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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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○はじめに

カリフォルニア州には、数多くのフィルム・スクールが存在する。中でもロサンゼルス・ダウンタウンの南部に位置する、私立の南カリフォルニア大学(以降、USC)は、その最たる存在である。

USCには全米で最も古い歴史を誇る映画芸術学部があり、ジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス、ロン・ハワード等アカデミー賞受賞監督を数多く輩出している事でも知られている。

ハリウッドの著名VFXスタジオやアニメーション・スタジオで働くアーティストにも、USCの出身者は多い。

このように、映像教育の分野で多大な実績を誇っているUSC。ここでどのような教育体制が敷かれているのか非常に興味深いところだが、実際に同大学で学んだ卒業生の「生の声」を聞ける機会というものは、意外と少ないものである。

そこで、今回はUSCを卒業した人材へのインタビューをベースに、USCの最先端映像教育について、掘り下げてレポートしてみる事にしよう。


○牧 奈歩美氏が語るUSCの強力な教育システム

b3c32d41.jpg2009年のホノルル国際映画祭にてベスト・エクスペリメンタル・フィルム賞、およびゴールドカフナ賞を獲得したアニメーション作家・3Dアーティストの牧 奈歩美氏(写真)も、ここUSCの出身だ。

牧氏は、岡山市出身。京都市立芸術大学を卒業後、2005年よりUSCに留学。映画芸術学部アニメーション&デジタルアート学科修士課程を終了、現在はLA市内の3Dソフトウェア制作会社.にて3Dアーティスト兼グラフィックデザイナーとして活躍する傍ら、フリ-ランスでTVドラマのTitle animation director/animator としても参加している人物である。

 

そんな牧氏に、USCの最先端映像教育について、ご自身の経験を基にお話を伺ってみた。




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2009年のホノルル国際映画祭ゴールドカフナ賞、及びBest Experimenal Film Awardを受賞した牧氏の作品「Swimming Moon」。

月と狂気をテーマに描いた抽象的な物語で。写真は、透明感のある巨大な花が海に浮いている場面。花のテクスチャは、オパール、ラピスラズリなどの鉱物からインスパイアされているという。




○長年に渡って蓄積された、充実の教育システム

USC映画芸術学科の映像教育は、長年の実績により積み重ねられた充実のカリキュラムと、教授陣が各分野の第一線で活躍している事も魅力の1つ。学科も、アニメーション、制作、脚本、評論、インタラクティブ、プロデュース等多岐に渡っているという。

その中に牧氏が卒業したアニメーション学科があるが、ここでは伝統的なアニメーションから、VFX含めた最新技術までを学んでいく。

カリキュラムは35mmで撮影するアニメーションから始まり、アニメーションの制作そのものを学ぶクラス、実験的なファインアートとして学ぶクラス、アニメーションの歴史、脚本、批評、そして3DCGのクラスなど、バランスの取れた充実したカリキュラムが用意されている。現在、牧氏が作品を作る上で「USCで学んだ事が、大きな糧になっている」という。

毎週著名ゲストを招いてレクチャーを行うセミナークラスでは、これまでにブラザーズ・クエイ兄弟、ニック・パーク氏、アート・クローキー氏、そして日本から高畑 勲氏などが来校。一流のアーティストの講演が聞ける非常に貴重な機会だったという。

これらの充実したカリキュラムは”USCならでは”のもので、「他の大学や教育機関とは大きく異なる点」と牧氏は語る。

さて、CG界でUSCと言えば、現在マリナ・デル・レイにあるUSC ICT研究所で行われている、イメージ・ベースド・ライティングの生みの親として名高いポール・デベヴェック準教授の研究が有名だ。USCはデジタル映像テクノロジーの研究分野でも世界をリードする存在なのである。


[ゼメキス監督によるモーション・キャプチャのクラスにて、集合写真]

3fb23404.jpgまた、特筆すべきは、数年前から始まった、USC卒業生であるロバート・ゼメキス監督によるモーション・キャプチャのクラスだ。キャンパスから少し離れた場所にある「ロバート・ゼメキス・センター」と呼ばれるラボに、身体のモーションから、顔の表情のキャプチャに至るまで、モーション・キャプチャの過程全てが行えるシステムが一通り備わっている。

学生達は基本的パイプラインから、実践作業を学び、最終的には学期末にショート・フィルムとして作品を提出する。その中で、ゼメキス監督自身より「べオウルフ」の制作秘話を伺ったり、「クリスマス・キャロル」の撮影現場を訪問し、生の制作現場見学や、俳優から話を聞く機会にも恵まれた。「これら非常に貴重な経験になった」と牧氏は語る。

USCにはフレキシブルな教育システムがあり「自分の専攻の以外の学科の学生とコラボレーションが出来る環境」があり、ここから学んだ事は大きかったという。例えば、映画音楽作曲科では「作曲をさせてもらえる」学生映像作品を常に求めている。このように、異なる専攻の学生がお互いに必要なものを求め、与え合うことで、コラボレーションが成立していく。

