<絶賛発売中>ハリウッドCG業界就職の手引き 海外をめざす方の必読本!
VES主催による「第1回プロダクション・サミット09」というカンファレンスのレポートを、月刊CGワールド誌1月号(Vol.137)に寄稿させて頂きました。
記事は2ページに渡って掲載して頂いたのですが、雑誌という限られたスペースに収める為、筆者の膨大なオリジナル原稿を、ベテラン編集者の方の手腕により、要点のみをコンパクトにまとめる形で、どうにか&こうにか2ページに収めて頂いたという経緯がありました。
該当号の発売から1ケ月以上が経過した事もあり、今回は、編集前のオリジナル原稿(長文ですみません)をご紹介させて頂く事に致しましょう。
皆様のご参考になれば幸いです。
VES主催 第1回 先進VFXスタジオ首脳会議(Production Summit09)が開催される
取材・文: 鍋 潤太郎
協力: Rita Chahill - VES / Production Summit Committee
[会場はマリナ・デルレイにある4つ星ホテル、リッツ・カールトン]
2009年10月24日(土)、VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ / 米視覚効果協会)主催による「第1回プロダクション・サミット09」というカンファレンスが、ロサンゼルスにある4つ星ホテル、ザ・リッツ・カールトン マリナ・デル・レイにて開催された。
VESは、これ迄にも各種セミナーやカンファレンスを積極的に実施している。
テーマは毎回異なり、最新作の無料試写会&スタッフによる質疑応答だったり、VFX現場寄りのメーキング・セミナーだったり、最新のテクノロジーを紹介したテクニカルな内容だったりと、網羅しているジャンルは幅広い。
今回は、VESとしても初めての試みとなる「プロダクション・サミット」というカンファレンスが企画された。
読んで字の如く、地元ロサンゼルスにあるトップ・プロダクションのエグゼクティブ、プロデューサー、マネージャー等を招いての「先進VFXスタジオ首脳会議」で、プロダクション経営やマネージメントに携わる人々を対象としたカンファレンスであった。
もちろん、現場レベルの人でも、VFX業界以外の映画ギルドに所属する人でも、一般人でも、参加費を支払えば誰でも参加出来る。
ただ、マネージャー・クラスの管理職以上を対象としている為か、参加費は1人495ドル(VES会員は395ドル)と、個人で出すにはかなり高額の設定。(殆どの参加者は、会社が支払っているものと思われる)
しかし、この不況にも関わらず参加者は240人と大盛況、会場となったリッツ・カールトンホテルのボール・ルームはほぼ満員で、追加席を出す程。各セクションでは活気に満ちたパネルディスカッションが繰り広げられた。
会場を見渡すと、各社のトップ・エグゼクティブの顔がズラリ。リチャード・エドランド氏等の著名人の姿も見られた。
「…今、ここに飛行機が落ちたら、ハリウッドのVFX業界は壊滅するな」と思ってしまった程であった(あ・ほ・か)。
筆者はプレス席だった関係でボールルーム後方に陣取っていたのだが、こうして場内を後ろから見渡すと白髪やハゲ頭が目立ち、ハリウッドにおける層の厚さを「思わぬ形」で再認識させられた。
この日のファンファレンスは、次のようなスケジュールで開催され、朝早くから夕方まで休憩を挟みながら行われた。
○[08:30-09:20] プリ・プロダクションについて
○[09:30-10:20] プロダクションについて
○[10:30-11:20] ポスト・プロダクションについて
○[14:00-15:30] 21世紀のポスト・プロダクションに期待するもの、10年後の展望は?
○[15:45-17:15] プロダクション・ビジネスと、経済の動向について
日本にいると殆ど情報が入ってこないであろう、ハリウッドでのマネージメントに関する白熱する議論は、かなり貴重なものだった。
今回は、是非ここで皆さんにもご紹介したいと思う。
豪華なパネラーの顔ぶれ。ハリウッドをリードする一流どころが顔を揃える。
マリナ・デル・レイという場所柄もあり、真横はヨットハーバー。休憩時間にはちょっとしたリゾート気分が味わえる。Houdiniでお馴染みSideEffects提供によるバイキング・ランチも、このホテルの豪華なプールサイドで召された。
この日のカンファレンスを支えたスポンサー各社。今回はHoudiniでお馴染みSide Effectsが筆頭スポンサーで、続いてAutodesk、CafeFXなど。著名映画情報紙である「バラエティ」の名前も見える。
~我々には共通する課題があります 解決に向けて議論しましょう~
どうやって解決すべきか:
・データのスタジオ間での共有
・全員の雇用維持
・業界の成長
・プロ意識の線引き
・収入UPについて
・YouTubeで流れる映像の著作権料
・VFXユニオンを作ろう!
