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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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‘画像:ロビーでは、Xwingのミニチュア等も展示されていた。

ハリウッドのVES(Visual Effects Society/全米視覚効果協会)は、毎年6月にビジュアル・エフェクツ・フェスティバルを開催している。
 
今年はビバリーヒルズにある全米脚本家協会の試写室、Writers Guild Theaterで、6月8日(金)から10日(日)までの3日間、週末を利用して開催された。
 
このフェスティバルは、ハリウッドのVFX現場では「シーグラフよりも面白い」と謳われる程で、メーキング講演などが目白押しの、非常に密度の濃いイベントである。
 
このレポートの第2弾を、先週に引き続きお届けしよう。
 
 
○第2日目 『スパイダーマン3』メーキング
 
 Spider-Man 3
 Saturday, June8th 2007 10:00AM-11:30AM
 
 
・エフェクト全般
 
この作品では、前2作同様、デジタル・ダブルが多用された。
 
2D作業も複雑で、スタント俳優の顔の差し替えや、ワイヤーを使ったアクション・シーンのワイヤーを消す作業、ロトスコープでのマスク・ワークなど作業工程は多岐に及んだ。
 
顔の差し替え作業では、目の部分に最も気を配った。なぜならば、観客が映像を見た時に、最も印象に影響するからだ。
 
武装したハリーがピーターを突然襲うシーンは、スタントマンによるブルーバック撮影だ。フルCGのデジタル・ダブルのハリーがグライダーに乗ってピーターを攻撃する。
 
このグライダーは、スノボー風の動きをするようにアニメートされている。このシーンでは、ピーター役をスタントマンが演じている。
 
コンピューター制御による5本のワイヤーでスタントマンの動きをコントロールした。何度でも同じアクションが繰り返せる。
 
史上初のモーション・コントロール・スタントマンだね(笑)。
 
ただ、これは危険が伴うので操作には最新の注意が払われた。
 
3Dのライティング・テクニック面では、2作目のドック・オックと同様、ライト・ステージが使用され、リアルなライティングが実現している。
 
一方、CGだけではなく、ミニチュア・セットも多用している。
 
ミニチュア専門のスタジオNew Deal Studioと組んで、暴走クレーンのシーン等をを撮影した。
 
ハリーがグライダーに乗り、狭いビルの合間をぬってピーターを追いかけるシーンの背景の建物も、実はミニチュアで作られている。
 
メカニカルなエフェクトでは、メリー・ジェーンが空中で閉じ込められているタクシーが油圧でコントロールされているほか、サンド・マンから落ちてきた砂のシーンでは本物の砂を油圧のデバイスでコントロールして、砂を落としている。
 
この時、撮影スタッフは防砂のマスクをつけて撮影に臨んだ。
 
細かい部分だが、スパイダーマンの武器の1つである、Webnetのデザインが前2作とは微妙に違ったフレイバーにしているのも、隠れた特徴と言えるだろう。
 
 
・Goo(黒いアメーバ状の生命体)
 
黒いアメーバ状の生命体は、現場ではGooと呼ばれた。このGooの表現は、チャレンジの連続だった。
 
まず、このアニメーションは、2Dのペンシル・テストからスタートした。
 
トラディッショナルのアニメーションの経験を持つアニメータが、最初に紙と鉛筆で起こしたアニメーションがこれだ。これを叩き台にした。
 
初期のCGテストは、可能な限りプロシージャルな手法を試した。その方がコントロールが楽だからだ。
 
しかし、どんな見た目に決めるかで苦労した。これには、アート・デパートメントが用意したコンセプト・アートやドローイングが役に立った。
 
Gooの開発には全部で3ケ月近くを費やした。動きの開発では、まずミミズ形のオブジェクトをアニメートして、束にして、それにダイナミクスでセカンダリー・アニメーションを付加し、より生物的な動きに見えるように気を配った。
 
その動きも、生き物が獲物に"attack"するような動きになるように意識して、振りかぶって覆いかぶさるようなパターンをベースとしている。
 
ライティングでは、アンビエント・オクルージョンを使用して、リアルで有機的な質感をねらった。
 
教会で、カメラマンのエディがGooに寄生され、敵キャラであるベノンになるシーンは、全部で4~5ケ月を要する大変なものだった。
 
ワイヤーで吊られて演技する俳優トファー・グレイスを撮影し、そこにマッチメーション(3Dジオメトリを演技にフィットするようにアニメートさせる)を施し、腕はCGで置き換える事になった。
 
