周期」で動くので、これが複数ショットにまたがって登場するには技がいった。
ただ単にフィルムを繋いだだけでは、鹿おどしのタイミングがバラバラになってしまう。一定間隔をおいてカコンと倒れるように、観客に違和感がないように見せる為、編集の際はコマ割りに気を配った。
例えば、鹿おどしが、ザ・ブライドにタイミング良く被って見えるシーン。
このシーンはここでカコンとなるので、そこから何コマさかのぼってカットすれば、その前のシーンのカコンに丁度つながる、など。
これは、編集さんの見えない努力だね。
○「プッシー・ワゴン」はプロダクション・デザインのDavid Wascoのアイデア。「君のドリーム・カーを作ってみてくれ」と頼んだら、あ~ゆ~車になった(笑)
キーチェーンは、アート部門にあったCADシステムで作った。
○CGはあまり使わない。登場するのは殆どミニチュア。飛行機と東京の街、ザ・ブライドの頭を打ち抜く拳銃のクローズアップ・シーンは、すべて巨大なミニチュアだ。
CGを使わない理由はいろいろあるが、「リアリズム」を追求したいという事が大きい。
最近の「ターミネーター3」等は、CGをすごく多用している。映像は確かにものすごいのだが、ある意味、リアリズムに欠けるように思える。リアリズム以前の「何か」が違う、そういう印象がある。こうした理由から、CGはあまり使わない。
○最近、他の人からよく「流行のHDカメラで撮れば良いのに」というアドバイスをよくもらう。扱いも簡単だし、現像しなくて良いし、地獄のようなディリー試写も必要ないし(笑)。確かに便利は便利なのかもしれない。
でも、単純にHDカメラに触れる機会がなかったという事もあるが、私は基本的にフィルム撮影が好きだ。
「フィルムが好き」、それが一番大きな理由かもしれない。
○「キルビル」Vol.1はリベンジ・ムービー。Vol.2はスパゲティ・ウエスタン※だ。
Vol.1の劇中で千葉真一演じる服部半蔵は「復讐は、森だ」と説いているが、まさにVol.2は「森」だ。
現在はまだVol.2の作業中だが。是非楽しみにして頂きたい。
今日は、みなさん、来てくれてどうもありがとう。
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※スパゲティ・ウエスタン
60-70年代にイタリアで製作された西部劇の総称。「荒野の用心棒」等が有名。
その多くにはクリント・イーストウッドが出演している。総じて低予算・低画質
・フィルム粒子が粗くザラザラの絵が特徴と言えば特徴(笑)。
血生臭く、野蛮な雰囲気がウリでもある。
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★タランティーノ監督に直撃。「怨み節」の謎に迫る?
終演後、タランティーノ監督に直接質問をする機会があった。
監督は、終わった後もステージ上に残って、参加者の質問に答えたり、一緒に写真に収まったり、サインをしたり、と大人気であった。
筆者も、1つ気になっていた事があたったので、質問してみた。
筆者:「日本の曲が沢山登場しましたね。特に梶芽衣子の『怨み節』がエンディングテーマだったのには、とっても驚きました」
監督:「ああ、私はメイコ・カジの大ファンでね。彼女は『Sasori』(女囚さそり)という作品で有名なので、是非、メイコの歌を使いたいと思っていた。
それに、『怨み節』の歌詞の内容と、メイコの演じた『さそり』の役柄が、ユマの演じたザ・ブライドの生き方とすごく似ていたので、丁度良いと考えたんだ」
著者:「そうだったんですか。…でも、なんで、アメリカ人の監督が、70年代の東映の『女囚さそり』なんかをご存知なんでしょうか?」
監督:「そりゃ、知ってるさ。は~はははははははは♪」
タランティーノ監督は、全くエラぶる所のない、非常に気さくな性格の方で、そのラフな格好も手伝って、非常に親しみの沸く人柄だと思った。
筆者が質問する直前、編集のSally Menke女史が、会場におられたお母様を「これ、ウチの母です」と監督に紹介していた。
監督が背をかがめて「あ~、お母様ですか~。お綺麗ですね~♪」とニコニコ話しかけているのを見て、この人は本当に良い人なんだな、と思うと同時に、ホンマにこの人があのバイオレンスな映画を作ったんかい?というギャップが妙に可笑しかった。
★日本とアメリカでのウケる場所の違い
最後に、蛇足ではあるが、日本とアメリカの映画館では、観客の文化的背景のの違いから、ウケる箇所も違う。それをチョコッとだけ、ご紹介しておこう。
ちなみにアメリカ人にウケていたシーンは、
○ザ・ブライドが、バックス医師のサングラスを掛けるシーン。
○寿司屋でのギャグ。千葉真一の演技&セリフが、かなりウケていた。
○ゴーゴー夕張(栗山千秋)がザ・ブライドと対決する直前、「フフフフ、お願いしてるつもり?」と声高に笑うが、ここでなぜか場内ではグフグフ♪と喜んでいる観客が多かった。
○田中の親分が不満をあらわにした際、興奮した別の親分がサッ扇子をと取り出し、パタパタと扇ぎ始めると、場内から「あははは」と笑いが漏れていた。
○オーレン・イシイが「That's fucking time!!」と叫ぶと、
場内から拍手が起こった。
○ザ・ブライドが最初にヤクザを滅多切りにした時、場内からヤンヤヤンヤと拍手が起こった。
○サンフランシコを訪問時、ユニオン・スクエア近くのアイマックス・シアターで、35mm上映された「キルビル」(ほぼ満席)を観た。その際、観客の半数位が映画が終わっても帰らず、エンディング・テーマの梶芽衣子が唄う「怨み節」を最後まで聞き入っていたのが、非常に印象的であった。
…等だが、日本では如何であろうか?
