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映像ジャーナリスト 鍋 潤太郎の随筆による、ハリウッドVFX情報をいち早くお届けします。

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ここロサンゼルスでは、ACM SIGGRAPHの地方分科会である"LA SIGGRAPH"の月例会が毎月開催されている。内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。

この月例会には誰でも参加出来、会員(年会費$25.00)になれば参加費は無料、非会員でも会場で10ドルを支払えば参加する事が可能だ。

今月の会場は、UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)の、落成してさほど年数が経過していないと思われる、まだ新しい施設であるThe Grand Horizon Roomで行われた。

まるでホテルのような美しい作りで、内装も落ち着いた上品なデザインの建物。(こんなところで勉強が出来るなんて、羨ましい…)

さて、6月はアメリカでは年度末であり、今月のミーティングは2002-2003年シーズンの最後の月例会となった。

内容もそれにふさわしく、全世界で大ヒット中の映画「The Matrix Reloaded」と、ゲーム「Enter The Matrix」のダブル・メーキング講演であった。


"Plug into The Matrix"

Tuesday June 17, 2003
**Third Tuesday in June**

Join us for a presentation on the effects featured in "The Matrix Reloaded"
and the CG work of the videogame, "Enter The Matrix."

Location:
Grand Horizon Room / Covel Commons
on the UCLA Campus in Westwood


6:30-7:30pm Social Hour
7:30-9:30pm Presentation

講演の前には軽食が出されたが、とても美味しいサンドイッチがつまみ放題、レモネードが飲み放題。あまり沢山食べ過ぎて、講演が始まる頃にはお腹が一杯になってしまい、プレゼンテーションの最中に睡魔が襲って来て困った(笑)

さて、ではこの日の講演の内容をさっくりとご紹介しよう。


○パネラーの顔ぶれ

 DAVID PERRY
 President and Lead Designer, Shiny Entertainment 

 ROSANNA SUN
 Producer, "Enter The Matrix" videogame, Eon Entertainment

 JOHN "DJ" DESJARDIN
 FX Supervisor,Eon Entertainment

 DAN GLASS
 VFX Supervisor, Eon Entertainment


■ビデオ・ゲーム「Enter The Matrix」メーキング

 DAVID PERRY
 President and Lead Designer, Shiny Entertainment 

 まず、このビデオ・ゲームのトレイラー(予告編)をお見せしましょう。

 ご覧のように、ゲームにしては、異様に長い予告編です(笑)。
 第7階層(Level 7)まで、すべて網羅しているのですから。

 皆さんもご存知のように、「マトリックス」シリーズは、ゲームと映画、そして
 DVDとがメディア・ミックスでリンクしており、その中でストーリーが進行
 しているのです。

 映画 「Matrix」
      ▼  ▼
 DVD「The Animatrix」  (日本ではワーナー・ホームビデオより6月3日発売)
      ▼  ▼
 ゲーム「Enter the Matrix」(日本ではバンダイより6月19日発売)
      ▼  ▼
 映画 「Reloaded」
      ▼  ▼
 映画 「Revolutions」
 
 それぞれが影響&作用しあってのストーリー展開、これは極めて珍しい例と
 言えるでしょう。

 ゲーム版「Enter the Matrix」では、これまでのゲームとは違った新しい
 コンセプトが採用されています。このゲームの中だけに登場するオリジナル・
 キャラクター等はその1例ですが、ゲーム全体を通じて、

