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Pixar社   Bill Reeves氏による 「メーキング・オブ・バグズライフ」(02/11/1999)

   
筆者がカナダの彼方(自爆)トロントを訪問中、シーグラフの地方分科会であるトロント・シーグラフ主催による、Pixar 社のBill Reeves氏による講演が行われた。その内容を紹介しましょう。

 

同氏はカナダのトロント出身、Pixar社のテクニカル・ディレクター。1988年には「Tin Toy」でジョン・ラセター氏と共に、アカデミー賞の”Best Animated Short Film”を受賞する等の、輝かしい功績の持ち主であります。

 

(Pixar社のホームページには、ラセター氏とReeves氏がオスカー像を握っている写真も掲載されています)

 
この日は、たまたま帰省中のReeves氏が、母校のトロント大学にて講演するというものでした。


では、その講演の模様を、かいツマんでご紹介。

 

〇ストーリー・ボード、美術設定について

 

  「トイ・ストーリー」の時もそうでしたが、ストーリー・ボードは大変重要です。すべてはここから始まり、動きをつけ、最終的に完成となる訳です。

 

  また、手書きのイメージ・ボードも、膨大な量が用意されました。これには、各キャラクターの細部の形状や質感を「どのように見せるのか」、そして色指定などなど、 詳細に渡る設定が、事細かに且つわかりやすく、指定されています。

 

  たとえば、グラスホッパーにしても、各キャラクターによって「容姿」には様々なバリエーションを持たせてあり、これについても詳細なイメージ・ボードが用意されました。

 

〇モデリングに関して

 

  各キャラクターは、すべて最初にクレイモデルに起こしてます。これは、各アニメータにキャラクターの形状やイメージを伝える為の、最良の方法とも言えます。

 

  モデリングにはAlias Design Studioや、3次元デジタイザ等を使用しています。

 

  プロップ(映画で言う、大道具・小道具に相当)のモデリングには、かなりの時間を費やしました。葉っぱ、枝、木、等の膨大な量のプロップのモデリングをこなしました。

 

 

 

〇ライティングについて

 

  アート・ディレクション・チームによる「ライティング・スクリプト」と呼ばれるカラーの絵コンテが用意されました。これにより、ライティング・チームは、自分達がどのような方向性で各シーンの作業を進めれば良いのか、が視覚的に理解できるようになっています。

 

〇テクスチャー

 

  テクスチャー・アーチストが、膨大な量のテクスチャを製作しました。

 

 (「トイ・ストーリー」のスライドを観ながら解説)

 

  これは、「トイ・ストーリー」のウッディの例ですが、顔の皮膚、顔のハイライトマップ、保安官のバッチ、ベルトジーンズのバンプ、ジャケットの牛模様、などなど。

 

  このように、用途に応じて必要なテクスチャを用意しているのです。

 

  (「バグズ・ライフ」のスライドを観ながら解説)

 

   これは、本編の例です。

 

   この、劇中に出てくる、ねじれた形状の「木のアーチ」は、ジオメトリにテクスチャマップを施したものです。

 

   この、グランドキャニオンのような渓谷のシーンでは、三次元ペイントを多用しています。

 

 

〇レンダーマンのシェーダー開発

 

  レンダリングは、我々が開発している、おなじみの「レンダーマン」によるものです。

 

  この作品専用に、膨大な量のカスタム・シェーダーが開発されました。

 

  (スライドを観ながら解説)

 

  これは、グラスホッパーの質感表現の例です。

 

  凸凹感を出す為にディスプレイスメント・マップ用のシェーダーを開発しました。グラスホッパーには、他にも複雑なシェーダーが開発され、使用されています。

 

  また、自然界の表現にも、専用のシェーダーを開発しました。例えば地面に無数に埋まっている小石群のシェーダー等、それぞれ用途に応じて開発しています。

 

  中には、せっかく苦労して開発したのに、本編で「ものの見事」にカットされていて、とっても嬉しい思いをした事も多々ありました。(場内爆笑)

 

〇アニメーション

 

 (ビデオを観ながら解説)

 

  まず、各キャラクターが歩いているアニメーションをサイクリックで製作しました。

 

  キャラクター達の「個性」が出るようにアニメートし、これを見ただけで、そのキャラクターがどんなヤツなのか、を理解できるようにしました。

   

  これは、サーカスの1シーンで、ナナフシのキャラクターがお手玉をしているところです。このように、最初はラフな動きをつけ、調整し、最終版となる訳です。

 

〇「群れ」のアニメーション

 

  この作品には「群れ」のシーンが多く登場します。その為に、オリジナルツールの開発を行いました。1つの動きをタイミングやパターンをずらし、各キャラクタに振り分けたり、複雑な曲面の地面の上を「群れ」が歩いた際、個々のキャラクタの足が地面のジオメトリにめり込まないようにするツール、などなど。

 

  しかし、ここでも苦労して開発したのに本編で切られ、嬉しかった事が沢山。(爆笑)

 

〇質疑応答(抜粋)

 

  Q:最も苦労した点は何ですか?

  A:技術的な部分よりも、人間関係!(笑)

      大勢のスタッフが働いているし、このような巨大プロジェクトの場合、進むにつれ「いろいろな事」が起ります。それが大変と言えば、一番大変でしたね。

 

  Q:ジョブスをどう思いますか?

  A:スティーブ?(ニコニコして、しばし沈黙)。彼は、我々の優れたスポークスマンで~、非常によくやってくれています。そりゃ、いろいろ社内ではあるけど(笑)

      最近は、 Apple社 の為に時間を裂く事が多いみたいで(笑)、忙しい人ですよ。

 

  Q:「アンツ」と内容が似ている、と言われていますが。

  A:う~む。コメントは控えましょう(笑)

 

       (とは言いつつも)

 

      ディズニーのカッツッェンバーグがDreamWorksに移った事が起因するのはご想像のとおり。

 

      プロダクションがスタートした後も、どっちの劇場リリースが先か、内容が似ている、などで多少の政治的なゴタゴタがあったのは事実ですけどね。

 

      現場にはあまり関係なかったかな。納期を守らなきゃディズニーに殺される(笑)、我々にはそっちの方が重要だったし。

 

      もう、これ以上言わない(笑)ハイ、次の質問!

     

  Q:Pixarの今後の予定は?

  A:現在、「トイ・ストーリー2」が、今年の感謝祭シーズンの11月24日に、全米公開に向けて製作が進められています。お楽しみに。

 

 

  感想:

 

  全体的に、「広く浅く」の講演で、もう少し各ジャンルの深い部分が見たかったという印象は残りましたが、2時間の講演という時間的な制約等を考えると、バランスの取れた講演であったと思いました。

 

  Bill 氏は気さくな方で、講演も肩の凝らない、終始リラックスムードで行われました。

 

  文中にはありませんが、Pixarが製作した、謎のジョークビデオ(「ラセター教授」がぐるぐるメガネを掛けて、昆虫採集に出かけるというもの)が流れたり、スタッフが作ったリップシンクのテスト(放送禁止用語がビシバシ)なども流れ、楽しい講演でした。

 

  最後の質疑応答は質問者がメチャクチャ多く、僕も頑張って手を挙げたのですが、残念ながら一度も当たりませんでした。日本代表(笑)としては悔しかったです。

 

 

 

 


 
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