○[08:30-09:20] プリ・プロダクションについて
ハリウッドは朝型である。最初のセッションは朝8:30から始まった。
パネラーは次のとおり:
ヴィクトリア・アロスノ女史(Marvel Studio / VFXとポスプロ部門 エグゼクティブ)
ジェームス・ビセル氏(プロダクション・デザイナー)
アート・レポラ氏(ウォルト・ディズニー・スタジオ映画 / VFXとポスプロ部門 エグゼクティブ)
マーク・ライト氏(プロデューサー、VFXスーパバイザー)
~プリ・プロダクションにおけるデジタル・テクノロジーの活用について、ざっくばらんにご意見を。
映画におけるプリ・プロダクション(以降、プリプロと表記)では、プロダクション・デザインと3Dチームの連携は非常に重要だ。
デベロップの段階から関係を密にしておく事で、多くの問題点を事前に洗い出す事が出来る。
近年、映画のVFXは1つのエフェクト・ハウスだけではなく、複数社が関わるようになってきた。
「A社とB社は使用ソフトが違うのでデータを共有出来ない」なんていう事態は未だにあるが、今後はなるべく解決されていく事を望みたい。
その点、最近の映画「2012」の例では、数多くのスタジオが関わったが、データ共有が上手く行った例だと思う。
プリプロ段階では、DP(Director of Photography / 撮影監督)、デザイナー、プロダクション・デザイナーのスケジュール・シェアが重要。ある期間だけ誰かが欠ける、後半になると誰かが居ない、なんて事はよく起こりうる。
映画「300」の時は、プリプロに4ケ月を費やして行われた。膨大なショット数、撮影期間に加えて、エフェクト・ハウスとのデータのやりとり等、「デジタル・プロセス基礎知識」への理解などを含めて進めていく。
デジタル・テクノロジーの進化によって撮影現場を取り巻く環境もここ10年で大きく変わりつつある。
映画によっては撮影セットをデジタルで変えたり、俳優をデジタルで作って追加する事もある。役者本人以外、背景360度がすべてデジタルの「バーチャル・バックグランド」という事もある。必要があれば、役者の立ち位置をずらしたりする事もある。これらは、映画制作者サイドからすると、非常にエキサイティングな作業だ。
最近は、ちょっとしたロマンティック・コメディ作品でも、必ず何らかのVFXや、DI作業が行われる時代になった。それとは相反する形で、ポスプロ・スケジュールは全体として短縮傾向にあり、現場のチャレンジも増えてくるだろう。
例えば、1日につき100万ドル(1億円相当)掛かるような大掛かりな撮影プランがあったとしよう。これを、プリプロを上手く行えば、ポスト段階でデジタル・テクノロジーを駆使する事を前提に撮影を行い、撮影時間を短縮する事が出来る。つまり、結果として制作コストを大幅に節約する事が出来る訳だ。
沢山の映画監督と仕事をしてみると、意外と監督本人がきちんとしたビジョンを持っていない事も少なくない事がわかる。これは結構悩みのタネで、プリプロ中にそれが露呈する事もある。また意見が二転三転する時はホント困りモノである。
そんな時は、DPやVFXスーパーバイザ等、「その場で、誰が決定権を持っているか」が重要なポイントとなる。
ポスプロの現場は、確かにデジタル・テクノロジーで技術的には大変進化したが、その弊害として撮影が粗雑になる傾向がある。
「ポストでフィックスしよう」「後で直せばいいよ」そんな風潮が多くなって、撮影クルーはみんなレイジー(怠慢)になりつつある。
他にも問題は山積みだけど、実はコレが一番やっかいで大きな問題かもしれないね(場内爆笑)
○[09:30-10:20] プロダクションについて
休憩を挟んで、続いては「プロダクション」について。ここで言う「プロダクション」とはVFX作業の事ではなく、映画の撮影部分を指している。VFXはポスプロに含まれる為だ。
このセッションのパネラーはアカデミー賞、エミー賞などの受賞歴を持つ、豪華な顔ぶれで行われた。
パネラーは次のとおり:
サド・ベイア氏 - デジタル・ドメイン / CG部門代表
テリー・クロティアックス氏 - プライム・フォーカス(インド) / 北米VFX担当エグゼクティブ
ヴォルカー・エンゲル氏 - プロデューサー、VFXスーパバイザ
キャサリン・ハードウィック女史 - 映画監督 「バニラ・スカイ」のプロダクション・デザイナとしても有名
ジョン・シェーレ氏 - VFXスーパバイザー
ポール・スミス氏 - 映画エディター
~先ほどのセッションでは、監督達に対する攻撃があったが、キャサリン・ハードウィック女史の監督としての意見はどうか
さっきのセッションでの監督攻撃はアンフェア!(笑)
監督は全てを網羅しなければいけないので大変。
私の作品ではVFXスーパバイザーなんて居なくて、私とプロダクション・デザイナーの2人だけで全てをまかなっていた。
でも、監督は「考えが二転三転する」という部分は、ある意味事実かも?なにしろ、頭の中にはアイデアが沢山あるから。
~フィルム・メーキング(映画制作)の中での、「ツールとして」のデジタルのあり方は。
映画「2012」のLAシーンでは、95%がデジタルで、残りの5%が本物の俳優という事が前提で撮影されたシーンが多かった。その為、プリビズも念入りに作られた。
この作品のように視覚効果がウリの作品の場合、デジタルVFXの役割は「パート・オブ・ザ・ストーリー」。つまり、映画のストーリーを際立たせる事が第一大切だ。それを、限られた期間と予算の中で進めていく訳だ。
映画のプロダクションの中で、「ツールとして」大きな変化だったものは、やはりデジタル・シネマトグラフィー。これは自分達のキャリアの中でも大きな革命だった。
少し前は 「デジタル・テクノロジーはポスト・プロダクションで使うもの」が基本だったが、最近ではプリビズで使用したりと、映画制作の最初から最後まで絡んでくるツールになってきた。
また、デジタルの発達で、わざわざブルー・スクリーンで撮らなくても、マスクが抜ける時代になった。但し、ロト・アーティスト達は死ぬけど(笑)
フィルム・メーキング(映画制作)はアーティスティック・プロセス。随所で様々な問題が発生し、その判断は簡単ではない。プロダクションでは、撮影の進行速度を「時速50マイル」でゆっくり行くか、それとも「時速70マイル」のハイペースで進めて行くのか、それは監督自身に委ねられる。
10年前、TVドラマの撮影現場では、フィルムで撮影し、横で並行してビデオに撮って、それをすぐVFXスタジオへ送って仮合成版を作り、監督に見せてチェックしていた。
今やそれがデジタル・シネマになって、同じ流れで作業をしている訳だが、フィルムを介さない分、待ち時間が大幅に短縮された。
○[10:30-11:20] ポスト・プロダクションについて
パネラーは次のとおり:
エリック・バルバ -デジタル・ドメイン / VFXスーパバイザー 「ベンジャミン・バトン」や「トロン2」(制作中)を担当
デニス・ホフマン- CISバンクーバー / ゼネラル・マネージャー
リック・ピアソン- 映画エディター
スティーブ・ポスター - 撮影監督 / ASC(全米撮影者協会)
アラン・シルヴァーズ - Lowry Digital / 市場開拓部
~ポスト・プロダクションの未来は、そして将来はどのようになると予測するか?
