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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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今年も、VES(Visual Effects Society/米視覚効果協会)主催のVES AWARD授賞式が2月11日(土)夜、ハイアットリージェンシー・センチュリープラザ・ホテルにて盛大に開催された。

今回で7回目を数えるこの授賞式は、「VFX業界のアカデミー賞」と謳われるアワードであり、ハリウッドのエフェクト業界では毎年注目を浴びる存在である。

ここでは、そのVESアワードの模様を速報でレポートする事にしよう。

442be3c7.jpg○VESとは

現在のハリウッド映画は殆どの作品に何らかのVFXが含まれていると言っても過言ではない。そんなVFXを支えているのが、VFX製作現場のアーティストやクルー達だ。そんなVFX関係者で構成される協会が、このVisual Effects Societyだ。

97年に設立されたVESは、世界規模で成長を遂げている。現在の会員数は日本を含む海外13ケ国のメンバーも含めると1800人以上に成長した。

この会員になる為には、「現場経験5年以上」そして現役会員2名による推薦が必須とされ、年2回行われる理事会での審査で承認されなければならない。結果として会員は世界中のVFXの現場で活躍するプロによって構成される事になる。

つまり、VFX業界のプロによる、プロの為の、プロによる映画ギルドと言える。

VESはもはや、米国映画芸術科学アカデミー、全米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つとして認知されている。


○VESアワードとは、どのような賞か

fbfe3aec.jpgご存知のように、映画「スター・ウォーズ」(1977)の登場以降、VFXを抜きにしてハリウッド映画は語れずと言う程、エフェクトは映画製作に浸透している。

年間に製作されるVFXを駆使した映画の本数も膨大であり、テレビ番組やミュージック・ビデオの分野においても、目を見張るエフェクト作品が数多く登場している。

これ程までに大量のエフェクト作品が世に送り出されていながら、これらの作品に対して贈られる権威ある賞と言えば、アカデミー賞やエミー賞ぐらいのもの。審査対象とされるカテゴリーも、ごくごく限られている。

より多くの優れた作品にチャンスを与える場を、業界全体で設けられないだろうか?そんな趣旨により、2003年よりVES主催によるVES AWARDが毎年1回、開催されるようになった。

さて、今年の授賞式は、全26ものカテゴリに分けられ、世界中から応募されたエントリー 作品の中から、会員投票によって最終的な受賞作品が決定された。
 
受賞者には、VESのシンボルである、世界で最初の特撮映画、ジュール・ヴェルヌの「月世界旅行」で有名な月顔とロケットを象った、金のトロフィーが贈られた。

「ベンジャミン・ボタン」でコンポジット部門賞を受賞したデジタル・ドメインの合成チーム
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また、今年度からスティーブン・スピルバーグ監督の提案により学生VFX作品が新カテゴリに追加される事になり、より受賞枠の幅が広がった。表彰前にはスピルバーグ監督からのビデオ・レターが紹介されたが、その中で監督は「学生賞は人材育成の為にも非常に重要です。なぜなら、この業界の未来を担うのは、学生の皆さんなのですから」とい感銘深いコメントを述べていた。
 

○超大物映画プロデューサー、フランク・マーシャル&キャスリーン・ケネディ夫妻が生涯功労賞を受賞
 
ご夫妻と、プレゼンターを務めたデビット・フィンチャー監督
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今年の生涯功労賞(Lifetime Achievement)は、スピルバーク監督作品を中心とするVFX分野での長年に渡る優れた功績を打ち立ててきた、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ夫妻に生涯功労賞(Lifetime Achievement)を贈られた。

フランク・マーシャル氏は映画プロデューサー及び映画監督として、夫人のキャスリーン・ケネディ氏は映画プロデューサーとして共に知られ、80年代前半からスピルバーグ作品を中心とするVFXを駆使した大作映画作品を手掛けてきた。

また、夫妻は1981年に設立されたアンブリン・エンターテインメントの共同設立者としても知られており、アカデミー賞には6回もノミネートされている。

夫妻が手掛けた作品は膨大な数に上るが、特に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「インディ・ジョーンズ」シリーズは有名。現在夫妻がプロデューサーとして携わっている作品郡には「ジュラシック・パーク4」(2010年公開予定)も含まれている。
 
