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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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11月3日(水)夜、ハリウッドにある米国映画監督協会の試写室において、ピクサーの最新フルCG映画「ザ・インクレディブル」の特別試写会が11月5日の全米公開に先立ち、開催された。

この日の試写は、米国視覚効果協会(VES)の主催によるもので、参加者は同協会の会員に限定される。しかし、各会員はゲストを1人まで同伴可能という嬉しいオマケもついている。

そして本編の試写終了後には、ピクサーのスタッフによるメーキング講演まで行われるという、垂涎モノの試写会であった。

内容が内容だけに、会場にはハリウッド中のエフェクト野郎が終結した(笑)

また、全米公開前という事もあり、画像のネット流出を未然に防ぐべく、会場入り口ではおなじみの金属探知機による凶器検査に加え、カメラ機能つき携帯電話の持込み等が制限され、会場入り口には「カメラ&携帯、あらゆる撮影機材お預かり所」が設置されていた。

余談であるが、アメリカの携帯電話は日本よりも発達していない為、カメラ機能つき携帯を預けている人は、わずか20人以下(笑)。意外でしょ?

ま、参加者の年齢層が比較的高く、最新機能の携帯に興味を示す世代が少なかったという事もあるが。しかし、アメリカの携帯電話の機能は日本よりも遅れているのは事実であろう。面白いので、ここでちょっと述べさせて頂いた。

さて。それではこの試写と、メーキング講演の模様を「さっくり」とご紹介させて頂くが、ネタバレは一切含んでいないし、映画を見ていない人が読んでも全く影響がないように書いてあるので、どうか安心してご一読頂ければと思う。

 

☆筆者が映画を観た感想について

 映画は、ものすごく面白かった!!!!!!!

 フルCG映画である前に、ストーリーが洗練されており、演出も奥深い。

 それもそのはず、監督及び脚本は、あの名作「アイアン・ジャイアント」(1999)の監督を勤めたBrad Birdで、「アイアン・ジャイアント」以来の監督作となる。
 
 映画前半の面白さや爆笑度もさる事ながら、後半の、まるで「スター・ウォーズ」や「007」を観ているような、モノすげぇスピード感と緊張感は、これまでに味わった事のない程の衝撃を受けた。

 また同時に、家族愛もしっかりと描かれており、ほのぼのとさせる演出も流石。新鮮な感動を与えてくれる作品だった。

 作品としての完成度が非常に高く、それが素晴らしいCGによって描かれているのである。文句のつけどころ全くなし!!

 という訳で、是非ご家族皆さんで楽しんで頂きたいメガトン級映画である。デートにも最適の作品と言えよう。

 

☆ピクサー社のスタッフ達による特別メーキング講演

 さて、この日の試写会の目玉となる、メーキング講演の模様を要約してレポートしたい。

 上映後の講演という事で、時間帯が遅かった事もあり、講演時間自体はそれ程長くはなかったのだが、それでもかなり興味深いお話を聞く事が出来た。

 以下はその抜粋である。

 繰り返すがネタバレは含んでいないので、どうかご心配なく。


○ご挨拶&概要

 ピクサーの大人数の有能スタッフ達が、「不可能を可能にした」という思いがあるプロジェクトでした。

 私達はこれまでに5本のフルCG映画を製作してきましたが、その殆どが動物や怪獣が主人公の作品ばかりでした。

 しかし今回は、初めて「人間」がテーマのドラマです。

 それに、殆ど実写映画に近い映像で構成されています。町並みは沢山登場するし、水、氷、火、山脈、砂漠、海岸などなど、「ロケ地」のデジタルセットだけでも220箇所もあるんですよ。

 人間のキャタクターも、しかり。髪の毛、布、皮膚の表現など、新しい試みが必要とされました。

 では、これから各カテゴリ別に、簡単にその製作舞台裏を、簡単にですが、ご紹介していきましょう。

 