何よりも最も重要な事は、我々のビジネスが継続して存在していく事だろう(笑)
ポスト・プロダクションにおけるデジタル・テクノロジーは1つの「ツール」。
監督が観客に対して伝えたいメッセージを、ポスト・プロダクションによってエンハンスし、そしてスクリーンに送り届ける。それが「ツールとしてのVFX」だと思う。
映画スタジオ側はあくまでもビジネス主導だ。ビジネスである以上、ボックス・オフィスの売り上げが全てである。
しかし、撮影監督やプロダクション・デザイナーはクリエイティブな視点で、監督はストーリー・テリングの立場で、これらのコラボレーションによって映画を作り上げていく。
~スティーブ・ポスター氏、DP(撮影監督)としてのデジタル・ツールについて意見を。
デジタル・テクノロジーが映画制作に与えた大きなツールの1つに「プリビズ」がある。ただ、これには長所・短所がある。
DPとしての立場で言わせて頂くと、私にとって「プリビズ」には短所ばかりが目につく。
「プリビズ」は「作り手のビジョンを殺してしまう」という短所がある。私はスピルバーグ監督が述べていた「撮影の際に、プリビズが演出の邪魔になる事がある」という意見には100%大賛成だ。
~デジタル・ドメインのエリック・バルバ氏の意見は。
私はその意見には反対の立場だ。VFX制作の現場では、「プリビズ」はディレクターのビジョンを把握するのに 不可欠であり、非常に重要なツールだ。
例えば、過去のデジタル・ドメインにおけるデイビット・フィンチャー監督とのテレビCMでのコラボレーションでは、「プリビズ」が大変役に立った。
自分はあくまでもアーティストであり、テクニカルな立場ではない。しかし、「プリビズ批判」には反論しておきたい。
~では、映画制作に不可欠なDIについて語ってみよう。
DI(デジタル・インターメディエイト)は、90年代半ばから始まったテクノロジーだ。DIの登場により映画の画質は大きく向上し、ストーリー・テリングをエンハンスする大きな力となった。
例えば、撮影時にうまく実現出来なかった「絵づくり」が、DIでの後処理によって初めて求めるディテールが実現する事もあり、非常に強力なツールだ。
デジタル側/アナログ側の立場があるとすると、DPはアナログ側に立っている。アナログ側の人間が着目しているのは、デジタル・テクノロジーを如何に正しく理解していくか?という点だろう。
さきほど話題に出たフィンチャー監督は、デジタル・テクノロジーを「ツールとして正しい方向で使いこなす事を見出した監督」だと言えるのではないだろうか。
現在、DIは10bit処理が主流だ。しかし、これではまだまだ不充分だ。また、スーパーハイビジョンへの対応なども含め、これからどんどん進化して欲しいツールだと思う。
今後は、エディトリアル(編集)とVFXの両方に精通しており、正確な判断力をもった人材が必要で、そういった知識がVFXプロデューサーに求められるだろう。
~VFX制作の現場については、どうか。
VFX制作現場は、若手が増えた。彼らはビデオ・ゲームで育ってきた新しい世代だ。そして使用しているマシンはGPU時代に突入しつつある。それが、今のVFX制作現場の新しい潮流なのかもしれない。
~このセッションで正解だったのは、スティーブ・ポスター氏のDPとしての考えを聞けた点かもしれない。そして、我々VFXを提供する側の人間に必要なのは、「アーティストとして」クオリティを高めていく視点と興味、そして熱意ではないだろうか。
○ランチ休憩
プールサイドでの、バイキング形式のランチは、なんと無料。 提供はHoudiniでお馴染みSide Effects。
○[14:00-15:30] 21世紀のポスト・プロダクションに期待するもの、10年後の展望は?
ここから午後のセッションとなるが、参加者はベテランになる程、顔見知りが多いもの。開始時間になっても、会場のあちこちで談笑を続ける人が多く、業を煮やした司会者が指笛を吹き鳴らし、着席を促す一幕もあった。
パネラーは次のとおり:
スティーブ・ベアーズ氏 - フォトケム / 技術部長
フレッド・チャンドラー氏 - FOX / ポスプロ部門エグゼクティブ
ベン・クロスマン氏 - CafeFX / VFXスーパバイザー
ダリン・オカダ氏 - 映画カメラマン
スティーブ・スコット氏 - E-Film / 副社長、カラリスト、クリエィティブ・ディレクター
~ポスト・プロダクションの現状は?
デジタル・テクノロジーが台頭し、反対にフィルム文化がどんどん衰退し、ポスト・プロダクションを取り巻く環境は日々、大きく変わりつつある。
その代償として、ファイル・フォーマットやカラー・スペースなど、やっかいな新しいチャレンジが次から次へと出て来た。
レゾリューション1つにしても、HDから4Kまで多岐に渡っている。
最近の映画におけるVFXでは、12の異なるエフェクト・ハウス(VFXスタジオ)が、1つのカラー・ハウス(DIを行うポスプロ)とやりとりを行うなど、新しいフレーバーのスタイルでポスト・プロダクションが行われるようになってきた。
映画の撮影界では、アリフレックスvsパナビジョンの熾烈な競争が繰り広げられ、同じ35mmフィルムでも2Pか3Pかというカメラ内部で起こっているフォーマット争い等があり、これに対応していくポスト・プロダクションや使い手の苦労も絶えない。
これらは、なんだか家庭用ビデオにおける、VHSvsベータの戦いを彷彿させるものがある。
~ダリン・オカダ氏、映画カメラマンとしての意見は?