また、アニメーション専攻の学生が、実写映画専攻の学生作品のプロダクション・デザインや一部のアニメーションを担当する事で、アニメ制作とはまた違った過程を学ぶことにも繋がっていく。日本の学校は学科毎の交流が無い場合も多く、このUSCの事例は新鮮に感じる。

こうして幅広い視点からアニメーションを学び、最終的には修了制作という形で、学んで来た事を形にする。古典的なスタイルのアニメーション、VFXに主力を置いた作品、実写を取り入れた作品、実験映画、ミュージックビデオ等、その作品スタイルは様々だ。

年に一度の学生作品上映会では、学生が作品を応募し、教授陣による審査によって上映されるラインナップが決定される。アニメーション科の上映会はサンセット通りにある全米監督協会(DGA)シアターで行われるという本格的なもので、映画関係者も多く訪れ「プロフェッショナルな、お披露目の場」を経験出来る機会だという。


○人脈を築くのにも適した立地

言うまでもなくUSC卒業生は地元ハリウッドの映像業界で数多く活躍しており「そこから人脈を広げていける事も魅力」と牧氏は語る。

西海岸には映像産業に従事している日本人も多く、LAを拠点とする映画監督である秋山貴彦氏の紹介により、ハリウッドのVFXスタジオで働く日本人アーティスト達との交流で人脈も増えた。

また、USCは意外に日本との接点も多いそうだ。例えばTBSのようにUSCと交換留学制度を実施した企業や、東京工科大学のようにUSCと提携して研究を行った大学もあり、産学両面での国際コラボレーションの姿勢が伺える点も興味深い。


○海外の教育事例に学ぶ

シーグラフ等で目にする海外の学生作品は、日本のそれと比べて作品の完成度が異なるケースが多い。着目すべきは、単に映像面だけでなく、ポスプロや音響面も含めて、プロ水準に極めて近いハイレベルな作品が数多く発表されている事にある。

これからの日本の映像教育も、USCに見る最先端の教育環境を参考にして、良い部分は段階的に採り入れていく柔軟な姿勢が必要なのかもしれない。

もちろん一朝一夕で事が運ぶというものではなく、累積する課題も多い事とは思うが、今回のような記事を定期的に寄稿し、ジャーナリストとして情報発信をしていきながら、その一端をお手伝いしていく事が出来れば、大変嬉しく思う。
 


 

   過去記事はこちらからどうぞ 全目次
 



上記コラムは、このサイト向けに書かれたオリジナルコラムです。

著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
お願い申し上げます。

転載や引用をご希望の方は、お問い合わせページ
よりご連絡下さいませ。

(C)1997-2010 All rights reserved  鍋 潤太郎 

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VES主催による「第1回プロダクション・サミット09」というカンファレンスのレポートを、月刊CGワールド誌1月号(Vol.137)に寄稿させて頂きました。

記事は2ページに渡って掲載して頂いたのですが、雑誌という限られたスペースに収める為、筆者の膨大なオリジナル原稿を、ベテラン編集者の方の手腕により、要点のみをコンパクトにまとめる形で、どうにか&こうにか2ページに収めて頂いたという経緯がありました。

該当号の発売から1ケ月以上が経過した事もあり、今回は、編集前のオリジナル原稿(長文ですみません)をご紹介させて頂く事に致しましょう。

皆様のご参考になれば幸いです。

 



VES主催 第1回 先進VFXスタジオ首脳会議(Production Summit09)が開催される

取材・文:  鍋 潤太郎
協力: Rita Chahill -  VES / Production Summit Committee


[会場はマリナ・デルレイにある4つ星ホテル、リッツ・カールトン]

Ritz_Carlton_Hotel.jpg2009年10月24日(土)、VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ / 米視覚効果協会)主催による「第1回プロダクション・サミット09」というカンファレンスが、ロサンゼルスにある4つ星ホテル、ザ・リッツ・カールトン マリナ・デル・レイにて開催された。

VESは、これ迄にも各種セミナーやカンファレンスを積極的に実施している。

テーマは毎回異なり、最新作の無料試写会&スタッフによる質疑応答だったり、VFX現場寄りのメーキング・セミナーだったり、最新のテクノロジーを紹介したテクニカルな内容だったりと、網羅しているジャンルは幅広い。

今回は、VESとしても初めての試みとなる「プロダクション・サミット」というカンファレンスが企画された。

読んで字の如く、地元ロサンゼルスにあるトップ・プロダクションのエグゼクティブ、プロデューサー、マネージャー等を招いての「先進VFXスタジオ首脳会議」で、プロダクション経営やマネージメントに携わる人々を対象としたカンファレンスであった。

もちろん、現場レベルの人でも、VFX業界以外の映画ギルドに所属する人でも、一般人でも、参加費を支払えば誰でも参加出来る。

ただ、マネージャー・クラスの管理職以上を対象としている為か、参加費は1人495ドル(VES会員は395ドル)と、個人で出すにはかなり高額の設定。(殆どの参加者は、会社が支払っているものと思われる)

