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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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画像: 鈴木秀一さん_HairSprayのスーパバイザと

話題のミュージカル映画「ヘアスプレー」。母親(!)を華麗に演じるジョン・トラボルタを始め、豪華キャストで魅せる魅力満載のこの作品だが、実はVFXも隠し味としてフル活用されている。
 
このVFX作業を手掛けた、鈴木 秀一(すずき しゅういち)氏は米サンタモニカにあるポストプロダクション、ライオット・ピクチャーズ(RIOT Pictures)でCGモデリング・アーティストとして活躍中。そんな氏にVFXの舞台裏を解説して頂いた。

(参考:鈴木氏は、2009年1月現在、デジタル・ドメインに移籍し「Tron2」の制作に参加中)
 
鈴木氏は東京都出身。日本でVP製作や、特撮ヒーロー・キャラクターのスーパーバイズ、CGアニメーション製作のスーパーバイズ等を手掛けた後渡米し、ライオット・ピクチャーズに入社。
 
CGモデリング・アーティストという職種は高度な造形力が必要とされる為、ハリウッドでも難関のポジションの1つだ。その意味でも、鈴木氏はハリウッドで活躍する日本人アーティストとしても稀有な存在である。
 
 
~「ヘアスプレー」ではどんなショットを担当されましたか。
 
オープニングの空撮から、ヒロインのトレーシー(ニッキー・ブロンスキー)の家にカメラがワンカットで寄っていくショットのビルをモデリングしました。
 
ベースになるプレートは実写の空撮のショットで、トレーシーが住む家のある箇所には、別の本物のビルが建っています。
 
トラッキングされたMAYAのシーンファイルの中で、カメラプロジェクションのシークエンスに合わせて、トレーシーが住む家をモデリングしました。
 
詳しく説明しますと、ショットの最終フレームでトレーシーの家が存在する位置(実際のショットでは別のビルが写っている)の上にマットペインターがトレーシーの家を描き、
そのマットペイントをMAYAの中でプロジェクションマップで投影し、その映像に合うようにモデリングをしていきます。
 
トレーシーの家はセット撮影用に実物のセットがあるので、プロジェクションで貼ったマットペイントをベースにモデリングし、細部は写真を参考にしました。
 
 
また、CGで60年代の車を他のビルの間を走らせる為、全てのビルの箇所にマスク用のCGのビルを作りました。このビルはセットではなく、実写の町のビルです。3Dでトラッキングされたビルの形状に合わせて、モデリングしました。
 
ただし、全て実物通りではなく、場所によってはオリジナルのビルもモデリングされています。
 
そのモデリングのビルの上から、プロジェクション・マップを貼るのですが、そのままテクスチャーとして使用するのではなく、一つ一つのビルに貼られたプロジェクションを、全てフォトショップに出力し、それを1枚1枚、マットペインター
がビルのテクスチャーをより鮮明にレタッチして仕上げていきます。
 
また、トレーシーが誘拐され車のトランクに閉じ込められたシーンでは、「カメラが鍵穴を通り抜けトランクの中のトレーシーに寄っていく」というショットの鍵穴と、その中のディテールをモデリングしました。
 
ほんの一瞬のシーンですが『使い込まれた鍵穴』という指定があり、モデル自体はMAYAで作り、Z-BRUSHを使って傷を沢山つけました。
 
特に、鍵が直接刺さる穴の部分は『もっとギザギザにして欲しい』という指示を受け、何テイクかモデリングをしました。
 
実際の鍵穴の中を参考に鍵の凹凸が当たるスプリングを巻いたピンなども作る等、細部にこだわってモデリングしています。
 
 
~モデリングの際に苦労した点は。どのような部分に気を使いましたか。
 
トラッキングカメラにあわせてモデリングしているので、全てのフレームで正確にモデリングする必要がありました。
 
特に細部、煙突や窓などがずれないように正確に作ること。その為、場所によっては、多少パースをつけてモデリングしています。
 
最終フレーム付近は、アップになっていくので、煙突や窓枠、ドアなどは細かく作るように指示がありました。
 
トレーシーのビルの周囲のビルも、屋上や窓枠は作りこんであります。
 
また、古いビルは屋根のヘリなどが真っ直ぐにならないように、多少歪むようにモデリングしてあります。
 
 
~大変リアルに仕上がっていますが、レンダラは?
 
レンダリングにはメンタルレイを使用しています。ライティングとコンポジットチームが実際の風景にマッチするように細心の注意を払って仕上げています。
 
 
~日頃、モデリングという作業の中で、心がけている事はありますか?
 
