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前回、VESフェスティバル2003の概要をレポートしたが、今回はその中でも目玉である「ターミネーター3」のメーキング講演の模様をお届けしよう。
なるべく「ネタばれ」を含まないように書くが、「公開までは一切余分な情報は読みたくない」というファンの方は、本レポートを保存しておいて、公開後に一読してみるのもまた一考かと思う。
さて、この講演はVES2003の中日である6月28日(土)の朝10時から行われた。全米公開は7月2日で、公開前という事もあり写真・ビデオ撮影、録音は厳禁。メモを取る事だけが許可された。
また、主催者からは「今日お見せするのは公開前の極秘の映像です。これらは、業界のみなさんの今後の参考や、業界の今後の為に役立ててもらおうと、ILMが提供してくれたものです。もし、明日のインターネットでこの画像が流出とい事態に発展すると、来年からVESではこのようなイベントが開催出来ない恐れもあります。くれぐれも7月2日の公開までは情報を伏せてください。また、今日見聞きした情報を他人に口外しないようにお願いします」という"戒厳令”も敷かれた。
今では既に全米公開も始まり、マスコミ各社でも「ターミネーター3」の話題をとりあげるようになり「解禁」となったので、本欄でもこのレポートをお届けしたいと思う。
Terminator3 / VES2003
Saturday June 28,2003 10:00am-12:00pm
パネラーの顔ぶれ:
Pablo Helman / ILM Visual Effects Supervisor
Samir Hoon / ILM Accociate Visual Effects Supervisor
Dan Taylor / ILM Animation Director
○スタン・ウィンストンも続投
このプロジェクトでは、ILMの150人のスタッフが8ケ月かけてVFXの製作に取り組んだ。
これは、ピーター・ブルーベンによる初期のT-X(女性ターミネーター)のアートワーク。最終版とは多少デザインが異なるが、ほぼ原型は同じである事がおわかり頂けるだろう。このデザインは、スタン・ウィンストンとのコラボレーションで行った。
スタンは前作のT2でも、アニマトロニクスを担当しており、今回のT3でも続投という形になったのは自然な流れだ。
○10倍のショット数
いろんな意味で話題を呼んだT2のエフェクトだったが、12年前の映画という事もあり、VFX面では常に新しい事が要求される。ちなみに、T2の時VFXショットは47ショットだった。それがT3ではなんと500ショットもある。
○膨大な数のアートボード&デザイン画
さて、これは「キラー727型」のメタリックのデザイン画、こちらは「ハンターキラー」と呼ばれるミサイルを装備した小型攻撃艇のデザイン画だ。このように、さまざまなアートワークが準備された。
クリエティブには限界がなく、膨大な数のデザインが用意された。映画の中で実際に使用されたのは、その中の「ほんの1部」と言ってよいだろう。
○セットにおけるミニチュア撮影の「トリック」
これは、川底に沈んでいる無数のガイコツのオリジナル・ショット。水中ではなく、セット撮影である事がご理解頂けると思う。水の質感や、空から差し込むサーチライトの光等は、後からコンポジットで足しこんだものだ。
ガイコツのミニチュアは遠近感を出す為、近くのガイコツは実物大、遠くは小さめ、遠景用はピンポン玉程の大きさ、とサイズを変えて並べる事により、限られたスペースのセットより川底が広く遠近感があるように見えるよう、工夫している。
これは、高粒子加速器の実物大セット。この上でT-Xが溶けるショットで使用された。
○女優Kristanna Lokenについて
さて、今回話題の女性ターミネーターだが、T-Xを演じる女優Kristanna Lokenは大規模な映画は初めて。
映画の中では冷淡な表情で人を殺しまくるが、撮影現場はまだ珍しいらしく「これ、どうやって撮るんですか~?」とか「このエフェクト、どうやって作るんですか~?」と作業に興味深々。
とってもフレッシュな女優さんだった。演技も上手だし、魅力的で華もある。彼女はきっとビッグ・スターになるだろう。
○アニマティック
作業の初期では、アニマティックを作ってアニメーションの参考にする。モーション・キャプチャーを多様したが、これは作業時間の節約という部分でもすごく重宝した。
ちなみにフルCGのT-Xは、女優Kristanna Lokenの演技をモーション・キャプチャーした。