ちなみに、この「キル・ビル」は、日本版とアメリカ版は編集がやや異なるそうだ。また、前述の白黒シーンも、日本版ではカラーだと聞いている。
筆者はアメリカ版しか鑑賞していないので、日本版も是非鑑賞し、両社を比較してみたいとは思っているが、果たしてチャンスはあるかな?日本版のビデオの発売が待ち遠しい今日この頃である。
ミラマックスの英語ページ
http://www.kill-bill.com/
日本語ページ
http://www.killbill.jp/
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(C)1998-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎
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ハリウッドに、VESという協会があるのをご存知だろか。
これは「Visual Effects Society」の略であり、ハリウッドを中心とする、ビジュアル・エフェクツ、つまり視覚効果産業に従事するプロフェッショナル達で構成される、「映像のプロの、プロによる、プロの為の協会」である。
会員になるには、最低5年間の現場経験を有する事が条件とされている。しかも入会の際には現役会員2名の推薦&署名が必要とされ、最終的には年2回だけ行われる理事会の承認が得られないと正式には入会出来ない。それ故に、会員はハリウッド&アメリカのショウビズ界において活躍しているプロばかりで構成されている。現在の会員数は約900人との事である。
会員になると様々な特典があるが、嬉しいのが月に1回は開催される、無料試写会であろう。VFXを駆使した新作や、デジタル・テクノロジーをふんだんに使った長編アニメ作品が完成すると、その公開に先かげて試写会が行われる。場合によっては簡単なメーキング紹介が行われる事もある。
本欄でよくご紹介するシーグラフの地方分科会、"LA SIGGRAPH"の月例会もこれに近い要素を持つが、LA SIGGGRAPHはCGに特化した内容であるのに対して、VESの試写会は「映像現場寄り」の視点で開催されている。
さて、このプロの協会であるVESでは毎年1回、会員を対象としたフェスティバルを開催している。
開催期間は週末の金土日を利用した3日間だけと短いのだが、その内容は非常に充実している事でも有名。また、会員でなくとも、チケットを購入しさえすれば誰でも参加する事が出来、一般や学生にもその門戸を開放しているのも特徴と言える。
今年のフェスティバル「VES2003: The Festival of Visual Effects」は6月27日(金)から29日(日)の3日間、ハリウッドのシネラマ・ドームの前に位置する映像教育機関、LA FILM SCHOOLで開催された。
殆どの講演のチケットがSOLD OUT(売り切れ)になる程の盛況ぶりで、今年も大成功に終わったフェスティバルだった。
今回は、その全容を簡単にご紹介する事にしよう。
VES2003: A Festival of Visual Effects
June27-29,2003 Los Angeles CA
★6/27(金)
○The Animatrix Screening
既にお馴染み、9本の短編アニメーションで構成されるオムニバス作品「アニマトリックス」の試写会。
アメリカでも既にDVDが発売されているが、これを大きなスクリーンと優れた音響システムにより、フィルム上映で鑑賞してもらおうという趣向であった。
初日ではあるものの、平日の朝9時という事もあり、会場の観客入りは40%位と少なかったが、この試写会で初めてこの作品を拝むという人も少なくなく、客席には学生の姿も目だっていた。
9本のエピソードのうち、スクウェアUSA/ホノルルスタジオの最後の作品となった「Final Fight of the Osiris」はひときわ完成度が高かった事もあり、一番最後に上映され注目を浴びていた。
○Shorts(短編)
CGを駆使した短編アニメーション作品を一堂に集めた試写会。
今年のアカデミー賞でオスカーを獲得したSony Pictures Imageworksの「Chubb Chubbs!」や、Pixarが数年前に製作した「for the Bird」、そして映画「Monter's Inc」のキャラクターMikeとSulleyが登場するPixarの短編「Mike's New Car」等、数々の作品が上映され非常に興味深いものがあった。
