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吉田輝之氏 /   シニア・カラー&ライティング・テクニカルディレクター
[撮影: Leah Hardstark]

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 吉田輝之氏は、ソニーピクチャーズ・イメージワークス(以降イメージワークス)で勤続5年を越え、社内でも古株の1人として、現在シニア・カラー&ライティング・テクニカルディレクターとして活躍。

月刊CGワールド誌2004年7月号や、書籍「海外で働く映像クリエイター」等でそのインタビューが紹介されているので、ご存知の方も多い事だろう。

これまでにも「スパイダーマン2」「ポーラー・エクスプレス」「オープンシーズン」「ベオウルフ」等、数々の大作に関わって来た。

「ライティング」というポジションは、日本のCG制作現場では耳慣れない職種であるが、VFX制作の中では極めて重要な役割を果たしている。

今回は、吉田氏が最近参加したメジャー作品2本から、分業制が進むハリウッドの大規模制作パイプラインでの「ライティング・アーティスト」の役割りと、「ルック・デベロップメント」の作業内容とその流れ等をご紹介しよう。


☆『ワルキューレ』

3月20日より公開されるトム・クルーズ主演の映画『ワルキューレ』 (http://www.valkyrie-movie.net/)。吉田氏はこの作品において、ルック・デベロップメントとショット・ライティングの両方を担当している。

ルック・デベロップメントも、ショット・ライティングも、CGスーパーバイザの指示の下、他のアーティスト達と連携でチームプレイを取りながら、作業を進めていくという。そのそれぞれが、どのような流れで進んでいくのかを伺ってみた。

○ルック・デベロップメントとは何か

VFXにおけるライティング作業の「ルック・デベロップメント」とは、映画の中で登場するキャラクターやエンバイロンメン トにデジタルで視覚効果を与える際のルック(見た目 / 仕上がり具合)を作り上げて行く作業だ。

CGモデルやテクスチャ、シェーダー、質感などを調整して全体のバランスを取りながら、監督の要求に見合ったルックを作り上げて行く。

それらすべてのルックが出来上がった後に、それらをベースとなるセッティングとしてリリースする。

そしてプロジェク トが終わるまでの期間、そのセッティングのメンテナンスおよびアップデートを行い、キャラクターやエンバイロ ンメントのルックに対するトータルケアを行う。


○ルック・デベロップメントの難しさ

まず、テスト・シークエンスでリリースしたルックのセッティングを使い、 ベースとなるライティング・リグを構築。各フレーム毎のレンダリング時間も考慮しつつ、全体を合理的にまとめて行くように配慮する事が、鍵となる。

各ショットのライティング作業を行う際、ライティンのリグ(設定)を使用し、そのセッティングによって望みどおりのレンダリング結果が得られるというのが、理想的なワークフローだという。

最も重要なのは、各アーティストがライティング作業に集中できるようにする事だ。テクニカル、アーティスティックの両サイドに問題が生じないように、最良なセッティングを作 り上げて行く。


ルック・デベロップメントを行う際には、沢山のリファレンス映像が用意される。まず、そのリファレンスを何度も見つつ、担当しているルック・デベロップメントに関連する資料を自分で探す事もある。

ルック・デベロップメントの作業に参加している期間は、日常何気なく目にするようなものでも、関連するものに自然と目が行くようになるという。

 

○指の無いシーンをVFXで実現、そのライティング作業

吉田氏は、主にトム・クルーズが演じる、負傷した将校の指と手の差し替えショットを手がけた。薬指と小指の無い手と、手の無い腕のルック・デベロップメントを担当した。

指が無いようにみせるテクニックは、「よくあるリプレイスメント」だと吉田氏は語る。

実写プレートにある指や手を消して、消した部分をCGエレメントで置き換える事になる。具体的には、プレートにある指と手をペイントで消して、 その部分をCGで作ったものに置き換えていく。

ただ、実写と馴染ませる必要があり、 これは各スタジオごとに様々なノウハウやテクニックがあると言う。

特にこの作品では、暗い部屋の中や、明暗の差の変化が激しいショットも多く、CG素材の人肌を、実写プレートに馴染ませたり整合を取るのに苦労したという。

これらのテクニックの中で共通して言える事は、実写プレートをよく観察する事、撮影時 に、ポスプロで必要な情報や素材を正確に得ておく事だという。また、ライティングの作業に入る段階で、マッチムーブが正確に仕上がって来ている事も重要だそう。