しかし、この不況にも関わらず参加者は240人と大盛況、会場となったリッツ・カールトンホテルのボール・ルームはほぼ満員で、追加席を出す程。各セクションでは活気に満ちたパネルディスカッションが繰り広げられた。

会場を見渡すと、各社のトップ・エグゼクティブの顔がズラリ。リチャード・エドランド氏等の著名人の姿も見られた。

「…今、ここに飛行機が落ちたら、ハリウッドのVFX業界は壊滅するな」と思ってしまった程であった(あ・ほ・か)。

筆者はプレス席だった関係でボールルーム後方に陣取っていたのだが、こうして場内を後ろから見渡すと白髪やハゲ頭が目立ち、ハリウッドにおける層の厚さを「思わぬ形」で再認識させられた。


この日のファンファレンスは、次のようなスケジュールで開催され、朝早くから夕方まで休憩を挟みながら行われた。

○[08:30-09:20] プリ・プロダクションについて
○[09:30-10:20]  プロダクションについて
○[10:30-11:20] ポスト・プロダクションについて
○[14:00-15:30] 21世紀のポスト・プロダクションに期待するもの、10年後の展望は?
○[15:45-17:15] プロダクション・ビジネスと、経済の動向について

日本にいると殆ど情報が入ってこないであろう、ハリウッドでのマネージメントに関する白熱する議論は、かなり貴重なものだった。

今回は、是非ここで皆さんにもご紹介したいと思う。


 

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豪華なパネラーの顔ぶれ。ハリウッドをリードする一流どころが顔を揃える。



 







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マリナ・デル・レイという場所柄もあり、真横はヨットハーバー。休憩時間にはちょっとしたリゾート気分が味わえる。Houdiniでお馴染みSideEffects提供によるバイキング・ランチも、このホテルの豪華なプールサイドで召された。









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 この日のカンファレンスを支えたスポンサー各社。今回はHoudiniでお馴染みSide Effectsが筆頭スポンサーで、続いてAutodesk、CafeFXなど。著名映画情報紙である「バラエティ」の名前も見える。




















cc407a99.jpg会場入り口には、参加者が書き込める問題提議板があった。








~我々には共通する課題があります 解決に向けて議論しましょう~

どうやって解決すべきか:

 ・データのスタジオ間での共有
 ・全員の雇用維持
 ・業界の成長
 ・プロ意識の線引き       
 ・収入UPについて
 ・YouTubeで流れる映像の著作権料
 ・VFXユニオンを作ろう!
 



○[08:30-09:20] プリ・プロダクションについて  

 ハリウッドは朝型である。最初のセッションは朝8:30から始まった。

 パネラーは次のとおり:

  ヴィクトリア・アロスノ女史(Marvel Studio / VFXとポスプロ部門 エグゼクティブ)
  ジェームス・ビセル氏(プロダクション・デザイナー)
  アート・レポラ氏(ウォルト・ディズニー・スタジオ映画 / VFXとポスプロ部門 エグゼクティブ)
  マーク・ライト氏(プロデューサー、VFXスーパバイザー)


~プリ・プロダクションにおけるデジタル・テクノロジーの活用について、ざっくばらんにご意見を。

Sec1_PreProduction.jpg映画におけるプリ・プロダクション(以降、プリプロと表記)では、プロダクション・デザインと3Dチームの連携は非常に重要だ。 

デベロップの段階から関係を密にしておく事で、多くの問題点を事前に洗い出す事が出来る。

近年、映画のVFXは1つのエフェクト・ハウスだけではなく、複数社が関わるようになってきた。

「A社とB社は使用ソフトが違うのでデータを共有出来ない」なんていう事態は未だにあるが、今後はなるべく解決されていく事を望みたい。

その点、最近の映画「2012」の例では、数多くのスタジオが関わったが、データ共有が上手く行った例だと思う。

プリプロ段階では、DP(Director of Photography / 撮影監督)、デザイナー、プロダクション・デザイナーのスケジュール・シェアが重要。ある期間だけ誰かが欠ける、後半になると誰かが居ない、なんて事はよく起こりうる。
  
映画「300」の時は、プリプロに4ケ月を費やして行われた。膨大なショット数、撮影期間に加えて、エフェクト・ハウスとのデータのやりとり等、「デジタル・プロセス基礎知識」への理解などを含めて進めていく。

デジタル・テクノロジーの進化によって撮影現場を取り巻く環境もここ10年で大きく変わりつつある。

映画によっては撮影セットをデジタルで変えたり、俳優をデジタルで作って追加する事もある。役者本人以外、背景360度がすべてデジタルの「バーチャル・バックグランド」という事もある。必要があれば、役者の立ち位置をずらしたりする事もある。これらは、映画制作者サイドからすると、非常にエキサイティングな作業だ。