今年の映画賞を総ナメにした「ベンジャミン・バトン」も夫妻が手がけた作品であり、それにちなんで、賞のプレゼンターはデビット・フィンチャー監督が務めるという豪華さだった。

夫妻が受賞した生涯功労賞は、ジョージ・ルーカス氏、ロバート・ゼメキス氏、デニス・ミューレン氏、スティーブン・スピルバーグ氏に続いて5人目となる。
 

○クリーチャー&ストップモーション・アニメのパイオニア、フィル・ティペット氏が “George Melies Award”を受賞

3b86864f.jpgまた、今年はSFX&VFX界のパイオニアであり、VFXスーパーバイザー、そして監督としても活躍するフィル・ティペット氏が“George Melies Award”を受賞した。

この賞は「パイオニアとして、ビジュアル・エフェクツの発展にアートと科学の両面から寄与し、優れた発明や卓越的な業績を残した者」に贈られる栄誉ある賞で、これまでには、CGのパイオニアであるロバート・エイブル氏が受賞している。

賞のプレゼンターは、ティペット氏と「スター・ウォーズ」(1977)のSFX制作で苦楽を共にし、ILM時代からの旧知の仲であるデニス・ミューレン氏が務めた。

表彰前に、ティペット氏の生い立ちを紹介する大変ドラマティックなビデオが上映されたが、 それを涙を流しながら見入っているティペット氏の姿が非常に感動的であった。

涙を流しながら、ビデオ映像に見入るフィル・ティペット氏66ac53f2.jpg

















○VESアワード至上初! 日本からの初ノミネート

今回は、VESアワード至上初めて、日本からの応募作品がノミネートされた。

都内のミニチュア制作会社マーブリング・ファインアーツ社が手がけた映画「山のあなた 徳市の恋」の1/5サイズミニチュアセットが「Outstanding Models and Miniatures in a Feaure Motion Picture」部門に見事ノミネート。

惜しくも受賞には至らなかったものの、日本からの応募作品がVESアワードでノミネートされたのは初めての事であり、日本が得意とするミニチュア・ワークが本場ハリウッドでも認められた証と言えるだろう。

  写真:
   快挙!日本から唯一のノミネート
   「Outstanding Models and Miniatures in a Feaure Motion Picture」部門
   映画「山のあなた 徳市の恋」 1/5ミニチュアセットで見事ノミネート

   マーブリング・ファインアーツ社 クルーのみなさん
   左から:有働英雄、岩崎憲彦、岩崎敏子、富田雄治、木場太郎の各氏

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○ハリウッドで活躍する日本人アーティストのノミネート

また、ハリウッドで活躍する日本人アーティストもノミネートされていた。

 「Outstanding Created Enviroment in a Feaure Motion Picture」部門で
 「ハムナプトラ3」がノミネートされたリズム&ヒューズの長谷川 祥氏、

 「Outstanding Matte Painting in a Feature Motion Picture」部門で
 「インディジョーンズ4」がノミネートされたILMの上杉 裕世氏である。


今年の受賞作品は下記の通り :


Outstanding Visual Effects in a Visual Effects Driven Motion Picture
The Curious Case of Benjamin Button
Eric Barba, Edson Williams, Nathan McGuinness, Lisa Beroud

Outstanding Supporting Visual Effects in a Motion Picture
Changeling
Michael Owens, Geoffrey Hancock, Jinnie Pak, Dennis Hoffman

Outstanding Animation in an Animated Motion Picture
Wall-E
Andrew Stanton, Jim Morris, Lindsey Collins, Nigel Hardwidge

Outstanding Visual Effects in a Broadcast Miniseries, Movie or Special
John Adams – Join or Die
Steve Kullback, Erik Henry, Robert Stromberg, Jeff Goldman

Outstanding Visual Effects in a Broadcast Series
Battlestar Galactica Season Four – BSG Space Battle
Gary Hutzel, Michael Gibson, Doug Drexler, Kyle Toucher

Outstanding Supporting Visual Effects in a Broadcast Program
Fringe – Episode 101 - Pilot
Kevin Blank, Jay Worth, Andrew Orloff, Barbara Genicoff

