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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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ここロサンゼルスでは、ACM SIGGRAPHの地方分科会である"LA SIGGRAPH"の月例会が毎月開催されている。

内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。

この月例会には誰でも参加出来、会員になって年会費$35.00を納めれば、毎月の月例会の参加費は無料となる。

会員でなくても、会場入り口で参加費15ドルを支払えば入場出来る。しかも学生の非会員は、学生証を提示すればたったの5ドルで月例会に入場出来るという特典もある。

6月の月例会は、日本でも公開中のローランド・エメリッヒ監督の最新作「The Day After Tomorrow」のエフェクト・メーキング講演であった。


L.A. ACM SIGGRAPH Presents:
The Visual Effects of
"The Day After Tomorrow"
Tuesday, June 22, 2004

Program
6:30-7:30 Social Hour
7:30-9:30 Program

Location
The Aratani/Japan American Theatre
244 South San Pedro Street
Los Angeles, CA 90012

この日の会場は、なぜか先々月に引き続きリトル・トーキョード真ん中にあるホール、日米文化会館であった。

余談であるが、ここはよく日本の芸能人がLA公演を行う場所でもある。

この翌日の23日夜には、「桂 三枝 ロサンゼルス公演」が開催された。その為、筆者は2夜連続で日米文化会館に通う事になった(笑)

さて、この日のLA SIGGRAPH月例会のスポンサーは、飛ぶ鳥を落とす勢いのグラフィックカード・メーカーNVIDIA社。

同社の担当者が挨拶に立った後、参加者には抽選で

 ◇グラフィックカードQuadro FX 500

 ◇現在注目を浴びている業界初のフィルム・クオリティに対応したハードウエア・レンダラー「Gelato」(発音は「ジェラト」と聞こえた)

 ◇Tシャツ

等がプレゼントされた。…なんと太っ腹。


さて、この日のパネラーの顔ぶれは下記のとおり。

 ◇Karen Goulekas女史 / Visual Effects Supervisor

 ◇Joshua Kolden /  Crack Creative

 ◇Colin Strause / Hydraulx


それでは、この講演の模様を「さっくり」と要約しお届けする事にしよう。


○Karen Goulekas女史 / Visual Effects Supervisor

 私は、プロダクション全体の流れをご説明したいと思います。

 このプロジェクトは2002年の5月に脚本が上がってきました。

 まず最初にVFXブレイクダウンを行って必要なエフェクトの洗い出しを行いました。

 次に3ケ月を費やし、CGでプレ・ビジュアライゼーション(以降プレビス)を作りました。この為に7人のアニメーターを雇って作業しました。

 まず、ロサンゼルスの竜巻シーンから作り始めました。

 NYの摩天楼シーンは、Urban Data Solutions社のマンハッタン・データベースを使用して、実物に忠実なビル群を再現しましたが、プレビズでもこれを使っています。

 プレビスがある程度完成すると、プロダクションに入りました。

 まず、テクスチャーや質感の参考用として、NYのビルの写真を15,000枚撮影しました。更にビスタビジョン・カメラで空撮ショットの素材も撮影しました。 

 また、ハワイのカウアイ島では、本物のツイスター(竜巻)を追い掛けながらロケをしました。自然が相手ですから、これは大変な仕事でした。

 で、私達が疲れ果ててホテルに戻ってみたら、なんかシャンパンで乾杯している連中がいる(笑)。

 話を聞くとIMAX映画で竜巻のドキュメンタリーを撮っているクルー達で、無事に竜巻の撮影に成功したらしい。

 しめしめ、これで参考用の素材が手に入る♪

 2002年の10月にはロサンゼルスのシーンの素材撮影を敢行。続いて11月にはNYで素材撮影。マッピングで使用する為に「自由の女神」の表面のタイルを撮影したりもしました。

 その後は、カナダのモントリオールで、本編のセット撮影が始まりました。東京のショットもここで撮影されました。

 例の氷塊が降るシーンですが、スタッフ達が上から氷塊を落として撮影。でも、本物の氷塊を俳優の上に落とすと死んじゃうので(笑)、プラスティック製の氷塊を使用しました。

 でも、これがね、バウンドしちゃうのよ。ボョ~ンボョ~ン♪って。バウンドする氷塊を見たのは初めての体験でしたね(笑)

