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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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○はじめに
今年のメモリアルデーの映画シーズンは、ジェッキー・チェーンの「シャンハイ・ムーン」や、トム・クルーズの「ミッション・インポッシブル2」等の超大作が目白押し.。そんな中、ディズニーが製作した「ダイナソー」が6月19日、他に先駆ける形で公開され、公開最初の週末に、たった3日間で38.6million※を売り上げる等の、大ヒットとなった。今回は、その「ダイナソー」の製作舞台裏の全容を、いちはやくご紹介する事にしよう。

※日本円で約41億円に相当。

○膨大な作業量
構想から10年近い歳月と総製作費200millionを投入し製作された「ダイナソー」。1時間24分の本編の内、殆ど全編に渡ってCGの恐竜と実写との合成で構成されるという試みが成なされ、最終的にはすべてデジタルで処理された。全編デジタル処理なので、全米公開時は限定館においてDLPによるデジタル上映も行われた。

しかしその分作業量は、文字どおり膨大なものとなった。扱ったデータは約45テラバイト、CD-ROMにして7万枚分に相当。レンダリング用のレンダーファームには250台のコンピュータ・プロセッサ、及び300台ものワークステーションが導入された。プロダクションの進行中、膨大なレンダリングと合成作業の為、通常は毎週3万プロセッシング・アワーのデータ処理が行われ、ピーク時にはこれが6万プロセッシング・アワーに達した。

また、「ダイナソー」の為に開発されたプログラムのコードは7万行に達し、百科事典に換算すると25巻分に相当した。特殊効果が必要なショットは1300ショット以上に及んだ。このような超巨大プロジェクトが、カリフォルニア州バーバンクにある、ディズニーの新デジタル・スタジオで秘密裏に進められたのである。

※日本円に換算すると約210億円に相当。

○ディズニーの新デジタル・スタジオ “FAN”
「ダイナソー」のプロダクションチームは、プロジェクトが正式に始まった8ケ月後である97年1月、ウォルト・ディズニー・フィーチャーアニメーションの全く新しいデジタル専門ファシリティーである、バーバンク空港近くのビルへと移動した。

このビルは、Feature Animation North Side (FAN)と呼ばれるディズニーのデジタル部門の心臓部。ここ“FAN”で、「ダイナソー」の製作は、開始された。

最近、ここにはディズニー傘下のエフェクトハウスだったドリーム・クエスト社も統合されており、現在は350人に及ぶスタッフが働いている。

このドリーム・クエストとの統合チームは、The Secret Lab (TSL)と呼ばれており、その名前は本編の最後にもクレジットされている。

○実写部隊
映像にリアリティを持たせる為、背景には実写が用いられた。撮影隊は2班に分かれ、18ケ月という長期間に渡って文字どおり世界中をロケした。オーストラリア、カリフォルニア州(8ケ所)、フロリダ州、ハワイ、ベネゼーラ、西サモア等で、ドラマティック且つ雄大で美しい実写背景が撮影された。

この撮影では、Leicaのレンズを装着したビスタビジョンのカメラが使用された。このビスタビジョン・カメラはフィルムが横走行式で、通常2駒分として使用するフィルム面積を1駒分として撮影する為、高画質が得られ、後で合成等の処理を行う際にも柔軟性が高かった。

また、新しく開発された「Dino-cam」も使用された。これは、コンピュータ制御によるケーブル・オペレーションのカメラで、高さ約82mの鉄塔の間に張られた約300mのケーブルの間を、最速で時速約48kmのスピードで移動しながら撮影する事が可能で
ある。

高度も自由にコントロール出来、カメラのパンとティルトも360度可能になっている。このコンピュータ制御の「Dino-cam」によって、複雑な恐竜の視線を「再現」した。実写プレートの撮影はディズニーの伝統的なストーリーボードに沿って行われ、撮影後の映像はバーバンクに持ち帰り、デジタル・チームのエキスパート達によって、各フレーム毎にCG製の恐竜と合成された。


○デジタル部門のプロダクション・パイプライン

膨大な数の特撮ショット、デジタル素材と実写素材の複雑な合成等を円滑に進める為に、洗練された管理体制と、映画製作におけるプロダクション・パイプラインを確立する必要があった。

最初のパイプラインは、ストーリー・スケッチを起こす事から始まり、それから各部門別に作業が開始された。

◆3D Workbook部門
撮影クルーの参考用に、「3D Workbook」が用意された。まず、ラフなストーリーボードを起こす。それを見たロケ隊がストーリーにマッチした最適な場所を探す。ロケ場所が決まれば、技術部隊が現地に出向いて、距離、岩のサイズや尖峰の高さ等を測定する。これらを基に、Workbook隊がローレゾの3Dセットを起こし、CGの恐竜を必要な場所に置く。それにアニメーションを加える。この3D Workbookによって、撮影クルーはカメラ位置や、恐竜が撮影ショットの最初から最後の間に、どのように動くのか、等を事前に確認する事
が出来た。

