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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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 筆者が車通勤で毎日通る、ビバリーヒルズ・エリア南端の交差点にあるガソリン・スタンド。

 ここはしばらく塀で覆われ改築工事が行われていたのだが、ある朝、いきなり未来風なガソリン・スタンドに生まれ変わっていた。

 改築前は何の変哲もない、地味でありがちなガソリン・スタンドだった。
 
 この革新的なデザインのガソリン・スタンドは、我々CG屋が見ると、思わず「半笑い」になってしまう"ポリゴンな"デザイン。

 どうして、このようなデザインに行き着いたのだろうか?
 そして、そもそも「なぜガソリンスタンド」なのだろうか?

 これは、も~取材するっきゃないでしょう。

 …という事で(何が?)、突撃取材を敢行。そのレポートをご紹介しよう。
 


 Helios House
 ヘリオス・ハウス

 Gas & Service Stations

 8770 West Olympic Blvd
 Los Angeles, CA 90035
 (310) 855-9346
 www.thegreencurve.com

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ビバリーヒルズ・エリアの南端、オリンピックとロバートソンの交差点に位置する、革新的なデザインの「未来のガソリンスタンド」。

 イギリスに本拠を置くエネルギー関連企業の大手、BPによって運営されている。

 アメリカの従来のガソリンスタンドとは異なり、エコロジーを意識し、地球に優しいガソリンスタンドとして設計されている。
 


 写真左がマーク・リー、右がシャロン・ジョンストン女史e4068bd3.jpg http://www.johnstonmarklee.com/
マーク・リー(Mark Lee) UCLA建築学部助教授 / 建築家 Johnston Marklee and Associatesの共同創設者&代表者。南カリフォルニア大学建築学部、ハーバード大学大学院終了。1998年より、UCLA建築学部における都市設計の教員の1人として、教育プログラムのコーディネーターとしてその手腕を発揮している。その活躍ぶりはロサンゼルスタイムズ紙等でも紹介された。LAのベニス・ビーチにある住宅"Sale House"のデザインでも知られている。
 
シャロン・ジョンストン(Sharon Johnston) 建築家/米建築家協会会員マーク・リーと共に、Johnston Marklee and Associatesを共同創設し、同代表者。スタンフォード大建築学部、ハーバード大学大学院終了。


★建築家マーク・リーとシャロン・ジョンストンに直撃インタビュー

○なぜ、ガソリンスタンドなのでしょう?

 一般にガソリン・スタンドに対するイメージというのは、 ガソリンを満タンにする為という機能主義の一環で、私達の日々の生活の中で5分間を仕方なく無駄に過ごす場所、と言ったところでしょう。

 かくして、ガソリンスタンドというものは、国中の交差点や街角に点在する、世俗的で何の変哲もない建築物としてその姿を示してきました。

 そこで、私たちは「ガソリンスタンドに行く」という行為を、建築を通して新しく表現してみようと考えました。

 

○コンセプト

 クライアントであるBPは、いくつかの斬新な条件を添えて、我々にアプローチしてきました。

 BPの企業アイデンティティを具体化する為に、この建築デザインを開発していく中で、「都市」と「自然が生み出す産物の恩恵」の両方を最大限に融合したいと考えました。

 また、このプロジェクトは、ある種の「生活実験室」として発想されました。第一の条件は、革新的なデザインで、しかも持続可能な建築物である事。そして教育的な観点とエコロジーについての意識を強調するという事でした。

 私たちはこの建築物を、今後時間が経つにつれて新しい習慣や技術が現れるのに従い、発展し続ける事が出来るような「学習実験室」として創造したかったのです。


○エコロジーを強調

 デザインが画期的であるだけではなく、地球に優しいガソリンスタンドとして、様々な試みが成されています。
 
 ヘリオス・ハウスの天蓋上には90個のソーラーパネルが設置されており、自家発電を行っています。アメリカの一般住宅2~3軒分に必要な電力を発電出来ます。

 照明はすべて、消費電力の少ない発光ダイオード(LED)。スタンドの床のコンクリートには、100%リサイクルのガラスが混ぜられ、この建物によるヒートアイランド現象※を最小限に抑える試みもなされています。

 天蓋からの雨水は集められ、ろ過され、敷地内の植物の潅漑のために再利用されます。

 別棟のトイレも画期的です。照明は、人物の動きで反応するセンサーで点灯し、余分な電力を浪費しないように工夫されていますし、床は、100%リサイクルのガラスのタイルが敷き詰められています。屋根には地元の草が植えられ、ここでもヒートアイランド現象の抑制に役立てています。