デジタル化が私に持たらした事は、
♪ 早い(faster)
♪ 安い(cheaper)
♪ 旨い(better)
の3点だろう(場内爆笑)
ただ、スキン・カラーの表現でフィルムに勝るものは、まだない。デジタル・カメラもかなり近づいて来ているが、まだフィルムには及ばない。
「スキン・カラーを如何に再現できるか」がDPやカメラマン、そしてポスプロのカラリストが求めるものだ。
VFXだけではなく、カメラを取り巻く環境も大きく変わりつつあり、それに追いついて行くのは大変な事だ。
ポスト・プロダクションのパイプラインの中で、カラー・スペースの問題が起こる事は頻繁にある。特にリニアorログ(LogLin)のトラブルは多い。
これらを未然に防ぐ為には、VFXパートは初期の段階から、DPやポスプロのカラリストの意見を聞きながら進めるべきである。
どんなカラー・スペースを使って作業を進めていくのか、最初からクリアにしておく事は大切である。
あと、撮影期間が延びて、ポスプロのカラリストが次の仕事に移ってしまい困った事もある。こういう予期せぬ出来事は頻繁に起こる。
ひと昔前、ディリー(毎日行う試写の事)はすべてフィルムだった。つまり映画館で見る状態に近い形でチェック出来た訳だ。
ところが、最近ではデジタル・ディリーへと移り代わり、フィルムで写る絵とは微妙に異なる可能性がある。
DIの理想は、DIルームのスクリーンと映画フィルムにレコーディングされた後の結果が全く同じになる事、それが絶対条件だ。DIは、デジタルとフィルムの間の共通言語(common language)となるべきなのである。
テクノロジーの進化はありがたいが、その副作用はパイプラインが頻繁に変わる事。"So many tech issues!"というのが本音だろう。技術的な事を全部把握して、トラブル解消方を知っている人材がいないと、とんでもない事になり兼ねない。
ASC(全米撮影者協会)には、ASCバイブルと呼ばれるマニュアルがある。これは、撮影時のトラブルの際にはどのように対処すれば良いかというガイドラインとなり、以前はそれを見れば常に正解が得られるようになっていた。
しかし撮影界にデジタル・カメラが入り込んできたお陰で、もはやASCバイブルでは太刀打ち出来なくなってしまった。
また映画フィルムやカメラには「これ」というスタンダードがあったが、デジタル・カメラはD20(アリフレックス)、バイパー、ダルサ…などなど。それぞれが異なり、スタンダードがまだ無い。
特にLUT(ルックアップ・テーブル)の問題は、まだまだ試行錯誤の中にある。LUTフォーマットの業界スタンダードがまだ完全には確立していない事は大きな問題だ。
LUTを1つ作っても、それをものすげ~多種のアプリケーションに対応した各フォーマットに、イチイチ変換しないといけない。特としてそれは10種類以上に及び、これだけでも大変な作業だ。
~エフェクト・ハウスで起こるカラー・スペースの問題を未然に防ぐには?
望まれるべくは、VFX用に各エフェクト・ハウスに送られるプレート(素材)が、DPと監督によってプリ・タイムされている(Pre-Timed / 事前にカラーコレクションが済ませてある)という事だろう。
DPのガイドによってプリ・タイムされた素材が各エフェクト・ハウスへ送られれば、それが色見本になるし、もしスキャンされた画像の見た目が大きく異なれば、カラー・スペースに何らかの原因がある事が即座に気付く事だろう。
現実問題として、撮影現場でなぜデジタル・カメラを使うかと言えば、コストが安くなるからだ。200万ドル(2億円相当)程度の撮影予算しかないプロジェクトで膨大なショットを撮影しなければならない場合、フィルム・カメラだとフィルム代に加え、現像代、スキャン代等のラボ・フィーが高くつく。
特に低予算プロジェクトの場合は、事前のプリ・タイムなどでトラブルを未然に防ぐ配慮&準備が大きな助けとなる場合が多い。
~10年後のポスト・プロダクションはどうあるべきか?
アーティストとテクノロジーは、良い方向で融合していくと思う。それは、実際の制作現場の経験から積み重ねで出来上がっていくものだ。
あとは「ツールを理解する」事。なぜ結果がそうなるのか、何が起こってそうなるのか、正しく理解しておく事は大切だ。
例えば、ジェームス・キャメロン監督と仕事をした際に感心したのは、監督がテクノロジーを正しく理解していた事だった。それが、作業を無駄なく進めるのに大きく役立った。
ポスト・プロダクションの最終ゴールは、監督等の「ストーリー・テラー」の全要求に、100%対応出来る体制を整える事だろう。
その為には、これから登場してくるスマート(優れた)な人材が、テクノロジーを更に進化させてくれる事を期待したい。それが10年後のエキサイティングなビジョンだと言えるだろう。
1つの標準画像フォーマットに全アプリケーションやパイプラインが対応しているような「スタンダード(業界標準)」が確立している事が強く望まれる。今のような実情では、それはまだ難しい。
~今後、プロジェクトの最初にDI、VFX、カラリスト等を集めて、ワークフローの統一を行っていく事も大切だろう。現状では各社でワークフローが異なる。話題にも出た「ASCバイブル」に相当するものが、VFX界でも必要になってくるだろう。その意味で、今日のパネルにASCメンバー各位にご参加頂いたのは、正解だったと思う。(休憩)
○[15:45-17:15] プロダクション・ビジネスと、世界経済の動向について
パネラーは次のとおり:
ジェフ・バーンズ - CafeFX CEO、創設者
リー・バーガー - リズム&ヒューズ / フィルム部門代表
コリン・ブラウン - 英国映画審議会 / フィルム・コミッショナー
クリス・デファリア - ワーナーブラザーズ / デジタル・プロダクション部門 エグゼクティブ
アンシュル・ドシー - プライム・フォーカス(インド) / グローバルCOO
ランディ・レイク - ソニーピクチャーズ・イメージワークス / ゼネラル・マネージャー
~VFX界では今後、低コスト化や合理化が進んでいくと思うが、マネージメント面でのご意見は。
低コスト化だけが「一人歩き」してしまう事は無いように思う。
なぜなら、クライアントが高いクオリティを望む声は強く、我々はハイレベルな映画を制作していく必要があるからだ。
これからのプロダクション・マネージメントは、単にハイレベルな映像が作れれば良いという訳ではない。
もちろん、良いアーティスト、TD、スープ等の才能ある人材の獲得は必要だが、マネージメントにはビジネス・センスが必要だ。
もちろん、500ショットを16週間で仕上げられるような優秀なマネージメント力を持つ人材を、短期で見つける事は至難の業だが、ビジネス・センスを持っているという事が、今後益々マネージメントに求められるだろう。
CafeFXでは、サンタマリア、ロサンゼルスに拠点を持っているが、社員からは「うちの会社が新しいスタジオを作るとしたら、これから、どこに住めば良いだろう?」という声が聞かれるようになった。
仮に作るなら、その候補地は沢山ある。トロント、ルイジアナ、ニューメキシコ…各地の税優遇策にもよるが、このビジネス判断は非常に難しい。
そして、海外へのプロジェクト流出は頭痛の種だ。仕事がロンドンと、バンクーバーにどんどん取られている。
~イギリスへのプロジェクト流出について、危惧する事は。
ロンドンは、世界で「一番通貨が高値な場所」だ。それなのに、ロンドンへVFXの仕事が集中しているのは、我々も正直不思議だ。
この背景には、「007」「ハリーポッター」などのイギリス主導のフランチャイズ作品や、税優遇策等が後押しになっている事も影響しているかもしれない。
特に「ハリーポッター」シリーズのVFX作業は、シリーズを重ねる毎に「イギリス指向」が強くなり、ついにアメリカには殆ど来なくなってしまった。
登場するVFXもどんどん複雑化し、難易度も上がるばかりだったが、最終章は殆どがロンドンで制作される事になってしまった。
これは、ハリウッドのエフェクト・ハウスにとっては大問題だ。
~ソニーピクチャーズ・イメージワークスはご存知のとおり「日本の会社」であり、なぜかLAのカルバーシティでVFXを作っているという背景を持ち、しかもインドにスタジオを開いている。リズム&ヒューズもインドにスタジオを持っている。なぜ、今、インドなのだろうか?