○エフェクト・アニメーション

 エフェクト・アニメーションが必要とされるショットは膨大で、その意味では「実写の特撮大作映画と殆ど変わらない規模だった」と言えるでしょう。

 40人のエフェクト・チームを構成し、エフェクト製作は行われました。

 使用する3Dツールは人によってまちまちで、Mayaを使う人もいれば、Maxを使う人もいました。勿論レンダリングはレンダーマンですが。

 我々エフェクト・チームは、レイアウト・アーティストと密にコミニュケーションを取りながら、実写の特撮映画のパイプラインと極めて近い形で作業を進めていきました。

 なぜレイアウト・アーティストとの連携が必要かと言えば、ショットの中で、画面のどの位置にエフェクトが必要とされるか、等を予め明確にする為です。

 それにより、エフェクトのテストをより効率良く進める事が出来ます。

 実際、ショットによっては、まずエフェクトを作って、その上にキャラクター・アニメーションを載せて、また最後にエフェクトの調整を行う、という事も行われました。これらの場合はレイアウト・アーティストとの連携が重要になる訳です。


 例えば、海面で泳ぐミス・インクレデブルと子供達のシーンでは、

  1.水面のレイヤー

  2.キャラクターのレイヤー

  3.パーティクルの水飛沫レイヤー

  4.キャラクターの動きによって発生する水面の2次波のレイヤー

 などが必要となりました。このショットは、その顕著な例だと思いますね。


 さて、今回、我々はマット・ペイント部隊の事を映画の製作現場のように 「セカンド・ユニット(第2班)」と呼びました。

 我々が言うところのセカンド・ユニットは主に背景を担当し、後で他の素材と合成される事になります。

 そして「ファースト・ユニット(第1班)」は、キャラクターのパフォーマンス等、「ブルー・スクリーン」の前で演技を手がけるのです。


 ちょっとサンプルの映像をお見せしましょう。

 このように、ファースト・ユニットが製作したキャラクター・アニメーションのレイヤーは、CG映画の合成素材によくあるような黒バックではなく、実写の特撮映画でブルーバックの前での演技を撮影したような、青バックにキャラクターが入った状態で準備されます。

 我々はこれを「ブルーバック」と呼ぶのですね。

 セカンド・ユニットは、マット画、奥行きを出す為のフォグ・マスク、フォグ素材等を準備し、これらを最終的にコンポジット部隊が合成して完成となります。

 コンポジットでの微調整は3Dでの調整よりも大変フレキシブルで作業も早く、便利でした。


 ・爆発

 この作品では、映画を見ておわかりのように、爆発が随所に登場します。いろんなタイプの爆発が必要とされましたが、主に2つのテクニックに大別されます。

 1つはボリューメトリック情報をレンダーマンのレイマーチング・レンダリングに持っていく方法です。

 もう1つは、パーティクルをベースにした手法と、フルイドによる方法です。

 パーティクルによる手法は結果がすぐに確認できるし、キーフレームを作れるのでコントロールもし易く、特に演出サイドには喜ばれました。

 また、個々のパーティクルはローカル・コーディネート情報を持っているので、複雑で細かい動きが必要とされる時には重宝しました。

 爆発シーンではフルイドを多用しました。便利なのですが、多少時間が掛かるのが難点といえば難点でした。

 実際にどちらの手法を用いるかは、テスト用のモックアップを作って、テストを行ってから検討しました。

 長女バイオレットの武器である、フォース・フィールドによるバリアは、テクニカルとアーティスティックの両面のチャレンジが必要とされました。

 単純なマッピングによる方法、パーティクルによる複雑な方法、ターミネーターが出てくる時みたいな屈折した球が出る方法…などなど、かなりいろんな方法を試したのですが、結局、ごらんのような球による比較的シンプルな表現に落ち着きました。

 