最後に巨大化するGooのシーンも、データが非常に複雑でコントロールは至難を極めた。
 
 
・サンドマン
 
砂の怪物、サンドマン。この悪役CGキャラクターは本当に大変だった。
 
しかも、サンドマンが絡むショットは長尺が多く、一番長いショットはなんと2700フレームもあった。
 
サンドマンの見た目は、アリゾナの砂を参考にする事になった。
 
この「サンド・システム」を作る事は最大のチャレンジだった。しかも、エモーショナルな「芝居」がきちんと伝わるアニメーションに仕上げる必要があった。その為、2年も前
 からテストが始まった。
 
砂は、まず沢山のSphere(球)をキーフレームでアニメーションさせ、それをベースにパーティクル・シュミレーションにより大量の砂を発生させる手法が採られた。
 
この時、friction(摩擦)の設定の度合いが、動きに説得力を持たせリアリティの助けになる事がわかった。その為、テストで5万個、300万個と段階的にパーティクルを増やし
ながら、最も適したパラメーターを追い込んで行った。
 
部分的にFluidシュミレーションを使っている箇所もある。
 
それと平行して、見た目のリファレンスとする為に、スタジオで本物の砂を黒バックのセットに注いだりしたものを何パターンも撮影した。
 
作業はHoudiniで行い、レンダリングはオリジナル・レンダラーで行われたが、レンダリング時間よりも、シュミレーションの時間の方が長く掛かった。
 
この、岩(クローズアップされた砂)が集まってサンドマンになる一連のシークエンスは一番最後に完成した。
 
アニメーターの1人が、砂地から立ち上がって歩き始める演技をしてビデオに収め、それを参考にした。このテストが行われたのは1年前、2006年の4月18日。
 
これを参考に、非常にラフなジオメトリでサンドマンの「演技」の基本的な動きを詰めた。
 
ここで重要だったのは、体の動きの「ゆっくり感」だった。
 
最終的に、俳優トーマス・ヘイデン・チャーチの演技が撮影され、この動きに合わせてアニメーションが作られた。
 
作業が終盤に入り、このテスト映像の日付けは2007年の3月15日。公開の間際である事がわかる。
 
 
・Giant Monster(巨大化したサンドマン)
 
最後に登場する"Giant Monster"。50年代のレイ・ハリーハウゼン作品、日本のゴジラ等に代表される「巨大モンスターもの」を意識し、最初に粘土スカラプチャーを起こし、
担当アーティスト達のイメージを明確にする事から始めた。
 
人間サイズから巨大化するシーンでは、巨大感を出す為に何度もテストを繰り返した。
 
スパイダーマンとニュー・ゴブリンが"Giant Moster"と戦うシーンは、ラフなデータで何種類かテストのアニメーションを作り、監督に見せて意見を仰ぎながら、OKが出たものを使用した。
 
サム(監督)は、"Giant Monster"が攻撃を受ける瞬間に、あまり苦しみや痛みを表情に出さないように我々に求めた。それによって、より怪物らしさが出た。
 
完成したシーンは、クラシカルなモンスター映画風になったと思う。
 
人々が逃げまどい、カメラが"Giant Monster"を見上げ、背景にはヘリからのライトやスポットライトが舞う。これぞ、典型的なモンスター映画だ!
 
 
Q&A
 
Q:
砂が集まってサンドマンになるシーンは、すべてシュミレーションか?
 
A:
冒頭で岩(クローズアップの砂)が集まってくるシーンは、すべてアニメーターによる手づけのアニメーション。途中から、プロシージャルなアニメーションや、サンド・シュミレーションのシステムにすり替えている。
 
 
Q:
グリーン・ゴブリンの色は緑だが、グリーン・スクリーンだと問題があるのでは?
 