Best Single Visual Effect of the Year
The Curious Case of Benjamin Button – Benjamin’s Secret
Eric Barba, Lisa Beroud, Steve Preeg, Jonathan Litt

Outstanding Visual Effects in a Commercial
Bacardi - Sundance
Alex Thiesen, Nikos Kalaitzidis, Jay Barton, Zsolt Krajcsik

Outstanding Visual Effects in a Special Venue Project
U2 3D – Selected Shots
Peter Anderson, Steve Schklair, David Franks, Jeremy Nicolaides

Outstanding Real Time Visuals in a Video Game
Crysis Warhead
Zoltan Pocza, Gabor Mogyorosi, Tamas Schlagl

Outstanding Pre-Rendered Visuals in a Video Game
World of Warcraft – Wrath of the Lich King – Intro Cinematic
Jeff Chamberlain, Phillip Hillenbrand

Outstanding Animated Character in a Live Action Motion Picture
The Curious Case of Benjamin Button – Benjamin Button
Steve Preeg, Matthias Wittmann, Tom St. Amand, David McLean

Outstanding Animated Character in an Animated Motion Picture
Wall-E – Wall-E and Eve Truck Sequence
Ben Burtt, Victor Navone, Austin Lee, Jay Shuster

Outstanding Animated Character in a Live Action Broadcast Program or Commercial
Brains Dance
James Sindle, Jesus Parra, Josh Fourtwells

Outstanding Effects Animation in an Animated Feature Motion Picture
Wall-E – Effects in Wall-E
Jason Johnston, Keith Klohn, Enrique Vila, Bill Watral

Outstanding Matte Paintings in a Feature Motion Picture
Changeling – 1928 Downtown L.A.
Romain Bayle, Abel Milanes , Allan Lee, Debora Dunphy

Outstanding Matte Paintings in a Broadcast Program or Commercial
Doctor Who – Series 4 – Silence in the Library
Simon Wickers, Charlie Bennett, Tim Barter, Arianna Lago

Outstanding Models and Miniatures in a Feature Motion Picture
The Dark Knight – Garbage Truck Crash Models and Miniatures
Ian Hunter, Forest Fischer, Scott Beverly, Adam Gelbart

Outstanding Models and Miniatures in a Broadcast Program or Commercial
New Balance - Anthem
Ian Hunter, Jon Warren, Matt Burlingame, Raymond Moore

Outstanding Created Environment in a Feature Motion Picture
The Dark Knight – IMAX Gotham City Scapes
Peter Bebb, Stuart Farley, Philippe Leprince, Andrew Lockley

Outstanding Created Environment in a Broadcast Program or Commercial
John Adams – Join or Die – Episode 1 – The Boston Harbor
Paul Graff, Robert Stromberg, Adam Watkins

Outstanding Compositing in a Feature Motion Picture
The Curious Case of Benjamin Button – Benjamin Comes Together
Janelle Croshaw, Paul Lambert, Sonja Burchard, Sarahjane Javelo

Outstanding Compositing in a Broadcast Program or Commercial
John Adams – Join or Die – Episode 1 – The Boston Harbor
Paul Graff, Joshua LaCross, Matt Collorafice

Outstanding Special Effects in a Motion Picture
The Dark Knight – Overall
Chris Corbould, Peter Notley, Ian Lowe

Outstanding Effects in a Student Project
Plastic – Transformation Sequence
Sandy Widyanata, Courtney Wise


 


 

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(C)1997-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎 

 
 

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画像提供:VES  (C)1984 Universal Pictures 

StarFighter.jpg















 
この映画タイトルと画像を見て、「おっ♪」と思うアナタは、かなり通の方であろう。そう、この映画「ラスト・スターファイター」(THE LAST STARFIGHTER)こそ、米CG史に名を刻む秀作であり、世界で初めて3DCGが実写映画のVFXに使用された(※)、パイオニア的な作品なのである。


※世界で初めてCGが実写映画のVFXに使用された作品

 同じくCGを本格採用したパイオニア的作品にはディズニーの「トロン」(1982)があるが、こちらは実写作品ではなくアニメーション作品というカテゴリづけである。ちなみに、アニメでの邦画初の使用例としては、トーヨーリンクス(現:リンクスデジワークス)による3DCGが採用され、話題を呼んだ映画「ゴルゴ13」(1983)がある。 