○人間キャラクターのアニメーションについて

 これまで、ピクサーでは「Aクラス」の人間キャラクターを手掛けた事がありませんでした。
 
 もちろん、サブ・ブキャラクターとして人間を扱った作品はありましたが、どれも基本的にはオモチャ、動物や怪獣、お魚さん等が主人公のお話です。

 本格的な人間となると、ある意味、今回が初めてという事になります。

 各キャラクターは、フレキシブルで使い回しの効くリグが必要とされました。

 特に主役のボブ(ミスター・インクレデブル)は、元スーパーヒーローという設定上、筋肉の動きがリアルである必要がありました。

 一口に「リアル」と言っても様々ですが、ボブの場合、体の各セクションが動くと、それに応じて筋肉がリアルに追従する必要があった訳です。

 また、コミック・ブックのキャラクターのように、体をスクワッシュ(収縮)させたり、誇張した動きもさせたかったのです。

 アニメーターが筋肉の変形を見ながら効率良く動きづけが行えるように、ほぼリアルタイムでシュミレーションさせる必要がありました。

 その為には、最低でも18コマ/秒程度で、モニタ上でプレイバック出来る程度の速度をキープしたかったのです。

 今、便宜上「シュミレーション」という言い方をしましたが、正確に言えば、今回のキャラクターの筋肉には数学的なシュミレーションは使っていません。

 筋肉は補間べースによる変形のみを採用しています。補間べースなので、比較的早いプレイバックが可能だったのです。

 でも、その結果はご覧のように充分でした。


○ライティング

 最後に、ライティングについて簡単に触れておきたいと思います。

 この作品では、グローバル・イルミネーションによる手法と、流行のアンビエント・オクルージョンによる手法を使い分けています。

 比率で言えば、アンビエント・オクルージョンの方が多かったですね。町並みやメカの描写など、非常に多くの箇所で使っています。

 後はグローバル・イルミネーション、それ以外は、マット・ペイントによって解決しているほか、「バグズライフ」を製作時に開発された、コンタクト・シャドウというテクニックを併用し、作業の効率化を図りました。


 それでは、時間ですので、おやすみなさい。みなさん、安全運転でお帰りください。

 

…という感じの試写会&メーキング講演であった。

映画が上映中は、驚きの声や、大爆笑で場内が埋め尽くされ、メーキング講演においては、各スタッフの講演に参加者は興味深く耳を傾けていた。

この日の試写会は、非常に有意義なものであり、参加者は大満足で夜のハリウッドへと消えて行った。


このような、映画の最新技術を同じ業界でシェア(共有、わかちあう、の意)する目的のイベントはハリウッドでは頻繁に行われている。

これは何もエフェクト業界に限らず、編集、音楽、音響効果等の各分野においても同様だ。

それらが、映画産業全体の活性化に繋がっているのである。そのあたりは、ハリウッドの懐の深さを感じずにはいられない。

俺もがんばろっと。(だから、何をど~頑張るだ?)

 


 
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(C)1997-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎

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ここハリウッドでは、映画産業に従事する人の協会(ギルド)があり、
各ギルドの会員対象の技術検討試写会が非常に頻繁に開催されている。

これらの試写会は、上映終了後に製作クルーがコメントを述べたり、
製作秘話を紹介したり、質疑応答を行ったり、業界内で技術や知識を
共有する目的で行われる。

そんな中、12月8日夜、ハリウッドの全米映画監督協会の試写室において、
全世界で大反響を呼んだマイケル・ムーア監督の「Fahrenheit 9/11
 (邦題:華氏911)」
の試写会と、製作クルーによるプレゼンテーション
が行われた。

これには、なんとマイケル・ムーア監督本人も出席。映画製作者向け
試写という事もあって、現場向けのコメントもポンポン飛び出し、巷の映画
雑誌や記者会見では聞けない興味深いエピソードも披露された。