最近は、ちょっとしたロマンティック・コメディ作品でも、必ず何らかのVFXや、DI作業が行われる時代になった。それとは相反する形で、ポスプロ・スケジュールは全体として短縮傾向にあり、現場のチャレンジも増えてくるだろう。

例えば、1日につき100万ドル(1億円相当)掛かるような大掛かりな撮影プランがあったとしよう。これを、プリプロを上手く行えば、ポスト段階でデジタル・テクノロジーを駆使する事を前提に撮影を行い、撮影時間を短縮する事が出来る。つまり、結果として制作コストを大幅に節約する事が出来る訳だ。

沢山の映画監督と仕事をしてみると、意外と監督本人がきちんとしたビジョンを持っていない事も少なくない事がわかる。これは結構悩みのタネで、プリプロ中にそれが露呈する事もある。また意見が二転三転する時はホント困りモノである。

そんな時は、DPやVFXスーパーバイザ等、「その場で、誰が決定権を持っているか」が重要なポイントとなる。

ポスプロの現場は、確かにデジタル・テクノロジーで技術的には大変進化したが、その弊害として撮影が粗雑になる傾向がある。

「ポストでフィックスしよう」「後で直せばいいよ」そんな風潮が多くなって、撮影クルーはみんなレイジー(怠慢)になりつつある。  

他にも問題は山積みだけど、実はコレが一番やっかいで大きな問題かもしれないね(場内爆笑)
 



○[09:30-10:20] プロダクションについて

休憩を挟んで、続いては「プロダクション」について。ここで言う「プロダクション」とはVFX作業の事ではなく、映画の撮影部分を指している。VFXはポスプロに含まれる為だ。

このセッションのパネラーはアカデミー賞、エミー賞などの受賞歴を持つ、豪華な顔ぶれで行われた。

パネラーは次のとおり:

  サド・ベイア氏 - デジタル・ドメイン / CG部門代表
  テリー・クロティアックス氏 - プライム・フォーカス(インド) / 北米VFX担当エグゼクティブ
  ヴォルカー・エンゲル氏 - プロデューサー、VFXスーパバイザ
  キャサリン・ハードウィック女史 - 映画監督 「バニラ・スカイ」のプロダクション・デザイナとしても有名
  ジョン・シェーレ氏 - VFXスーパバイザー
  ポール・スミス氏 - 映画エディター


~先ほどのセッションでは、監督達に対する攻撃があったが、キャサリン・ハードウィック女史の監督としての意見はどうか

Sec2_Production.jpgさっきのセッションでの監督攻撃はアンフェア!(笑)

監督は全てを網羅しなければいけないので大変。

私の作品ではVFXスーパバイザーなんて居なくて、私とプロダクション・デザイナーの2人だけで全てをまかなっていた。

でも、監督は「考えが二転三転する」という部分は、ある意味事実かも?なにしろ、頭の中にはアイデアが沢山あるから。


~フィルム・メーキング(映画制作)の中での、「ツールとして」のデジタルのあり方は。

映画「2012」のLAシーンでは、95%がデジタルで、残りの5%が本物の俳優という事が前提で撮影されたシーンが多かった。その為、プリビズも念入りに作られた。

この作品のように視覚効果がウリの作品の場合、デジタルVFXの役割は「パート・オブ・ザ・ストーリー」。つまり、映画のストーリーを際立たせる事が第一大切だ。それを、限られた期間と予算の中で進めていく訳だ。

映画のプロダクションの中で、「ツールとして」大きな変化だったものは、やはりデジタル・シネマトグラフィー。これは自分達のキャリアの中でも大きな革命だった。
  
少し前は 「デジタル・テクノロジーはポスト・プロダクションで使うもの」が基本だったが、最近ではプリビズで使用したりと、映画制作の最初から最後まで絡んでくるツールになってきた。

また、デジタルの発達で、わざわざブルー・スクリーンで撮らなくても、マスクが抜ける時代になった。但し、ロト・アーティスト達は死ぬけど(笑)

フィルム・メーキング(映画制作)はアーティスティック・プロセス。随所で様々な問題が発生し、その判断は簡単ではない。プロダクションでは、撮影の進行速度を「時速50マイル」でゆっくり行くか、それとも「時速70マイル」のハイペースで進めて行くのか、それは監督自身に委ねられる。

10年前、TVドラマの撮影現場では、フィルムで撮影し、横で並行してビデオに撮って、それをすぐVFXスタジオへ送って仮合成版を作り、監督に見せてチェックしていた。

今やそれがデジタル・シネマになって、同じ流れで作業をしている訳だが、フィルムを介さない分、待ち時間が大幅に短縮された。
 



○[10:30-11:20] ポスト・プロダクションについて

パネラーは次のとおり:

 エリック・バルバ -デジタル・ドメイン / VFXスーパバイザー 「ベンジャミン・バトン」や「トロン2」(制作中)を担当
 デニス・ホフマン- CISバンクーバー / ゼネラル・マネージャー
 リック・ピアソン- 映画エディター
 スティーブ・ポスター - 撮影監督 / ASC(全米撮影者協会)
 アラン・シルヴァーズ - Lowry Digital / 市場開拓部


~ポスト・プロダクションの未来は、そして将来はどのようになると予測するか?