 救助犬が出てくるシーンの撮影では、真面目な救助シーンなのに、肝心の犬がしっぽフリフリのゴキゲンで、ちょっと困りました。

 モントリオールでは、セット撮影と並行してプレビズ製作や、ミニチュア撮影も行いました。ミニチュア撮影は3週間程かけて行われました。
 
 本編のNYのVFXショットでは、ミニチュアが使用されたショットは3箇所だけでした。

 例えばタンカーの船底にバスにぶつかって停船する所とか。それ以外は全部CGのショットなのです。

 この作品のVFXには、なんと13社ものCGベンダーが関わっています。主なベンダーは
   ILM / Digital Domain / yU+co./ Hydraulx / Tweak Films / Orphanage 等。他にも沢山。

 それ程、大規模なプロジェクトでした。


   
○Joshua Kolden /  Crack Creative

 私はプレビズについてお話ししましょう。

 先程のKarenの話にもありましたが、7人のアニメータを雇用してプレビズを起しました。

 これがその映像ですが……絵柄がラフなので、なんだか人形劇みたいで滑稽ですね(笑)
 
 CGやエフェクトだけでなく、撮影時の参考になるように、カメラのレンズ情報(例:Lens:30mm)等がプレビズ画面で確認出来るようになっています。

 NYのシーンで使用した前述のデータベースは、元々リアルなシェーディング目的に作られた訳ではないので、非常にシンプルなデータではありましたが、非常に参考になりました。

 また、このプレビスではQuadro FXカードのハードウエア・レンダリングを使って、ゲーム画面程度のクオリティは維持しつつ、高速に作業を行う事が出来ました。

 
○Colin Strause / Hydraulx

  我々Hydraulxは、オープニング・シークエンスを含む106ショットを約40人のスタッフで担当しました。

 ■オープニング・シークエンス

  これは長い空撮ショットで、

              無数の氷塊が浮かぶ海の俯瞰
               ↓
                カメラは氷山をかすめて
               ↓
     巨大な氷大陸の彼方で作業する探検隊へと近づく

  というものですが、この一連のシーンには5ケ月を費やし、すべてフルCGで作られています。

  氷塊や氷山は日本人アーティストYoshi(山田 義也氏)を中心にして3人だけでモデリングされました。彼らのスキルは大したものだと思います。
 
  ジオメトリは全てポリゴンです。ナーブスは使っていません。

  リアルな質感を実現する為、MayaとMentalRayの組み合わせでレンダリングされています。

  MentalRayのコースティックスのテクニックを駆使して、リアリズムを追求しました。

  合成は全てインフェルノです。合成時に細かい調整が出来るようにパス(=レイヤー)は細かく分けてレンダリングしています。

  ◇ディフューズ・パス 

  ◇アンビエント・パス

  ◇ハイライト・パス  

  ◇フォグ・パス

  ◇反射パス

  ◇Zパス(デプス情報をモノクロでレンダリングしたもの)

   ◇パーティプル・パス 
 
   などです。

  ミスト(霧や霞)の表現ではMayaのFluid Effectsが重宝しました。

  ファイナル・レンダリングには全部で1ケ月程かかりました。水面で1フレーム約1時間、重いレイヤーは1枚8時間程掛かっています。


 ■探検隊が氷大陸の地割れに遭遇するシーン
   
  ご覧のように、オリジナル・フッテージには地割れは含まれていません。表面に広がる地割れはCGで作って合成しています。

  僕のお気に入りは、隊員が地割れに落っこちそうになるシーンですが、このショットはブルー・スクリーン合成で、

   ◇落下する調査装置

   ◇落下する膨大な数の氷塊

   ◇背景の空
 
  はCG製です。

  特に、落下する氷塊は3人のアニメーター達による手付けですが、このように見事な仕上がりになっています。(場内から拍手が起こる)

  ダイナミクスも試しましたが、手付けの方が良い仕上がりとなりました。


 ■地球を周回するスペース・ステーションのシーン

  スペース・ステーションはCG製です。

  このショットも、インフェルノで合成時に調整が可能なようにパスを細かく分け、全部で48レイヤーレンダリングしました。

  このシーンでのチャレンジは、地球の大気に渦巻く大きな雲でした。

  ティスプレイスメント・マップを多用していますが、貼ってはテクスチャを直し、また貼ってみて、という試行錯誤を繰り返しました。

  しかもこの雲は、きちんと渦が回転する等、細部にこだわって作られています。
  
  リアルに見せる為、18Kから20Kの解像度のテクスチャーを用意したり、8Kでレンダリングして縮小したり、という技も使っています。


○Tweak Filmsの担当ショット解説 / Karen Goulekas女史

  ILM出身のJim HourihanとChristopher Horvathが中心となってオープンしたエフェクトハウスTweak Filmsは、NY水没シーンの1部を担当しましたが、難しい水のシュミレーションをたったの3ケ月で完成させました。