映画「ラスト・スターファイター」が公開されたのは1984年。マラソンの瀬古選手が活躍した、ロサンゼルス五輪が開催された年でもある。

この当時、日本には大手CGプロダクションが「JCGL」と「トーヨーリンクス」(現リンクスデジワークス)の2つ位しか存在しなかった時代だった。

しかしアメリカでは、他の追従を許さない最先端CGを制作する「Digital Productions」が最先端を走っており、この映画のCGも同社が制作したものだ。

あれから早くも25年が経過、ここハリウッドでは、その25周年を記念すべく、スタッフ&クルーをゲストに招いた特別上映会が米VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ)の主催により開催された。

今回はその特別レポートをお届けする事にしよう。


☆イベント 「THE LAST STARFIGHTER - On the BIG screen again!」

特別上映会が開催された、サンタモニカにあるアート系シアター、Aero Theater
AeroTheater.jpg
会場はサンタモニカにあるアート系シアター、The Aero Theater。ここでは、SF映画の名作がリバイバル上映されたり、
2005年にはVES主催VFXフェスティバルが開催された場所でもあり、VESメンバーにとっては比較的お馴染の映画館である。

本編上映の後にはパネル・ディスカッションが開催され、往年のファンを喜ばせた。

顔ぶれも豪華で、ニック・キャッスル監督、 映画音楽のグレイグ・サファン、主人公アレックスのガールフレンド、マギーを演じた女優のキャサリン・メアリー・スチュアート(撮影当時25才)、そしてVESのチェアであり、若かりし頃にこの作品VFXコーディネーターを務めたジェフ・オークン(※)らが、パネリストとして出席。



ジェフ・オークン氏(※)

VESの現チェアマンを務める。また、VFXスーパーバイザとして活躍し、最近の作品には、映画「ラスト・サムライ」、「地球が静止する日」などがある。
 



また、会場にはDigital Productionsにて製作に参加した元CGクルーが10数人、観客として訪れており、会場のあちこちでは、さながら同好会ムードが漂っていた。

crew_photo.jpg試写会終了後、記念写真に収まる主要スタッフ(前列)、そして元Digital  ProductionsのOB達(後列)。左はマギーを演じた女優のキャサリン・メアリー・スチュアート

撮影:Gene Kozicki  / VES

















ここでは、そのパネル・ディスカッションの模様を要約して、ご紹介する事にしよう。

パネル・ディスカッション 抜粋:

この映画は「画期的なSFX(※)映画」でありながら、実はそれとは程遠い低予算映画だった。



※SFX

 80年代~90年代は、特撮全般をスペシャル・エフェクツ(SFX)と総称していた。90年代前半よりデジタル革命が起こり、それ以降はコンピューターを使用した視覚効果をビジュアル・エフェクツ(VFX),特殊撮影(ミニチュア、火薬、水など、実際にカメラで撮影するもの)をSFXと使い分けるようになった。


総製作予算は約2000万ドル(現在の為替レートで20億円、当時のレート[$1=202円)だと40億円)、うち、VFXに割り当てられたのは、たったの1300万ドル相当(今のレートで13億円、当時のレートで26億円)。

これは当時、ハリウッドでの平均的なVFX予算の半分以下という有様だった。

CG製作は、当時世界の最先端を走っていたDigital Productions(以降DP)が担当した。



※Digital Productions
  
1982年にジョン・ウィットニーJrらを中心に設立されたCGプロダクション。スーパーコンピューター Cray X-MPを駆使して当時最先端の映像を生み出していた。代表作にミック・ジャガーの「ハード・ウーマン」のミュージック・ビデオ、映画「ラスト・スターファイター」(THE LAST STARFIGHTER)などがある。

1986年、世界最大のCGプロダクションだった Omnibus Computer Graphics(カナダ)に買収され傘下に入るが、その約1年後にOmnibusの破綻と共にその門を閉じた。ちなみに、Omnibusの日本支部だったOmnibus Japanは、今でも社名とロゴをそのまま継承しており、当時を知る北米のパイオニア達からは「お~!、オムニバスが、なんとまだ残っている!」「昔と同じデザインのロゴだ~!」と大変懐かしがられる存在となっている。


