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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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ここロサンゼルスでは、ACM SIGGRAPHの地方分科会である"LA SIGGRAPH"の月例会が毎月開催されている。

内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。

この月例会には誰でも参加出来、会員になって年会費$35.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。

会員でなくても、会場入り口で参加費15ドルを支払えば入場出来る。しかも学生の非会員は、学生証を提示すればたったの5ドルで月例会に入場出来るという特典もある。

10月の月例会は、日本でも大ヒットした「スパイダーマン2」におけるHoudiniによるエフェクト・メーキング紹介と特別試写会であった。

この日の会場は、ビバリーヒルズのド真ん中にあるアカデミー財団の試写室。ここは、毎年アカデミー賞のノミネート作品の発表記者会見が行われる、由緒正しい施設でもある。

さて、この日のLA SIGGRAPH月例会のスポンサーは、HOUDINIでおなじみのSIDE EFFECTS社。

それでは、この講演の模様を「さっくり」と要約しお届けする事にしよう。


The Visual Effects of "Spider-Man 2"

Tuesday, October 19, 2004

Come and see how Houdini was used to create many of the the visual effects for "Spider-Man 2".  After the presentations on concept and technique we will be screening "Spider-Man 2".  This will give you a chance to see the effects in the context of the story.

SPEAKERS:
Stan Szymanski - Senior Vice President of Digital Productions
Scott Stokdyk - Visual Effects Supervisor
Theo Vandernoot - Effects Animation Supervisor

PROGRAM:
6:30-7:30 Social Hour
7:30-9:30 Program

LOCATION:
The Academy of Motion Picture Arts and Sciences Samuel Goldwyn Theater
8949 Wilshire Blvd, Beverly Hills, CA 90211
(North side of Wilshire, between Doheny Drive on the West, and Robertson Blvd. on the East)

FEES/REGISTRATION:
The event is free to Los Angeles ACM SIGGRAPH members and $15 for non-members.
New members who sign up on site and pay the $35 annual membership fee
(Checks or cash only) do not have to pay the admission fee.


○ご挨拶 - Tony Cristiano / Houdini COO & VP U.S. Operation

  Sony Pictures Imagesworks (以降、SP)とは96年の映画「コンタクト」以来のお付き合いで、パートナーシップを組んでいます。

 CG業界は日進月歩で進んでおり、それにフレキシブルに対応出来る体制が我々にも要求されています。

  ■エコノミー・パースペクティブ(経済的な視野)
    高騰する製作コストや、大人数のプロダクションにおける
    プロダクションコストの節約。
 
  ■ファシリティ・パースぺクティブ(施設的な視野)
     大規模プロダクションにおける、優れたパイプラインの提供。
    例えば、HoudiniのDigital Assetはその1例。

  ■CGユーザー・パースペクティブ(CG的な観点からの視野)
    会社の規模やユーザーによって、スタイルやニーズはさまざま。
    それぞれのCGユーザーの要求にいかに応えていくか。

 という、この3つを柱をベースに、我々はサポートを行ってきました。

 SPI程の規模ともなれば、製作する映像の完成度は非常に高度なものが要求されます。

 我々Side Effects社は、プロダクション・エキスパートの為のツールを提供しているのです。

 

○SPIの最近の動向、業務内容の詳細
 Stan Szymanski - SPI / Senior Vice President of Digital Productions

 SPIは、映画におけるハイエンドなエフェクト製作に参入して、8年目を迎えます。社内では、進行中のプロジェクトを4つのカテゴリーに区分けし、映像製作業務を行っています。

 ①伝統的なエフェクト
  ワイヤー消しやブルー&グリーン合成、マットペイント、デジタル・エフェクトなど

 ②キャラクター・アニメーション
  来年2月に公開予定のクリスティーナ・リッチ主演の映画「Cursed」の中で
  登場する、CGキャタクターのアニメーションなど。

 ③ハイブリッドVFX
  ロバート・ゼメキス監督とのコラボレーションによる映画「ポーラーエキスプレス」が顕著な例で、パフォーマンス・キャプチャー・テクノロジーによる新しいスタイルの映画製作。一般劇場で公開される35mmプリント版と、IMAXシアターで立体映画として特別公開されるIMAX版(右目用・左目用の2つの映像を4Kという高解像度でレンダリング+合成)があります。

 ④フィーチャー・アニメーション(劇場用長編アニメーション)
  現在、新作のプリ・プロダクション中


 今準備しているのは、社内で「スパイダーマン 2.5」と呼ばれているプロジェクトで、これは「スパイダーマン2」のDVD版ですが、追加シーンがかなり沢山入っているので、内部ではそう呼ばれているのです(笑)

 SPIでは現在のところ、11の作品が同時に進行し、多忙を極めているところです。

 

○「スパイダーマン2」におけるエフェクト作業の概要
 Scott Stokdyk - SPI / Visual Effects Supervisor

  「スパイダーマン2」は、エフェクト・ショットだけでも836もあります。 これだけを全部つないだら、40分位の量になります。

 エフェクトの製作に入ったのは2003年の5月でした。デリバー(納品)が2004年の5月30日でしたから、製作にはほぼ1年間掛かった事になります。

 製作スタッフは約90人という、非常に大掛かりなプロジェクトとなりました。

 みなさんもご存知のとおり、南カリフォルニア大学(USC)が開発中の最新テクノロジーをふんだんに使ったエフェクト作品で、特にスキン(皮膚)の表現に力を注いだのが特徴です。