 給油機やトイレは徹底して、廃材等の再利用で構築されています。


 ※ヒートアイランド現象
  都市部の気温が周辺部より高くなる現象

 

○3Dモデリングツールをフル活用

IMG_2228.jpg このヘリオス・ハウスのデザインには、デジタル・ツールが不可欠でした。

 我々のデザイン・チームは、 プロダクト・デザインの分野で使用されている3次元モデラーのライノセラス(Rhinoceros)、そして自動車産業や航空機メーカー等に採用されているハイエンド3次元CADソフトのキャティア(CATIA)を使用しました。

 キャテリアでモデリングしたデータは、IGES形式でライノセラスに読む事が出来ます。

 デジタル・モデルが完成すると、形状データはCNC(コンピュータ数値制御)フライス盤で型を切り出す過程に回されます。この型は、グラスファイバーのパネルの生成に使用します。

 工場から現地までの輸送上の便宜を考慮し、パネルの数はなるべく少なくなるように工夫されています。

 グラスファイバーのパネルをもとに、ここから1653個のステンレス製パネルがレーザーでカットされました。

 このパネルは、52個のプレハブ・パーツに分けて事前に組み立てられ、それから現地へ運ばれ、最終的な施行へと至りました。

 この作業過程は、デジタル・テクノロジーの進化による作業プロセスが、カスタムデザインされた建築物を、効率的にアセンブリする事を可能にした顕著な例と言えます。

 

○制作期間との戦い、そして得られらもの

IMG_2225.jpg  最大のチャレンジは、デザインから施行を7ケ月で完了させなければならないという時間との戦いでした。

 技術者、制作業者、およびコンサルタントとのコラボレーションを含むチーム編成も革新的でしたが、我々のデザイン・プロセスも含めた新しいワークフローのすべてがチャレンジでした。この7ケ月で得られた糧は非常に大きかったです。

 このプロジェクトによって、建築における構造的デザインの製作過程において、3Dのデジタル・テクノロジーが非常に効率的なツールである事が立証されました。


○おわりに

この『ポリゴンな』ガソリンスタンドは、Robertson AveとOlympic Blvdの交差点にあり、レンタカーで訪れるのにもわかり易いロケーション。あなたも、LA観光や出張の際に是非ここでガソリンを入れてみては如何だろうか?

 


 

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(C)1997-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎


 

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 6月13日、米国映画芸術科学アカデミー(The Academy of Motion Picture Arts and Sciences)は、来年2月24日(日)にハリウッドのコダック・シアターにて開催予定の第80回アカデミー賞授賞式に向け、ノミネート作品に対する新基準を発表した。
 
この新基準では、フルCG映画が該当する、長編アニメ映画賞のカテゴリーにも変更が加えられた。
 
これまで、長編アニメ映画賞(ANIMATED FEATURE FILM: Best animated feature film of the year)でのノミネート作品の基準は、
 
 ・フレームbyフレームのテクニックを用い、上映時間が70分以上である事。
 
 ・アニメーションされた映像が、上映時間の75%以上である事。
 
などが定められていたが、今回発表された基準では、
 
 ・主要なキャラクターはアニメートされていなければならない(must be animated)
 
という項目が新たに追加された。
 
「モーション・キャプチャーは含まない」という直接的な文面ではないものの、実はこの"animated"という英語には「アニメーターが手で動きを与える」というニュアンスが強く含まれている。
 
Motion Pictureという伝統ある芸術の発展を目指す、米アカデミーらしい英断であるが、反面、現在製作中のフルCG映画のうち、モーション・キャプチャーを多用している作品は「自動的」に長編アニメ映画賞のノミネート対象から外れる事になり、アカデミー賞を意識して製作を進めていた関係者のショックは大きい事だろう。
 
この背景には、デジタル・テクノロジーの進化によって、既に一般的になりつつあるモーション・キャプチャー技術を、芸術的観点で「アニメーション」として認めるかどうかの論争があった事を伺わせる。
 
ちなみに、今年2月に開催された第79回アカデミー賞の同賞は、モーション・キャプチャーを駆使した「ハッピー・フィート」が受賞している。
 
今回発表された新基準は、事実上、『モーション・キャプチャーはアニメーションではない』という判決が"映像最高裁"から下されたようなインパクトがある。
 
しかし、現場のキャラクター・アニメーター達にとっては嬉しく、誇りやモチベーションを高める変更と言えるかもしれない。 
 

 
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