Sec3_PostProduction.jpg何よりも最も重要な事は、我々のビジネスが継続して存在していく事だろう(笑)

ポスト・プロダクションにおけるデジタル・テクノロジーは1つの「ツール」。

監督が観客に対して伝えたいメッセージを、ポスト・プロダクションによってエンハンスし、そしてスクリーンに送り届ける。それが「ツールとしてのVFX」だと思う。

映画スタジオ側はあくまでもビジネス主導だ。ビジネスである以上、ボックス・オフィスの売り上げが全てである。

しかし、撮影監督やプロダクション・デザイナーはクリエイティブな視点で、監督はストーリー・テリングの立場で、これらのコラボレーションによって映画を作り上げていく。


~スティーブ・ポスター氏、DP(撮影監督)としてのデジタル・ツールについて意見を。

デジタル・テクノロジーが映画制作に与えた大きなツールの1つに「プリビズ」がある。ただ、これには長所・短所がある。

DPとしての立場で言わせて頂くと、私にとって「プリビズ」には短所ばかりが目につく。

「プリビズ」は「作り手のビジョンを殺してしまう」という短所がある。私はスピルバーグ監督が述べていた「撮影の際に、プリビズが演出の邪魔になる事がある」という意見には100%大賛成だ。


~デジタル・ドメインのエリック・バルバ氏の意見は。

私はその意見には反対の立場だ。VFX制作の現場では、「プリビズ」はディレクターのビジョンを把握するのに 不可欠であり、非常に重要なツールだ。

例えば、過去のデジタル・ドメインにおけるデイビット・フィンチャー監督とのテレビCMでのコラボレーションでは、「プリビズ」が大変役に立った。

自分はあくまでもアーティストであり、テクニカルな立場ではない。しかし、「プリビズ批判」には反論しておきたい。


~では、映画制作に不可欠なDIについて語ってみよう。

DI(デジタル・インターメディエイト)は、90年代半ばから始まったテクノロジーだ。DIの登場により映画の画質は大きく向上し、ストーリー・テリングをエンハンスする大きな力となった。

例えば、撮影時にうまく実現出来なかった「絵づくり」が、DIでの後処理によって初めて求めるディテールが実現する事もあり、非常に強力なツールだ。

デジタル側/アナログ側の立場があるとすると、DPはアナログ側に立っている。アナログ側の人間が着目しているのは、デジタル・テクノロジーを如何に正しく理解していくか?という点だろう。

さきほど話題に出たフィンチャー監督は、デジタル・テクノロジーを「ツールとして正しい方向で使いこなす事を見出した監督」だと言えるのではないだろうか。

現在、DIは10bit処理が主流だ。しかし、これではまだまだ不充分だ。また、スーパーハイビジョンへの対応なども含め、これからどんどん進化して欲しいツールだと思う。

今後は、エディトリアル(編集)とVFXの両方に精通しており、正確な判断力をもった人材が必要で、そういった知識がVFXプロデューサーに求められるだろう。


~VFX制作の現場については、どうか。

VFX制作現場は、若手が増えた。彼らはビデオ・ゲームで育ってきた新しい世代だ。そして使用しているマシンはGPU時代に突入しつつある。それが、今のVFX制作現場の新しい潮流なのかもしれない。

~このセッションで正解だったのは、スティーブ・ポスター氏のDPとしての考えを聞けた点かもしれない。そして、我々VFXを提供する側の人間に必要なのは、「アーティストとして」クオリティを高めていく視点と興味、そして熱意ではないだろうか。


 



○ランチ休憩 

プールサイドでの、バイキング形式のランチは、なんと無料。 提供はHoudiniでお馴染みSide Effects。
 



○[14:00-15:30] 21世紀のポスト・プロダクションに期待するもの、10年後の展望は?

ここから午後のセッションとなるが、参加者はベテランになる程、顔見知りが多いもの。開始時間になっても、会場のあちこちで談笑を続ける人が多く、業を煮やした司会者が指笛を吹き鳴らし、着席を促す一幕もあった。


 パネラーは次のとおり:

 スティーブ・ベアーズ氏 - フォトケム / 技術部長
 フレッド・チャンドラー氏 - FOX / ポスプロ部門エグゼクティブ
 ベン・クロスマン氏 - CafeFX / VFXスーパバイザー
 ダリン・オカダ氏 - 映画カメラマン
 スティーブ・スコット氏 - E-Film / 副社長、カラリスト、クリエィティブ・ディレクター


~ポスト・プロダクションの現状は?