 ちなみに、最近のCineFex誌(アメリカの有名な特撮雑誌)では、USCのライトステージの広告が登場するようになりました。時代を象徴する1コマと言えるでしょう。

 思い返せば、大変なプロジェクトでした。最後の数週間の追い込みで、300ショットを仕上げたという事だけでも驚異的だったと思います。

 この作品での最大のチャレンジは、カラーとライティングであったと言っても
過言ではないでしょう。先に話の出たスキンの表現はまさにその最たるものです。イメージ・ベースド・ライティングを更に発展させ、質感を1作目よりも格段に向上させました。

 また、2作目では1作目よりも格段に重いジオメトリを多様しています。

 例えば、NYのシーン。15タイプの新しいビルディングを追加し、マッピングによるディテールの表現に逃げず、実際のジオメトリで細かく作りこむ事にしました。
 
 理由は幾つかありますが、1つにはクローズ・アップに充分耐えうるディテールが必要であった事、そして、流行のアンビエント・オクルージョンの手法によるレンダリングを行った為です。

 これにより、細部のディテールが格段に向上しています。例えば、画面に一瞬しか見えないような、ビルの窓の中に見える部屋の質感なども、キッチリと作ってあるのです。

 NYの街を走る大量のパトカー、そしてサイレンの光がビル郡に反射する様子、これらはアンビエント・オクルージョンや、非常に多くの合成レイヤーから構成されています。

 引きのシーンでの街並みにおけるビル群は、ベクター・ライティングを駆使してリアルな表現を実現しました。


 ドクター・オクトパス(以降、ドック・オック)が病院から逃れ、川岸の建物の中で自分の機械アームと会話する長いシークエンスがあります。ここは、1カットとしては最長のVFXショットとなりました。

 もうレンダリングは悪夢(笑)。合成部隊も、3フレーム毎にロトスコープしてマスクを切ったりして、大変でした。

 フルCGのドック・オックのシーンもチャレンジの1つ。特に、ラストで河底に沈んでゆくドック・オックのシーンは、画面に登場するものがすべてCGで製作されました。
 
 このショットは、よく「なぜフルCGにする必要があったのか」と聞かれる事が多いのですが、「ポスプロを簡単にする為だった」というのが的確な回答になると私は思います。

 水中で沈んでいくドック・オック。これはもちろん、実写撮影も出来たと思いますが、ポスプロの段階でよりリアルに詰めていくには、実写素材では困難な要素が多かったのです。

 

○「スパイダーマン2」におけるHoudiniを駆使したエフェクト・アニメーション
 Theo Vandernoot - SPI / Effects Animation Supervisor

 
 エフェクト・アニメーションでの最大の難関だったのは、ラスト近くで登場するエナジー・ボールが河に沈んでいくシーンでしょう。特に水が大変でした。

 このシーンも、フルデジタルで製作されましたので、水はとにかくリアルに見えなければなりません。

 シュミレーションを駆使して、テストを繰り返しました。

 水のレイヤーは3つに別れ、


  ①クローズアップ
   リステリンのCMに対抗出来る位(笑)水のディテールがあるもの

  
  ②中間
   ①と③の間。よきにはからえ。


  ③遠い。カメラから離れている
   シェーダーで対応。判り易く言えば「タイタニック」の海と同じ。


 そして、ダイナミクスとFluidの組み合わせです。
 
 この、水の表現におけるアプローチは次のようなものでした。

 膨大なパーティクルが登場する事もあり、プロシージャルなコントロールに適したHoudiniを駆使しました。 
 
 最初はグリッドレベルでのアニメーション調整。ここでベースとなるシュミレーションを行います。ソフトボディも使用しました。これは、パーティクルが発生する基になるフォームとなる訳です。

 「タイタニック」で有名になった”海面シェーダー”のデジタル・ネーチャー・ツールも使用しました。


 最も苦労したのは、エナジー・ボールが沈んでいく瞬間を捉えたシーンです。

 ボールと水面の境界をリアルにしないと、画面がウソっぽくなってしまいます。
 
 これには、HoudiniのI3Dを使用しました。口頭の説明ではちょっと判りづらいかもしれませんが、ボリューメトリックのフィールドをI3Dで作成し、そこにエナジー・ボールから発生するパーティクルをぶつける、そういう複雑なアプローチで実現したのです。


 それでは、時間ですので、ここで映画の試写に移りたいと思います。

 

…という事で、この後は映画本編の上映となった。 

「スパイダーマン2」のメーキング自体は、シーグラフや各メディアで紹介され尽くした感もあったが、今回のLA SIGGRAPH月例会では、SPIの会社自体の最新動向が解説されたり、今までにあまり機会のなかったHoudiniに焦点を充てたメーキング講演等が、興味深いポイントとなった。

その意味で、特別試写も含め、非常に満足度の高い月例会であった。

明日から、俺もがんばろっと。(…だから、何を、ど~頑張るんだ?)
 

 


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