 Tweak Filmsは自社開発の流体シュミレーション・ソフトを開発し、このショットを実現しましたが、Jim HourihanはDynamationの開発者としても知られています。

 これは、摩天楼に海水が流れ込んでくるシュミレーションです。

 ビルの合間を縫って流れる海水、ぶつかり合って飛沫を上げる海水等がリアルにシュミレーションされているのがお分かり頂けると思います。

 最初、前述のNYデータベースの建物に基づいてシュミレーションを行いましたが、そのままだと、海水が図書館を完全に飲み込んでしまう事が分りました。

 しかしこれでは、主人公達が死んで映画が終わってしまいます。

           (場内爆笑)

 建物のサイズを調節して、洪水が図書館を取り囲むようにしました。

 ビルのライティングには、流行のAmbient Occlusionの手法を採用し、リアルな質感に仕上げました。


○Orphanageの担当ショット解説 / Karen Goulekas女史

 今夜はOrphanage社の担当者が来れなかったので、私が代理でご説明します。

  サンフランシスコのエフェクトハウスOrphanageは、3つのシーンを担当しました。合計で15分位にもなり、5ケ月を費やして完成させました。

 この作品では3D Studio MaxとBrazilを多用しています。BrazilはMaxのレンダラーで、フォト・リアリスティックな表現に優れているのが採用された理由だそうです。


 ■NYのビルの凍結シーン

  "The Big Freeze"と呼ばれる大凍結シーンでは、前述のデータベースを基に、Ambient OcclusionとRadiosityの手法でレンダリングしています。
 
  そしてNYで撮影されたビルの写真により、膨大なテクスチャーマッピングを施しています。

  レンダラーは、MaxのBrazilを使用しました。

  また、Maxのパーティクル・システムを駆使し、ボリューメトリック・レンダリングによってリアルな雲をシュミレーションしました。

  
 ■ヘリのパイロットが冷気によって凍りつくシーン

  このシーンは最初、実写素材を2D加工する事で、パイロットが凍りつく表現を試みました。

  オリジナル・フッテージのコマ数を叙所に速度を遅くして、フリーズさせる方法を試したのですが、この方法だと絵がブレたりして不自然で、うまくいきませんでした。

  そこで、パイロットはデジタル・ダブル(CG代役)に置き換える事になりました。

  CyberScanで俳優をデジタイズし、CGモデルを起し、役者本人の皮膚テクスチャー等をマッピングして、様々な素材を合成して仕上げました。

  結果は、ご覧のように上々でした。


 ■ヘリの墜落シーン

  ヘリの墜落シーンも、すべてMaxで製作しました。

  このショットも、後でインフェルノで細かく調整出来るように、パスを細かいレイヤーに分けてレンダリングしました。

  また、このショットでもMaxのパーティクル・システムが大活躍しました。


○ILMの担当ショット解説 / Karen Goulekas女史

 今夜はILMの担当者も来れなかったので、私が代わってご説明しましょう。

 この映像は、先週サンフランシコで開催されたVES(Visual Effects Society)フェスティバルで紹介されたビデオです。

 ILMは、リアルなオオカミをフルCGで製作しました。映画の中で登場するオオカミは、すべてCG製なのです。

 まず、警察犬のシェパードをモーション・キャプチャーし、それをアニメーションに使用しました。

 FurはMayaのダイナミクスによるシュミレーションですが、オオカミの耳と尻尾は手付けによるアニメーションです。

 ILMの担当シーンは他にもありますが、このビデオには………もう入ってないわね。 

 じゃ、終わりだわ。以上です。


…と、このような講演であった。
筆者は、リトルトーキョーで旨いラーメンを食べ、帰途についた。

「The Day After Tomorrow」は、CGを駆使した自然現象の表現が格段とレベルアップした上に、数多くのエフェクト・ハウスのコラボレーションによって完成した大作である。

8月のSIGGRAPH2004では、コースやペーパー等でこの作品のエフェクトにおける最新テクノロジー等が紹介される予定である。

SIGGRAPH2004に参加される方は、是非、本レポートをご参考にされたし。

 


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