「Mike's New Car」トレーラー:
http://www.apple.com/trailers/disney/mikes_new_car.html
ここでは世界各国の作品が上映されたが、これらの作品郡の中で最もウケたのは、意外にも日本からの超大穴招待作品「スキージャンプ・ラージヒル・ペア」である。
非常にシンプルなゲーム調ローポリ風CG作品で、謎の冬季五輪において各国代表の2人組ペアが、スキージャンプ最中に空中で創作演技を行うという、全くもって意味不明の作品である。
この作品が始まると、まず場内には「????」という雰囲気が充満。続いては爆笑の渦。特に「アメリカ代表のペア演技"ジーザス"」では、場内は大爆笑と拍手で埋め尽くされた。
ハリウッドのプロ達を腹を抱えて笑わせた、おそるべき作品である(笑)。
「スキージャンプ」のオフィシャルサイト http://www.jump-pair.com/
○Making of X-Mens2
ご存知「X-Men2」のメーキング講演。内容的には、先日本欄でご紹介したLA SIGGRAPHの月例会での講演内容と殆ど同じであった。
関連記事:
○Tron Retrospective
1982年に公開された、ディズニーの「Tron」。当時、興業的にはあまり成功しなかったものの、「当時の最新鋭」のCG技術と、アニメーション技術、そしてオプチカル技術を駆使した革命的な映像造りは多くの映像作家に影響を与え、今でも伝説的カリスマ作品として話題に上る事は多い。
そんな「Tron」の製作者を一堂に集め、当時の思い出を語ってもらおうという、非常に贅沢な座談会が行われた。
この座談会のメンバーがすごい。
監督のSteven Lisberger、プロューサーのDonald Kushner、VFXスーパーバイザーのHarrison Ellenshaw、当時の新進CGプロダクション「トリプルアイ」にいたArt Durinskiを筆頭に、かの有名な巨匠シド・ミード(Sydney Jay Mead)までパネラーとして登場。
CG黎明期における爆笑ネタや、65MMカメラでの撮影等の苦労話などが暴露され、非常に興味深い歴史的な座談会であった。
その内容を大幅に要約し、さっくりとご紹介すると:
・「Tron」という作品にはいろいろ見方があるが、我々は「アニメーション作品」だと考えている。アニメーションに実写やCG素材を合成した作品なのだ。
・600,000枚もの白黒セルを4台のアニメーション・スタンドで65MMカメラに撮影した。
・65MMだと大判のセルが必要になるが、これによってセルを重ねた際の誤差やズレを目立たなく出来るし、65MM特有の高画質によって合成時の精度を向上出来た。
・セルの作業は、85%近くを台湾に発注した。
・65MMのオプチカルプリンターはロサンゼルスでは希少だった為、多くの合成は撮影時に行った。つまり、カメラを何度も何度も巻き戻し、多重露光して撮影するという荒業の連続だった。フィルターをかけて色をつけた。バイクのショット等は合計17回も多重撮影しなければならなかった。
・シド・ミード談:1980年の10月8日に初めて契約を交わしたのを今でも覚えている。私はタンクや飛行機などをデザインしたが、最初はイメージを掴むのにかなり苦労した。
・当時、あのエフェクト・アニメーションの製作は「超高空で、飛行機のドアを開けて、パラシュート無しで飛び降りる」のと同じ位、無謀な事だった。
・スタッフは8時間3シフトの24時間交代が基本だったが、みんな机の下で寝ていた。
・朝6時に交代の為にスタジオに行くと、 みんな泣いてる。撮影に失敗して48時間分の作業が全部無駄になった事が発覚した瞬間だった。
・当時のCGの描画は、大型コンピューターを使って、1ポリゴン1秒かかった。
・プログラムはフォートランだった。
・トリプルアイ社のレンダリングマシンは「フングリ」とかいう名前で、値段は300万ドルした。(今の円相場で3.6億円。当時だと6億円[$1=202円])
・映画が完成した最初の記者会見では、質問がたったの2つしか出てこなかった。
(1)どんなカメラで撮影したのですか?
(2)模型は作ったのですか?