この日の模様を、「さっくり」と要約してお届けする事にしよう。


最初に、映画本編が上映された。上映終了後、パネラーとして製作クルー達
が登場。

パネラーの顔ぶれ:

 Writer, Producer, Director Michael Moore
 Co-producer & Composer Jeff Gibbs
 Co-producer & Editor Kurt Engfehr
 Editor Christopher Seward
 Editor T. Woody Richman

但し、肝心のマイケル・ムーア監督は諸般の事情から(?)
20分程遅刻しての登場となった。

なので、まずは4人のクルー達によるパネル・ディスカッションとなった。


☆パネル・ディスカッション

 ○それは、夜中に掛かった1本の電話から始まった

 この映画は、今回のイラクでの戦争を扱った、最初の映画作品という事に
 なるだろう。

 マイケル(監督)から最初に話があった時?
 夜中の3時にいきなり電話が掛かってきて「映画を作るぞ」と。

 すべてはそこから始まった。

 ここから「チーム・マイケル」が動き出したのだが、なにしろドキュメンタリー
 なので明確なストーリーがある訳じゃないし、最初は脚本もなければ、
 アウトラインも何もない。

 しかし、それらは同時に利点でもある。ドキュメンタリー作品の良い所は、
 「終わりがない」事だ。すべてが「リアル(真実)」だし、製作中にも
 いろんな事が起こり、新しい発見があり、どんどん映画が発展していく。

 取材撮影のカメラ・クルー達は1日に2時間撮影して、それを日々
 エディターが編集するというプロダクション・パイプラインが生まれた。

 全部で3000ショット位は撮影されたと思う。


 ○膨大な編集作業 Avid4台をフル稼働

 ドキュメンタリーなので、膨大な素材をさばく事になる訳だが、
 Avidを4台フル稼働させて編集を行った。アーカイブ担当者から
 毎日膨大なショット・リストを渡され、それをエディター達が
 ヒ~ヒ~言いながら編集する。

 ミシガン州のシーンは誰、イラクは誰、ワシントンは誰、という風
 に分担を決めて編集作業は行われた。

 エディターの1人は、息子をイラクで亡くした母親のシーンを延々と編集して
 いて、ある日その母親が彼らのスタジオを訪れた時、初対面にもかかわらず
 顔を見たら思わず泣いてしまったそうだ。

 そのシーンを延々編集している間に、その母親の「人生」が自分の中に深く
 入りこみ、感情移入してしまったという。

 編集現場には、いつも弁護士が3人控えていた。そして、完成したショットが
 後で法的に問題になったり、訴訟に発展したりしないように、細かくチェック
 しながら製作作業は行われた。

 その甲斐あって、今のところ訴訟は起きていない(笑)

 しかしある日、あんまり弁護士達がチマチマ言うので、マイケルが
 先生方に、一時的に部屋からご退場を願った事があった。

 弁護士達は、背中を丸め、膨大な書類とファイルを両手一杯に抱えながら、
 部屋から出ていった。その時のマイケルの、とっても嬉しそうな表情が
 今でも忘れられないね(笑)
 
 ところで、どんな作品の編集現場でもそうだが、いろんな立場や地位の人が
 いろんな事を言ってくるものだ。

 映画の中で、ミシガン州で海兵隊のリクルーターが、新人集めをするシーン
 がある。
 
 この部分は、映画会社側は一度繋いだ中から、いろんなカットを削るに
 ように要求してくるし、片やマイケルはどんどんカットを
 足すように要求してくるし、大変だった。

 海兵隊のリクルーター本人から、どうやって取材許可をもらったか?