ソニーでは、いろいろな国を対象にリサーチを行った。インドはハイレベルな教育水準があり、何よりも「英語が通じるお国柄」だ。
映画スタジオは、常にポスプロのコスト・ダウンを強くプッシュしてきており、海外の支社にアウト・ソーシングする事でコストを大幅に抑える事が出来る。そして中国にスタジオを持つ事も検討中だ。
911テロ以降、アメリカ合衆国移民局は外国人のビザ発給に非常に厳しくなった。才能ある人材をアメリカに連れてくる事が難しくなった。
しかも、外国人を雇うとビザ申請費用や引越し代のサポートなど、コストがかかる。その意味では、インドに拠点を持つ事で、優秀な人材を現地で雇用出来る事には大きな利点がある。
リズム&ヒューズでは、30%近くの作業を自社インド・スタジオに出している。例えば「ライラの冒険」では1シークエンスを丸ごとインドにアウト・ソーシングしたが、完成した映像を見て「ここがインドの担当、ここがLA」と見分ける事は非常に難しい。その位、インド・スタジオはクオリティを維持しており、水準は高い。
~海外の自社スタジオにアウト・ソーシングした場合、どのような問題が起こったか?
技術的な事やスキルの問題よりも、文化&習慣の違いが大きい。身近なところでは、時差の違い、祝祭日の違いなどがある。
また文化の違いには本当に気をつけないと、大問題に発展する。かつて、日本の映画会社に出向させた部下に、アメリカではよくある「現在の直属上司の評価レポート」を送るよう慣例的に指示した事がある。
返事は「それは出来ない」と。日本の文化では、上司に対する批評を第3者へ発信する事は、極めて重大な背徳行為と見なされる危険性があるので、慎重にしなければならないという事だった。
日本もそうだが、中国の人と仕事をする時は更に配慮する必要がある。文化が全く異なり、何気ない言動が相手に失礼に当たる事もある。
プロダクションの中で、中国本国から来た人材と一緒に仕事をしてみると、文化の違いが沢山ある事を学ぶ事だろう。
ただ、インドへのアウト・ソーシングについては、最近現地では人件費の高騰も起こっており、「単に安くつく」という認識が将来的には通用しなくなる可能性もある。これらは難しい問題だ。
実際のところ、コミニュケーションの問題はさほど心配していない。だって、LAの同じ部屋でアメリカ人同士でミーティングをしていても、ぜんぜんコミュニケーションが取れないケースは山ほどあるじゃないか。どこに居たって、一緒だよ!(場内爆笑)
~VESの会員から、「VESは海外アウト・ソーシングの問題について、どのような対処をしているのか」と尋ねられた事がある。 このコミュニティ全体の問題であり、答えは簡単ではない。 いわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥る危険性を危惧すべき時期に来ている。パネラーのみなさんのご意見はどうだろうか。
基本的にVFX業界はサービス業であり、この不況の中、先の動向を読む事は非常に難しい。
オーストラリアやニューランドのドルは、最近ドルが下がった影響で以前ほどの恩恵は無いにせよ、まだ安く、アウト・ソーシングをする事によって、制作コストを実際問題として節約出来る。米ドルを節約する事は、VFX業界を救う事にも繋がっていく。
例えば、オーストラリアにアウト・ソーシングすると、最近更に15%の税優遇策がプラスされ、制作コストがかなり節約出来るようになった。しかし、カリフォルニア州から、これ迄にそのような有難いオファーを頂いた記憶はない。
またカリフォルニア州は、深刻な財政危機に直面しており、ここでプロダクション・ビジネスを維持していくのは簡単な事ではない。
何しろ我々には、TAX(税)やエコノミー(経済)のコントールが出来るような力は持ち併せていないのだから。
州政府、映画スタジオとVFXスタジオは連携して対策を考えていかなければ、今後VFXの仕事はどんどん海外へと流出してしまうだろう。もはや、VFX業界は「アーティスティックなだけ」のビジネスでは無くなった。
プロジェクトの海外流出について、我々はもっと真剣に考えていかねばらないだろう。
○おわりに
このカンファレンスを終えて印象的だったのは、ハリウッドではVFX界、撮影界、そしてポスプロの連携がかなり取れている事だった。そして、知識や情報をシェアして行こうという前向きで積極的な姿勢が見て取れる。
また、「業界スタンダード」の確立にも力を入れており、それらがオープンソース等の考え方にも繋がってくる訳だが、日本の現場ではそういう機会はまだ少ないように思う。日本の映像業界でも、VESのような協会の設立や、情報交換が頻繁に行われても良いはずだ。
ただ、ハリウッドのVFX業界は、特に夏以降、不況の影響をやや遅れて、今頃になって受けつつあり、レイオフや会社の閉鎖などのニュースを頻繁に耳にするようになってきた。
カリフォルニア州の財政危機や、ロンドン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダのバンクーバーへのプロジェクト流出は深刻であり、どこかで歯止めを掛けないとハリウッドのVFX業界はますます大きな打撃を受ける事になる。
その意味では今後の動向がますます気になるところであるが、少なくともハリウッドのVFX界の「首脳」が一堂に会し、問題点をシェアし、解決策に向けて議論する場が提供された意義は大きく、今回の「プロダクション・サミット09」は大成功だったと言えるのではないだろうか。
関連記事:
「DIを理解するには?」VES主催のパネルディスカッションが開催される (07/25/2005)
VES主催 ビジュアル・エフェクツ・フェスティバル レポート (06/16/2007)
日本の 「CGデザイナー」という呼び名は時代遅れ?VESがJob Titleガイドライン(08/29/2008)
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<絶賛発売中>ハリウッドCG業界就職の手引き 海外をめざす方の必読本!