  ★ストーリー 映画と同じスタッフが担当
  ★VFX   映画と同じスタッフが担当

  ★モーション・キャプチャ  映画に出演している役者本人からキャプチャ
  ★フェイシャル・キャプチャ 映画に出演している役者本人の顔からキャプチャ

  ★キャラクター・データ    映画に出演している役者本人をサイバースキャン
  ★キャラクター・テクスチャ 映画に出演している役者本人から撮影

  ★モーション・キャプチャー          約4,000ショット
  ★ファイシャル・キャプチャーの顔面マーカー  42個

  ★このゲーム用のモーション・キャプチャだけで6ケ月かかった

  ★400ページに及ぶ、ゲーム専用の脚本
  ★1000ページに及ぶ、ゲーム専用のストーリーボード

  ★映画のセット構築で用いた3DCADデータの共同使用
  ★映画のセット設計で使った青写真(建築図面)の共同使用

 …という気合の入った作りとなっており、これにはPhotoshop, Kaydora, Film Box,
 Paraform等の各分野のソフトが大活躍しました。

 このゲームをやった人は、あたかも自分が映画の中に入り込んでいるような
 錯覚に陥るに違いありません。

 ------- 

 ROSANNA SUN
 Producer, "Enter The Matrix" videogame, Eon Entertainment
  
  普通のゲームとは比較にならないくらい、製作プロセスは複雑なものでした。

 ちょっと、その一例をパワーポイントでお見せしましょうね。このように、
 キャラクター・設定&デザイン、コスチューム・デザイン、そして役者の全身
 データのスキャンに至るまで、殆ど映画同様のプロセスを踏んでいます。

 ムービー部分は、映画と同じ俳優達を、映画同様にきちんとスタジオ撮影した
  実写ムービーから成っています。この実写ムービーには、映画とは違う
 驚くべき展開も仕込んであるのです。ちょっと一例をお見せしましょうね。

  (ムービーが流れる。観客から、「なぬ~~?」「えへ~~?」
                     という驚きと歓びの声が漏れる)

 …このように、映画とは全っ然違った展開の実写ムービーが、ゲームの中で楽し
 めるのですよ。映画を観た人は、この違いにはきっと、ビックリするでしょうね。

 こだわったのは映像だけではありません。このゲームだけの為に、シアトルの
 スタジオにおいて、60人編成のオーケストラによるサウンドトラックのレコー
 ディングも行なわれました。

 後は、是非ゲームをトライして、楽しんで戴きたいと思います。

 

■映画「Matrix Reloaded」メーキング 

 JOHN "DJ" DESJARDIN
 FX Supervisor,Eon Entertainment

 我々Eon Entertainmentは、全VFXの統括を担当しました。

 VFXストラクチャー
  ★監督。一番エライ人。神様(笑)
  ★シニア・VFXスーパーバイザー 全体のまとめ役
  ★作業は「"Matrix"の仮想空間」と「"Real World"の現実空間」の2つの世界に大別される
  ★各CGベンダーへの割り振り、コントロール、管理

 CGベンダー一覧: ESC @ サンフランシスコ
           BUF @ フランス
           Animal Logic @ シドニー/オーストラリア
           CIS @ ハリウッド
           Sony Pictures Imageworks @ カルバーシティ
           Pacific Title @ ロサンゼルス
           G.K.R.(Giant Killer Robots) @ サンフランシスコ

 各CGベンダーへ作業が割り振られ、"Matrixチーム"と"Read Worldチーム"
  との両翼で作業を開始。最終レンダリング画像はすべてPacific Titleに
 集められフィルム・レコーディングされ、Eonに戻ってくるという仕組み。

 -----

 DAN GLASS
 VFX Supervisor, Eon Entertainment

 講演の時間が押してきましたね。私は手短に済まそうと思います(笑)。

 2作目のスケジュールを説明しましょう。大まかに分けると、
 大体次のようになります。

  2000年3月 リサーチ開始
   2000年6月 プレ・ビジュアライゼーション開始
  2000年9月 テスト開始
  2001年3月 米国での撮影開始
        サンフランシコのアラメダにおける高速道路の特設セット
        での撮影もこの頃。
  2001年7月 編集作業開始
  2001年9月 オーストラリアのシドニーで撮影開始
  2002年9月 メインのポストプロダクション開始
  2003年11月 完成

 1作目の「Matrix」で、イメージペースド・レンダリング等を活用した
 バーチャル・バックグラウンドの技術が確立しましたから、これを2作目
 も活かそうと思いました。

 これは、エージェント・スミスの群れ(笑)とネオのバトルシーンの
 初期テストです。これはネオ、スミス、そして背景のすべてがフルCG
 のショットです。初期のテストは、やっぱり動きが少し変ですね。

       (場内からも笑い声が漏れる)

 でも、ここから「あの」最終形態に繋がっている事はご理解頂けますね。

 この作品では、他に類を見ない程、詳細なストーリーボードや設定ボード
 が用意されました。今、このパワーポイントに入っている画像だけでも
 400枚はありますからね。