Sec4_21centuryPipeline.jpgデジタル・テクノロジーが台頭し、反対にフィルム文化がどんどん衰退し、ポスト・プロダクションを取り巻く環境は日々、大きく変わりつつある。

その代償として、ファイル・フォーマットやカラー・スペースなど、やっかいな新しいチャレンジが次から次へと出て来た。
 
レゾリューション1つにしても、HDから4Kまで多岐に渡っている。

最近の映画におけるVFXでは、12の異なるエフェクト・ハウス(VFXスタジオ)が、1つのカラー・ハウス(DIを行うポスプロ)とやりとりを行うなど、新しいフレーバーのスタイルでポスト・プロダクションが行われるようになってきた。

映画の撮影界では、アリフレックスvsパナビジョンの熾烈な競争が繰り広げられ、同じ35mmフィルムでも2Pか3Pかというカメラ内部で起こっているフォーマット争い等があり、これに対応していくポスト・プロダクションや使い手の苦労も絶えない。

これらは、なんだか家庭用ビデオにおける、VHSvsベータの戦いを彷彿させるものがある。


~ダリン・オカダ氏、映画カメラマンとしての意見は?

デジタル化が私に持たらした事は、

 ♪ 早い(faster)
 ♪ 安い(cheaper)
 ♪ 旨い(better)

の3点だろう(場内爆笑)

ただ、スキン・カラーの表現でフィルムに勝るものは、まだない。デジタル・カメラもかなり近づいて来ているが、まだフィルムには及ばない。

「スキン・カラーを如何に再現できるか」がDPやカメラマン、そしてポスプロのカラリストが求めるものだ。

VFXだけではなく、カメラを取り巻く環境も大きく変わりつつあり、それに追いついて行くのは大変な事だ。

ポスト・プロダクションのパイプラインの中で、カラー・スペースの問題が起こる事は頻繁にある。特にリニアorログ(LogLin)のトラブルは多い。

これらを未然に防ぐ為には、VFXパートは初期の段階から、DPやポスプロのカラリストの意見を聞きながら進めるべきである。

どんなカラー・スペースを使って作業を進めていくのか、最初からクリアにしておく事は大切である。

あと、撮影期間が延びて、ポスプロのカラリストが次の仕事に移ってしまい困った事もある。こういう予期せぬ出来事は頻繁に起こる。

ひと昔前、ディリー(毎日行う試写の事)はすべてフィルムだった。つまり映画館で見る状態に近い形でチェック出来た訳だ。

ところが、最近ではデジタル・ディリーへと移り代わり、フィルムで写る絵とは微妙に異なる可能性がある。

DIの理想は、DIルームのスクリーンと映画フィルムにレコーディングされた後の結果が全く同じになる事、それが絶対条件だ。DIは、デジタルとフィルムの間の共通言語(common language)となるべきなのである。

テクノロジーの進化はありがたいが、その副作用はパイプラインが頻繁に変わる事。"So many tech issues!"というのが本音だろう。技術的な事を全部把握して、トラブル解消方を知っている人材がいないと、とんでもない事になり兼ねない。

ASC(全米撮影者協会)には、ASCバイブルと呼ばれるマニュアルがある。これは、撮影時のトラブルの際にはどのように対処すれば良いかというガイドラインとなり、以前はそれを見れば常に正解が得られるようになっていた。

しかし撮影界にデジタル・カメラが入り込んできたお陰で、もはやASCバイブルでは太刀打ち出来なくなってしまった。

また映画フィルムやカメラには「これ」というスタンダードがあったが、デジタル・カメラはD20(アリフレックス)、バイパー、ダルサ…などなど。それぞれが異なり、スタンダードがまだ無い。

特にLUT(ルックアップ・テーブル)の問題は、まだまだ試行錯誤の中にある。LUTフォーマットの業界スタンダードがまだ完全には確立していない事は大きな問題だ。

LUTを1つ作っても、それをものすげ~多種のアプリケーションに対応した各フォーマットに、イチイチ変換しないといけない。特としてそれは10種類以上に及び、これだけでも大変な作業だ。


~エフェクト・ハウスで起こるカラー・スペースの問題を未然に防ぐには?

望まれるべくは、VFX用に各エフェクト・ハウスに送られるプレート(素材)が、DPと監督によってプリ・タイムされている(Pre-Timed / 事前にカラーコレクションが済ませてある)という事だろう。

DPのガイドによってプリ・タイムされた素材が各エフェクト・ハウスへ送られれば、それが色見本になるし、もしスキャンされた画像の見た目が大きく異なれば、カラー・スペースに何らかの原因がある事が即座に気付く事だろう。

現実問題として、撮影現場でなぜデジタル・カメラを使うかと言えば、コストが安くなるからだ。200万ドル(2億円相当)程度の撮影予算しかないプロジェクトで膨大なショットを撮影しなければならない場合、フィルム・カメラだとフィルム代に加え、現像代、スキャン代等のラボ・フィーが高くつく。

特に低予算プロジェクトの場合は、事前のプリ・タイムなどでトラブルを未然に防ぐ配慮&準備が大きな助けとなる場合が多い。


~10年後のポスト・プロダクションはどうあるべきか?