 
吉田氏が映画『ワルキューレ』で担当したショット数は、ルック・デベロップメントのメンテナンス、およびアップデートと並行しながらのライティング作業で、全部で17ショット余りだったという。

 

☆『スピード・レーサー』

CGスーパーバイザーのパトリック・コーエンと「スピードレーサー」のライティング作業を行う吉田氏
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監督のウォッシャウスキー兄弟は「日本のアニメテイストを採りいれた映像」を常に強調し、それが作品の絵づくりにも色濃く反映された。

CGライティングの現場では、ライブアクションとフルCGの"中間"を取ったような、ある意味ポップアート的な映像を創り上げるというディレクションの元、その作業は進められたという。

出来上がる映像がフォトリアルに近づき過ぎても、かと言ってフルCG映画風になり過ぎてもいけない。その「さじ加減」のバランスを取る事が重要課題だった。 

この作品のライティングでは、彩度の高いカラーパレットを使用する必要があったが、ただ単に全体的に彩度を上げてしまうと、カラーバランスが崩れてしまう。

そこで数種類のマスクを組み合わせ、特定のエリアだけをフレーム単位で調整していく、という工夫が作業に盛り込まれた。

また、シャドウ、ハイライト、ミッドトーンの各レンジ、RGB、全体のルミナンスの各チャンネルごとに、といった微妙な調整を施して行ったそうだ。


○苦労した、峠での猛レースシーン

吉田氏が担当した中で印象に残っているのは、"Moutain Rally"のレースシーン。

峠のスイッチバックをレーシングカーが猛スピードで駆け上がって行くという印象的なシークエンスだが、それ故に尺も長く、動きも複雑だ。

このシークエンスでは、インフェルノ・チームやマッチムーブ・チームとのレイヤーのやり取りがライティング・チームとの間で頻繁に行われ、作業は緊迫した雰囲気の中で行われたという。

作業途中で高速でのズームイン&アウトという演出変更が加わった為、実写プレートをインフェルノ・チームに渡して加工してもらい、また戻してもらうというやりとりが行われた。

具体的には、CGの車体をレイヤー分けしてレンダリングものをインフェルノ・チームに渡す。彼らは、実写プレートに加えたCGエクステンション(※見切れている部分をCGで継ぎ足す事)のつじつま合わせを行い、そのレイヤーがライティング・チームに戻ってくる、という流れだった。

中でも、スピード(エミール・ハッシュ)、トレクシー(クリスティーナ・リッチ)、そしてレーサーX(マシュー・フォックス)の3者が登場するショットは、締め切りギリギリまで掛かった事もあり、吉田氏の中では特に印象に残っているという。

ライティング・アーティスト達は自分の担当ショットが終了すると、他のチームにヘルプに入り、締め切りギリギリまで完成度を高めるための作業が行われたそうである。

イメージワークスにおける「スピード・レーサー」の制作期間は三ヶ月弱。これは、ハリウッド映画のVFX作業としてはかなり短かい部類に入る。

この作品では、総勢60~70名のクルーが制作に参加、そのうちライティング・チーム約30人。各10人の3チーム構成で、各チームが1シークエンスを担当した。

 

○日ごろからの観察が大切

ライティングに限らず、VFXアーティストは日ごろの観察の積み重ねが大切だ。

「同じ物、同じ場所でも、時間や季節が変わればまったく違ったものに見えたり、感じたりしますから。 身の回り にあるもの全てを、観察していると思います。」と吉田氏は語る。

また、デジカメを持ち歩き、リファレンスとして撮っておきたい物を見つけるとすぐさま撮影できるようにしているそうだ。

世界中から優れたVFXアーティストが集結し、競争も激しいハリウッド。そんな中で、吉田氏はシニア・レベルのアーティストとして着実に基盤を固めつつある。

それは、吉田氏の仕事に対する真摯な姿勢と、卓越したスキルが評価された結果である。吉田氏の今後の更なる活躍に期待したい。


 


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(C)1997-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎 

 

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