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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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レオナルド・デカプリオ主演の映画「The Aviator」(Martin Scorsese監督)が全米で公開された。ハリウッドはこれから各映画賞シーズンに突入するが、この作品は早くもノミネートの声が聞かれる等、話題を呼んでいる。

「The Aviator」は、実在の人物Howard Hughes(1905-1976)の半生を描いた作品。

Howard Hughesは日本では馴染みが薄いかもしれないが、ロサンゼルスの空港近くのプラヤ・ビスタの広大な敷地に自社ビルと専用滑走路を持っていた事もあり、地元LAでは著名な存在だ。

Howard Hughesは、若くして親から相続したHughes Tool社と、その遺産を相続した大金持ちで、ハリウッドにも進出し、数々の作品を制作。また、飛行機好きが高じて自分で飛行機製作会社を設立。

自ら操縦桿を握って飛び回ったり、自分で飛行機を設計したり、という「飛行機野郎」だった。おまけに有名女優を身近にはべらすプレイボーイでもあった。(…うらやましい)

1939年には今はなき、航空会社TWAのオーナーとなる。そして、当時国内便が主流だった米航空業界に、国際便という当時としては無謀な計画を持ち込んで実現に向けて奔走するなど、バイタリティ溢れる人物だったが、様々な問題に巻き込まれていく。

この作品は、そんなHughesの若き時代から晩年までを描いた作品で、レオナルド・デカプリオがHughes役を熱演している。

さて。先ごろ、ハリウッドの映画業界に従事するプロのクルーを対象とした、この作品の特別試写会がハリウッドのチャイニーズ・シアターにて開催され、この映画におけるビジュアル・エフェクツ、そしてデジタル・テクノロジーがどのように活用されたのかが披露された。

この内容は、デジタル専門外の実写クルー向けという事もあり、技術的にそれ程掘り下げた内容ではなかったものの、「映画製作プロセルにおいてデジタル・ツールがどのように活用されているのか」という観点で、なかなか興味深いものがあった。

では、その内容をここで「さっくり」とご紹介する事にしよう。


○エフェクト・ショットは400ショット

監督のMartin Scorseseは、元々あまりエフェクツに詳しい方ではなかったそうだが、この作品の製作を決意してから、自分のビジョンを実現すべく新しいテクノロジーを学び、積極的に採用していったのだという。

監督は手始めに「アポロ13」等でアカデミー賞受賞歴のあるVFXスーパーバイザーのRob Legatoをチームに招き入れた。Rob Legatoは、リアリスティックなエフェクトを最大限に実現すべく、なおかつ製作コストとのバランスを視野に入れながら、最新のデジタル・ツールを映画製作プロセスに活用、作業の効率化を検討した。

というのも、実際のところ、この作品は巨額予算のハリウッド映画ではあったものの、エフェクト予算自体はそれ程「巨額」とは言えなかったらしい。

そこで採用されたのは、伝統的なミニチュア撮影によるエフェクトと、最新のテクノロジーを駆使したハイエンドのデジタル&CGツールとを組み合わせる「ハイブリッド」な手法だった。

エフェクト・ショットの総数は400余りで、うちデジタル・エフェクツの主要70ショットは大手のエフェクト・ハウスSony Pictures Imageworksと、中堅のComputer Cafeに割り振られた。

それ以外の300ショット余りは、DNA、Pixel Playground、Ockham's RazorやBuzz等の小規模エフェクト・ハウスに分散して発注する事で、製作コストをうまくコントロールしたそうだ。

 

○見応えある完成度に仕上がった、ミニチュアによる小型飛行機墜落シーン

一方、伝統的なミニチュア撮影によるエフェクツが成功しているのも、この作品の特色の1つと言える。

特に、小型飛行機XF-11がビバリーヒルズの住宅街に墜落するシーンでは、1/4スケールの全長5mサイズのミニチュア飛行機の翼が、建物の壁にめり込む様子を高速度撮影するという、伝統的な手法による「特撮」が行われた。

この飛行機のミニチュアは、3Dでモデリングされたデータを基に組み立てられ、コックピットにはラジコンで顔が動くデカプリオ様の人形まで載っている(笑)

撮影前には、CGによる綿密なプレビズが行われ、綿密な準備の下に撮影は行われた。

このショットはかなりの迫力と臨場感があり、今年のVES(ハリウッド視覚効果協会)アワード2005でもモデル&ミニチュア部門でノミネートされる等、ハリウッドのエフェクト関係者をうならせる完成度となった。

 

○デジタル・ツールを駆使したプレビズが製作現場にもたらしたもの

Rob Legatoはエフェクト・エディターのAdam Grestelと一緒に、各エフェクト・ハウスに発注したエフェクト製作を総括する為のチームを結成。このチームでは、デスクトップPC上で動くアフター・エフェクツやフォトショップ等のアドビ・プロダクツが大活躍したという。