アーティストとテクノロジーは、良い方向で融合していくと思う。それは、実際の制作現場の経験から積み重ねで出来上がっていくものだ。

あとは「ツールを理解する」事。なぜ結果がそうなるのか、何が起こってそうなるのか、正しく理解しておく事は大切だ。

例えば、ジェームス・キャメロン監督と仕事をした際に感心したのは、監督がテクノロジーを正しく理解していた事だった。それが、作業を無駄なく進めるのに大きく役立った。

ポスト・プロダクションの最終ゴールは、監督等の「ストーリー・テラー」の全要求に、100%対応出来る体制を整える事だろう。

その為には、これから登場してくるスマート(優れた)な人材が、テクノロジーを更に進化させてくれる事を期待したい。それが10年後のエキサイティングなビジョンだと言えるだろう。

1つの標準画像フォーマットに全アプリケーションやパイプラインが対応しているような「スタンダード(業界標準)」が確立している事が強く望まれる。今のような実情では、それはまだ難しい。


~今後、プロジェクトの最初にDI、VFX、カラリスト等を集めて、ワークフローの統一を行っていく事も大切だろう。現状では各社でワークフローが異なる。話題にも出た「ASCバイブル」に相当するものが、VFX界でも必要になってくるだろう。その意味で、今日のパネルにASCメンバー各位にご参加頂いたのは、正解だったと思う。(休憩)
 


 


○[15:45-17:15] プロダクション・ビジネスと、世界経済の動向について

パネラーは次のとおり:

ジェフ・バーンズ - CafeFX  CEO、創設者
リー・バーガー -  リズム&ヒューズ / フィルム部門代表
コリン・ブラウン -  英国映画審議会 / フィルム・コミッショナー
クリス・デファリア - ワーナーブラザーズ / デジタル・プロダクション部門 エグゼクティブ
アンシュル・ドシー - プライム・フォーカス(インド) / グローバルCOO
ランディ・レイク -  ソニーピクチャーズ・イメージワークス / ゼネラル・マネージャー


~VFX界では今後、低コスト化や合理化が進んでいくと思うが、マネージメント面でのご意見は。

Sec5_Biz_and_Economy.jpg低コスト化だけが「一人歩き」してしまう事は無いように思う。

なぜなら、クライアントが高いクオリティを望む声は強く、我々はハイレベルな映画を制作していく必要があるからだ。

これからのプロダクション・マネージメントは、単にハイレベルな映像が作れれば良いという訳ではない。

もちろん、良いアーティスト、TD、スープ等の才能ある人材の獲得は必要だが、マネージメントにはビジネス・センスが必要だ。

もちろん、500ショットを16週間で仕上げられるような優秀なマネージメント力を持つ人材を、短期で見つける事は至難の業だが、ビジネス・センスを持っているという事が、今後益々マネージメントに求められるだろう。

CafeFXでは、サンタマリア、ロサンゼルスに拠点を持っているが、社員からは「うちの会社が新しいスタジオを作るとしたら、これから、どこに住めば良いだろう?」という声が聞かれるようになった。

仮に作るなら、その候補地は沢山ある。トロント、ルイジアナ、ニューメキシコ…各地の税優遇策にもよるが、このビジネス判断は非常に難しい。

そして、海外へのプロジェクト流出は頭痛の種だ。仕事がロンドンと、バンクーバーにどんどん取られている。


~イギリスへのプロジェクト流出について、危惧する事は。

ロンドンは、世界で「一番通貨が高値な場所」だ。それなのに、ロンドンへVFXの仕事が集中しているのは、我々も正直不思議だ。

この背景には、「007」「ハリーポッター」などのイギリス主導のフランチャイズ作品や、税優遇策等が後押しになっている事も影響しているかもしれない。

特に「ハリーポッター」シリーズのVFX作業は、シリーズを重ねる毎に「イギリス指向」が強くなり、ついにアメリカには殆ど来なくなってしまった。

登場するVFXもどんどん複雑化し、難易度も上がるばかりだったが、最終章は殆どがロンドンで制作される事になってしまった。

これは、ハリウッドのエフェクト・ハウスにとっては大問題だ。


~ソニーピクチャーズ・イメージワークスはご存知のとおり「日本の会社」であり、なぜかLAのカルバーシティでVFXを作っているという背景を持ち、しかもインドにスタジオを開いている。リズム&ヒューズもインドにスタジオを持っている。なぜ、今、インドなのだろうか?