A:
スパイダーマンが赤、ゴブリンが緑、小道具には青系も登場するし、合成用の背景には苦労させられた。最終的に、この3部作では、90%がブルーバックによって撮影した。それが一番無難な選択だった。
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ハリウッドのVES(Visual Effects Society/全米視覚効果協会)は、毎年6月にビジュアル・エフェクツ・フェスティバルを開催している。
 
今年はビバリーヒルズにある全米脚本家協会の試写室、Writers Guild Theaterで、6月8日(金)から10日(日)までの3日間、週末を利用して開催された。
 
このフェスティバルは、ハリウッドのVFX現場では「シーグラフよりも面白い」と謳われる程で、メーキング講演などが目白押しの、非常に密度の濃いイベントである。
 
このレポートの第4弾を、先週に引き続きお届けしよう。
 
 
○第3日目 『シュレック3』
 
 SHREK THROUGH THE AGES
 Sunday June 10th 2007 10:00AM-11:30PM
 
 Guillaume Aretos - Production Designer, PDI/DreamWorks
 Philippe Gluckman - Visual Effects Supervisor, PDI/DreamWorks
 Tim Chung - Supervising Animator, PDI/DreamWorks
 Lucia Modesti - Supervising Charactor Technical Director, PDI/DreamWorks
 Bill Seneshen - Senior Effects Animator and Clothing Lead (Shrek,Shrek2), PDI/DreamWorks
 
 
5人のパネラーが勢ぞろいし、通算10年を迎える「シュレック」3部作の歴史と変革、そしてそのメーキングが披露された。
 
ドリームワークスはHPと提携しており、スタジオ内すべてのワークステーションがHP製である事は周知の事実だが、この日にパネラーが持参していた ラップトップまで全て、HP製だったのが印象的だった。
 
 
・10年の歴史
 
 「Shrek」には足掛け10年の歴史がある。この5人のパネラーは、その歴史を分かち合って来た間柄でもある。
 
この作品の原作は、わずか10ページ足らずの絵本だった。ジェフリー(カッツェンバーグ)がそこから映画化を企画し、実際のプロダクションが始まる5年も前からその構想はスタートしていた。93年頃の話だ。
 
この当時は、まだフルCG映画が一般的ではなかった時代。
 
折りしもPDIがドリームワークスに買収され、ジェフリーはこの作品を長編フルCG映画で製作する決断を下し、製作がスタートした。
 
これは、初期のキャラクター・デザイン。日付は98年の12月2日だ。こうして見ると、現在とは随分デザインが違うのがおわかり頂けるだろう。
 
 
・デザインやデータのバリーションの変化
 
実際、シュレックのデザインは、1作目以降、回を重ねるごとに、細部がいろいろ変更になっている。特に顕著なのはアゴの「たるみ」が無くなった事だろう。
 
また、2作目では、シュレックの足の裏はモデリングされていなかった。だからベットに座って足が出ているシーンではソックスを履かせていた。
 
これが3作目では足の指が付け加えられている。
 
 
 
 ・キャラクターT.D.
 
キャラクター・アニメーションにおいて、アプリケーションとアニメーターの橋渡し役を務めたのがキャラクターT.D.だ。
 
このキャラクターT.D.は、
 
motion design → design sys → clothing → facial sye → hair sys
 
という流れに沿って開発を進めていく。
 
たとえば、キャラクター・アニメーターは「XYZ」で動きを与える事を嫌う。
 
彼らがそういう事を意識しなくてもアニメート出来るよう、ツールを工夫するのがT.D.の仕事だ。
 
clothは、2作目でより布のシュミレーションに幅と柔軟性を持たせたが、3作目では、よりアニメーションに自由度を持たせる事に成功している。
 
また、フェイシャル部分では、
 
skelton→muscle→skin theory→hair motion(Wig/かつら)
 
という流れで作業が進められた。
 
髪の毛はハンドルによってコントロール出来るようになっており、物理シュミレーションのセカンダリー・アニメーションも追加出来るようになっている。
 
 
・群集のバリエーションの変化
 
1作目では、エキストラや群集用の人間モデルは5種類のバリエーションが用意されただけだった。
 
それに、実は全員の鼻が同じ形で、それを多少変形させた程度のものを用いていた。
 
これが3作目では基本タイプが10種類用意され、その上、
鼻の形にもきちんとバリーションが持たせてある。
 
これらバリエーションの変化を1作目と3作目の群集で比較してみると、
 
   体   6 : 9
    顔   16 : 25
   服   9 : 14
   髪型 11 : 14
 
という風に、最終的にはより多くのタイプが用意されてる。
 
 
・全体のワークフロー
 
CG全体の作業の流れは
 
story→layout→animation→light→fx
 
という風に進み、14チームに分かれたスタッフ達がそれぞれ、
 
  ・6~8週間で1シークエンス
 
  ・1週間に5フィート(フィルム換算)
 