「色々な物の形を観察して知っておく」という事でしょうか。
 
プロジェクトによっては、イマジネーションや応用からモデリングを要求される事もあります。
 
そんな時、人体や車のエンジン、日常の電化製品など日頃から観察して知っておけば、作業が効率良く進みます。
 
今回も実際の鍵穴の中の構造は知っていたので、リファレンスは用意しましたが、作業は早かったと思います。
 
 
~造形は日々の鍛錬や観察が大切と聞きますが。
 
人体の内部を勉強するため、著名なアーティスティック・アナトミストであるレイ・ブストス氏のクラスを受講しました。
 
毎回、人体の講義の後、実際に人体モデルを粘土で骨から筋肉全てを造形します。
 
人体の内部は毎日見ていないと忘れてしまうので、人体模型を購入し、デスクの横に置いて、毎日眺めています
 
現在は、カレン・コープというスカルプターの先生の下で、実際のモデルさんを粘土でスカルプトするクラスを受けています。
 
特に生物の造形では「生物学上、ここは、絶対にこうならない」という定義があります。
 
スカルプトで人体を作るとそういうことが自然に覚えられるので、実際にMAYAやZ-BRUSHで作業を行う際にも応用が効きます。
 
  
~今後の自分に対する課題は?
 
今は、物体の形状(動物にしても、工業製品にしても)に対する知識として頭の中に蓄積する事でしょうか。今後は、そういった知識を生かして、自分でデザインをしてみたいと考えています。
 
 
~日本で「ヘア・スプレー」を鑑賞される人に、どんな部分を見て欲しいですか?
 
テレビを見るために走って家に帰るといった懐かしい60年代の時代背景ですね。
 
その白黒テレビ全盛の時代を現在よりもカラフルな色彩で描いていて、衣装、セット全てがカラフルです。
 
最初から最後まで、家族そろって楽しめる明るく楽しい映画です。
 
 
映画「ヘアスプレー」公式サイト
http://hairspray.gyao.jp/
10月20日(土)丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開。
 


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(C)1998-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎

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画像: 記者会見でのスナップ
     左から、ジョセフ・チュー氏(プロデューサー)、荒牧伸志(監督)、
     高橋哲也(映画スコア)、たけうちきよと(脚本)、三宅澄二(製作)の各氏

 


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フルCG長編アニメーション映画『アップル・シード』の続編にあたる映画『EX MACHINA -エクスマキナ-』が、ロサンゼルスで開催されたジュール・ベルヌ映画祭(Jules Verne Adventure Film Festival)において12月15日(土)プレミア上映され、そのクオリティは目の肥えたハリウッドのプレス陣をもうならせた。

この映画祭は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の名にちなんで開催されているパリの映画祭「ジュール・ヴェルヌ映画祭」の米国版として、12月10日から15日までロサンゼルスのダウンタウンで開催された。

『エクスマキナ』の上映は、LAダウンタウンにある劇場Los Angeles Theatreで行われた。この劇場はハリウッド黎明期の1930年に建造されたエレガントな内装の歴史ある劇場で、これまでにも数々のハリウッド映画の関係者試写会や、LAでのシーグラフではMAYAユーザー会等にも利用されている。

この日は、上映の前後に荒牧伸志(監督)、たけうちきよと(脚本)、高橋哲也(映画スコア)、三宅澄二(製作)の各氏がステージ上に登場。製作にまわつわるエピソード等を披露した。また、同作品プロデューサーで日英堪能なジョセフ・チュー氏が通訳を務めた。

上映後に行われた記者会見では、ハリウッドのプレス達から多くの質問が飛んだ。「正直何も期待しないで観たのだが、ストーリーやクオリティの高さに驚いた。一体、どれ位の製作期間で作ったのか」という質問に対し、「アニメーション作品として更に高いクオリティを目指した事もあり、現場の作業量は前作の2~3倍増となった。また2作目はストーリー新たに開発した事もあり、製作には2年以上を費やした」という監督の言葉に、記者達は熱心にメモを取っていた。

また、一作目の「アップル・シード」を見て感動した、ミウッチャ・プラダ(プラダのオーナー兼デザイナー)が「映像は素晴らしいのに、なぜか衣装が劣っている」と『エクスマキナ』の衣装デザインを申し出たという、ユニークなエピソードも披露された。

こうして日本発のフルCGアニメーション映画が、実際に海外の映画祭で評価されているのを目の当たりにして、日本の映像業界の可能性と未来を感じずにはいられず、筆者自身も楽しく感動的なひとときであった。

 


 


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