ソニーでは、いろいろな国を対象にリサーチを行った。インドはハイレベルな教育水準があり、何よりも「英語が通じるお国柄」だ。

映画スタジオは、常にポスプロのコスト・ダウンを強くプッシュしてきており、海外の支社にアウト・ソーシングする事でコストを大幅に抑える事が出来る。そして中国にスタジオを持つ事も検討中だ。

911テロ以降、アメリカ合衆国移民局は外国人のビザ発給に非常に厳しくなった。才能ある人材をアメリカに連れてくる事が難しくなった。

しかも、外国人を雇うとビザ申請費用や引越し代のサポートなど、コストがかかる。その意味では、インドに拠点を持つ事で、優秀な人材を現地で雇用出来る事には大きな利点がある。

リズム&ヒューズでは、30%近くの作業を自社インド・スタジオに出している。例えば「ライラの冒険」では1シークエンスを丸ごとインドにアウト・ソーシングしたが、完成した映像を見て「ここがインドの担当、ここがLA」と見分ける事は非常に難しい。その位、インド・スタジオはクオリティを維持しており、水準は高い。

 

~海外の自社スタジオにアウト・ソーシングした場合、どのような問題が起こったか?

技術的な事やスキルの問題よりも、文化&習慣の違いが大きい。身近なところでは、時差の違い、祝祭日の違いなどがある。

また文化の違いには本当に気をつけないと、大問題に発展する。かつて、日本の映画会社に出向させた部下に、アメリカではよくある「現在の直属上司の評価レポート」を送るよう慣例的に指示した事がある。

返事は「それは出来ない」と。日本の文化では、上司に対する批評を第3者へ発信する事は、極めて重大な背徳行為と見なされる危険性があるので、慎重にしなければならないという事だった。

日本もそうだが、中国の人と仕事をする時は更に配慮する必要がある。文化が全く異なり、何気ない言動が相手に失礼に当たる事もある。

プロダクションの中で、中国本国から来た人材と一緒に仕事をしてみると、文化の違いが沢山ある事を学ぶ事だろう。

ただ、インドへのアウト・ソーシングについては、最近現地では人件費の高騰も起こっており、「単に安くつく」という認識が将来的には通用しなくなる可能性もある。これらは難しい問題だ。

実際のところ、コミニュケーションの問題はさほど心配していない。だって、LAの同じ部屋でアメリカ人同士でミーティングをしていても、ぜんぜんコミュニケーションが取れないケースは山ほどあるじゃないか。どこに居たって、一緒だよ!(場内爆笑)

 

~VESの会員から、「VESは海外アウト・ソーシングの問題について、どのような対処をしているのか」と尋ねられた事がある。 このコミュニティ全体の問題であり、答えは簡単ではない。 いわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥る危険性を危惧すべき時期に来ている。パネラーのみなさんのご意見はどうだろうか。

基本的にVFX業界はサービス業であり、この不況の中、先の動向を読む事は非常に難しい。

オーストラリアやニューランドのドルは、最近ドルが下がった影響で以前ほどの恩恵は無いにせよ、まだ安く、アウト・ソーシングをする事によって、制作コストを実際問題として節約出来る。米ドルを節約する事は、VFX業界を救う事にも繋がっていく。

例えば、オーストラリアにアウト・ソーシングすると、最近更に15%の税優遇策がプラスされ、制作コストがかなり節約出来るようになった。しかし、カリフォルニア州から、これ迄にそのような有難いオファーを頂いた記憶はない。

またカリフォルニア州は、深刻な財政危機に直面しており、ここでプロダクション・ビジネスを維持していくのは簡単な事ではない。

何しろ我々には、TAX(税)やエコノミー(経済)のコントールが出来るような力は持ち併せていないのだから。

州政府、映画スタジオとVFXスタジオは連携して対策を考えていかなければ、今後VFXの仕事はどんどん海外へと流出してしまうだろう。もはや、VFX業界は「アーティスティックなだけ」のビジネスでは無くなった。

プロジェクトの海外流出について、我々はもっと真剣に考えていかねばらないだろう。


○おわりに

このカンファレンスを終えて印象的だったのは、ハリウッドではVFX界、撮影界、そしてポスプロの連携がかなり取れている事だった。そして、知識や情報をシェアして行こうという前向きで積極的な姿勢が見て取れる。

また、「業界スタンダード」の確立にも力を入れており、それらがオープンソース等の考え方にも繋がってくる訳だが、日本の現場ではそういう機会はまだ少ないように思う。日本の映像業界でも、VESのような協会の設立や、情報交換が頻繁に行われても良いはずだ。

ただ、ハリウッドのVFX業界は、特に夏以降、不況の影響をやや遅れて、今頃になって受けつつあり、レイオフや会社の閉鎖などのニュースを頻繁に耳にするようになってきた。

カリフォルニア州の財政危機や、ロンドン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダのバンクーバーへのプロジェクト流出は深刻であり、どこかで歯止めを掛けないとハリウッドのVFX業界はますます大きな打撃を受ける事になる。

その意味では今後の動向がますます気になるところであるが、少なくともハリウッドのVFX界の「首脳」が一堂に会し、問題点をシェアし、解決策に向けて議論する場が提供された意義は大きく、今回の「プロダクション・サミット09」は大成功だったと言えるのではないだろうか。


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