韓国映画「グエムル」の1シーンより。 Photo Courtesy: The Orphanage
○はじめに
カンヌ国際映画祭でも絶賛された韓国映画『グエムル』(9月2日公開)。この作品の要となるCGモンスターは、サンフランシスコにあるエフェクト・ハウス、オーファネッジ(The Orphanage)によって製作された。
このデジタル・クリーチャーの製作に直接携わった、3人のデジタル・クリーチャー・アーティスト達にその製作秘話を伺ってみた。
○オーファネージに発注された理由
[The Orphanageの建物。プレシディオ国立公園内にある。]
韓国映画のVFXが、なぜ海外の、しかも数あるエフェクト・ハウスの中からオーファネッジに発注されたのか?理由は意外にシンプルだった。
ポン・ジュノ監督は構想中の段階から、友人でありハリウッドで仕事をしている韓国出身のCGアーティスト、ジョウウック・パーク氏(Jaewook Park)に個人的に相談をして、如何にしてこの映画のVFXを実現すれば良いか、助言を求めた。
[韓国人アーティスト、ジョウウック・パーク(Jaewook Park)氏]
そのパーク氏が働いていたのが、サンフランシスコにあるオーファネッジだったのだ。
最も、監督がまだ構想を練っていた98~99年頃は、ニュージーランドのウェリントンにあり、当時全くの無名だったエフェクト・ハウス、WETAにVFX作業を発注する予定だったという。
ニュージーランド・ドルの通貨の関係もあり、製作費がリーズナブルに収まるという事も魅力の1つだった。
しかし、脚本が完成した2002年11月の段階では、WETAが「指輪物語」シリーズの大ヒットで世界的に有名になってしまい、WETAに全てを発注すると予算が完全にオーバーしてしまうという事が判明した。
再びジョウウック氏に相談を求めたポン・ジュノ監督は、ジョウウック氏が勤務するオーファネッジが数々の映画のエフェクトを担当した実績がある事等から、CGモンスターの開発及び、全VFXショットをオーファネッジに発注する事を決意。
こうして、サンフランシスコの金門橋に程近い、プレシディオ国立公園にある同社スタジオで、「グエムル」のVFX作業がスタートした。
写真(左から)
Corey Rosen - Creature Supervisor
Brook Kievit - Creature Modeler/Muscle Simulation
Stephane Cros - Creature Rigger/Muscle Simulation
☆3人のプロフィール
○コーリー・ローゼン(Corey Rosen) - クリーチャー・スーパバイザー
ノースウエスタン大学 ラジオ・テレビ・フィルム学部卒。1993年から2005年までILMにて「ターミネーター3」「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク2」「スターウォーズ・エピソード1」等に参加。2005年7月よりオーファネッジに参加、「グエムル」と「スーパーマン・リターンズ」「パイレーツ・オブ・カリビアン2」でクリーチャー・スーパバイザーを務めた。現在は『Night At The Museum』のプロダクション作業で多忙な日々を過ごしている。
○ブルック・ケヴェット(Brook Kievet) - リード・クリーチャー・モデラー
2005年にオーファネッジに参加。「グエムル」でリード・クリーチャーモデラーを務めた。また、スキンニング、フェイシャル・クラスター・システムや筋肉ダイナミクス・システムの実作業を担当。
○ステファン・クロス(Stephane Cros) - クリーチャー・リガー/マッスル・シュミレーション
フランス出身。ソフトウエア・エンジニアを志しパリの大学を卒業後、94年にBuf Companyにて「The City Of Lost Children」でMentalRayのソフトウエア・エンジニアを務める。その後、95年から98年までWarner Brothers Feature Animationにて「The Iron Giant」に参加、99年から2001年までPDI-Dreamworksにて「Shrek」の自社開発ツールの開発に携わる。2005年にオーファネッジに参加、同社の殆どのクリーチャー・パイプライン・ツールを構築した。「グエムル」ではリギングに加え数ショットでアニメーションも担当している。
○オーファネッジのモチベーションを惹き出したコンセプト・アート
「最初にこのモンスターのデザインを見た時、一目で『この仕事をやりたい』と思いましたね」とローゼン氏は振り返る。
「このクリーチャーは凶暴で恐怖に満ち溢れ、しかも利口で動きも敏速だという話を聞き興味を持ったのですが、コンセプト・アートを見ただけで、スタッフが楽しみながら仕事が出来る事を直感しました」
リード・クリーチャー・モデラーのケイヴェット氏は初印象をこう語ってくれた。
「『なんてクレージーなモンスターだ!』と思いました。デザインもオリジナリティに満ちていましたしね。でも、複雑な顔面を見た瞬間『筋肉とスケルトン、どうやって仕込もう?』と思わず考え込んでしまいましたよ」
クリーチャー・パイプラインやリグ・システムの開発を担当したクロス氏は、
「モンスターに感銘を受けると同時に、こいつをリアルに動かすにはどうすればよいか?という挑戦にワクワクしました」と初印象を述べている。
○WETAワークショップによるクレイモデルがベース
製作サイドとWETAは構想段階から数年に渡ってつきあいがあった事もあり、まずコンセプト・アートをベースに、WETAワークショップにて精巧なクレイ・モデルが起こさた。
クレイ・モデルはWETAワークショックにあるCyberscanで3Dスキャンされ、そのデータがオーファネッジへと送られた。
ケイビット氏ともう1人のアーティストが実作業にとりかかるが、3Dスキャンされた超高解像度のデータを、アニメーション出来る状態にまでリダクションをするには、気の遠くなるような作業が必要だったという。