これは戦闘シーンのアニマティックの一例。なぜかターミネーターの顔がヨーダやETになっているが、これは単なる冗談だ。(場内爆笑)
○草原での爆発シーンの衝撃波&爆煙は砂
また、これは新型のT-850ターミネーター(シュワちゃん)が捨てた、体内爆弾が草原で爆発するシーンの合成素材。爆発で迫ってくる爆煙は、CGのパーティクルではなく、セットに同心円状に砂を敷いて、それを中央で爆圧を加えたのを撮影している。ファイナルはこんな感じ。結構迫力ある仕上がりになった。
○シュワちゃんの「デジタル・メーク」
これはT-Xに左顔面を破損されたT-850のショットだが、これはメークではなくデジタルで処理している。
このように、シュワちゃんはマーカーのついたグリーンの半面マスクを顔に貼りつけて、後からデジタル・トラッキング&マッチムーブを行い、ここにCGでメタリックの顔面を合成して、破損した皮膚からメタリックの顔面が見えるようにした。
メークアップのシーンと見分けがつかない仕上がりにする事がチャレンジだった。
○ザ・便所バトル
さて、これはT-850とT-Xがトイレで戦うシーン。まずこれがファイナルショット。
トイレでT-850がT-Xを掴んで壁や便器に叩きつけるショットだ。これを役者が本当にやるとすごく痛いので(笑)、撮影はこうやって行った。
(シュワちゃんが、グリーンのクッションを振り回して演技しているだけの映像が流れる)
これをモーション・コントロールで撮影。そして、トイレのセットを配置。壁や仕切りや便器がシュワちゃんの演技と同じタイミングで破壊されるように仕込みをして、モーション・コントロールでおなじカメラパスを撮影。そして、最終的にはシュワちゃんが振り回しているグリーンのクッションをCGでT-Xに差し替え、トイレのセットの素材と合成した。このシーンのT-XはすべてCGだ。
○後ろに垂れた頭部を掴むシーン
これは、T-Xに踏みつけられ、首が破損し、頭が後ろに垂れ下がったT-850が、両手で頭を掴んで首に差し込んで直すシーンだ。最初、シュワちゃんには皮ジャンを着てもらい、作り物のダミーの頭が後ろに垂れ下がった情態で、肩ごしに両手を上から背部に回し、垂れた頭を持ち上げる、という演技をしてもらった。
でもこれは難しかった。皆さんも実際にやってみるとわかると思うが、普通の人だと、両手を上から肩越しに背後に回しても、肩より下へは手が回らない事がわかった。シュワちゃんも頑張って演技したが、軽く後ろに傾いた頭には手が届いても、後ろにダランと垂れ下がった頭には届かなかった。
そこで、両手はすべてデジタルで置き換える事にした。体がとっても柔らかいスタントマンにこの演技をしてもらってモーション・キャプチャし、これをベースに腕はCGで、皮ジャケットはクロスシュミレーション、ボディはシュワちゃん、頭部は合成、こうしてこのショットが完成した。
○T-Xの変身&変形シーン
次は、墓地で[ケイトの婚約者]→[T-Xの骨格]→[T-Xの女性ターミネーター]へと変身するシーン。このテの変身シーンは、役者の背丈が同じでなければ難しい。幸い、2人ともおなじ位の身長だったので助かった。モーション・コントロールカメラで複数パス撮影し、この撮影は1日がかりだった。
さて、これはT-Xの腕が、銃から手に変形するショット。T2ではこれを2Dのモーフィングで処理したが、T3ではすべて3Dで処理した。この為に特殊なプラグインを開発。パーティクルを応用し、パーティクル&ブロッブ(メタボール)の組み合わせにより、肘の所から手の先にかけて、序所に[銃→手]の変形が行われるようにした。レンダリングにはメンタルレイを使った。
金属の腕が溶けるシーンでは、流体シュミレーション(Fluid Simulation)を使った。これはすごく難しく7~8週間を要した。実写をマッチムーブし、ボリュームによるFluidを構築、これにMAYAのパーティクルを組みあせた。シュミレーションにはペンティアム4を搭載したマシンを使用した。
○核爆発
予告編にも登場するこの核爆発。最初、3次元空間での正確な流体シュミレーションを行ったが、流体計算だけで2日間もかかってしまった。う~む、重すぎる…。これでは調整する時間が…。そこで、計算をはしょって、2Dでのシュミレーションに切り替えた。
結果は、ご覧のように上々だった。
…とこのような内容であった。最後は質疑応答が行われた。
質疑応答:
Q:キノコ雲は、ものすごくリアルに出来ていました。今まで映画の見た中で、一番リアルだったのではないかと思います(ここで場内からも拍手が起こる)。2Dのシュミレーションを、どうやって3Dに置き換えたのですか?