 また、撮影時の状況を予め知る為の、プレ・ビジュアライゼーションにも
 かなりの力を注ぎました。これにはレンズの種類やカメラ位置&動き、俳
 優の立ち位置等の詳細情報がすべて含まれており、撮影状況をすべて事前
 にシュミレーション出来るのです。

 撮影クルー達は、これによって予習を完全に行ってから撮影に入ります。
 これは、高速道路のバトルショットやスタジオでのセット撮影で力を発揮
 しました。

 例えば「何ミリのレンズを使ってカメラをどこに置く時は、グリーンバッ
 クをどの位置に配置すれば良い」という事が、シュミレーションにより
 事前に理解出来るのです。

 撮影の準備はそのとおりにやれば、すべて整ってしまいます。現場で、
 あ~でもない、こ~でもない、と試行錯誤する時間が節約出来る訳です。
 このようにプレ・ビジュアライゼーションは非常に有益でした。


 それでは、映画の中から、実際のエフェクトショットの例をお見せしましょう。

「"Matrix"の仮想空間」

 ○壁にモニターTVが敷き詰められた部屋のシーン
  ●ネオと相手の役者以外は、すべて後から多重合成。
  ●モニターに映る素材の準備だけで2.5ケ月もかかった。

 ○高速道路をすり抜けるトリニティのバイク
  ●キー・メーカーを載せたトリニティのバイクが車の間をすり抜けるショット
   の車は、殆どCG。但しバイクから離れた隣のレーンや、遠くの車は本物である。
  ●車はグローバル・イルミネーションでレンダリングした。

 ○トリニティーが銃を撃ちまくりながらビルから落下するショット
  ●女優キャリーアン・モスは椅子に座ってポーズを固定
  ●カメラをモーション・コントロールで軌道上を走らせ撮影
  ●落下するガラスの破片はCGで後から合成

 ○バーチャル・シティ
  ネオが空を飛び去るバーチャル・シティの参考にする為、ヘリコプター
  で空撮のテストショットを何種類か撮影した。ヘリなので速度は
  全然遅いが、それでもビルディングが迫ってくる等の見え方の参考
  になる。テクスチャの参考にもなった。

 ○バーチャル"Frame Tsunami"(「炎の津波」と呼ばれるショット)
    飛行するネオを追う「炎の津波」は、ボリューメトリックでレンダリング
  したCG素材を複数重ねて、質量と迫力を出している。

 ○バーチャル・ヒューマン
  今回の作品での最大のチャレンジは、この「バーチャル・ヒューマン」。

  ネオやスミス等、フルCGのキャラクターが乱闘シーンが登場するので、
  スキン(皮膚)やクローズ(布)・シュミレーションを多様した。
 
  背景には、メンタルレイによるバーチャルBGを多様。


「"Real World"の現実空間」

 ○ザイオンのホバークラフト

  CGベンダーの1つである、Sony Pictures Imageworksによるテストの例
  をお見せしましょう。
 
  まず、モデリングしただけの船体のテスト。テクスチャーが無しの状態でも、
  ジオメトリレベルでかなり作り込んである事がお分かり頂けると思います。

  この上に、フォグ、レーザー、電気放電など、膨大な数の合成レイヤーを
  加えて最終まで持っていきます。このテスト素材の日付けは03/14/03ですね。
  なんと公開の2ケ月前です。


 ○洞窟内のショット

  G.K.R.の担当ショットから。洞窟内でうごめく群集やフォグ等をメンタ
  ルレイを駆使して製作。素材の日付けは02/04/03。


 ○ホバークラフトのドック

  ESCの担当ショットから、ドックの中のシーン。船体、ドック、大勢の人。
  で構成されている複雑なショット。ものすごい作りこみと、膨大な合成
  レイヤーによる、難易度の高いシーンの1つ。


★まとめ:「The Matrix Reloaded」でのVFXのチャレンジを挙げると

 ○スケールの大きさ。エフェクトショットだけでも約2,000ある。

  ○作業の複雑さ

 ○製作のパラレル・プロセス(プレ・ビズ→撮影→ポスプロ→VFX等の各連携)

 ○長期スケジュールの把握&管理

 ま~兎に角、大変な仕事でしたね。。
  が、しかし、次回作のRevolutionsは、もっともっとすごいので、期待してください。

------

…という内容の講演の後、質疑応答のコーナーとなった。


Q:あの~、セントロポリス、潰れちゃいましたけど、現場への影響はどうでしたか?