この段階で一番重要だったのは、クレイモデルのモンスターが持つ筋肉形状や自然なボディ・ラインの流れを一切損なう事無く、理路整然とした4角形ポリゴン・メッシュに再構成する事にあった。
モンスターは、劇中で水中で動きに応じて尾が揺れ動いたり、壁をよじ登ったりといった、かなり「極端な」ポーズを取れる事が演出上求められており、クレイ・モデルの筋肉の形状を正確に再現したポリゴン・メッシュは必須だった。
メインツールにはMAYA6.5とSilo(Nevercenter製)を併用しながら行われ、スキャン・データが持つ表面のディテールを効率的に残しつつ、データを軽減するという部分で効力を発揮したという。
この「グエムル」は、オーファネッジにとって初めての、しかも本格的なクリーチャー・アニメーションを扱った作品だったそうだ。
ローゼン氏はクリーチャー・スーパバイザーとして、モデリング及びアニメーションのパイプラインを構築。デジタル・アセットやマッスル※・シュミレーションを含むリギング、ボディとフェイシャルのライブラリ管理、そしてアニメーターとレンダリングT.D.の間の総括も担当した。
※Muscle - 筋肉。
○CGモデリングのワークロー
では、そのモデリング実作業のワークフローをここで説明していく事にしよう。
クレイ・モデルからスキャンされたデータは、「密集した膨大な三角形メッシュの塊」状態にあった。
これをZbrushに読み込み、腕や足等のパーツ毎に切り別けた後、MAYA上でポリゴン・リダクションを行い、データをある程度まで軽減させた。
また、スキャンされたクレイモデルのオリジナル形状と、作業の途中形状を後で照合出来るよう、Paraformによって中解像度の四角形ポリゴン・パッチも用意された。
パーツ毎に分割されたパッチ・データは、最終的なアニメーションのベース・モデルを製作する為にSiloに読み込まれた。
Silo上で、クリーチャー・モデラーは殆ど手作業でポリゴン・モデルを調整。アニメートとリギングが出来る状態までデータを更に軽減させたが、ものすごく複雑な構造を持つ顔面部分では、本当に苦労したという。
最終的に、全ボディを1つに統合、ほど良いディテールを持つソリッド・メッシュのobjファイルとしてエクスポートした。
これをMayaに読み込み、UV編集やリギングの作業に取り掛かった。
また、体表面の微細なディテールは、Zbrushによって高解像度ディスプレイスメント・マップの素材を作成する事によって表現した。
○「グエムル」の為に拡張された、筋肉&リグ・パイプライン
「グエムル」の作業ニーズに応える為、oMuscle(オーファネッジ自社開発の筋肉リギング・ツール)パイプラインが開発された。これは、「グエムル」の作業の中でも最も重きを置いて開発が進められた領域だという。
ソフトウェア・エンジニアとして豊富な経験を持つステファン氏は、限られた時間の中でComet Digital製のMaya用プラグインComet MuscleをベースにしたCreature TD Muscle Toolsを開発。これは、マッスル・ダイナミクス(筋肉力学)のシュミレーションを速く効率的に行う事が可能なシステムだ。
「グエムル」の中では、75ものショットで、この筋肉ダイナミックス・システムが使用された。この数値は、事前に予測していた最新マシンで処理可能なショット数を、はるかに上回るものだったという。
[リグはスライダーでコントロール Photo Courtesy: The Orphanage]
また、複雑なアニメーションや筋肉ダイナミクスを効率良く作業&管理する為、Multi-Skeleton Rigging Systemが開発された。このシステムは、複雑なリグをシーン毎にカスタマイズしたり、リグを置き換えたりする作業を比較的容易に行えるのが特徴で、同社のクリーチャー・パイプラインにも対していた。
ただでさえ、このモンスターのデータはものすごく重く、処理速度も遅い。自社開発マルチ・リグ・システムを開発した事によって、オーファネッジは複雑なリグ開発を「更にもう1レベル上」に押し上げる事に成功した。
「ポン・ジュノ監督は、「生きた」モンスターを見せる事に非常にこだわっていました。マルチ・リグ・システムは、モンスターに物量感とエネルギーを与える多大な助けとなりましたが、それは特にモンスターが走るシーンで顕著です。また、モンスターがピタリと止まるようなシーンでも、筋肉に変形や"ゆさぶり"感等のセカンダリー(2次)・アニメーションを与える事で、獰猛で恐ろしい、「生きた」モンスターらしさを出す事に成功しているのです」(ローゼン氏)
○アニメーション
オーファネッジに課せられたチャレンジは、限られた条件の中で、モンスターがいかにダイナミックなパフォーマンス(演技)を魅せ、フォト・リアリスティックな質感を実現するかという部分にあった。
アニメーター達は、まるで息をしているかのような、実在するモンスターらしいパフォーマンスを心掛けた。重量感を感じさせ、しかもスピード感のある動きが要求された。
リファレンス素材として動物の映像を沢山用意し、特にモンスターが地面に接地した際の、皮膚や筋肉のセカンダリー・アニメーションの参考になるものを選んだという。
モンスターが劇中で要求されたパフォーマンスは幅広く、ジャンプ、回転、走り等、様々なアクションが出来なければならなかった。
それでもメッシュ・データが破綻しないシステムを作らなければならない事は、アニメーション作業の上では 最大のチャレンジだったという。
「ショットによっては、ダイナミクス・シュミレーションの結果が、現実とは異なった印象に見えてしまう事もあり、その場合はアニメーター達が手作業で修正を加えていきました」(ステファン氏)
また、モンスターは獰猛であると同時に「太って」おり、動いた際に見える筋肉と脂肪のコンビネーションが「自然に見える」という事に主眼を置き、デベロップメントが進められた。
恐ろしさだけでなく、リアリティを持たせる為に、フェイシャル部分では恐怖、怒り、驚き、集中、幸せ、痛み等のライブラリを用意した。