短い習得期間で誰でも使えるようになるデスクトップ環境は、エフェクト・ショットの管理プロセスをより便利に、効率的に進める事を可能にした。

またこのデスクトップ環境は、Rob Legatoにとって極めて実用的なものになった。

例えば、彼がコンピューター・アーティスト達に変更のリスエストを出した後、そのショットが彼の下に戻った時、彼は自分が好きな箇所を自由に再生して確認する事が出来た。

そして、それを監督に見せ、すぐに監督のフィードバックを仰ぐ事も容易だった。

また、アフター・エフェクツ等を始めとするデジタル・ツールを活用した「プレビス(pre-visualize)」が一般化したお陰で、多くのエフェクト・ショットを最終完成形に近い形で、プロダクションの最中はもとより、プロダクションに入る前から事前に確認するが出来た。

これらのプレビスは、DVカメラで撮影された素材や、アフター・エフェクツ、そしてMAYAによって製作されたCG素材等で構成されている。

プレビスは、もはや目新しいものではなく、ハリウッドではごく当たり前の手法となりつつあるが、映画の製作現場では「動くストーリーボード」として重宝がられる事が多い。


○テクニカラーにおける、デジタル・カラーコレクション

この作品の時代背景は1930年代前後だが、監督は時代に沿った「カラー・パレット」で各シーンの色調を成立させたいというビジョンを持っていた。

カラー・タイミングのエキスパートで、ハリウッドのユニバーサル・スタジオに隣接する老舗の現像所テクニカラーでは、この要求に応えるべく、1927-1937年のショットではテクニカラーの旧式2色加色法に見えるように、1937-1947年のシーンでは3色加色法をデジタル・テクノロジーによって再現した。

Rob Legatoは、テクニカラーのカラー・コレクションのエキスパートからコンサルティングを受け、彼のMAC上のフォトショップによって、それらの色味を事前に「プレビズ」する事が出来るようになったという。

これは、白黒でスキャンされた画像に対して、シアン、マゼンタ、イエローのフィルターをオーバーレイさせる事で色調をシュミレーション出来るというもの。

テクニカラーでは、この映画の全編が、フィルム・スキャナーでネガからスキャンニングされデジタル画像に変換され、デジタル上でカラー・コレクションが施された後、レーザー・フィルム・レコーダーで映画フィルムにレコーディングされた。


○ますます映画制作現場に浸透するデジタル・テクノロジー

監督のMartin Scorseseは、この作品を通じて多くのデジタル知識を吸収したという。

「監督は近いうちに、このドレスの色を変えてくれ、この影を消してくれ、と今までは言わなかったような要求をしてくるだろう」とRob Legatoは笑っていた。

去年公開された映画「ラスト・サムライ」も同様で、撮影監督のJohn Tollはテクニカラーでカラー・コレクションを行った際に、そのプロセスを通じて多くのデジタル関連知識を初めて学び感銘を受けていたという。

また、タランティーノ監督の「Kill Bill」では、アクション・シーンの撮影で膨大なフィルムを回す事を前提としていた為、ユニークが方法が採られた。通常35mmを4パーフォレーションで撮影するところを、3パーフォレーションで撮影。画面のアスペクト比はシネスコの16:9なので、3パーフォレーションでも絵的には何ら問題がない訳だ。

そして、それをテクニカラーでスキャンニング、デジタル・カラー・コレクションし、最終的に4パーフォレーションのフィルムにレコーディング。これにより、撮影素材のフィルム代&現像代を25%節約する事が出来たそうだ。これはデジタル・プロセスを介す事によって出来た「裏技」と言えよう。

最近のハリウッドでは、このようなDI(デジタル・インターミディエート)が主流になりつつあり、監督や撮影監督は、少なからずデジタル関連の知識が要求されるようになってきた。

デジタル化以前から映画製作の現場で活躍するベテラン格のクルー達にとって、元来のデジタル・ツールはハードルが高いものだったが、ラップトップやデスクトップ上で動くフォトショップやアフター・エフェクツ等のソフトは、手軽に操作出来る事もあり、身近なツールとなりつつある。

筆者の知人のアメリカ人撮影監督は、常にパワーブックを持ち歩き、フォトショップを使って画面構図の変更や色補正の指示を出し、ツールとしてバリバリ活用している。

もはや、デジタル・ツールはエフェクト作業だけに限った事ではなく、映画の製作現場においても必須となり、ますます浸透していく事は間違いない。今後の進展が楽しみである。


「The Aviator」の米国オフィシャルページ
http://theaviatormovie.com/

 


 


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