この2つだけだ。あとは長い沈黙だった(笑)。その位、突飛な作品だったのだろう。
このような座談会だったが、プレゼンターからは歯に衣着せぬ爆弾発言も多数飛び出し、業界の内輪話も炸裂。まさにVESならではの講演となった。
★6/28(土)
○Making of Terminator3
全米で7月2日より公開となった「Terminator3」のメーキング講演をILMが中心となって行った。
全米公開に先立って行われた為、撮影・録音の禁止と、「今日の映像が明日のインターネットに流出するような事があると、来年からこのようなイベントが難しくなる。くれぐれも自重して欲しい。また、今日見聞きした情報を、公開前に絶対に他人に口外しない事」という戒厳令も出された。
この詳細は後日、ご紹介したい。
該当記事は、コチラ:
○Making of Finding Nemo
全米で大ヒット中のPixarの新作フルCG長編アニメ「Finding Nemo」のメーキング講演。
PixarからSupervising Technical DirectorのOren Jacobと、Production DesignerのRalph Egglestonの2人がプレゼンテーションを行った。
ここで詳細をご紹介出来ないのが残念だが、
・製作に4年間を費やした事
・他の作品の10倍大変だった。いや、冗談ではなく本当の話だ。
・パステルによるプロダクション・デザインとアートボードによって、カラーのディレクションに力を入れた事
・1場面に100個近く登場するクラゲは32レイヤー位で合成されている
・マルチレイヤーで合成する事により、レンダリング時間を節約した
・海中のサンゴ等の表現には独自にシェーダーを開発
・水のシュミレーションの話
・すべてのジオメトリが、実は水流に合わせて微妙に動いていたりする
等の製作秘話が、惜しげもなく披露された。
詳細は、おそらくSiggraph2003でもお楽しみ頂ける事と思う。
○Making of Hulk
ILMによる、全米で公開中の大作「Hulk」のメーキング講演。
総勢200人のチームが1.5年掛かって製作した、その舞台裏が紹介された。
ここでは、
・コミックをベースに慎重にデザインを決めた経緯
・色があのグリーンに決まったエピソード
・髪の表現の秘話
・鬼VFXスーパーバイザ(笑)のデニス・ミューレンの話
・監督のAng Leeは9ケ月間、現場に「つきっきり」だった話
・なぜHulkを全裸にしなかったか?それはね…
・Hulkを泣かせてみたが失敗した話
・手付けとモーションキャプチャーとの比率、そしてそのメリット
などの秘話がバンバン飛び出した。
○Hulk Screening
メーキング講演の後は、Hulkの試写会が行われた。
★6/29(日)
○Making of The Core
全米公開中の「The Core」のメーキング講演。ここでは、
・地球内部の話なのでその描写に苦労した話
・鳥が狂乱するシーンはヒッチコックの「The Birds」をオマージュした
・4箇所のCGベンターに作業を依頼した話
・インターネットによる「デジタル・デイリー」(デジタルによる1日1回の試写)を行い距離が離れたCGベンダーとの作業を円滑に行った話
・サンフランシスコの金門橋が破壊されるショットの紹介
・3種類の色の(パンに塗る)ゼリーを買って混ぜてみて、溶岩の参考にした話
・金門橋のショットでは、ある車の中にスタン・ウィンストンの息子がいた話
…などが披露された。
○Making of The Matrix Reloaded
先日本欄でご紹介したLA SIGGRAPHの月例会とほぼ同一内容だった。
関連記事:
LA SIGGRAPH主催 "The Matrix Reloaded" & ゲーム メーキング (06/21/2003)
○Music Videos
高い予算で時間を充分に掛けて製作されるハリウッド映画とは裏腹に、
①極端に短い納期で
②非常に安い予算で
③非常に高いクオリティが要求される
事が多いという、ミュージック・ビデオ・シーンで使われているVFXの実例を紹介。
ここでは
・Linkin' Park "Points of Authority"
・Lucy Woodward "Dumb Girl"
・George Michael "Freeek!"
の3作品が紹介された。
"Freeek!"だけは予算も規模も大きい作品だが、それ以外は低予算作品。
しかし、中でも最もインパクトがあったのは、超低予算&納期3日で作ったというLucy Woodward "Dumb Girl"のVFX部分のメーキング講演だった。
その直前まで、ハリウッド映画の潤沢なメーキング講演を延々と観た後だった事もあり、非常にメリハリの効いたプレゼンテーションに感じた(笑)
最後の質疑応答では、観客の1人からこんなコメントも登場した。
「この週末、私がこれまでに見てきたのは、ハリウッドの巨大プロジェクトにおける、製作も長期に渡る豪華で贅沢で偉大な作品ばかりだった。今あなたが見せてくれたのは、『その反対側の世界』にある、別の意味での偉大な仕事だ」(場内爆笑)
★おわりに
今年のVES2003は、このような形で無事終了した。たった3日間の会期にもかかわらず、非常に有意義な時間を過ごす事が出来、凝縮された中にも異様な充実感と達成感が残った。
1日に3つのメーキング講演を聴くのはかなり大変でもあったが(笑)、シーグラフ等のCGコンベンションとはまたひと味違った面白さがあったと思う。
興味のある方は是非、来年は参加されてみては如何だろうか?
Visual Effects Societyのオフィシャルサイト: http://www.visualeffectssociety.com/
このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。
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