というペースで仕上げていった。
 
全ての工程に言える事だが、1作目→2作目→3作目と多種多様な部分で技術的にも改良が重ねられている。
 
 
・Animation
 
キャラクター・アニメーター達は、「CGアニメーター」としてではなく、「トラディッショナルな」アニメーターと同じ感覚で仕事をしている。
 
3作目では32名のキャラクター・アニメーターが参加、日本を含む14ケ国から集められた優秀なアーティストから成る「多国籍軍」である。
 
これを[スーパーバイザ1名+アニメーター4人]という4チームに分けた。
 
そして、それとは別に、群集専門のアニメーターが2名いた。
 
2作目では1作目よりもキャラクターが増え、3作目では「演技」により重点を置き、製作は進めらた。
 
しかも3作目では、17種類のおとぎ話キャラ(fairly-tail)が登場するという新たなチャレンジもあった。
 
アニメーターの仕事は、キャラクターに"life"を与える事。
 
VFX映画は別だが、フルCGのアニメーション映画にモーション・キャプチャーを使うのは良いアイデアとは言えない。
 
その為、モーション・キャプチャーは一切使用せず、すべて手付けのアニメーションだけで製作されている。
 
これに対応すべく、アニメーター達は「動き」について学んだ。
 
たとえば、シュレックがステージ上で、おしりを棒で引っ掻くシーン。
 
  「どう動かそう?」
 
誰も日常やった事がないようなユニークな展開なので、アニメーターの1人が志願し、試しに実際に演技して、それをビデオに撮った。
 
それをベースに例のシーンが出来上がった訳だが、ご覧のように出来は上々だった(笑)
 
 
・Lighting
 
レンダラーは自社開発で、GI(グローバル・イルミネーション)を多用している。
  
これによる光のバウンスで、形状をより自然でリアルに見せる事が出来る。
   
GIは見た目の印象で、素晴らしい結果が得られる。
 
2作目でGIが使用されたシーンは限られていたが、3作目では殆ど全編でGIを使用している。
 
また、フィオナのキャラクター・モデルは、6ケ月位かけてデベロップされている。
 
テクスチャーは全て手描きだ。スキン・シェーダーもかなりの部分で改良が重ねられた。
 
 
・FX
 
水や火の表現に代表されるエフェクト・アニメーション。
 
1作目では、ドラゴンが吐く炎が最大のチャレンジだった。
 
2作目では、滝や自然物をよりリアルに表現する事に細心の注意を払った。
 
3作目では、更に監督のディレクションに答え易いよう、コントロール性を持たせた。自社開発のフルイド・シュミレーションも、その1つだ。
 
また、沢山のリファレンスも撮影した。これを観察しながら、
リアルに見せるにはどう作るか研究が重ねられた。
 
 
Q&A
 
Q:
シュレックは3D版も作られているが、立体版でアニメーターが製作上、配慮した事は?
 
A:
立体になると、様々な「2D的なごまかし」が効かず、物理的に正しく物を配置したり、動かしたりしなければならない。
 
 
Q:
キャラクター・デベロップの期間は?
 
A:
キャラクターにもよるが、だいたいボディに2ケ月、顔に2ケ月、だいたい、それぞれ5~6週間位かけて作業する。
 
 
Q:
レンダリング時間はどの位?
 
A:
ケースbyケースなので一概には言えないが、夜、帰宅前にレンダー・ファームにサブミットして、朝来ると終わっているので、最大でも1枚あたり6~8時間位だろう。
 
 
Q:
ヘアー・システムにはどんな改良が?
A:
Hair Systemは、各3作で毎回プログラムが書き換えられている。
   
3作目は、1作目と2作目のMIXで、拡張性を持たせたのがポイント。
 
 
Q:
ドリーム・ワークスは、グレンデール(LA)とサンフランシスコのPDIの2箇所にスタジオがあるが、どうやって意思の疎通や、技術の共有を?
 