    参考記事:

セントロポリス・エフェクツ社が閉鎖に追い込まれる (01/15)


回答者JOHN "DJ" DESJARDIN:

 僕の、この白い髪を見てください(場内爆笑)

    いや~ホント大変でしたね。なにしろ、クリスマス・シーズンでしょ?
    もう「カンベンしてくれよ状態」でした。

    特に、Sony Pictures Imageworksなんかは、サンタからものすごいプレゼント
    を貰っちゃった訳で…(爆)でも、極力無駄を省いて頑張った甲斐もあり、
    まぁ最後にはなんとかなるものですね。
 
    しかし、思い起こせばこの映画では、エフェクトだけで総勢4000人近い人数が
    関わってい ますから、この数だけでもえらい事ですよね。
    
    3作目は作業の最中で、これに輪をかけて苦労しています(笑)
    今、頑張っていますから、ご期待ください。

 

…と、このような内容であった。

今回の月例会は、ゲームと映画という両面からの切り口によるプレゼンテーション
で、かなり興味深い話が沢山聞けたように思う。

秋になれば、11月5日から3作目「Matrix Revolutions」が全米の映画館及び
アイマックス・シアターで封切られ、これがまた旋風を巻き起こす事になる。

今からとても楽しみである。

 


    過去記事はこちらからどうぞ 全目次



このサイトに含まれる記事は、日本のメディア向けに
書かれたものを再編し、ご紹介しています。

著者に無断での転載、引用は固くご遠慮下さいますよう、
お願い申し上げます。

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よりご連絡下さいませ。

(C)1997-2009 All rights reserved  鍋 潤太郎  
 

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ここロサンゼルスでは、ACM SIGGRAPHの地方分科会である"LA SIGGRAPH"の月例会が毎月開催されている。内容は毎月異なり、新作映画のお披露目やメーキング講演だったり、目新しいテクノロジーの紹介だったりする。

この月例会には誰でも参加出来、会員(年会費$25.00)になれば参加費は無料、非会員でも会場で10ドルを支払えば参加する事が可能だ。

今月の会場は、ビバリーヒルズにあるアカデミー財団(アカデミー賞の主催でおなじみ)の施設である、Samuel Goldwyn Theaterという由緒正しき試写室が使用された。この場所での開催は久しぶりである。

ただ、場所が場所だけに、入り口にはテロを警戒する金属探知ゲートが設置され、参加者全員がセキュリティー・チェックが義務づけられるという、LA SIGGRAPHにしては珍しく厳重な警備の下で行われた。

アカデミー財団だけあって、試写室のステージ両脇には金色の巨大なオスカー像がそびえ立ち、いつになく格調高い豪華な雰囲気。なんだか自分が急に出世したかのような錯覚を覚えたのは、筆者だけではないだろう(笑)

さて、5月のテーマは、日米でほぼ同時公開となり大ヒット中の「Xmen2」のメーキング講演&特別試写会であった。

ホストは、この作品の主要エフェクト・ショットで使用されたHoudiniの開発&販売元でおなじみ、Side Effects Software。

ミーティングの冒頭では、同社の米国代表を務めるTony Cristiano氏が挨拶に立ち、Houdiniの最新Version6.0のリリースに関するコメントと、ラインナップの簡単な紹介、そしてSIGGRAPH2003でのユーザーミーティングの告知を行った。

今年7月にサンディエゴで開催されるSIGGRAPH2003では、7月27日の日曜日にHoudiniの国際ユーザー会が予定されているとの事。

申し込みはWEBで受け付けているそうなので、参加希望の方はwww.sidefx.com で予約すると楽しいかもしれない。

さて、前置きが長くなってしまったが、それでは今夜の模様を簡単にレポートする事にしよう。

ちなみに、まだ映画をご覧になっていない方でも、下記にはストーリー上の「ネタばれ」は含まれていないので、安心して目を通して頂きたい。


L.A. ACM SIGGRAPH presents

A presentation and screening of "X2: XMen United"

Hosted by Side Effects Software

Tuesday May 20th

6:30-7:30pm Social Hour
7:30-10:30pm Presentation and Screening

Location:
Samuel Goldwyn Theater
Academy of Motion Picture Arts & Sciences
8949 Wilshire Blvd.
Beverly Hills, CA 90211
between Doheny Dr. and Robertson Blvd

This event is free to L.A. SIGGRAPH members and $10 for non-members.