 彼らは、自らの仕事に誇りを持っており、隠す事なんて何もない。
 喜んで撮影に協力してくれた。でも、試写会には招待されていなかったが。


 ○Miramaxが配給を拒否

 最初の配給先だったディズニー側が、配給を断ってきた時の話をしよう。

 政治的に何が起こり、ディズニー内部でどのような経緯があったのか、
 我々製作現場レベルからは全く見えなかった。

 ただ、ショックにつつまれた。そして、誰がこのフィルムを買ってくれる
 のか?が興味の的となった。折角製作しても、公開されなきゃ意味がない。

 下手すると、海外では公開されるけど、アメリカだけ公開されないんじゃ
 ないか、なんて声も上がっ程だ。不安だったね。

 カナダ資本のライオンズ・ゲートが全米配給に名乗りを上げた時は安心した。

 なにしろ、アメリカの会社じゃないし。カナダはアメリカの隣国で近いが、
 情勢的にはある種「中立」の位置にあるから、この作品のように政治的な
 内容を含んだドキュメンタリーでも問題ない。


 ○なぜ、WTCシーンは黒味だったか

 911シーン(ワールド・トレード・センターへの航空機突入シーン)が
 黒味だった理由?
 
 実は、あの911シーンはきちんと映像が編集され、10もの編集パターン
 が候補として用意されていた。

 それも、かなりの時間と手間暇を掛けて編集されたものだった。

 あの「黒味バージョン」は、その別オプションとして念の為に用意されたもの
 だった。

 この黒味に入っている音は、約80種類位の音素材から編集されたもので、
 その素材は911テロの素材を集めているという、コレクターからゲットした。

 最初は、全ての音の要素が混じってしまい、聴き取りづらかったが、飛行機
 の音を5.1chで移動させたり、余計な音を分離したり、とミキサー卓上で
 調整され、説得力のあるものに仕上がった。

 それがかえって評判良く、最終的にこの「黒味バージョン」が採用される事
 になってしまった。

 映像なし。真っ黒。音だけ。

 膨大な時間をかけて、10パターンの映像を編集した担当エディターは
 「…マジかよ~。ちっくしょ~~!」と地団駄踏んで悔しがっていたよ(笑)

 しかし、マイケルは、ドキュメンタリー作品では「音が常に重要だ」と
 という確固とした考えを持っており、その意味で、今回このシーンが
 「黒味バージョン」になったのは彼の信念からすると、
 自然な流れだったのかもしれない。


 ○イラクでの映像フッテージは、こうして入手した

 イラク現地のシーンがどうやって撮影されたか、タネ明かしをしよう。

 殆どのシーンは、アメリカ人の報道カメラマンの手によって撮影されたものだ。

 ところが、当然ながら、テレビ局はアメリカ政府に不利なシーンは
 全部カットしてしまう。

 そこで、惨状を目の当たりにして撮影してきた彼らは、
 悔しくて我々の所に素材を持ち込んでくる事になる。

 ある報道カメラマンは、我々に素材を提供した後、またイラクに戻って
 別の素材を撮影しに行ってくれた。マイケル本人をイラクに行かせる訳にも
 いかないし、これらは、我々にとっては非常にありがたい事だった。

 テレビ・ニュースからのシーンの多くは、VHSから起こしている。実写シーン
 でハイビジョンで撮影されたシーンは、HDD5から起こしている。

 あれだけの種類のフッテージをどうやって入手したか?
 友達が沢山いるからな(笑)

 特にBBCからは、非常に多くの素材を提供してもらった。また、プロデューサー
 のカール・ディールの力も大きい。彼は報道関係者に顔が効いた。

 小学校でテロ第一報を聞いたブッシュ大統領のシーンも、教室の中で家庭用
 ビデオを回していた人からゲットした。そりゃ、自分の子供の学校に大統領が
 来るとなりゃ、ビデオを持参したくなるのが人情だわな(笑)


 ○映画が完成して

 我々は、連日連夜、素材を見続けた。とても疲れたし、1日20時間働いた
 事もある。編集作業は大変だったし、目をそむけるような素材や、悲しい
 映像も沢山含まれていた。しかし、そんな作業を乗り越え、映画が完成し、 
 実際に映画館で観客の反応を体感した時は、疲れも吹き飛んだ。