◆Digital Image Planning部門
実写の背景が撮影されると、この部門が実写映像に合わせて「バーチャル・カメラ」を仕込んでマッチ・ムーブを行う。カメラ位置、画角、パン、ティルト、レンズのズーム、クレーンの移動等、すべてを3Dのバーチャル・カメラに置き換えた。

◆ Model Development部門
この部門は、モデラー、モーションTD、モデルTDの3つから成り立っている。モデリングチームは、David Krentzの描き起こしたドローイングを元にCGソフトでモデリングを行う。TDチームは、そのCGキャラクターモデルを、アニメータが動きを着けやすい状態にセットアップする。また、アゴの揺れ、体をひねった際に生じる皮膚のたわみ等、2次的な部分で必要とされる一連のアニメーションをコントロールする為のツール開発も行った。また彼らは、恐竜のスキンのアサインや調整、スケルトン部分の設定等、恐竜の「動きのリアリズム追求」に関連する開発・設定作業を担当した。

◆Look Development部門
この部門では、完成されたキャラクターモデルに必要なテクスチャーやエクステリア・サーフェス(鱗片模様、シワ、目の部分等)を製作した他、膨大な数のシェーダーの開発等を行った。更にこの部門では、今回注目されたLemurs(キツネザル)のファーの開発も行われた。ヘアーやファーの開発は難題の1つであったが、彼らは生々しく、密生した、動きも非常にリアルなファーの開発に成功した。

◆Character Finaling部門
ラフなキャラクター・アニメーションが完成した後、この部門ではスキンの2次的なアニメーション付けを担当した。顎の揺れ、皮膚のたわみ等、キャラクターにリアリズムを与える重要な部門である。また、この部門では、すべてのアニメーションが正しいかどうか~正しい位置を歩いているか~正しい場所を触れているか~等も最終チェックされた。

この2次的アニメーションが顕著に見られるのは、巨大な年配のブラキオサウルス“Baylene婦人”の動きである。彼女が地面を踏みつけた瞬間、彼女の巨体に振動が伝わったり、足の動きに付随した微妙なひねり等の2次的アニメーションが効果的に使われているのがわかる。また、彼女の動きから、「年配のご婦人恐竜」という雰囲気や、巨大感等が生々しく伝わってくる。

◆Scene Finaling部門
この部門では、ライティング、コンポジッティング、エフェクツ、デジタル・マット・ペインティング、そして、アーティキュレイテッド・マット&ペイント(articulated mattes and paint) の5つの独立したカテゴリから成なっている。ここでは、デジタル化された実写素材の背景が、CGアニメーションやエフェクト・アニメーション等の素材と1つに合成される部門である。

「ダイナソー」のプロジェクトは、スタート時は30人のアーチストだけだったが、これを350人規模まで膨らませる必要があった。しかし、建物もない、人もいない、マシンもない、ソフトもない、そんな段階からのスタートだった。そこで、各チームのエキスパートを交えて8ケ月におよぶブレーン・ストーミングを行い、検討を重ねた。その結果、2年間を費やし独自のデジタル・スタジオを確立、次の2年間で映画を製作する為のプロダクションをスタートした。それが、現在の「The Secret Lab」に結び付いたという。


○「ダイナソー」で使用されたCGソフト
「ダイナソー」では、恐竜のボディのアニメーション付けにはSoftimage3Dが使用され、リアルな顔の表情を演出したフェイシャル・アニメーションにはMayaの自社開発プラグイン「Mug Shot」が使用されている。レンダリングには、ハリウッドでは定番のレンダーマンが使用されている。

○日本人スタッフ、佐藤篤司氏の活躍
「ダイナソー」では、日本人のCGスタッフである佐藤篤司氏が、キャラクター・アニメーションのスーパーバイズを行う、権威あるスーパーバイジング・アニメータの1人として参加している。佐藤氏は、恐竜の群れのシーン及び、強敵役である巨大な肉食恐竜「カーノター(Carnotaur)」のキャラクター・アニメーションのスーパーバイズを担当。佐藤氏の下に6人のキャラクター・アニメータがつき、氏の指導によって複雑なアニメーションを完成させた。予告編や本編を観て頂ければわかるが、「カーノター」のパワ
フルで迫力に満ちたアニメーションの完成度は素晴らしい。ディズニー社内の完成披露試写会の後、監督自らが佐藤氏に最大の賛辞の言葉を贈った、というのも頷ける話である。

○おわりに
このように、最新のテクノロジーを駆使して完成した「ダイナソー」は、わかりやすいストーリーと、完成度の高い映像で大ヒット中である。実写とリアルなCGの恐竜の組み合わせという試みは映像業界でも注目されており、来月のLA SIGGRAPH(SIGRAPHのLA分化会)の月例ミーティングでは、この「ダイナソー」のメーキング講演が行われる予定である。日本での公開は年末と、まだ少し先ではあるが、今年夏にニューオリンズで開催されるSIGGRAPH2000に参加する読者の方は、ひと足先にその映像を拝める事と思う。何はともあれ、この「ダイナソー」の公開をどうか楽しみにして頂きたい。


間連記事:
新春特別企画 初公開!佐藤篤司氏ディズニー時代の独占インタビュー全文(01/14)


 
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