A:
ビデオ・コンファレンスや、毎日のディリー試写は、LA/SFで同じ映像が同時に観られるようになっている。
 
開発した技術は次の作品へ反映される事が多く、たとえばサンフランシスコのPDIで開発した3作目の足のシステムは、グレンデールでの次作Bee Movieで使用される。このようにお互いの成果を次のプロジェクトで生かしている。
 
 
 
○第3日目 『パイレーツ1~3』そのVFXの全て
 
 PIRATES OF THE CARIBBEAN - A VFX VOYAGE
 
 JOHN KNOLL - Visual Effects Supervisor / Industrial Light & Magic
 
このパネルでは、ILMからアニメーション・スーパーバイザのハル・ヒッケル氏も出席予定であったが、業務上の都合により欠席。
 
今回は、ジョン・ノール氏がたった1人でプレゼンテーションを行い、熱弁を振るった。
 
フォトショップの生みの親としても知られるノール氏は、1986年にILMに入社し「アビス」等に参加したベテラン。
 
スターウィーズのエピソード2&3作目あたりからメディアに登場する機会が めっきり増えたノール氏。
 
氏は単に話術に長けているだけではなく、VFX現場レベルの知識にも深く精通し、時折会場から出る質問にも的確に答えていた。
 
その姿勢には、長年現場で鍛えられた実績と貫禄が感じられた。
 
 
・海賊船の撮影はこうして行われた
 
海賊船ブラック・パール(Black Pearl)号は、撮影用に2つのフルサイズの船が用意された他、モーションコントロール撮影等の為に1/6サイズのミニチュア・モデルがあった。
 
このミニチュアは、ILM内のモデルショップで製作された。
 
イギリス海軍の船は、実在する船をコレクターからレンタルして使用した船もある。オーナーの許可を得て、ペイントして色を変えて撮影している。
 
ただ、爆発シーンは別だ。なにしろレンタルだから。その為のミニチュア船も建造した。このミニチュア船は、引きのシーンの合成用にも重宝した。
 
船によってはミニチュアでしか用意されていない船もあった。それを火薬で爆破するシーンでは、撮影漏れがないか慎重にチェックしてから、敢行された。
 
なぜなら、爆破してしまったら、その後にはもう撮影出来ないからだ(笑)
 
ミニチュア船をCGショットと合成する事も多かったが、その際に使用されたモーショントラッキング・ツールはILMの自社開発だ。
 
コンポジットには全てのショットで、Shakeが使用されている。
 
 
・2作目では様々な技術革新が
 
 「パイレーツ2」ではマット・ペインティングが多用され、ショットによっては殆どがマット・ペインティングのカットもある。
 
カメラが動いていたり、画面中に植物が生い茂っていたりで、ここからマスクを切り出すロトスコープ作業は困難を極めた。
 
技術面では、IMocapと呼ばれる新しく開発されたモーション・キャプチャー(以降MC)システムが導入された。
 
これは、従来のMCシステムとは異なり、センサーも、ライトも、沢山のMCカメラもないという画期的なもので、しかも何人ものアクターの動きを同時に撮る事が出来る。
 
モーション・アクターは、「コンピューター・パジャマ」と名付けられた専用スーツを着て演技する。
 
カメラは基本的に、フィルムカメラの1台だけ。
 
さて、2作目では沢山のCGクリーチャーが登場しているが、その主要キャラであるデビ・ジョーンズの触手は48本ある。
 
触手のアニメーションはキーフレームとプロシージャルの組み合わせだ。
 
動きにはバリエーションを持たせ、しかもゴムのような弾性も持たせている。
 
デビ・ジョーンズは全身がCGへの差し替えだが、表情のリアリティを持たせる為に俳優Bill Nighyの目をそのまま使用している箇所もある。
 
  
・短期間で膨大な作業が必要となった3作目
 
さて3作目だが、前2作で培ったノウハウを十二分に活用した。
  
ここでもマット画が多用され、多くのシーンは背景がマット画に差し替えられている。
 
海賊船が絡むシーンは合成ショットが多く、例えばジャック達が船を上下逆さまにするシーンも、ブルー・スクリーンのステージで撮影されている。
  
Tia Dalmaが巨大化し、海賊達がロープに引きづられるシーンがあるが、このロープのCGはベニスにある小さなエフェクト・ハウスLuma Picturesが担当している。
 
3作目ではCGの海が沢山使用されているが、実は、CGの海は「なるべく」使わないように心掛けた。
 
なぜかといえば、私自身の考え方として、「CGで作るとどうしても求めるクオリティが出ない」という認識があるからだ。
 
多くのシーンで、実際の海にタグボートを浮かべて走らせ、それを撮影し、その上にミニチュアやCGの海賊船を合成してリアリティを出しているのはその為だ。
 
だが、現実には、かなり多くのショットでCGの海を使わざるを得なかった。
 
特に巨大な渦潮(Maelstrom)のシーンは、もちろん実写では撮影不可能だ。
 
この撮影の為に、巨大な撮影スタジオをレンタルし、壁や床にブルーバックを敷き詰め、ステージには30フィートもある実物大の船を2台並べて撮影するという、非常に大掛かりなものになった。
 