As one of the most anticipated summer releases, X2: XMen United opened this
month to the biggest worldwide boxoffice return in history.

Our meeting will feature "making of" presentations of the film's visual effects
as well as a special screening of the movie.

Artists from Cinesite and Rhythm & Hues will be on hand to discuss the creation
 of innovative effects from Nightcrawler's teleportation to Storm's tornado's.

パネラーの顔ぶれ
 
  Greg Anderson  / CG Supervisor  - Cinesite Hollywood
  Arnon Manor / CG Supervisor -  Cinesite Hollywood
  Craig "X-Ray" Halpern / CG Effects TD  - Cinesite Hollywood

  Doug Bloom / Tornado Effects Lead  - Rhythm & Hues
  Mike O'Neal  / Lead Effects Animator  - Rhythm & Hues

 

~メーキング・オブ・Xmen 2~

○Arnon Manor / CG Supervisor -  Cinesite Hollywood

ミュータントの1人であるナイト・クローラーの、瞬間移動(テレポーテーション)のエフェクトについて説明する。このエフェクトは「どのように見せるか?」が最大のチャレンジだった。
 
「瞬間移動」という設定なので、たった7フレームで表現しなければならなかった。 

その為「タイミング」が命。ワイヤーで吊った俳優Alan Cummingの回し蹴りショット、そしてグリーン・スクリーンで撮影した「顔を蹴り飛ばされる警備員」、そしてCG素材の全てが、最終的にはタイミングよく合っていなければならない。

撮影素材は、それぞれがタイミングがまちまち。これらをタイム・コンバージョンした上に、それを7フレームという、ほんの1瞬の中にうま~く当てはめるのだから、これはなかなか大変だった。

また、この「瞬間移動」のエフェクトは、全部で50-60回も登場する。その為、何度見ても不自然に見えない、しかもリアルで新鮮なエフェクトである事が要求された。

我々がストリーマー・レイヤーと呼んでいる煙状のレイヤーでは、タービュランスPOPと自社開発レンダラの組み合わせ。そしてVEXのボリュームレンダラも使用している。  

ナイト・クローラーの全身から、200万個のパーティクルが飛び出す。ショットによっては3000万個のパーティクルを使っている。

最終的に監督からOKをもらったのは、昨年の12月だった。


○Craig "X-Ray" Halpern / CG Effects TD  - Cinesite Hollywood 

 私は最近、日本資本の研修施設、デジタル・ハリウッドのサンタモニカ校の校長に就任した。近々に、Houdiniのマスタークラスもオープンするつもりなので、興味のある人は是非WEBをチェックしてほしい。

さて、ここではサイクロップスの目から出るビーム攻撃のショットを説明しよう。
 
今、ご覧頂いているシーンは、サイクロップスのビームで4駆が横転するシーンの撮影オリジナルショットだが、これは少々間延びした感じだ。これをタイム・コンバージョンして速度を上げた上で、かなりのレイヤーのエフェクトを加えた。
 
このエフェクトには、Houdiniのノイズ・シェーダーを多用している。 

また、次のショットはビームで警備員が吹っ飛ぶという設定だが、警備員は背中にワイヤーをつけてあり、それを引っ張って吹っ飛ぶ演技をしている。

だが、役者が壁にぶつかった瞬間、セットなので壁が揺れてしまっている。これを監督が気にした為、この揺れを後処理で静止させる作業が発生し、これにはけっこう時間をとられた。

この上にビームのエフェクトを加えた訳だが、監督に満足してもらう為に、かなり多くのバージョンを作った。

 (そのテスト映像が流れる。中にはアニメチックなものや、調整途中で不自然なものが含まれており、参加者の笑いを誘っていた)