ジェフ・オークン氏によるとDPは当時、ラ・シエネガ通りに現在も工場を持つ老舗の製菓メーカー「シーズキャンディーズ」の近隣にスタジオを構えていたのだという。(当時のDPの住所は3416 South La Cienega)

1983年当時、CG業界で知らぬ人はいない、かの有名なジョン・ウィットニーJrを交えて、DPにてプリ・プロダクションが開始された。DPにはMIT出身の精鋭が集まり「すごくスマート(頭の回転が速い)な連中が集まっていた」(オークン氏)という。

彼らはディズニーの映画「トロン」(1982)を観て、ベクトル・プロセッサマシンと、フレームバッファの組み合わせによる当時の最先端CGシステムや技術を持ってすれば、もっと高いディテールが出せる、と考えたそうだ。

しかし、そうは言っても全てがチャレンジ。しかも誰もやった事がない、世界で初めての「3DCGによる宇宙船バトル」を映画に登場させるという試み。

モデリング・ツールなどない時代で、あるのは巨大なタブレットだけだった。

建築のバックグランドを持つアーティストが、ドローイングからドラフターで製図を行い、それをタブレットで1点1点、ポイントをクリックし、XYZ座標を入力する事で「モデリング」していった。

当時DPが駆使していたのは、かの有名なスーパーコンピューターCray X-MP。価格は1500万ドル、当時の為替レートで30億円に相当する代物だった。

「当時世界最速」だったスパコンCrayだが、処理速度は100MHz弱で、メモリーは16MB(!)。

今、このスペックを観ると流石に隔世の感があるが、当時限られた家庭にしかなかったパソコンのメモリーがたったの8KBだった事を考えると、そのスゴさがおわかりいただけるだろう。なにしろ10Mのハードディスクが10万円以上した時代である。

担当プロデューサー氏はSFX映画の製作経験すらなかったそうで「自分のキャリアの中で、最も恐ろしい作品だった。どうやって予算内に納めるか、いつもヒヤヒヤしていた」そうだ。

ある日、オークン氏がレンダリング時間を元にスケジュールを試算してみたところ、とんでもない数字が出て、ソニー映画のオフィスにいるプロデューサーを訪れ「これ、終わりませんね。」と報告しに行ったら、プロデューサーが文字通り氷ついていた、という笑い話も披露された。

このように、どこを取ってもすさまじかった映画「ラスト・スターファイター」の制作だが、「映画が完成するまで、映像の仕上がり具合は誰にも予想がつかなかった」という。しかし、その分プリ・プロや準備は綿密に行われた。ストーリーボードには可能な限り詳細に渡る設定や情報が記述され、作業が進めやすいようにする工夫が凝らされたいたのだという。

こうしてスパコンCrayを駆使し、全編を通して27分のCGショットがレンダリングされた。1フレームあたりのポリゴン数は25万ポリゴン。これも、当時としては天文学的な数字だった。

技術的にはテクスチャーマップが可能になった頃で、特に主力戦闘機ガンスター[写真]には、意外な事にプロシージャル・テクスチャー(関数で生成したテクスチャー)が多用されていたのだそうだ。

「あれからCGの技術は発達し、とうとう『ベンジャミン・バトン』のような映画も作る事が出来る時代になった。実は、あの当時から、ジョン・ウィットニーJrは「いつか、俳優がいらなくなる時代がくる。すべてコンピューターで作れる時代が来る」と語っていた。それが現実となる時代がとうとうやって来たのは感慨深いものがある」とキャッスル監督は語っていた。

さて映画「ラスト・スターファイター」は公開25周年を記念して、なんとキャッスル監督主導でパート2の企画が動いているという。

監督によると「脚本は完成している状態」という事で、公開は来年以降になるとの事。今からとても楽しみである。

1作目を観た事がない方は、是非DVDでチェックしてみる事をオススメしたい。モーション・ブラーこそかかっていないが、当時の技術を考えるとCGによるシーンは感動的に、そして新鮮に映るのではないだろうか。

 


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