A:やり方はこうだ。前述の3D空間での流体シュミレーションを、平面でスライスする形で2Dの流体シュミレーションとして計算させる。切り取る位置を変えて沢山のスライスをした後、これを板を回転させたようなモデルに変換(swap to space)し、メンタルレイのボリューム・シェーダーでレンダリングした。
Q:レンダーマンではなく、メンタルレイを多用していますが?
A:特にキノコ雲などはそうだが、なぜレンダーマンでないかと言えば、影などのレイトレースの要素が必要とされた為だ。その為の専用のシェーダも開発した。
Q: マッチムーブがすごく大量に使われていますが、どうやってさばいたのですか?
A: マッチムーブ専門の部署がある。トラッキングも専門の人がいる。
Q: 先ほど、墓地でのT-Xの変身シーンの説明で「撮影に1日かかった」との事ですが、ロケなので太陽が動いてライトが変わってしまうと思うのですが、それについては?
A:言われてみればその通り。でも、正直なところ、あまり気にはしなかった。
Q:予算と作業量のバランスが合わないという事もあると思いますが、どうしていますか?
A:95%は交渉してなんとかする。例えば「これだけ作業するでしょ?でも予算はこれだけでしょ?そしたらこのショットはビスタビジョンじゃできないけど、それでもいい?」そして予算が上がる(笑)、そんな感じかな。
Q:ロトスコープによるアニメーションを多用していますが?
A:ロトスコープは重要だ。マルチパスで撮影しなくて済むという利点がある。モーションキャプチャだと、マーカー付き演技だし、おなじカメラパスをもう一度撮影する必要があるので。
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この「ターミネーター3メーキング」の講演はチケットも売り切れになる程の盛況ぶりで、公開を前に惜しげもなく披露されるその舞台裏に、感覚は深い感銘をうけていた。
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(C)1998-2009 All rights reserved 鍋 潤太郎
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アメリカの祝日であるレイバー・デーの9月3日(月)、ハリウッドのテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ(Universal Studios)の目玉アトラクションだった『バック・トゥー・ザ・フューチャー - ザ・ライド』(Back to the Future - The Ride、以降、BTTFライド)が過去16年間の北米での公開に幕を降ろした。
ここで、このBTTFライドの歴史を、その製作背景も含めて振り返ってみる事にしよう。
1990年代前半、フロリダ州のオーランドでは「テーマパーク合戦」が繰り広げられていた。
山の手線1周位の広大な敷地を使用したディズニーのテーマパーク「ディズニー・ワールド」の独占状態に対抗すべく、ユニバーサル・スタジオが参戦。ここで"天下分け目"の戦いが始まっていた。
そして「ディズニーに対抗出来る、最高のライド・アトラクションを」と企画されたのが、このBTTFライドだった。
70mm15PのIMAXフィルムによる21.3メートル のIMAX Domeへの上映という贅沢な上映方式に加え、 その巨大ドーム・スクリーンが包み込むのは、映画に登場するデロリアン・カーを模した3軸の油圧コントロールによる12個の車型のモーション・シュミレーション・ライドだった。
ライドは上下に2.4メートル、前後左右に0.6メートル、映像に併せてダイナミックに動くという方式で、観客は本当にデロリアンに乗って空を飛んでいるかのような臨場感を味わう事が出来る。
IMAX Domeは2つ設置され、これにより膨大な人数を短時間で捌く事が出来る他、もし片方がトラブルで故障しても、もう1台は継続して稼動出来るという利点も兼ね備えていた。
上映される4分間の映像は、日本でも「オプチカルの神様」「特撮の神様」と崇められるダグラス・トランブル氏(「ブレードランナー」のSFXで有名)が監督を務め、後にイマジカUSA(ロサンゼルス/2004年米FOTOKEMに売却)の社長を10年近くも務めたクリストファー・レイナ氏がテクニカル・ディレクターを担当。