このフェイシャル・パフォーマンス・アニメーションでは、クラスタ・ベースのフェイシャル・アニメーション・システムを採用。このアプローチにより、膨大な作業時間を節約し、それまでのリグ・シュミレーションをより発展する事が出来たという。
実作業を担当したケイヴェット氏は「複雑な顔面のブレンドシェイプ、クラスター・フェイス・アニメーション・システム、リグ・セットアップ、どれをとっても、ものすごく複雑な構造で大変でした」と語る。
○レンダリング&コンポジット
アニメーションされたデータはOBJ形式でエクスポートされ、MAX上に読み込み、Brazilでファイナル・レンダリングが行われている。
余談であるが、オーファネッジは、ハリウッド映画のエフェクト・ハウスとしては珍しく、MAX&Brazilでレンダリングを行い、After Effectsでコンポジットを行うという、日本のCGプロダクションに極めて近いソフト体系を取っている点が興味深い。
MAXユーザーの方は、ビジネス・モデルとしても参考になるのではないだろうか。
~概論 モデリング・テクニックについて~
○モデリング・ツールとしてのMAYA
MAXユーザーのオーファネッジが、モデリング・パイプラインの中核としてMAYAを採用しているのは、MAYAがアニメーション&モデリングのツールとして業界標準に位置している事、スカラプチャーのように編集出来る多彩な機能や、便利なブレンド・シェイプがある事等が大きな理由だという。
また、MELも魅力の1つで、新しいシステム・メニューやツールを簡単にカスタマイズ出来るので重宝しているそうだ。
「『グエムル』のような、非常に複雑なクリーチャーをフレキシブルにモデリング出来るのは、他のCGソフトと比較してもMAYAだけでしょうね」とケイヴェット氏。
ローゼン氏は、MAYAが落ちる回数が少なく、極めて安定性が高い事を挙げ、「これはプロダクション・ユースの中では極めて重要な事なのです」と語っていた。
○最新映画で使われているモデリング・テクニック
ここ数年のハリウッドでの最新モデリング・テクニックについて伺ってみたところ、次のようなコメントを頂いた。
「我々オーファネッジでは、仕事をする上でのベスト・ツールを常に模索しており、その意味では1つのテクニックや方法論だけには固執していません。その表れとして、現在走っているプロジェクトの中では、モデリングとテクスチャにZBrushを使用しているケースもありますし、Mudboxを使用する事もあります。
ただテクニック面では、現在主流のポリゴナル・ボックス・モデリングの手法は、依然としてオーガニックなクリーチャーをモデリングするには主導的な位置にあり、これに代わる便利で手軽な方法は今のところ現れていません。」(ローゼン氏)
「過去のモデリング・テクニックでやはり大きく変ったのは、ポリゴナル・ボックス・モデリングによるポリゴン・モデリングと、ブラシ・ベースのポリゴン・スカラプティングの手法でしょう。この2つによってCGキャラクターは、よりリアリスティックに見えるようになりましたから」(ケイヴェット氏)
○CGツールの変化について モデリングの視点から
CGモデリングに携わっている立場で、ツールの変化について伺ってみた。
「モデリングの分野は、過去数年間に多種多様な開発が行われているように思えます。CGプロダクションにとって、この部分は非常に興味深い部分です。新しいツールとテクニックは、概念から完成までのワークフローを1つの流れにして、それを改良していきます。今年もシーグラフ前から、既に幾つかの新製品が発表されており、それを実際に試すのが楽しみですね。 」とローゼン氏。
「ポリゴン・モデリングの重要性を挙げておきたいですね。映画の画面で観られる99%のクリーチャーは、今やほぼポリゴン・モデリングによるものと言っても過言ではないでしょう。ポリゴン・モデリングと、Zbrush等のブラシ・スカラプティングの手法はCGクリーチャー製作上でのメイン・テクニックと言えるでしょう。
おなじみポリゴナル・ボックス・モデリングは、依然として大変重要ですし、ブラシベースのポリゴン・スカラプティングの手法は、ディテールを高めていくのに重要です。
近い将来、この2つのテクニックが、モデリング・パッケージの中で、より融合され、より発展していくのを我々は目にする事でしょう。私は、Silo2のようなソフトが、現在この路線上に位置しているツールだと考えます」とケイヴェット氏。
○モデラーを目指す人へ
モデラーを志す人へのアドバイスを伺ってみた。
「モデリングに限らず、CGの全てのエリアについて言える事ですが、ドローイングやペインティング、彫刻、そして写真等の伝統的なフォームを勉強するべきです。
自分の手など、自然にあるものを観察するだけで、それは多大な勉強となり、コンピューター上で仕事をする上での糧となるでしょう。ただ単にコンピューター上だけで仕事をしていては、底が浅くなってしまいます。」ローゼン氏
「美術解剖学、ドローイング、ペインティング、彫刻を学び、現実の世界からリアリズムや造形アートを学ぶと良いでしょう。
これらは、ソフトウェアを学ぶよりもはるかに重要な事なのです。
ソフト上でのテクニック習得面では、ポリゴナル・ボックス・モデリングでどうやってよいエッジ・フローを作り上げていくかを学ぶと良いと思います」とケイビット氏。
○製作を終えて
『「グエムル」が技術面、クリエイティブ面でオーファネッジにもたらした結果を思うと興奮しますね。オーファネッジでは今年の夏から後半にかけて、数々の映画のエフェクトや、フルCGのプロジェクトが予定されているのですが、「グエムル」で培ったクリーチャー・パイプライン等の技術を発展させ、活用していく事には喜びを感じています』とローゼン氏。
今後のオーファネッジの更なる活躍に期待したい。
関連記事: 「オーファネッジ」が閉鎖 10年間の歴史に幕を下ろす(03/12/2009)
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