照明は全てコンピュータ・コントロールされ、この為に電源車を5台もリースした。
 
撮影時、現場ではドライアイスのスモークがフォグとして焚かれたが、あまりやり過ぎるとブルーバックが潰れてしまう。
 
撮影監督に「後でCGで作れるから、スモークは押さえてほしい」とお願いするなど、政治的な根回しも必要とされた。
 
最大のチャレンジとなった渦潮は、ILMにて、32ギガバイトのマシンでシュミレーション演算が行われた。
 
シュミレーション負荷と見た目のリアルさのバランスのイタチごっこが続いた。
  
このトライ&エラーの結果、最終的にはシュミレーションさせた海面を、渦の中心へいくに従い重力方向へデフォーメーションさせる方法が採られた。
 
この画像は約10種類(ビューティー、アンビエント・オクルージョン、泡、波のバンプ、ミスト等)のレイヤーから成る1枚画像で、コンポジット時に調整された。
 
また、わざわざカメラレンズにCG水滴をつけたシーンもある。こういうさりげない演出が、デジタルによる映像をよりリアルにするのに役立っている。
  
 
 ・爆笑NG&珍場面の数々
 
では最後にNG集や、社内で作られたジョーク映像をご披露しよう。
 
クロス・シュミレーションというものは、トライ&エラーの繰り返しで詰めていくものだが、これはパラメーターが不適切で服が「爆発」している例だ。かなり笑える。
 
またこの映像は、服の摩擦係数が間違って設定されており、海賊が歩くに従って、ズボンが脱げてしまっている。
 
デビ・ジョーンズの触手のテストでは、自由度の乱数設定を誤り、このように触手が自由に踊りまくる、大まぬけな爆笑映像が出来てしまった事もある。
 
…これは、エリザベスが東インド会社の連中と刀で戦うシーンだが、コンポジターが冗談で彼女の刀をスターウォーズのライトセーバー風に仕上げた映像だ。(場内爆笑)
 
社内では「ジェダイの騎士、エリザベス」と名付けられ大評判を取った。
 
 
Q&A
 
Q:
IMocapについて。フィルム・カメラで撮影した結果を使うとの事だが、それで充分なのか。
 
A:
フィルムカメラ1台で大丈夫だ。
 
なぜなら、フィルム・カメラから見た映像は実際に使用されるカメラアングルなので、効率的だ。ゲームとは違い、カメラから見えない部分の動きを作る必要がない。
 
状況に応じて"Witness Camera"(目撃カメラ)を2台位追加する事もあるが、殆どはフィルムカメラ1台で大丈夫だ。
 
 
Q:
アクションシーンは展開が複雑だが、演出の意見はどのようにプリビス作業に反映したのか?
 
A:
プリビス・チームは監督の傍で作業し、アニメーションを詰めていった。これは作業効率が良く、演出が即座に反映出来、あるべき正しい姿だと思う。
 
 
Q:
製作規模が大きく、製作費も$300million(約360億円相当)と言われているが、コスト管理やマネージメントについて苦労した点などを
 
A:
3作目は、これまでの中で一番大変だった。
 
プロダクション期間はたったの4~5ケ月しかなかった。
 
この期間にILMで約750ショット、デジタル・ドメインで約300ショットを完成させた。
 
プロダクション期間が短かった事が、製作コストを高騰させる最大の原因となった。
 
製作コストを安く上げるには、製作期間を長く確保する事が一番だ。
 
一見矛盾するようだが、これには確固とした理由がある。
 
なぜなら、製作期間が短いとアーティストの残業が膨大になる。週末も働く事になる。
 
残業代は時給の1.5倍、週末出勤は時給の2倍、と法律で厳しく定められている。
   
すると、働かせた分だけ製作費が高くなる事になる。
 
アーティストも疲労が溜って集中力や思考能力が低下し、クオリティも下がってくる。
 
VFXは映画の完成度を左右し、ストーリー・テリングを助ける重要なツールなのに、これでは全くの逆効果だ。
 
また、VFXだけではなく、編集、DIのカラーコレクション、音響等のポスプロ全てに言える事だが、基本的に、ポスト・プロダクション期間を短くする事は、「百害あって一利なし」だと断言出来るだろう。




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1921002417



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