当時は、フルCGによるライド映像の製作が、まだ難しかった時代。
すべての撮影はミニチュアとモーション・コントロールで行われた。そのモーション・コントロール・カメラのプログラムと制御を担当していたのは、意外や意外、なんと映画『鉄コン筋クリート』の監督であるマイケル・アリアス氏だった。
そのSFX(VFXではなく、当時はスペシャル・エフェクツと呼ばれた)が、全ての合成作業と最終のプリントが日本国内で行われた事は、意外と知られていない。
博覧会の映像等で大型映像の技術を蓄積したイマジカは、1990年3月にユニバーサルよりSFXテスト製作の依頼を受けた。
イマジカでは、特撮グループ(当時)金子昌司氏、中村眞氏を中心に、国際室(当時)市橋耕治氏を責任者としたプロジェクトチームを編成してこのテストに対応した。
このテストで評価されたイマジカは、本編のSFXを受注する事に成功。
待合スペースにあった製作者一覧パネル。日本のイマジカの社名も。
このプロジェクトメンバーに外部の協力スタッフを交え、イマジカ製のマルチ70オプチカル・プリンターを駆使した合成作業はユニバーサルスタジオとの守秘義務条件より”秘密裏”に行われた。
(このマルチ70オプチカルプリンターはその実績と米国映画界に対する貢献に対し、02年には第74回米国アカデミー科学技術賞を受賞を受賞した。)
また、随所に登場する手書きによるエフェクト・アニメーションは、ゴジラ・シリーズ等でも有名なライトハウスの橋本満明氏が担当。
アニメーションは1013枚に至り、オプチカル作業の為のマスクは100枚以上に及んだ。
そうして、90年の9月下旬、日米双方のスタッフによるチェック・ラッシュが行われ、その映像は完成した。
翌1991年の5月2日、ユニバーサル・スタジオ・フロリダでBTTFライドがオープン。
この、他に例を見ない"メガトン級ライド"の登場は、映画シリーズ3作目の「Back to the Future Part III (1990)」の公開後間も無い時期という事もあり、日米メディアが注目するグランド・オープンだった。
BTTFライドは、1993年6月2日にユニバーサル・スタジオ・ハリウッドにもオープン。連日40分~1時間待ちの大行列が出来る人気アトラクションとなった。
2000年には、日本のユニバーサル・スタジオ・大阪のオープンに合わせ、デジタル・リマスター版が製作された。そのポスト・プロダクションはロサンゼルスにあったイマジカUSAで行われた。
70mmネガ->スキャン->デジタル処理->70mmフィルムへのレコーディング、という一連のレストレーションに加え、そしてDTFテープによるデジタル映像での納品も行われた。
このデジタル・リマスター版では、ホコリ&傷の除去等のレストレーション作業、デジタル・カラーコレクションに加え、オープン当初のスポンサーだったペプシから、トヨタがスポンサーとなった為、映像中に登場する看板をペプシからトヨタへCGで差し替える作業も行われた。このCG作業はサンタモニカにあるサスーン・フィルムデザインへ、イマジカUSAより発注され行われた。
そしてBTTFライドは2001年3月31日、ユニバーサル・スタジオ・大阪にオープン。現在、大阪で観る事が出来るのは、このデジタル・レストレーションされた映像である。
このBTTFライドは、世界に3箇所(フロリダ、ハリウッド、大阪)あるユニバーサル・スタジオのテーマ・パークで人気を呼んできたが、フロリダは今年3月30日に、そしてハリウッドはこの9月3日に終了した。
現在、このBTTFライドが楽しめるのは、世界中でも、日本のユニバーサル・スタジオ・大阪だけとなった。
ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドでは終了予定の約1ヶ月前の8月2日からカウントダウン・イベントが開催され、エメット・ブラウン博士を演じた俳優クリストファー・ロイドらが姿を見せていた。
ハリウッドでのBTTFライドの終了後は、人気アニメ「シンプソンズ」のアトラクションがオープンする予定だという。
参考文献: IMAGICA FLASH Vol.24(平成3年7月発行)株式会社IMAGICA 発行
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