 ただ、ブッシュの再選が決まった瞬間は、最悪の気分だった。我々も、ケリー
 陣営の為にいろいろと尽力していたので、最低だと思ったね。


 ~~ ここで、ようやくマイケル・ムーア監督が登場 ~~~


 予定より20分も遅れてマイケル・ムーア監督がボディ・ガードと共に、
 のっしのっしと到着。

 いつもテレビで見る格好と全く同じだった。違う点といえば、この日は 
 おヒゲをキレイに剃っていた事くらいか(笑)

 ガムをくちゃくちゃ噛みながら、いつものズボンに、だらしないTシャツ。
 そして、BBCのベースボール・キャップをかぶり、後ろから髪の毛を
 一束出している、というおなじみの井出達。

 場内は総立ちで、拍手でムーア監督を迎えた。


 以下は、ムーア監督の質疑応答とコメントの要約。

 Q:この作品の製作を決意した理由は?

 A:「良い映画(Good Movie)を作りたい」と思ったからだ。
   政治学者達はいろいろな考えを述べているが、真実はたった1つだ。
   「良い映画」を撮る事が大事だと思っていた。


 Q:製作するにあたり、プレッシャーは?

 A:自分自身に対する良い意味でのプレッシャー、というのは各作品を
   作る時にいつも持っている。今現在、自分の中にあるプレッシャーは、
   ブッシュの今の任期が終了した4年後に何があるか?
   という事だろう。


 Q:今回の作品について。

 A:「アンチ・プロパガンダ」だ。

   自分が正しいと思う事を伝える、正確に真実を伝える、それが
   ドキュメンタリーだと思っている。

   観客がデートのついでに観に来るような作品にはしたくなかった。
   どうせ、やつらはその後、セックスをするだけだしな。
   は~はははは♪

   しかし、映画の中に多少は自分なりのユーモア要素を
   散りばめたつもりだ。

   デートで観るんなら、ハリウッド映画を観ればいいんだよ。
   ハリウッド映画なんて、クソ食らえだ!(笑)

   パターンの決まった展開?わかりやすいストーリー?なんやそれ。
   でも、みんなそんなハリウッド映画が好きで、それが世の中を動かして
   いるんだからね。

   でも、それは「リアル=真実」ではない。

   大切なのは、イラクではまだ無益な戦争が続いている、という事だ。  
   この映画は、戦争に行くであろう18~29歳位の若者層に観て欲しかった。
 
   先の大統領選挙は残念な結果に終わったが、行動はこれからも続く。
   いろんな意味での戦いは、これからだろう。

   それは2007年に公開を予定している「Fahrenheit 9/11 1/2」へと繋がる。

   さて、この会場におられるのは、映画制作クルーや関係者の方ばかりなので、
   是非この場で言っておきたい事がある。

   今、この壇上にいる4人の優秀なスタッフ達は、本当によく私の為に
   頑張ってくれた。彼らの才能が、この作品を実現したと言っても
   言い過ぎではないだろう。それを、ここで付け加えておきたい。


 このような、パネルディスカッションであった。

 終演後、ムーア監督は、来場している参加者の質問に答えたり、
 サインに応じたり、握手したり、話をしたり、参加者とのコミニュケーション
 にも寛容だった。

 筆者もムーア監督と話をするチャンスがあった。握手し、映画の賛辞の言葉を
 伝えると、「そう言ってもらえると嬉しいよ。どうもありがとう」と筆者の目
 をまっすぐ見ながら真顔で語った。

 監督はおデブさんだが、とても優しい顔をしていた。

 また、筆者が日本人だと言うと、「日本は銃規制が行き届いているから、 
 良い国だね」としみじみ語っていた。前作で銃規制を訴えた監督としては、
 素直な感想だったのかもしれない。

 おわり。

 


 


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