○Greg Anderson  / CG Supervisor  - Cinesite Hollywood

これは、ダムの水力発電所でジーン・グレイが、彼氏であるサイクロップスから攻撃を受け、それを必死に防ごうとするシーンだ。

2人の戦いの衝撃によって揺れる発電機はミニチュア。パーツ別にワイヤーを貼って動かしている。これだけだと不自然なので、CGでかなり作り足している。その上に、閃光、プラズマ等のエフェクトを加えた。
 
エフェクトだけでも13-15レイヤーをテストしたが、最終的には3~4レイヤーにまとまった。

ビームのレイヤー、爆発の衝撃のレイヤー、閃光のレイヤー、そして発電機から出るプラズマ等。これらを合成して、ファイナルの状態に持っていった。

最後に登場する湖面のショットは、実写をトラッキングした上で、CGの水面に差し替えた。水面はオリジナルソフトで作った。HDRやレイトレーシングも採用した。

このテスト映像では、なぜか湖面にネッシーが合成されているが、これは単なる冗談だ(場内爆笑)

 
○Doug Bloom / Tornado Effects Lead  - Rhythm & Hues

私は、戦闘機のドッグファイトに襲い掛かる竜巻ショットのリード(日本でいうチーフ)を務めた。

この一連の作業で一番大変だったのは、ジオメトリのマネージメントだった。

具体的には、アニメーション部門が作った竜巻のアニメーション・データが、我々エフェクト部門に渡される訳だが、アニメーション部門は自社ソフトを使っていて、エフェクト部門はHoudini。なので、このデータのマネージメントを成功させる事が今回の最大のチャレンジだった。

これらは全部で32ショットもあり、全部で108本の竜巻が登場する。
 
こんな作業は初めてであり、オンタイム(スケジュール通り)で完成させる為のデータのやり取り及び管理、と言ったパイプラインのマネージメントが重要だった訳だ。

アニメーション部門では、専門のアニメータが竜巻の動きをつけ、監督のOKをもらって、その結果が我々に回ってくる。まずは、この動きやタイミングを元に、ラフな竜巻を構築してみた。この段階のコンバートは8割はうまくいったが、残りの2割の、「痒いところ」に上手く手が届かなかった。

テストを見た監督から「もっとダイナミックに」という意見が出た事もあり、これに応える為に自社開発のプラグインも開発した。

これは、空間を漂うパーティクルが、自動的に一番近い竜巻を見つけ、それに巻き込まれるように動くというもの。結果は、ご覧のように上々だった。

Houdiniは非常にフレキシブルで、このようなカスタムツールの開発がやり易い点が最大の強みだと思っている。
 
レンダリングにはJigのボリューム・レンダラを使用した。

背景は実写ではなく、すべてCGとマットペイント。実写が登場するのはパイロットが登場するショットの1箇所だけだ。

この竜巻ショットは、6人のエフェクトTDが、4ケ月掛かりで完成させた。


○Mike O'Neal  / Lead Effects Animator  - Rhythm & Hues

ジーン・グレイが「水分け」をするショットの解説をしたい。全部で40shotもあり、大変な作業だった。

今、映写されているのは予告編のバージョン。この予告編は、木曜日に話が来て、週明けに必要だというので3日で作った(笑)なのでファイナルとは見た目が異なるが。

このショットでは2タイプの水を用意した。ジオメトリとパーティクルによるものだ。 

「水分け」のショットでは、飛行機に跳ね返る細かい水滴や、飛行機に迫る滝のような水流の部分に、かなりの種類のボリューム・レイヤーを足して、質量や質感を向上させたり、レイヤー同士の境界が馴染んで目立たなくなるように工夫した。
 
これは、映画のラスト近くでの、決壊したダムの上を飛行機が去っていくショットだが、ここでは全部で14レイヤー程を使っている。
 

質疑応答:

 Q:あの~、合成ソフトは何を使っていますか?仕上がりが大変美しかったので。

 A: CineSiteでは、自社開発のCineonの合成システムとソフト。そしてShakeも使っている。
 A: R&Hはインフェルノ。後はオリジナル合成ソフト。

…と以上のようなプレゼンテーションが行われた後、映画「Xmen2」の試写会が行われた。


今夜の月例会の参加者は、テーマがメーキングと試写会という事もあり、大手のエフェクト・ハウスで働く人の姿が多かった。筆者にとっては顔見知りや、久しぶりに再会する友人も多く、楽しい夜であった。


 

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